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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第七章
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第八十八話 報告会

 銀色に光る海を進み続け、着港したのは昼頃だった。


「はあ~ようやく帰ってきたよ~」


 悪夢のような体験をしてきた俺達を出迎えたのは、いつもと変わらない日常を送る人々だった。

 当然、人にはそれぞれの人生があることは承知している。

 けどやっぱり、ここまで温度差が違うと違和感を拭えないものだな。


「本当だったら、簡単なおつかいのはずだったんだけどな……」


 改めて思う。

 季節限定のお菓子を買いに行ったはずなのに、魔王と対面する羽目になるなんて不運どころの話じゃない。

 はじめてのおつかいにはハプニングが付き物とはよく言うが、限度があるだろう。


「生きて帰ってこれたのが奇跡だな」

「ま、ちょっと過酷な旅行だったって考えればいいんじゃない?」

「旅行先くらいは自分で選ばせてくれ……」


 さて問題なのは、どうやってララ様に会うかだ。

 元々はお菓子を買って、すぐ持っていく手筈だったからな。

 すでに日は変わっちゃったし、改めて時間を設けてもらう形になるだろうか。


「ララ様に会うのは、数日後になるかもしれないな」

「それは無理だ。会うなら今日中だ」

「そんな無茶な……」


 アポなしで当日、謁見するなんて無理に決まっている。

 ただでさえ、ララ様は公務で忙しいというのに、持っていく情報も膨大なんだ。

 混乱を招くに決まってる。


「ま、そこはアタシが何とかしてやるよ」

「……失礼ですけど、信用しても大丈夫なんですか?」

「ああ。ドンと任せろ」


 こんな自信満々気なのが、妙に怪しい。

 いくら水王とは言え、ラー王国にパイプがあるようには思えないし、やらかさないか心配だ。

 けれど、無理に止めようものなら、反故にされそうだ。


「ほら、転送屋まで行くよ」

「分かってるよ」


 一瞬、落としたままのお菓子を見に行こうか迷ったが、止めておいた。

 レアものらしいし、どっかの誰かに拾われた可能性が高いからな。

 それに、そのままだったとしても、品質が落ちてるだろう。


「機会があったら、今度は泳ぎにでも来るか……」


 この町には今のところ、最悪な思い出しかない。

 ただしそれは、この町の魅力とはかけ離れた悪事が原因だった。

 だからこそ、今度は全力で魅力を堪能しようじゃないか。

 他の誰でもない、自分自身の為に。




 ---------




 転送魔法陣を利用し、あっという間にラー王国まで戻った。

 このタイミングで、レイナが腹が減ったと騒ぎ始める。

 一旦、飯を食べることも選択肢に挙がったが、結局は後回しにされた。


「さて、ジークと言ったか。アンタはこのまま診療所まで行きな」

「何、どういうことだ?」

「見て分かる。その腕の怪我、瘦せ我慢してるだけだろ? 幸い、その程度なら診療所で治せるぞ」


 表情に出さないから忘れかけていたが、ジーク先輩はグレインによって粉砕骨折を負っている。

 レイナの回復魔法で幾分マシになっているとはいえ、重症なことに変わりはない。

 診療所ならば無いものは生やせないが、粉砕骨折は完治させることが出来る。


「行ってください、ジーク先輩。後は俺達がやっておきますから」

「……そうか。ならば、お言葉に甘えよう」


 ジーク先輩も不本意だっただろう。

 それでも、駄々をこねることなく承諾してくれた。

 彼には後日、改めてお礼を述べるとしよう。



 数日ぶりのラー王国は、相変わらず活気に溢れていた。

 道ですれ違う人々の喜怒哀楽を横目に、俺達はサンダルト城の目の前までやって来た。


「それで、どうするんですか?」


 今までは向こうの予定に合わせていたから、簡単に会うことが出来ていた。

 しかし本当ならば、ララ様と謁見するには申請が必要だ。

 噂によると、その予約は数ヶ月先まで埋まっているそうだが、果たしてどうなのだろう。


「そこで見ていろ。アタシが光王を引きずり出してやる」


 引きずり出すなんて、物騒な言い方だな。

 まさか言葉通りとは思えないが、嫌な予感がする。

 止めるべきだろうか。


「む!? 貴様、何者だ!!」

「アタシはシェリィ・ストレーム。今すぐ『光王』を呼べ」

「何と無礼な女だ! 今すぐこの場を立ち去れ!! さもなくば、容赦はしないぞ!!」


 城の門番と早速、喧嘩してる。

 嫌な予感が的中してしまったようだ。

 まさかとは思うが、本当に言葉通り引きずり出そうってのか?


「ん? おかしいな……。あ! そうか、分かった。アタシは『水王』だ。光王に用があって来た。今すぐ呼べ」

「水王だと……? 五雄王を貶す愚か者めが!! 成敗してくれる!!」 


 門番の一人が、剣を抜いてシェリィに斬りかかった。

 まさか攻撃されるとは思っていなかった彼女は、驚きつつも辛うじて回避する。


「おい! 嘘じゃないぞ!!」

「口を慎め! 愚か者が!!」


 連続で迫り来る剣を躱しつつ、シェリィは視線でこちらに助けを求める。

 助け舟を出そうにも、もう遅い気がするけど……。

 仕方がない、せめて説得して出直すとするか。


「あ、あの、俺達――――――――」

「きえぇぇぇ!!」

「――――――――うわッ!!」


 剣尖がいきなり俺の顔を目掛けて飛んで来る。

 もはや立派な不意打ちだったが、自分でも驚くほどの反射神経で躱すことが出来た。

 咄嗟に距離を取って、追撃を防ぐ。


「ちょ、俺は何もしてないじゃないですか!!」

「黙れ! この女の仲間なら容赦はしないぞ!!」

「ええ!? そんな!!」


 確かに一緒に来たんだし、仲間だと思われても違和感はないか。

 けれど、いきなり攻撃を仕掛けてくるのは勘弁してくれ。

 せめて殺すのではなく、捕らえる努力をしてほしい。


「そっちがやる気なら……」

「レイナ、ダメだって! 取り返しつかなくなるから!!」


 段々と門番が集まって来やがった。

 これ以上、騒ぎになれば面倒だ。

 ここは一旦、出直すしかない。


「そうか、そうか。そっちがその気なら、見せてやろう! 『水王』の力を!」


 受け手にまわっていたシェリィだったが、堪忍袋の緒が切れたようだ。

 彼女が本気になれば、これから始まるのは一方的な蹂躙だ。

 止める術は、俺の中にはない。



 数分後、俺の目の前には信じ難い光景が広がっていた。


「あはは! どうよ? 自分の体でジャグリングされる気分は!?」


 シェリィは水の泡(アクアバブル)で門番を包み込んで、空中に投げてしまった。

 次々に向かって来る連中も、まとめてポンポン回している。

 ああ、もう取り返しがつきそうにないな。


「一体何の騒ぎだ!!」


 城の正門から姿を現したのは、クリスとディオンテさん。

 この2人は親衛騎士団という、国王直属のエリート集団だ。

 ただ同時に、俺と面識のある人間でもある。


「これは……お前の仕業で間違いないな?」

「ああ、見ての通りだ」

「覚悟は出来ているだろうな」


 クリスが殺意と共に剣を抜いた。

 まずい、彼と戦うのは非常にまずい。


「う~ん。こんな朝っぱらから何を揉めてるのですか?」


 さらに姿を現したのは、この国の王、ララ・サンダルトだった。

 まだ朝も早く、寝間着に身を包んでいる。

 寝起きにも拘わらず、なんて美しいのだろう。


「陛下、さがってください。敵襲です」

「敵襲……はて? そうでしょうか。私には別の目的があるように見えますが……」


 ララ様が俺とレイナの存在に気がついたようで、軽く手を振って来る。

 この天然にも取れる仕草が、ピリついた空気には良薬だ。 


「アタシはシェリィ・ストレーム」

「ええ、存じてますよ。お会いするのは、これで3回目ですからね」

「へぇ……覚えてたんだ」

「1回目は私が生まれた時。2回目は父が亡くなった時。どちらとも、直接話す機会はありませんでしたね」


 どうやら面識自体はあるようだ。

 良かった、それなら話は早い。


「武器をおろしなさい。彼女は正真正銘の水王です」

「しかし陛下、奴は我々に危害を……」

「おろしなさい」

「は、はい!」


 強めの圧に耐えかねた門番が道をあける。

 その間を通り、俺達はララ様に続いて城の中へと足を踏み入れた。




 ---------




 ララ様に連れられて、到着したのは広々とした部屋だった。

 中央には横長の机がどんと構えており、そこに几帳面な椅子が複数、対辺に配置されている。

 平等の部屋とは違い、厳格な装飾で彩られている。

 まるで交渉の際に用いられるような部屋だ。


「どうぞ、そちら側の椅子にお座りください」


 こちら側には俺たちが、向かい側にはララ様たちが座る。

 ララ様の両サイドには、見覚えのない男が2人。

 国の重鎮だろうか。


「うへえぇ……やべぇよ。この距離で陛下をお目にかかれるなんて夢みたいだ」

「……静かにしろ。無礼だぞ」


 エリックが小声で喚きたてる。

 シェリィの正体に気づいた時のような興奮具合だ。


「それに、右にいる方はラー王国騎士団、第一師団長アルデバラン」


 そのアルデバランという男は、濃い髭を生やしたイケおじだった。

 部下には基本的に厳しく接するが、時にはさり気なく褒めてくれるベテランって感じだ。


「左の方は、第二師団長ケルゲス。ヤバすぎんだろ……」


 そのケルゲスという男は、横に剃りこみを入れた30代だった。

 目覚ましい戦果を挙げて、凄まじい速度で昇進した期待の星って感じだ。


「では、話を聞きましょう」


 正面には国王兼、光王のララ・サンダルト。

 両翼には、王国騎士団のトップ達。

 話すことさえ躊躇しそうな面子だ。


 たがしかし、こちら側には一人、物怖じすることない者がいた。


「アタシ達が今日この場に来たのは、魔の大陸についての話をするためだ」

「……まさか、足を踏み入れたのですか?」

「事情があったんだ。その辺に関しては、エトから聞いた方が早い」


 シェリィがチラッとこちらへと視線を向けて来る。

 そのせいで、他の皆の視線も俺へと集まる。

 まるで見えない槍で一斉に突き刺された気分だ。


「2日ほど前、陛下より賜った依頼を遂行するため、港町ロセアンを訪ねました」

「おつかいの件ですね。存じてます」

「その際、謎の集団に襲われ、拉致されました」


 ほんの一瞬、ララ様が驚いた表情を浮かべた。

 しかし、この場は平等の部屋ではないため、すぐに元の整った顔に戻る。


「その集団こそが、魔の大陸に住む魔人族でした」

「魔人族だって!? デタラメを言うな!!」


 いきなり立ち上がったのは、王国騎士団の若さ担当ケルゲスだった。

 確かに今のところは根拠のない話に聞こえるだろうが、頼むから最後まで聞いてくれよ。


「魔人族などただの迷信だ! 魔の大陸には生命など存在しない!」

「おい……人の話は最後まで聞けよ」


 俺を遮るように声を大にするケルゲス。

 そんな彼を鋭く睨みつけたのは、俺の左に座るシェリィだった。

 お互いの視線が交差し、熱い火花を散らす。


「ケルゲス、彼女の言う通りです。まずはエトの話を聞きましょう」

「はッ! 申し訳ございません!」


 もう一度、鋭く睨みつけるが、大人しくケルゲスは座る。

 そろそろ話を続けても大丈夫そうだ。


「俺は魔人族の連中に連れ去られ、魔の大陸に存在する要塞に収容されました。

 そこには多数の被害者がおり、非人道的な実験行為が繰り返されていました」

「ふむ……人体実験か。近い時期に失踪した者がいないか後で調べさせよう」


 アルデバランは何かしらメモを取った後、再びこちらへと向き直る。

 信じる信じないは置いておいて、この人は最後まで話を聞いてくれそうだ。


「何とか脱出しようと画策し、実行した結果、外から救出しに来てくれた彼らと合流しました」


 このタイミングで、俺は左右に座るレイナ達に視線を向ける。

 意図を読み取ったレイナが、俺に代わって口を開く。


「エトが失踪して丸一日経過した頃、私はエリックとここにはいないジーク先輩と共に救出に動きました。道中、シェリィも交えて魔の大陸に渡り、脱出途中のエトと合流しました」


 ここで脱出組と救出組の時系列が重なる。

 あとは俺の言葉だけで十分だろう。


「シェリィさん達と合流した後、『魔王』とその幹部が立ち塞がりました。

 しかし魔王曰く、今はこちらの大陸の者と関係を持つつもりはないと言うことで、見逃してもらえました」


 魔王という単語を聞き、再びケルゲスが立ち上がろうとする。

 が、自分が発言する必要はないと悟り、グッと堪えた。


「魔王……か。にわかには信じられん」

「ここに至るまでの経緯は概ね理解できました。今度は、魔の大陸で目にしたものを事細かに教えていただきます」

「それはアタシから喋ろう」


 緊張もあり、うまく喋れた気がしない。

 とは言え、何とか通じたようで一安心だ。


「魔の大陸には植物は存在せず、せいぜい魔物と魔人族だけだ。

 魔人族は褐色の肌と深紅の瞳を持ち、人並外れた生命力、自然治癒能力を備えている。

 だが知能に関しては、ほとんどが巨人族以下の会話もできない木偶の坊だ」

「厄介な話だな。知能が高くない駒は、上からしたら操りやすい」


 その後も、シェリィは話し続ける。


「三魔将と名乗る幹部2人、ヴェロニカとグレインは脅威だな。

 どちらも明確な知能を確立しており、戦闘能力は五雄王にも匹敵しうる」

「何だって!? そんな馬鹿な話が――――――――」

「直接交戦したアタシが言うんだ。説得力はあるだろう」


 あの時、どちらも本気ではなかったから憶測ではあるのだろう。

 だが、他でもないシェリィが言うのだから、信憑性は高い。


「そして大陸に君臨する者が、魔王だ。奴は五雄王を超える戦闘力を有している。

 とは言っても、復活したてのようで体が万全ではないようだ。

 冥王レグルスが関係しているらしいけど……ま、その辺は、詳しくは分からない」


 魔王と冥王レグルスの関係性の解明は、ラー王国の専門家に任せよう。

 ただ、これに関してはあまり期待はしない方がいい気がする。


「陛下、この者たちの話が本当ならば、事態は深刻です!

 魔の大陸にそれほどの戦力があるのならば、いざ侵攻されれば大きな被害が出る!

 ならば、こちらから先制攻撃を仕掛けるべきです!!」


 ケルゲスから、また血の気の多い発言が飛び出した。

 魔王はこちらと関係を持つつもりはないと、俺、言ったんだけど……。

 まあ、それも()()()()()だ。

 彼からしたら、侵攻してくる可能性が一ミリでもあるのなら、看過できないのだろう。


「やめておけ。無駄に被害を増やすだけだ」

「貴様、水王だかなんだか知らないが、発言には気をつけろ。我々、騎士団はラー王国の脅威を排除するためならば、喜んで命を捧げる覚悟があるのだ」

「それは何を為して脅威の排除とする? アンタ達、騎士団が束になったところで、魔王の討伐など到底不可能だぞ」

「貴様、戯言を!」

「もっと詳しく言おうか? アンタ達が束になったところで、アタシ一人にも勝てやしない。

 それは相手に当てはめても同じだ。魔王に辿り着く前に、幹部に殲滅されて終わりだ」


 ラー王国の王国騎士団は、世界でも有数の実力を持つとされる。

 が、五雄王の実力を目にした俺なら、シェリィ一人でも騎士団に勝てるかもしれない。

 そう思えてしまうほど、彼女の与えたインパクト大きかった。


「ま、光王が前線に出るなら話は別だけどな」

「2人とも、話が飛躍しすぎです。今の段階で、魔の大陸に我々が仕掛けることはありません。

 地の利はあちらにありますし、こちらの損害が大きくなり過ぎる。

 それに現時点、彼らがこちらの大陸に侵攻してくる素振りはありません」


 お互いの損害を考慮した結果、ララ様は攻撃をしない決断をした。

 魔の大陸にはまだまだ未知の部分も大きいし、それが最適な選択だろう。


「しかし、もしも我々に危害を加えようものなら……その時は全戦力を持て迎え撃ちます」


 薄暗い笑みを浮かべると同時に、空気がピリつくのを肌で感じた。

 ほんの一瞬だったが、それでも強力な殺意を放ったのだ。

 あの温厚なララ様が。


「それでこそ光王だよ……」


 シェリィがポツリと呟く。

 そして、やるべきことは終わったと言わんばかりに、立ち上がった。


「アタシはもう要らないだろ? 先に帰らせてもらう」

「せっかくの機会ですから、もう少しお喋りをしたかったのですけど……」

「何時か機会が巡って来る。その時までお預けだ」


 シェリィは隅にいた使用人に出口までの案内を任せて、そそくさと部屋を後にした。

 あまりにも淡白でせっかちな行動に、ララ様を除いた全員が口を挟むことが出来なかった。


「君達にはまだ詳しく話を聞きたい。構わないか?」

「はい、もちろんです」


 シェリィが立ち去った後も、質疑応答は続いた。

 緊張のせいで噛み噛みだったけど、何とかこなしてみせた。

 時間にして小一時間が経過したあと――――――――


「ふう……ひとまずはこのくらいでいいだろう。見たところ、君達も相当お疲れのようだからな。

 この場においての話は、決して他言しないようにしてくれ」

「分かりました」


 アルデバランとケルゲスが部屋を後にする。

 俺とレイナ、そしてエリックも立ち去ろうとするが、駆け寄ってきたのはララ様だった。


「この度は、私のせいで申し訳ありません」


 何をおっしゃるかと思いきや、いきなり頭をさげて来た。

 慌てて俺達は顔を上げるようにお願いする。


「平等の部屋じゃないんですから!」

「今回の件、私がエトにおつかいを頼まなければ起こらなかったはずです。だから……」

「それはもう、結果論です。それに、俺は一ミリたりともララ様のせいだとは思ってませんから」


 魔人族が介入してくるなんて、未来人くらいしか予想できないだろ。

 それに、攫われたのは俺の実力不足でもあるわけだし。

 謝られる理由なんてない。


「むしろ、俺の方こそ謝罪しなくちゃ。せっかく楽しみにされてたお菓子を、届けることが出来なかったんですから」

「それはもういいですよ。本当に、無事でよかった」


 ララ様が俺の手を掴んでくる。

 温かく、それでいて頼りがいのあるしっかりとした手だった。


「ちょ、羨ましいぞ」

「うるさい」


 隣で囁いてくるエリックはさておき、そろそろ帰ろう。

 家族に無事を知らせなくちゃ、心配させてしまうからな。


「またお会いしましょう」

「はい!」


 城外はカラッとした天気で、何だか呆気ない感じがする。

 ふと遠くの方に目をやると、そこには綺麗な虹が姿を現していた。


「それじゃ、エリック。また、学校でな」

「ああ。あばよ!」


 エリックと別れ、俺とレイナは自宅に向かって歩く。

 その途中で突然――――――――


「私、ちょっと用事ができた」

「え? あ、ちょっと待てって!」


 有無を言わさずレイナが何処かへと走り去ってしまった。

 そのあとを追うか迷ったが、先に家族のもとへと帰ることにした。


「ただいまー」


 もうすっかり見慣れた新しいアルムガルト家。

 ここにいるだけで、不安や緊張が全て過去のものになる。

 ああ、やっぱりここが我が家なんだな。


「おかえり~!!」


 玄関先から聞こえてくるリダの声。

 ああ、これだよ、これ。

 ようやく帰ってこれたんだ。


 心の底から湧き上がる嬉々とした感情に身を任せ、俺は豪快に玄関の扉を開けた。


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