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新学期


「はぁ……」


朝、教室に入って席に着くなり盛大にため息をついたケルティ。


長期休暇明けの今日、新学期を迎えたクラスメイト達は友人との再会を喜び賑やかに近況報告をし合っている。

そんな溌剌とした彼らとは対照的に、ケルティは階段状に連なる半円型のテーブルの1番端っこに一人で座っていた。


ここが入学してから3年間、変わることのない彼女の定位置だ。




「おはよう、ケルティ!……って、一段と酷い顔をしてる。これはまたダメだったのね。」


「『また』って言わないでよっ」


元気よく挨拶をして来たのは、ケルティの親友のレナ・アルカハラ男爵令嬢。

黒く長い髪を耳に掛け、気軽な口調とは真逆に心配そうな瞳を向けてくる。



二人の付き合いはもうじき三年となる。


このクラスで最も身分の低いレナに近寄る者はおらず、同じようにクラスで浮いていたケルティと意気投合したのだ。



「で、今回のお相手は誰だったのよ?」


「…2学年のマイルス・トレン伯爵令息の母親の分家に当たるマシューベルト伯爵家の当主の弟のライアル・マシューベルト様」


「これはまた…とんでもなく遠い縁を引っ張ってきたわね。お相手の御年齢は?」


「……見た感じ私の父と同じか少し上。」


「うっわ……………………」


レナの呻き声が教室内に響き、何人かのクラスメイトが二人の方に視線を向ける。

そしてすぐにまた視線を外し、友人同士の談笑へと戻っていった。



ケルティは頬杖を止めて机の上に突っ伏した。

やや癖のある琥珀色の細い髪が机の上に広がって散らばる。


淑女としてあるまじき行為だが、元々クラスで浮いている彼女が気にする素振りはない。

今度は斜め下の席から舌打ちが聞こえたが、聞こえなかったフリをした。



「それでも私は、またあの頃の両親に戻って欲しいの。お金さえあれば笑顔は取り戻せるんだから。」


「私が口を出せる話ではないけれど、自分の幸せもちゃんと考えなさいよ?」


呆れたレナが、ケルティの頭をポンポンと優しく叩いた。



「よしっ!こうなったらっ……」


突っ伏していたケルティが勢いよく上体を起こし、すぐ隣のレナに身体を向けた。

彼女の手を両手で取り、一転キラキラと輝く瞳で上目遣いをしてくるケルティ。



「な、、何よ…」


「レナの弟君を私に下さい!!必ず幸せにします!!」


「……ねぇ、相手いくつか分かって聞いてる?」


「うん、5歳。」


「馬鹿。」


ケルティとレナの二人が言い合いをしていると、チャイムの音と共に教師が現れた。


途端に教室内は静まり返り、皆席に着いて姿勢を正し教壇に視線を向ける。

この学園で過ごして三年目、皆この程度の規律は自然と守れるようになっていた。




「皆さん、おはようございます。突然ですが、今日からこのクラスに新たな仲間が加わります。皆さん、彼と仲良くしてあげてくださいね。」


言い終えると同時に、教師は廊下に続くドアに視線を向けた。


ゆっくりと扉が開き、呼ばれた彼は落ち着いた足取りで教室の中へと入って来る。

そして、彼が姿を見せた瞬間教室から女子生徒を中心に悲鳴と歓声が上がった。


スラリとして背が高く、真っ白なホクロひとつない肌と烏の羽のように艶めく黒髪のコントラストが際立ち、見る者の視線だけでなく心まで惹きつける。

極め付けが人間離れした端正な見た目に当て込まれた宝玉のように美麗な青い瞳。


彼の全てがここにいる生徒達の視線を惹きつけて離さず、教室のあちらこちらからため息が漏れ出ている。



「初めまして。僕の名は、セリウス・キンベラー。1年という短い間だけれどどうぞ宜しく。」


セリウスは優雅な微笑みを携えて軽く頭を下げた。

たったの二言だというのに、彼の丁寧な発話は耳心地が良く皆惚けた顔を向けている。


教師の声掛けにより、ようやく教室内から歓迎の拍手が沸き起こった。




「とてつもない美人が来たわね…」


他の生徒達から少し離れた所に座っているレナは、惚けることなくただ驚くだけだ。

自分とは関わりのない人物に分類し、観賞用と決め込んだらしい。



「それにしても、あんな見た目で今までどこに隠れていたのかしら…噂ひとつ聞いたことないわ。」


「嘘でしょ………………………」


珍しく取り乱しているケルティは、信じられないといった表情で口を押さえている。



「ケルティ?」


心配したレナがケルティの顔を横から覗き込むが、彼女の視線は正面に固定されたまま微動だにしない。



「これは神様がくれた最後のチャンスよ。ええきっとそうよ。頑張る私を見捨てないでいてくれたんだ。」


正面に固定されていたケルティの視線が熱を帯びて横に逸れる。

その熱過ぎる視線の先には、教師と話すセリウスの姿があった。



「私絶対、セリウス・キンベラー侯爵令息をものにする。」


心に沸く闘争心を抑え込み、静かな声ではっきりと言葉にしたケルティ。


と思っていたのは本人だけであり、彼女の大き過ぎる独り言はしっかりと離れた席にいるクラスメイトにまで届いていたのだった。




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