ダンスの後で
ー 前より踊りやすい気がする…
ダンスの授業中、以前と同じようにセリウスとペア練習をしているケルティ。
朝の出来事のせいでもっと緊張するかと思ったが、前回よりも心地よく踊れていることに驚き、思わずペアの顔を盗み見た。
バレないように注意して見上げたはずなのに、その瞬間セリウスからウインクを飛ばされてしまい、慌てて下を向く。
気持ちが乱れたせいでステップを踏み間違えてしまったが、周囲にそれを悟られないようセリウスが彼女の腰を支えて上手く誘導し立て直した。
「…ありがと。」
「どういたしまして。」
「……っ」
輝くような笑顔を向けられ、今度こそケルティの胸は大きく高鳴った。
嬉しさと恥ずかしさと得体の知れない苦しさが入り混じり、呼吸を繰り返すことだけで精一杯でダンスどころではなくなってしまった。
耐えきれず足を止めてセリウスの手を離してしまおうかと思い始めた頃、授業の終わりを告げる鐘がなった。
「はぁ………」
他のペア達が早々に解散する中セリウスは名残惜しそうに手を離しつつ、騎士然とした一礼をする。そんな彼の前でケルティは盛大にため息をついてしまった。
「寂しいな。」
ダンスで乱れた前髪を片手で直しながらセリウスがポツリと呟いた。
俯き、手が陰になっているせいでケルティから彼の表情が見えない。
「あ!いや違くてこれは、嫌だったとかそういうことじゃなくてっ…」
「本当に?僕と踊るの嫌じゃない?」
「嫌とかそんなことはないから!前よりも踊りやすくて楽しかったし!」
「じゃあ、僕と踊るの好き?」
「もちろん!リードしてくれて安心して踊れるし、セリウス様とのダンス楽しくて好きだよ!」
「僕のこと好き?」
「セリウス様のことも…って、え?は!??」
勢い余って愛の告白をしそうになってしまったケルティは顔が真っ赤になり、慌てて両手で口を押さえた。
状況についていけず高速瞬きを繰り返していると、俯いていたセリウスがゆっくりと顔を上げ、にこりと満足げに微笑んだ。
「やり過ぎてしまったね。ふふふ、でも後もう少しだったのになぁ。」
今にも頭から湯気を放ちそうなケルティとは対照的に、セリウスはいつもの優雅な微笑みではなくいたずらな笑みを浮かべており楽しそうだ。
「まぁ、僕の気持ちを伝える前に君に問うなんて男らしくない真似はするつもりないけどね。」
いつもの微笑みに切り替わったセリウスは宥めるようにケルティの頭を軽く撫でた。
ー 今のどういう意味!!?そ、、それって私に告白するつもりだってこと!!?普通そんなことをサラッと言う!?いや、私の勘違い…かも…?
セリウスの言葉と頭に残る彼の温もりに心をかき乱され、ケルティの脳内は大混乱であった。疑問が疑問を呼び、答えの出ない問いが猛スピードで脳内を駆け巡る。
処理しきれない感情の数々に、ケルティの思考回路は今にも途切れてしまいそうであった。
「そろそろ行かないと次の授業に遅れてしまうね。続きはまたランチの時にね。」
「………え、あうん。」
ひどく回転率の下がった頭で、ケルティは何も考えずに返事をした。
にこにこと微笑んで手を振るセリウスに、何の疑問も持たないままま手を振り返して見送ってしまった。
「え、今ランチの時にって言わなかった…?それどういう意味…?」
「去り際にランチの約束を取り付けるとは流石ですわね。」
「誰が誰とランチ…?」
「もう照れ隠しなさって!ケルティとセリウス様の二人きり学園内ランチデートのことですわよ。」
「は……………って、セラフィーヌがなんでここにいるの!!!」
独り言に返して来た人物にようやく気づいたケルティ。
叫びながらセラフィーヌのことを思い切り指さすが、指された相手はどこ吹く風でポニーテールをといた髪に携帯用のブラシを当てている。
「あら、同じ授業を取っているのですから、当然だわ。今更なことを言いますのね。」
「そうじゃなくて!一体いつからそこにいて話を聞いていたのよ!」
「さすがにダンス中の会話をすべて拾うことは出来ませんでしたわ。」
悪びれずに言い放ったセラフィーヌはブラシを折りたたんでポケットの中にしまった。
「ケルティ、放課後はレナと三人でお茶会よ。休みの日の話とお昼の話とたっぷり聞かせてもらうわ。」
「・・・・・・」
いつもの振る舞いを崩さない彼女に、ケルティは呆れてもう何も言えなかった。
***
「はぁ…………」
ひと足先に教室に戻ってきたセリウスは、珍しく机に肘をつき物憂げな表情でため息をついていた。
俯くまつ毛の長い横顔と艶やかな黒髪の隙間に見える白い首筋が相まり、全身から色気がダダ漏れでいる。
きゃあきゃあと色めき立つ声があちらこちらから聞こえてくるが、本人の耳には一切届いていない。
「ああもう幸せすぎて辛い…僕は一体どうしたら良いんだ…」
机に向かって投下された小さき声は、すぐさま黄色い声にかき消されてしまった。




