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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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祝福を胸に


その後、積年の願いが成就したセリウスがケルティのことを簡単に離してくれるはずもなく、だいぶ長い間腕の中に閉じ込められている。


だが、気まずさは感じていない。

ケルティは愛しい相手に包まれる安心感に身を委ね、思考を手放した。


他のことなどもうどうでも良くなり、ただただ全身に降り注ぐセリウスの深い愛情と優しさを噛み締める。それはこれまでに感じたことのない身体の内側から溢れ出る多幸感であった。



「何ここ、誰もいないじゃん。」

「ちょっとぉ〜人が来たらまずいってぇ〜」

「いいじゃん。こんな広いベンチもあるし、好き放題出来るな。」

「やだぁもう♡変なこと言わないでよぉ〜」


ー ぎゃああああああああああああっ!!!!


突如として聞こえてきたカップルの会話に、ケルティは一瞬で目が覚めた。

気まずさと恥ずかしさで思考が埋め尽くされ、声も出せないままセリウスの腕の中でジタバタと暴れている。



「チッ。害悪め。」


セリウスはケルティに聞こえないギリギリの声量で低く悪態をつく。

小石でも蹴り付けてやろうかと思ったが、腕の中の愛しい存在のお陰でなんとか踏み止まった。そして、意識して優美な笑みを作る。



「夏とはいえ、夜風に当たり過ぎるのは良くないね。そろそろ戻ろうか。」


「そ、そうだね。」


セリウスは害悪に一切触れることなく、スマートな動きで声のした方と逆側の出入り口までケルティの手を引き、室内へと戻る。

ケルティもホッと安堵の息を吐いていた。



「最後にもう一曲どうかな?」


「もちろん!」


ケルティの正面に立ち畏まった表情で改めて手を差し出すセリウスに、彼女は元気よくその手を取る。

演奏中の曲が終わると同時に、二人はまたフロア中央へと繰り出した。



「そういえば、セリウス様その髪って…」


ダンス中余裕の出てきたケルティは、セリウスとの距離が近くなるタイミングで尋ねた。演奏で周囲に聞こえないとはいえ、なんとなく声量を抑えている。



「ああ、これ?」


セリウスはぐっとケルティの腕と腰を引き寄せ、彼女の耳元に唇を近づけた。


「……っ」

ー ち、ちちちちち、近いいいいいっ!!!



「全てはケルティと釣り合う男になって、君と結婚するためだよ。あの邸を出た後、髪色を合わせて侯爵家の養子になったんだ。ちなみに、これは他の人には秘密だからね?」


「わっ分かった!」


「うん、良い子だね。」


ケルティは裏返った声で返事をした。

セリウスがワザと耳元で囁き声、彼女の心を乱してきたせいだ。反対に、翻弄してくる彼の横顔はどこまでも満足そうであった。



「…もしかして、元の髪色の方が良かった?」


表情が一転、セリウスはケルティの顔を覗き込み、ひどく不安そうな声音で尋ねてくる。



「ううん、前の髪色も今のも好きだよ。良く似合ってるって思うもん。」


「…ありがとう、ケルティ。僕は世界一の幸せ者だね。」


瞳を馴染ませたセリウスは軽くケルティの身体を持ち上げ、曲の盛り上がりに合わせて軽快なステップを踏む。


裾の長いドレスのため二人は息ピッタリに動いているようにしか見えず、周囲から歓声が上がった。

ケルティは周りを騙しているような気分になったが、セリウスはお構いなしにありったけの甘さを込めた視線を投げつけてくる。


美しい顔に甘く見つめられ、あっという間にセリウスの世界に引き込まれたケルティ。ぽーっとする頭で全身の力を抜き彼のリードに身を委ねた。



演奏が終わると同時にケルティは夢から覚めたような気持ちになる。

まるで一国の姫になったかのような気分にさせてくれたセリウスに、御礼を述べようと視線を向けたが驚きのあまり声が出なかった。



「ケルティ」


いつも高い位置にあったはずの青の双眸が下からケルティのことを見上げていた。

演奏が終わると同時に、セリウスは彼女の足元に跪いていたのだ。


フロアから退場するはずだった人達も足を止め何事かとセリウス達のことを見ており、二人を丸く囲うように人垣が出来ている。



目の前で自分よりも高貴な相手に跪かれて周りにも注目され、一刻も早くこの場から立ち去りたいのにケルティは指一本動かすことが出来ずにいた。

口の中はカラカラに乾き、言葉が喉の奥につかえて出てこない。


セリウスは優しく彼女の手を取ると、いつになく真剣な眼差しを向けてきた。



「僕の身も心も全ては君のものだ。君かいるから僕は生きられる。ケルティ、心から愛している。」

「「「「きゃあああああっ!!!!」」」」


ケルティが答えるよりも先に、周囲から悲鳴に近い歓声が上がる。


ケルティの瞳は大きく開き、周囲のざわめきは一切耳に届いていない。きんと耳が痛くなるほどの静寂の中、トクンッと自分の心臓の跳ねる音だけが聞こえた。

言葉が出るよりも先に涙が溢れそうになったが、大きく息を吐いてすんでのところで堪え、クシャクシャになった顔で笑顔を向ける。



「どうしよう…物凄く嬉しくて、嬉しくて嬉しくて…ちょっと感情が追いつかなくて泣きそう…でも本当に…すごく嬉しい。」


跪いたセリウスに片手を繋がれているケルティはもう片方の手で涙を拭い、目を細めて笑みを深めた。



ー もうこれであの夢を見ることもないだろう。


破顔するケルティにつられてセリウスの視界もまた涙に滲み、胸の奥底から熱いものが込み上げる。


2人の表情からこの熱烈なプロポーズの行末を悟った観衆達から盛大な拍手が送られた。

気を利かせた指揮者により愛の題材で有名な曲の演奏も始まり、一体化した会場内は祝福ムード一色となる。


誰もがにこやかに微笑む中、幸せの輪の向こう側主役の座を奪われたキャメリアだけが憎悪に染まった目でケルティ達のことを睨み付けていた。




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