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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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悪意


「じゃあ僕は先生に呼ばれているからまた後でね。」


ランチの後、ケルティの手を引いて教室の前まで送り届けたセリウスはそっと彼女の手を離して名残惜しそうに来た道を戻って行った。



「え、今私普通に手を繋いでいなかった…?」


ほんのりと人肌の体温が残る右手を左手で握りしめるケルティ。

多くの生徒たちが行き交う昼休みの廊下を手を繋いで歩いてきた事実に頬が朱色に染まる。


ー うわ、恥ずかしい…………っ!!


ケルティは恥ずかしさに悶え熱くなる頬を両手で押さえ込み、そのまましばらく動けずにいた。



ー ん?なんか教室内が騒がしい…?


昂った感情が落ち着くにつれ、ドアの前にいたケルティは教室の中がやけに騒がしいことに気がついた。

ドアが閉まっているにも関わらず、喧騒のような嫌な声が漏れ出ており、普段の穏やかな昼休みとはまるで様子が違っていた。


中が気になり、ケルティは静かにドアを開けて教室内に足を踏み入れた。



「何これ…………………」


教室に入った瞬間、ケルティは絶句した。


クラスメイト達は皆一様に黒板を見ており、同じように視線を移すとそこには想像もしていなかったことが書かれていたからだ。


『セリウス・キンベラーは戦争孤児。キンベラー侯爵に取り入り貴族の子に成り代わった15歳の平民。この学園にいるべきじゃない。さっさと失せろ。』


ケルティと同じように黒板に視線を向けるクラスメイト達は、失望した顔をしていた。

「騙された」「アイツ平民だったのかよ」と口にして隠すことなく嫌悪感を露わにしている者もいる。


皆誰が書いたかも分からないこの言葉の真偽が不明にも関わらず、すっかり信じ込んでいるようだった。

その違和感にケルティはぎゅっと両手を握りしめ、唇を噛み締めた。

普段の温和で誰にでも優しいセリウスの姿と、侯爵家という理由で初日から彼を囲んでいたクラスメイト達の姿を思い出し胸の奥がぎゅっと苦しくなる。



「…だったら何なのっ!!」


気が付いた時には思い切り大声を張り上げていたケルティ。

皆の視線が黒板からケルティへと移りゆく。一斉に鋭い視線を向けられ一瞬怯んだが、声に出てしまった以上今更後には引けなかった。



「あなた達に何か迷惑をかけた!?仮にこれが本当だとして、人一倍努力した結果じゃん!それを賞賛するどころか見下すなんておかしい!そんなの絶対に間違ってるっ」


思いの丈をぶちまけ、啖呵を切ったケルティは肩で息をしている。


だが、ムキになる彼女に向けられる視線は冷たく反応は返ってこない。

静まり返った教室内はまた騒がしくなり、セリウスのことをあれこれ悪く言う声で溢れかえった。



「こんなのっ…………」


誰も話を聞いてくれない状況に、ケルティは黒板に向かって数歩前に進んだ。

盤上に並ぶ忌々しい文字に向かって腕を振り上げた。



「私が消してやるっ!!」


自分で文字を消そうと腕を黒板に突き出そうとしたが、突然教室内が静まり動きを止めて後ろを見た。

すると、先ほどまで騒がしかったクラスメイト達の視線が教室内の入り口に向いているようであった。



「ケルティ、そんなものに君の腕を汚す必要はないよ。」


そこにはいつものように穏やかな微笑みを浮かべたセリウスが立っていた。



「セリウス様…っ」


怒りか同情か哀しさか、よく分からない感情が溢れ出したケルティはいつの間にか目に涙を貯めている。

今にも決壊しそうな瞳を必死に堪え、大丈夫だよこんなの気にしなくていいよと伝えたいのに上手く言葉が発せられない。


察したセリウスが優しく彼女の瞼を指の背で撫で、溜まった涙を取り払う。

そのあまりの優しさに、ケルティはゆっくりと一つ瞬きをした。



「年齢を隠していた僕が悪いけど、こんな形でバレてしまって少し恥ずかしいな。」


人差し指で頬を掻き、ふふっと恥ずかしそうに笑みをこぼすセリウス。

全く動揺していない彼に、クラス中の視線が驚きへと変わる。



「それ以外は別に良いかな。聞かれなかっただけで、隠していたつもりはないし。誰に何を言われても、侯爵家嫡男であり次期侯爵である事実には変わりないからね。皆、改めて宜しく。」


にっこりと微笑んだセリウスはささっと黒板を消し、何事もなかったようにケルティの手を引いて席まで戻って行った。



『平民の出なのにこの学園に飛び級入学なんてすごいよね…?』

『しかも15歳って…』

『確かに…侯爵家に入ったこともきっと幼少の頃から物凄く優秀だったからじゃないかしら?』

『次期当主確定なら、確実に俺らより高い地位じゃん。セリウスすげえな。』


涼しい顔で颯爽と席に戻るセリウスの横顔に驚嘆の声が囁かれる。彼に対して否定的だったクラスの雰囲気は瞬く間に好転した。



「おかしいだろ、こんなのっ……」


教室内が落ち着きを取り戻す中、中央の席に座るダリクはひとり歯を食いしばり机の下で拳を握りしめている。


激しい怒りを露わにする彼のことをキャメリアだけが少し離れた席から冷ややかな目で見ていた。




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