第八十八話 報告会
銀色に光る海を進み続け、着港したのは昼頃だった。
「はあ~ようやく帰ってきたよ~」
悪夢のような体験をしてきた俺達を出迎えたのは、いつもと変わらない日常を送る人々だった。
当然、人にはそれぞれの人生があることは承知している。
けどやっぱり、ここまで温度差が違うと違和感を拭えないものだな。
「本当だったら、簡単なおつかいのはずだったんだけどな……」
改めて思う。
季節限定のお菓子を買いに行ったはずなのに、魔王と対面する羽目になるなんて不運どころの話じゃない。
はじめてのおつかいにはハプニングが付き物とはよく言うが、限度があるだろう。
「生きて帰ってこれたのが奇跡だな」
「ま、ちょっと過酷な旅行だったって考えればいいんじゃない?」
「旅行先くらいは自分で選ばせてくれ……」
さて問題なのは、どうやってララ様に会うかだ。
元々はお菓子を買って、すぐ持っていく手筈だったからな。
すでに日は変わっちゃったし、改めて時間を設けてもらう形になるだろうか。
「ララ様に会うのは、数日後になるかもしれないな」
「それは無理だ。会うなら今日中だ」
「そんな無茶な……」
アポなしで当日、謁見するなんて無理に決まっている。
ただでさえ、ララ様は公務で忙しいというのに、持っていく情報も膨大なんだ。
混乱を招くに決まってる。
「ま、そこはアタシが何とかしてやるよ」
「……失礼ですけど、信用しても大丈夫なんですか?」
「ああ。ドンと任せろ」
こんな自信満々気なのが、妙に怪しい。
いくら水王とは言え、ラー王国にパイプがあるようには思えないし、やらかさないか心配だ。
けれど、無理に止めようものなら、反故にされそうだ。
「ほら、転送屋まで行くよ」
「分かってるよ」
一瞬、落としたままのお菓子を見に行こうか迷ったが、止めておいた。
レアものらしいし、どっかの誰かに拾われた可能性が高いからな。
それに、そのままだったとしても、品質が落ちてるだろう。
「機会があったら、今度は泳ぎにでも来るか……」
この町には今のところ、最悪な思い出しかない。
ただしそれは、この町の魅力とはかけ離れた悪事が原因だった。
だからこそ、今度は全力で魅力を堪能しようじゃないか。
他の誰でもない、自分自身の為に。
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転送魔法陣を利用し、あっという間にラー王国まで戻った。
このタイミングで、レイナが腹が減ったと騒ぎ始める。
一旦、飯を食べることも選択肢に挙がったが、結局は後回しにされた。
「さて、ジークと言ったか。アンタはこのまま診療所まで行きな」
「何、どういうことだ?」
「見て分かる。その腕の怪我、瘦せ我慢してるだけだろ? 幸い、その程度なら診療所で治せるぞ」
表情に出さないから忘れかけていたが、ジーク先輩はグレインによって粉砕骨折を負っている。
レイナの回復魔法で幾分マシになっているとはいえ、重症なことに変わりはない。
診療所ならば無いものは生やせないが、粉砕骨折は完治させることが出来る。
「行ってください、ジーク先輩。後は俺達がやっておきますから」
「……そうか。ならば、お言葉に甘えよう」
ジーク先輩も不本意だっただろう。
それでも、駄々をこねることなく承諾してくれた。
彼には後日、改めてお礼を述べるとしよう。
数日ぶりのラー王国は、相変わらず活気に溢れていた。
道ですれ違う人々の喜怒哀楽を横目に、俺達はサンダルト城の目の前までやって来た。
「それで、どうするんですか?」
今までは向こうの予定に合わせていたから、簡単に会うことが出来ていた。
しかし本当ならば、ララ様と謁見するには申請が必要だ。
噂によると、その予約は数ヶ月先まで埋まっているそうだが、果たしてどうなのだろう。
「そこで見ていろ。アタシが光王を引きずり出してやる」
引きずり出すなんて、物騒な言い方だな。
まさか言葉通りとは思えないが、嫌な予感がする。
止めるべきだろうか。
「む!? 貴様、何者だ!!」
「アタシはシェリィ・ストレーム。今すぐ『光王』を呼べ」
「何と無礼な女だ! 今すぐこの場を立ち去れ!! さもなくば、容赦はしないぞ!!」
城の門番と早速、喧嘩してる。
嫌な予感が的中してしまったようだ。
まさかとは思うが、本当に言葉通り引きずり出そうってのか?
「ん? おかしいな……。あ! そうか、分かった。アタシは『水王』だ。光王に用があって来た。今すぐ呼べ」
「水王だと……? 五雄王を貶す愚か者めが!! 成敗してくれる!!」
門番の一人が、剣を抜いてシェリィに斬りかかった。
まさか攻撃されるとは思っていなかった彼女は、驚きつつも辛うじて回避する。
「おい! 嘘じゃないぞ!!」
「口を慎め! 愚か者が!!」
連続で迫り来る剣を躱しつつ、シェリィは視線でこちらに助けを求める。
助け舟を出そうにも、もう遅い気がするけど……。
仕方がない、せめて説得して出直すとするか。
「あ、あの、俺達――――――――」
「きえぇぇぇ!!」
「――――――――うわッ!!」
剣尖がいきなり俺の顔を目掛けて飛んで来る。
もはや立派な不意打ちだったが、自分でも驚くほどの反射神経で躱すことが出来た。
咄嗟に距離を取って、追撃を防ぐ。
「ちょ、俺は何もしてないじゃないですか!!」
「黙れ! この女の仲間なら容赦はしないぞ!!」
「ええ!? そんな!!」
確かに一緒に来たんだし、仲間だと思われても違和感はないか。
けれど、いきなり攻撃を仕掛けてくるのは勘弁してくれ。
せめて殺すのではなく、捕らえる努力をしてほしい。
「そっちがやる気なら……」
「レイナ、ダメだって! 取り返しつかなくなるから!!」
段々と門番が集まって来やがった。
これ以上、騒ぎになれば面倒だ。
ここは一旦、出直すしかない。
「そうか、そうか。そっちがその気なら、見せてやろう! 『水王』の力を!」
受け手にまわっていたシェリィだったが、堪忍袋の緒が切れたようだ。
彼女が本気になれば、これから始まるのは一方的な蹂躙だ。
止める術は、俺の中にはない。
数分後、俺の目の前には信じ難い光景が広がっていた。
「あはは! どうよ? 自分の体でジャグリングされる気分は!?」
シェリィは水の泡で門番を包み込んで、空中に投げてしまった。
次々に向かって来る連中も、まとめてポンポン回している。
ああ、もう取り返しがつきそうにないな。
「一体何の騒ぎだ!!」
城の正門から姿を現したのは、クリスとディオンテさん。
この2人は親衛騎士団という、国王直属のエリート集団だ。
ただ同時に、俺と面識のある人間でもある。
「これは……お前の仕業で間違いないな?」
「ああ、見ての通りだ」
「覚悟は出来ているだろうな」
クリスが殺意と共に剣を抜いた。
まずい、彼と戦うのは非常にまずい。
「う~ん。こんな朝っぱらから何を揉めてるのですか?」
さらに姿を現したのは、この国の王、ララ・サンダルトだった。
まだ朝も早く、寝間着に身を包んでいる。
寝起きにも拘わらず、なんて美しいのだろう。
「陛下、さがってください。敵襲です」
「敵襲……はて? そうでしょうか。私には別の目的があるように見えますが……」
ララ様が俺とレイナの存在に気がついたようで、軽く手を振って来る。
この天然にも取れる仕草が、ピリついた空気には良薬だ。
「アタシはシェリィ・ストレーム」
「ええ、存じてますよ。お会いするのは、これで3回目ですからね」
「へぇ……覚えてたんだ」
「1回目は私が生まれた時。2回目は父が亡くなった時。どちらとも、直接話す機会はありませんでしたね」
どうやら面識自体はあるようだ。
良かった、それなら話は早い。
「武器をおろしなさい。彼女は正真正銘の水王です」
「しかし陛下、奴は我々に危害を……」
「おろしなさい」
「は、はい!」
強めの圧に耐えかねた門番が道をあける。
その間を通り、俺達はララ様に続いて城の中へと足を踏み入れた。
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ララ様に連れられて、到着したのは広々とした部屋だった。
中央には横長の机がどんと構えており、そこに几帳面な椅子が複数、対辺に配置されている。
平等の部屋とは違い、厳格な装飾で彩られている。
まるで交渉の際に用いられるような部屋だ。
「どうぞ、そちら側の椅子にお座りください」
こちら側には俺たちが、向かい側にはララ様たちが座る。
ララ様の両サイドには、見覚えのない男が2人。
国の重鎮だろうか。
「うへえぇ……やべぇよ。この距離で陛下をお目にかかれるなんて夢みたいだ」
「……静かにしろ。無礼だぞ」
エリックが小声で喚きたてる。
シェリィの正体に気づいた時のような興奮具合だ。
「それに、右にいる方はラー王国騎士団、第一師団長アルデバラン」
そのアルデバランという男は、濃い髭を生やしたイケおじだった。
部下には基本的に厳しく接するが、時にはさり気なく褒めてくれるベテランって感じだ。
「左の方は、第二師団長ケルゲス。ヤバすぎんだろ……」
そのケルゲスという男は、横に剃りこみを入れた30代だった。
目覚ましい戦果を挙げて、凄まじい速度で昇進した期待の星って感じだ。
「では、話を聞きましょう」
正面には国王兼、光王のララ・サンダルト。
両翼には、王国騎士団のトップ達。
話すことさえ躊躇しそうな面子だ。
たがしかし、こちら側には一人、物怖じすることない者がいた。
「アタシ達が今日この場に来たのは、魔の大陸についての話をするためだ」
「……まさか、足を踏み入れたのですか?」
「事情があったんだ。その辺に関しては、エトから聞いた方が早い」
シェリィがチラッとこちらへと視線を向けて来る。
そのせいで、他の皆の視線も俺へと集まる。
まるで見えない槍で一斉に突き刺された気分だ。
「2日ほど前、陛下より賜った依頼を遂行するため、港町ロセアンを訪ねました」
「おつかいの件ですね。存じてます」
「その際、謎の集団に襲われ、拉致されました」
ほんの一瞬、ララ様が驚いた表情を浮かべた。
しかし、この場は平等の部屋ではないため、すぐに元の整った顔に戻る。
「その集団こそが、魔の大陸に住む魔人族でした」
「魔人族だって!? デタラメを言うな!!」
いきなり立ち上がったのは、王国騎士団の若さ担当ケルゲスだった。
確かに今のところは根拠のない話に聞こえるだろうが、頼むから最後まで聞いてくれよ。
「魔人族などただの迷信だ! 魔の大陸には生命など存在しない!」
「おい……人の話は最後まで聞けよ」
俺を遮るように声を大にするケルゲス。
そんな彼を鋭く睨みつけたのは、俺の左に座るシェリィだった。
お互いの視線が交差し、熱い火花を散らす。
「ケルゲス、彼女の言う通りです。まずはエトの話を聞きましょう」
「はッ! 申し訳ございません!」
もう一度、鋭く睨みつけるが、大人しくケルゲスは座る。
そろそろ話を続けても大丈夫そうだ。
「俺は魔人族の連中に連れ去られ、魔の大陸に存在する要塞に収容されました。
そこには多数の被害者がおり、非人道的な実験行為が繰り返されていました」
「ふむ……人体実験か。近い時期に失踪した者がいないか後で調べさせよう」
アルデバランは何かしらメモを取った後、再びこちらへと向き直る。
信じる信じないは置いておいて、この人は最後まで話を聞いてくれそうだ。
「何とか脱出しようと画策し、実行した結果、外から救出しに来てくれた彼らと合流しました」
このタイミングで、俺は左右に座るレイナ達に視線を向ける。
意図を読み取ったレイナが、俺に代わって口を開く。
「エトが失踪して丸一日経過した頃、私はエリックとここにはいないジーク先輩と共に救出に動きました。道中、シェリィも交えて魔の大陸に渡り、脱出途中のエトと合流しました」
ここで脱出組と救出組の時系列が重なる。
あとは俺の言葉だけで十分だろう。
「シェリィさん達と合流した後、『魔王』とその幹部が立ち塞がりました。
しかし魔王曰く、今はこちらの大陸の者と関係を持つつもりはないと言うことで、見逃してもらえました」
魔王という単語を聞き、再びケルゲスが立ち上がろうとする。
が、自分が発言する必要はないと悟り、グッと堪えた。
「魔王……か。にわかには信じられん」
「ここに至るまでの経緯は概ね理解できました。今度は、魔の大陸で目にしたものを事細かに教えていただきます」
「それはアタシから喋ろう」
緊張もあり、うまく喋れた気がしない。
とは言え、何とか通じたようで一安心だ。
「魔の大陸には植物は存在せず、せいぜい魔物と魔人族だけだ。
魔人族は褐色の肌と深紅の瞳を持ち、人並外れた生命力、自然治癒能力を備えている。
だが知能に関しては、ほとんどが巨人族以下の会話もできない木偶の坊だ」
「厄介な話だな。知能が高くない駒は、上からしたら操りやすい」
その後も、シェリィは話し続ける。
「三魔将と名乗る幹部2人、ヴェロニカとグレインは脅威だな。
どちらも明確な知能を確立しており、戦闘能力は五雄王にも匹敵しうる」
「何だって!? そんな馬鹿な話が――――――――」
「直接交戦したアタシが言うんだ。説得力はあるだろう」
あの時、どちらも本気ではなかったから憶測ではあるのだろう。
だが、他でもないシェリィが言うのだから、信憑性は高い。
「そして大陸に君臨する者が、魔王だ。奴は五雄王を超える戦闘力を有している。
とは言っても、復活したてのようで体が万全ではないようだ。
冥王レグルスが関係しているらしいけど……ま、その辺は、詳しくは分からない」
魔王と冥王レグルスの関係性の解明は、ラー王国の専門家に任せよう。
ただ、これに関してはあまり期待はしない方がいい気がする。
「陛下、この者たちの話が本当ならば、事態は深刻です!
魔の大陸にそれほどの戦力があるのならば、いざ侵攻されれば大きな被害が出る!
ならば、こちらから先制攻撃を仕掛けるべきです!!」
ケルゲスから、また血の気の多い発言が飛び出した。
魔王はこちらと関係を持つつもりはないと、俺、言ったんだけど……。
まあ、それも今のところだ。
彼からしたら、侵攻してくる可能性が一ミリでもあるのなら、看過できないのだろう。
「やめておけ。無駄に被害を増やすだけだ」
「貴様、水王だかなんだか知らないが、発言には気をつけろ。我々、騎士団はラー王国の脅威を排除するためならば、喜んで命を捧げる覚悟があるのだ」
「それは何を為して脅威の排除とする? アンタ達、騎士団が束になったところで、魔王の討伐など到底不可能だぞ」
「貴様、戯言を!」
「もっと詳しく言おうか? アンタ達が束になったところで、アタシ一人にも勝てやしない。
それは相手に当てはめても同じだ。魔王に辿り着く前に、幹部に殲滅されて終わりだ」
ラー王国の王国騎士団は、世界でも有数の実力を持つとされる。
が、五雄王の実力を目にした俺なら、シェリィ一人でも騎士団に勝てるかもしれない。
そう思えてしまうほど、彼女の与えたインパクト大きかった。
「ま、光王が前線に出るなら話は別だけどな」
「2人とも、話が飛躍しすぎです。今の段階で、魔の大陸に我々が仕掛けることはありません。
地の利はあちらにありますし、こちらの損害が大きくなり過ぎる。
それに現時点、彼らがこちらの大陸に侵攻してくる素振りはありません」
お互いの損害を考慮した結果、ララ様は攻撃をしない決断をした。
魔の大陸にはまだまだ未知の部分も大きいし、それが最適な選択だろう。
「しかし、もしも我々に危害を加えようものなら……その時は全戦力を持て迎え撃ちます」
薄暗い笑みを浮かべると同時に、空気がピリつくのを肌で感じた。
ほんの一瞬だったが、それでも強力な殺意を放ったのだ。
あの温厚なララ様が。
「それでこそ光王だよ……」
シェリィがポツリと呟く。
そして、やるべきことは終わったと言わんばかりに、立ち上がった。
「アタシはもう要らないだろ? 先に帰らせてもらう」
「せっかくの機会ですから、もう少しお喋りをしたかったのですけど……」
「何時か機会が巡って来る。その時までお預けだ」
シェリィは隅にいた使用人に出口までの案内を任せて、そそくさと部屋を後にした。
あまりにも淡白でせっかちな行動に、ララ様を除いた全員が口を挟むことが出来なかった。
「君達にはまだ詳しく話を聞きたい。構わないか?」
「はい、もちろんです」
シェリィが立ち去った後も、質疑応答は続いた。
緊張のせいで噛み噛みだったけど、何とかこなしてみせた。
時間にして小一時間が経過したあと――――――――
「ふう……ひとまずはこのくらいでいいだろう。見たところ、君達も相当お疲れのようだからな。
この場においての話は、決して他言しないようにしてくれ」
「分かりました」
アルデバランとケルゲスが部屋を後にする。
俺とレイナ、そしてエリックも立ち去ろうとするが、駆け寄ってきたのはララ様だった。
「この度は、私のせいで申し訳ありません」
何をおっしゃるかと思いきや、いきなり頭をさげて来た。
慌てて俺達は顔を上げるようにお願いする。
「平等の部屋じゃないんですから!」
「今回の件、私がエトにおつかいを頼まなければ起こらなかったはずです。だから……」
「それはもう、結果論です。それに、俺は一ミリたりともララ様のせいだとは思ってませんから」
魔人族が介入してくるなんて、未来人くらいしか予想できないだろ。
それに、攫われたのは俺の実力不足でもあるわけだし。
謝られる理由なんてない。
「むしろ、俺の方こそ謝罪しなくちゃ。せっかく楽しみにされてたお菓子を、届けることが出来なかったんですから」
「それはもういいですよ。本当に、無事でよかった」
ララ様が俺の手を掴んでくる。
温かく、それでいて頼りがいのあるしっかりとした手だった。
「ちょ、羨ましいぞ」
「うるさい」
隣で囁いてくるエリックはさておき、そろそろ帰ろう。
家族に無事を知らせなくちゃ、心配させてしまうからな。
「またお会いしましょう」
「はい!」
城外はカラッとした天気で、何だか呆気ない感じがする。
ふと遠くの方に目をやると、そこには綺麗な虹が姿を現していた。
「それじゃ、エリック。また、学校でな」
「ああ。あばよ!」
エリックと別れ、俺とレイナは自宅に向かって歩く。
その途中で突然――――――――
「私、ちょっと用事ができた」
「え? あ、ちょっと待てって!」
有無を言わさずレイナが何処かへと走り去ってしまった。
そのあとを追うか迷ったが、先に家族のもとへと帰ることにした。
「ただいまー」
もうすっかり見慣れた新しいアルムガルト家。
ここにいるだけで、不安や緊張が全て過去のものになる。
ああ、やっぱりここが我が家なんだな。
「おかえり~!!」
玄関先から聞こえてくるリダの声。
ああ、これだよ、これ。
ようやく帰ってこれたんだ。
心の底から湧き上がる嬉々とした感情に身を任せ、俺は豪快に玄関の扉を開けた。




