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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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ミルクティー


騒動のあった昼休み後、何事もなかったかのように午後の授業が始まり、その後大きな混乱なく放課後を迎えることとなった。


唯一変化があったことといえば、何者かによる過去の暴露でセリウスの周囲に一層人が集まるようになったことだ。



「セリウス様、私たちと二つも歳が離れていたなんて驚きでしたわ。いつも大人っぽく見えてましたもの。」


「一応バレないように大人ぶっていたからね。今となっては滑稽かもしれないけど。」


「そんなことないです!大人な振る舞いに優秀な成績、本当に尊敬の念が絶えません。」


「それは少し大袈裟じゃないかな?」


セリウスの席の周りには女子生徒を中心に何人ものクラスメイトが群がり、皆口々に彼のことを褒め称えている。

その賛美の数々をセリウスは一切表情を変えることなく涼しい顔で受け流していた。全く意に介してしないようだ。



「とんだ大物ね。」


そんなセリウスの姿を遠目で見ながらレナが嫌そうな顔で呟いた。



「ほんと私なんで出しゃばっちゃったんだろ…」


そのすぐ横で机に突っ伏しているケルティは悲壮感の溢れる声で嘆いている。


あの時自分が声を上げて大胆な行動に出ずとも、セリウスは1人であの場を乗り切れたのに…と後悔が尾を引き、午後は授業どころではなかったのだ。



「それだけセリウス様に対するケルティの気持ちが本物だってことですわ。これは紛れもなく愛よ、愛。あぁ、素晴らしいわ!」


せっせと帰宅の準備をするレナと机に突っ伏したままのケルティに、鞄を手にしたセラフィーヌが後ろから声をかけてきた。

その声音は高揚しており、テンションが上がっているようであった。



「別にそういうのじゃないんだって!」


バンっと机を叩きながら上体を起こしたケルティは、にやにやニコニコと笑う二つの双眸と目が合った。



「え、なに…………」


無言で自分のことを見てくるレナとセラフィーヌを不気味に思い、両手で自分の肩を抱き震える声を出した。



「ケルティ、少し良いかな?」


聞き慣れた声に視線を上げると、若干申し訳なさそうな顔をしたセリウスがいつの間にか真横に来て首を傾けていた。



「なっ………」


つい先ほどまで教室前方で女子達に囲まれていたはずなのに、いきなりすぐ横に現れたセリウスに驚きの声を上げる。


彼の接近に気付いていた2人はやれやれと言いたげな顔をしながらも口元はニヤけており、興味津々であることを隠せていない。



「手間は取らせない。帰りも責任を待って僕が送るから。駄目…かな?」


「えっと…でもうちの馬車が…」 


「アレースト家の御者には私から伝えておきますわ。」


「じゃあ私は、ケルティは逢瀬で遅くなるって家に連絡入れとくわ。」


「ちょっと、二人ともっ…!!!」


勝手なことを言い出す二人にケルティが止めようとするがまるで聞いていない。

セリウスによろしくとお願いするとそのまま二人は帰っていってしまった。



「ありがとう、ケルティ。少し場所を移そうか。」


二人きりになり、笑顔で腕を差し出すセリウス。

もう断ることなど出来るはずもなく、ケルティは遠慮がちに彼の腕を掴んだ。



セリウスに誘導されるまま、ケルティは外に出て学園のすぐ近くにある喫茶店を訪れていた。


小さな一軒家の壁は一面緑のツタで覆われており、店内を覗けるような窓は見当たらない。ドアにも窓はなく、なんとも入りにくい雰囲気だ。


セリウスがドアを開けると、店内に向かってカランカランと高い金の音が響く。


店員に案内され、窓際の丸テーブルに向かい合って座る二人。ケルティ達の他には数名の客しかおらず、店内は静かだ。どこかで耳にしたことのあるクラシックが流れており、とっつきにくい外観とは真逆に居心地が良かった。



「ごゆっくりどうぞ。」


席についてすぐ、年配の店員が丸みを帯びたラウンドグラスを二つ運んできた。

慣れた手つきでコースターを並べ、二人の前にグラスを置いて行った。



「良い香り…」


ミントの浮かぶ涼しげなアイスミルクティーを目の前に、ケルティは瞳を輝かせた。

口の広いグラスから芳醇な茶葉の香りが漂っている。



「ここはミルクティーが有名なんだ。ケルティが好きかなと思ってね。」


「ミルクティー、一番好き。」


「どうぞ召し上がれ。」


目の前で微笑むセリウスに軽く手を向けられ、ケルティはグラスに口を付けた。



「……おいしいっ」


元々大きなケルティの瞳が更に大きく開かれ、瞬きもせず口元に手を当てている。

口いっぱいに広がる茶葉の香りと後から追いかけてくるミルクの濃厚な甘味、最後にはミントの爽やかな香りが後味を締めた。



「喜んでもらえたようで良かった。」


美味しそうにミルクティーを堪能するケルティに、セリウスも嬉しそうに微笑んでいるが彼はグラスに口を付けようとしない。



「セリウス様…?」


いつもの笑顔の中にどことなく翳りを感じたケルティがグラスを置き、心配そうにセリウスのことを見る。

だが、何か声を掛けようとするも、適切な言葉が見つからない。逡巡するケルティよりも先にセリウスが動いた。


セリウスはテーブルに両手をつき、ケルティに向かって深々と頭を下げたのだ。



「ケルティ、本当にごめん。」


突然の行動にケルティは反応が出来ず、無言のままセリウスのことをただ見つめ返す。

長い沈黙の後、彼は深く頭を下げたまま言葉を続けた。



「僕は君に対して不誠実なことをしてしまった。」


今にも泣きそうなセリウスの堪えた声がケルティの鼓膜を揺らす。



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