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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第八章
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第九十四話 門出

 サンダルト魔法学校が魔法に掛かったあの日。

 数多の星々のもと、人知れずレイナと踊ったあの夜。

 あの煌めくような舞踏会から、数週間が経過した。


「おはよ、何ニヤニヤしてるの?」

「いや、何でもない」


 あの夜のことは、今もまだ鮮明に思い出すことが出来る。

 そしてこれからも、一生忘れることはないだろう。

 何せ、レイナの踊りのセンスの無さが露になった日でもあるのだから。

 いや、リードすることが出来なかった俺の責任か?

 ともかく、お互い誰にも見られなくて助かったのは確かだ。


「そんな調子で大丈夫なの? 今日は大事な日なんだから、しっかりしなよ」

「わかってるよ」


 サンダルト魔法学校に編入してから、9ヶ月と少しが経過した。

 この世界の知識を学ぶという当初の目的が大方達成された今、もう通学する必要はない。

 そう、時が来たのだ。


 思い返してみれば、あっという間の時間だったな。

 ただ授業を受けて、図書室にこもって、レイナと昼飯を食べて、エリックやアンナとお喋りして……魔人族に攫われるというアクシデントもあったな。

 だけど全体的に見れば、楽しい日々だった。

 編入という形もあり、当初はボッチを覚悟していた俺だが、なんやかんやで友達にも先輩にも恵まれて、楽しい思い出で終われてよかった。


 そして、今日は理事長であるララ様のもとまで、中退届を出しに行く。

 一応、編入する際に前もって話していたので、難しい展開にはならないはずだ。


「本当に中退でいいの? ララ様は休学でもいいって言ってたのに……」

「いいんだ。あとどれくらい時間が残ってるかも分からないし、もう通える時間はないから」

「ふーん」

「逆にレイナこそいいのか? もったいない気がするけど」

「私は学校なんてどうでもいいもん。エトが通ってたから、私も通ってただけだし」


 もっと自分の意思を持ってほしいなんて思ったけど、そう判断したのはレイナ自身なんだし、ある意味では自分の意思と言えるか。

 最初から友達を作らないスタンスだったのも、俺に合わせて中退するためと考えれば納得いく。


「そうは言っても、せめてお世話になった人には感謝の言葉くらい伝えろよ」

「お世話になった人……まあ、いるか……」


 レイナは指を折って数えるが、散々考えた末に片手で終わってしまった。

 きっと悪口を伝える相手なら、両手どころか両足の指でも数え足りないんだろうな。


「分かった。せめて、エリックとジーク先輩には伝えような」


 さて、そろそろララ様との面会時間だ。

 次に会うのは一体何年後か分からないから、ちゃんと感謝の言葉を伝えなきゃ。

 あとは、クリスとディオンテさんにも忘れずにな。




 ---------




 サンダルト城内、平等の部屋にて――――――――

 俺とレイナは、ララ様にクリス、そしてディオンテさんと向かい合っていた。


「ついにこの日が来てしまったのですね……。悲しいです、せっかく友達になれたのに……」

「いやいや、まるで俺が死ぬみたいな言い方止めてください」

「失礼、ちょっと高ぶってしまいました」


 相変わらず美しいララ様だが、こう見えて結構テンションの上げ下げが激しい性格なのだ。

 何というか、美人は凛としていて話しかけ辛い印象を受けるが、彼女の場合はいい意味で庶民的だ。

 もしかしたら、俺とレイナに合わせてくれているだけなのかもしれないが、そう言った面も含めて才色兼備と言える。


「まあ、俺が死ぬわけじゃないですけど、しばらく会えなくなることは間違いないです」

「そうですか……寂しくなりますね。あ! でしたら、レイナと一緒に暇があればお茶会でも――――――――」

「私もしばらく会えなくなります」

「ええ……そんな……」


 代替案を見つけたララ様に告げられるのは、無情なレイナの言葉だった。

 ん? しばらく会えないって、そんな日を空ける用事がレイナにあったっけ?

 俺はチラリと視線を送って確認を試みたが、彼女は一向にこちらと視線を合わせようとしない。


「私もエトについて行くので」

「ちょ、お前――――――――」


 慌てて立ち上がろうとするが、レイナの黙ってろと言わんばかりの眼力に気圧されて断念する。

 同じタイミングで辞めると言い出した時からもしやと思っていたけど、やはりその気だったか。


「まあ、旅が終わった暁には、いい土産話が出来ると思いますよ」

「うふふ……楽しみにしてますね」


 こいつ、もう同伴する気満々だ。

 それ以外の可能性を一切考えていない。

 くそ、厄介なことになった。


「サンダルト魔法学校に編入という形で入学した者は、数えるほどしかいない。その者たちは皆、優秀な成績を残し、ラー王国に多大なる貢献を遺した。そんな背景がありながら、君たちは本当に中退を選ぶのか」

「それは……すみません」

「責めるつもりはない。ただ、陛下のご厚意を忘れぬよう、肝に銘じてほしい」

「はい! もちろんです!」


 今まで受けた恩は計り知れず、その全てを返し切ったとは俺も到底思っていない。

 だが今の俺では、こうして言葉にすることでしか感謝を表すことが出来ない。

 その歯痒さを忘れぬよう心掛けて、いつか何かしらの形で返せたらと考えている。


「クリスさんも家族の救出に力を貸してくれて、改めてありがとうございました」

「ありがとうございました」


 深々と頭を下げる俺に続いて、レイナもお辞儀をする。

 当の本人であるクリスは、気にしていないと言わんばかりに、動じることはなかった。

 きっとララ様の命令だから協力したに過ぎない、そう考えているのだろう。


「ディオンテさんも、忙しいにもかかわらず剣術を指南していただき、本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ新鮮な体験をさせてもらいましたよ。ただ、君には才能があっただけに少々勿体ない気がするのが正直なところです。あと半年続けていれば、真剣流下級の認可を得られたかもしれない」

「それはディオンテさんが教え上手だったからですよ」


 事実、カルスなんかと比べたら、天と地ほどの差がある。

 今の俺が剣を握れるのも、ディオンテさんのおかげに違いない。

 彼の教えは、俺の中でこれからも生き続けるだろう。


「準備にもいろいろ経費が掛かると思いますけど、お金の方は大丈夫ですか? 足りないようなら私が……」

「陛下、それは少々過保護というものですよ」

「私のお小遣いから出すのです! それなら文句はないでしょう?」

「しかし……」

「お金の心配なら大丈夫です。資金集めのために休みは冒険者ギルドに通ってましたから。それに、旅の途中で足りなくなるようなら、現地で稼ぎます」


 今の手持ちなら、俺一人分の装備一式は十分揃えられる。

 レイナは……まあ、一緒に依頼を受けてたことだしお金は貯まってるだろう。

 最悪、自分で買ってもらえばいい。


「そうですか……」

「まだ心配そうですね。もしかして、俺のこと駄目な人間だと思ってます?」

「え? あ、違います! そんなわけないじゃないですか!」


 ララ様が慌てた表情で手をバタつかせる。

 図星か? 図星なんだな。

 ひどいよ……まだ何も始まってすらいないってのに……。


「ただ、心配なのは本心ですよ。あなた達は私の友人なのですから。もしも、道先で不審者に襲われたらどうしようとか、森の中で迷子になったらどうしようとか、心配事が絶えません」

「そうならないために準備をしてきたつもりですけど、心配する必要はないって声高に宣言することはどうしても出来ません。ただ、旅に危険は付き物です。俺は覚悟の上、旅に出るんです」

「もちろん、私はエトの意見を尊重しますよ。だから、これをあなた達に贈ります」


 ララ様が指をパチンと鳴らすと、部屋の外に控えていた従者が2つの小さな箱を持ってきた。

 俺とレイナがそれぞれ受け取って、許可を得た後に開けてみる。

 すると、中に入っていたのは指輪だった。


 アームは銀の金属のようなものでできており、センターストーンには薄ら黄色に発光する魔石が使用されている。

 この輝き、そして透明度は以前所有していたレッドストーンにも匹敵する。

 不躾なため聞かないが、きっとお高い指輪なのだろう。


「うわ~綺麗! 見て見て、私は青だよ!!」


 レイナは躊躇うことなく右手の薬指に指輪をはめた。

 一般的に結婚指輪は左手の薬指と記憶しているが、こっちの世界ではどうなんだろう。

 そういった知識は調べていないので、からっきしだ。


 迷わず右手の薬指にはめたということは、変な意味はないのか? 

 しかし、レイナのことだから何も考えずにはめた可能性もある。

 まあ、デザインはレイナのものとお揃いだし、俺も大人しく右手の薬指にはめるとしよう。

 怖いから意味は調べないつもりだ。


「お2人ともお似合いですよ!」

「こんなもの頂いちゃって良いんですか?」

「もちろん、それは私達からのお守りだと思ってください。もしもの時に、きっと役に立つはずです」

「ありがとうございます! 大切にします!」


 右手にはめた指輪が、キラリと応えてくれた気がした。




 ---------




 ララ様たちに別れの挨拶をした後、一旦屋敷に帰った。

 そこで俺とレイナは話し合いを行ったが、まともな会話にはならなかった。

 何を言っても、彼女は俺についてくるつもりらしい。


 言葉では埒が明かない上に、時間も迫っているため、結局は俺が折れる形で終了した。

 その代わり、装備一式は自分の金で揃えるという条件を付けておいた。

 ケチ臭いことで有名なレイナだったが、その条件をニコニコで了承したのだった。


 話し合いが終わった頃には、すっかり日が暮れていた。

 約束の時間が近いため、俺達は屋敷を足早に出る。

 目的地は、サンダルト魔法学校近くの酒場だ。


「よ! 中退者!」

「それ私にも響くから、覚悟して発言しろ」

「はい。申し訳ございません」


 酒場の前でエリックと合流し、そのまま中に入る。

 店の奥では、事前に席を確保していたジーク先輩の姿が見える。

 今晩はエリックとジーク先輩を交えて、お別れ会的なものを催すことになっている。


「お待たせしました」


 学校を辞めると2人に報告したのは、つい一週間ほど前だ。

 エリックは聞いた直後は取り乱して、その後も撤回するように数日付き纏ってきたのは記憶に新しい。

 ジーク先輩は俺の判断を尊重すると言ってくれた。


 この2人には学校生活内だけでなく、パーティーメンバーとしても付き合いがあった。

 それに魔の大陸の一件では、危険を顧みずに救出に来てくれた。

 俺にとっては、命の恩人と言っても過言じゃない。


「学校を辞めるって言われてから、もう一週間か。最後にもう一度聞くけどよ、気が変わったとかないか?」

「残念ながら、さっき理事長に話を通してきた」

「そっかぁ……寂しいぜ、俺は」


 エリックとはクラスメイトということもあり、いつも会話していた。

 講義が被ることは少なかったけど、それでも学校生活における数少ない友人の一人。

 寂しいのは、俺も同じだ。


「学校を辞めて旅に出ると言っていたが、具体的な目的地とかは決めているのか?」

「事前にいくつか行きたいところは絞ってあります」

「それ全部まわるのに一体どれくらいかかるんだよ」

「道のり全部を足で進むには、時間がいくつあっても足りないよ。

 だから、近くの町までは転送屋を利用することにして、もし何らかの理由で利用できない場合は徒歩か馬で進むつもりだ。上手く事が進めば、数年でまわり切れるはず」


 目的地までの道のりを馬鹿正直に進もうとすれば、海や山脈を越えなくちゃいけない。そうなれば数十年は掛かるだろう。

 とは言え、今の案でも全てまわり切れるかは微妙だ。

 何せ俺自身、正確なタイムリミットを知らないからな。

 もしかしたら5年くらいあるかもしれないし、1年しかないかもしれない。


 その辺は臨機応変に対応する、それが俺の考えだった。

 そのための一人旅だったのに、レイナがついてくるなら話が変わる。

 彼女自身、タイムリミットの存在を知っているはずなんだけど、何か言って来る気配はない。


「そんじゃあ旅が終わった頃には、俺は卒業してるかもしれねぇな!」

「はて、お前が順当に卒業できるかな」

「問題ない! お前は卒業祝いとして、お土産でも用意しておけばいいんだよ」

「忘れなきゃな」


 そっか、数年もあればジーク先輩は当然として、エリックも卒業するか。

 もしかしたら、俺は数年を軽く見ていたのかもしれない。

 この場にいるエリック達だけでなく、ララ様達やアンドル達、さらには家族にも会えなくなると考えると、確かに数年というのは長い。


「レイナもついて行くのかよ。せっかく2組なのによ」

「何組だろうが関係ないよ。私は好きに生きるだけ」

「そう考えられる余裕があって羨ましいぜ」


 酒を飲み過ぎたせいか、エリックの顔は真っ赤だ。

 その勢いのままレイナにもたれ掛かろうとするが、ビンタで阻止されている。


「出発日はもう決めているのか?」

「明後日、昼から学校で最後の手続きをして、その足で発つ予定です」

「そうか。俺には幸運を祈ることしかできないが、もしも力が必要ならば声をかけてくれ」

「ありがとうございます。頼りにしてますよ」

「俺の存在も忘れんなよ!」


 久しぶりの騒がしい夜に、俺が流されるのも時間の問題だった。

 こんなことができるのも、きっと今日が最後なんだと思うと寂しくなる。

 転送屋を利用すれば途中で帰って来ることも出来るだろうけど、何かトラブルがない限りは帰るつもりはない。それくらいの覚悟で、俺は旅に出るのだ。




 ---------




 次の日は、一日中家族と共に過ごした。

 ルビアさんと一緒に買い物をしたり、リダと剣の打ち合いをしたり。

 いつもと変わらない日常だったけど、俺は一つ一つ噛みしめて取り組んだ。


 そして家族で過ごす最後の夜も、悔いの無いように過ごした。

 ルビアさんもリダも寂しそうにはしていたが、悲しい表情ではなかった。

 再開できると、心の底からそう信じているのだろう。


 俺もそうだ。

 きっとまた皆でテーブルを囲む日が来ると、そう信じている。




 ---------




 出発日の昼、俺とレイナはサンダルト魔法学校にて必要な手続きを終えた。

 理事長であるララ様と事前にやり取りはしてあったため、手短に済んだ。

 俺はレイナを先に屋敷へと帰してから、ひとりで図書室まで足を運ぶことにした。


 今の時間帯、サンダルト魔法学校は昼休み中だ。

 もしかしたら、アンナがいるかもしれない。


 彼女には学校を辞めることを伝えていない。

 伝える機会はあったはずなのに、妙な後ろめたさから伝えることが出来なかった。

 だけど、何も言わずに別れるのは友達に無礼ではないか。

 悩み続けて、そして今になって伝える勇気が湧いた。


 相変わらず、図書室に人影は見当たらない。

 唯一目に入ったのは、椅子にポツンと座るアンナの後ろ姿だった。


「久しぶり……って程でもないか」

「そうだな」

「聞いたよ。学校辞めたんだね」

「ああ」


 最後にアンナと会ったのは数日前。

 その時の彼女は、俺が学校を辞めることを知らなかった。

 だから、いつも通り会話がスラスラ続いた。


 それが今は、まともに言葉が出てこない。

 次にどんな言葉を口にすればいいのか、見当もつかない。


 怒っているだろうか。

 いや、怒っていて当然か。

 彼女からしたら、友達だと思っていた相手に裏切られたような気分だろう。


「ごめん。友達なのに伝えなくて」

「そのことは気にしてないよ。だって、原因は私にあるんだと思うし。

 相談し合ったあの時、私は君に図書室に通い続けてほしいってお願いした。

あのお願いから少ししか経っていないから、私に対して負い目を感じていたんだって、今は分かるよ。むしろ私が謝りたいくらい。ずっと前から学校を辞めるって決めていたのに、私が変なお願いをしちゃったんだもん」

「いやいや、そんな! アンナは謝らないでくれ」


 確かに負い目を感じていたのは事実だ。

 あの約束をしたとき、アンナはきっと卒業するまでと思い込んでいただろう。

 それが蓋を開けてみれば、たったの数週間だけの約束だったんだ。

 申しわけない気持ちがないわけがない。


「伝えなかったのは事実だから、俺だけに謝らせてくれ」


 アンナは未だにこちらへと視線を送ってくれない。

 どんな顔をしているのか見えないが、後ろ姿からは今までのような元気は感じない。


「学校を辞めて、何をするの?」

「旅に出るんだ。それが前に言った、俺のやりたいことだから」

「……行かないでほしい。そう願っても、君は行くんだね」

「ああ。まだ見たことない景色を、俺はこの目で観たいんだ」


 そう言うと、アンナの背中が一層冷たくなった気がした。

 今まで触れたことのない一面に、俺は戸惑う。

 だけど、もう逃げることはしない。


「本心で言えば、君には行ってほしくない。ずっと……卒業まで一緒に過ごしたい。だけど、君の選んだ道を邪魔するのは、私が嫌悪する両親と同じ行為なんだと思う。私には、人の人生を縛る権利なんてない。だから――――――――」


 ここでアンナは立ち上がり、俺のもとまで駆け寄ってきた。

 その顔は涙で濡れていたが、決して弱々しいものではなかった。


「私はここから応援してる。忘れないで、何処に行っても私は君の味方だから」


 俺の手に触れた彼女の手は、小刻みに震えている。

 それでも、確かな温もりがそこにはあった。


「短い学校生活だったけど、俺は幸せだった。授業は時々億劫だったけど、休み時間は皆と話せたし、図書室に行くのも毎日の楽しみだった。それは本が読めるからじゃなくて、アンナと話せたからだ。この世界の何処に行こうと、アンナは大切な友達だ」

「そんなこと言われると、決心が揺らいじゃうよ。だから、もう行って」


 アンナの温もりを受け取った俺は、その足で図書室を出る。

 お世話になったこの部屋も今日で見納めと考えると、感慨深いものがある。

 最後、アンナが大きな声でこう叫んできた。


「絶対生きて帰って来てね! また会える時を、ずっと待ってるから!!」


 後ろから響く声が、誰もいない廊下を反響し続け、やがて消えていった。




 ---------




 母校とは言えないが、お世話になったサンダルト魔法学校を背後に、俺は歩き続けた。

 そして、到着したのは転送屋の前だった。

 そこには大きなリュックサックを背負ったレイナと、見送りに来てくれた家族にアンドルとアリスの姿があった。


「遅い! 何してたの?」

「未練っていうか、心残りを片してきたんだ」

「そうなんだ。ま、そっちの方が気持ちよく旅立てるよね」


 平然を装っているが、レイナの瞳はキラキラと輝いている。

 本当にこういうところは子供だな。

 いつもの彼女と変わりなくて、逆に安心を覚えるよ。


「何かあれば帰って来なさい。ずっと待ってるから」

「ありがとう。いってきます、ルビアさん」

「またね、母さん」


 ルビアさんの顔には、少し崩れた笑みが浮かんでいる。

 寂しいだろうけど、それを必死に抑えている感じ。

 息子の門出を見送る親の顔とでも言うのだろう。

 下手に心配されるよりも、こっちの方が百倍いい。

 おかげで、俺も迷うことなく発てる。


「本当は僕も生きたかったんだけどな……」

「リダ、俺達がいない間、ルビアさんのことよろしくな」

「母さんは任せてよ! 僕も皆に負けないよう、強くなるから!!」

「怪しい奴がいたら問答無用でボコっていい。それに、もしものことがあったら、ララ様に報告すれば大抵何とかなるから」


 レイナが物騒なことを言っているが、間違ってはいない。

 俺達が旅に出てる間は、ララ様が家族の面倒を見ると申し出てくれたからな。

 まあ、あの辺りは貴族の区画の為、襲撃されることはないだろうけど。


「エト、レイナ、気をつけて行くんだぞ」

「気をつけてね! お土産待ってるから!!」

「ああ。アンドルとアリスも、また会おう。それまで怪我とかするなよ」

「旅の途中でカルスに遭遇したら、よろしく言っておくよ」


 アンドルは次の騎士団の入団式に向けて忙しいようだけど、有難いことに今日は見送りに来てくれた。

 アリスは最近、近所のお店でお手伝いをしているそうだ。

 俺の知らないところでも、人の物語は進むものだな。


「それじゃ、また会う時まで」

「じゃあね、皆」


 これから始まる2人旅。

 きっとまだ見ぬ土地や人間に出会うことになる。

 もしかしたら、予想外のハプニングが降る掛かってくるかもしれない。

 期待半分・不安半分だが、思い出に残る旅になるだろう。

 それだけは確信できる。


 さあ、俺の物語をまた一歩進めよう。


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