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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第七章
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第七十八話 人体実験

レイナ達が集落に辿り着く少し前――――――――


「おーい!! 誰かいないのか!?」

「おい、大きな声を出せば奴らが来るぞ」

「それが狙いですよ。このままじゃ埒があかないですから、何か行動を起こさないと」


手錠の鍵を持っているのは、おそらく看守だろう。

それなら、こちらから接触して奪取の機会をうかがうべきだ。

それに、敵側の情報を得られるチャンスでもあるしな。


「ふぇふぇふぇ、叫んでも無駄じゃ」

「お前はあの時の老婆か! こっから出せ!!」


動けない俺の目の前で、老婆は鍵をプラプラと揺らす。

挑発としか考えられない行動に、俺は睨み返すことしかできない。

実力は遠く及ばず、話術で丸め込むことも難しい。

悔しいが、この老婆が鍵を持っているとなれば、奪い取るのは至難の業だ。


「お前の考えなんぞ手に取るように分かる。この鍵が欲しいのじゃろう?

ふぇふぇふぇ、残念じゃったな。お前はここから生きて出ることはない」


生きて出ることはないなんて敵側から直接口にされると、眩暈がするな。

だけど、せっかく接触できたんだ。

臆さずにもっと情報を得ないと。


「はは……噂じゃ人体実験をしてるらしいな。俺をその被験者にでもする気か?」

「何じゃ知っておるのか。それなら話が早い。坊ちゃんはすぐにでも成果を求めてらっしゃるからな」

「え、は? ちょっとまだ話が――――――――」


まだここに来て日が経っていないのに、もう殺されるのか?

展開が早すぎて理解が追い付かない。

これじゃあ、情報収集どころの話じゃない。


「待たせたなぁ!! 準備はできてるか婆や!!」


聞き覚えのない声が聞こえ、奥から身長2メートルはあろう大男が現れた。

額には大きな角が生えており、腰には禍々しい大剣を携えている。

髪色は紺色だが、光の当たり具合では黒に見えなくもない。

外見から判断するに、青年だろうか。


「もちろん、完璧に。今すぐにでも始められますぞ」

「はっは! 流石だな!」


困惑する俺を差し置いて、老婆と青年は話を続ける。

話の流れからして、この青年こそが老婆の言う坊ちゃんとやらだろう。

くそ、話が勝手に進んでいく。


「ちょっと待ってくれ! 俺はここに来たばかりなんだよ! それなのにすぐ殺すなんてあんまりだろ!!」

「殺す? ふぇふぇふぇ、おかしなことを言う。我らの偉大なる計画の一端を担えることを光栄に思うがよい」


駄目だ。

もうまともに話が通じない。

考えろ。この場を脱する方法を。


「まあ待て、婆や。いきなりこんなところで拘束されていれば、誰だって戸惑うだろう」

「そ、そうだ。せめて事態を飲み込んでからでも……」

「では、例を見せてやろう! 婆や、実験台を持って来い!!」


あれ? ちょっと思ってたのと違うぞ。

くそ、時間を稼がなくちゃいけないのに、どうしてこんな上手くいかないんだ。


「ほら、これでどうだい? 今残ってる中じゃ、一番生きがいい」

「ああ、これでいい!」


例を見せると言われ、連れて来られたのは手足を縛られた女性だった。

やつれ顔が酷いが、服装からして冒険者のようだ。


「ど、どうか、命だけは……」


目隠しをされているからか、その場で震えながら丸くなっている。

恐怖と飢餓で衰弱した女性の姿を見ると、心が張り裂けそうなほど痛くなる。

しかし現実は非情なもので、今の俺じゃ彼女を救うことすら出来ない。


「俺様の実験はなぁ、最強の兵を作ることだ! その肝心の方法がぁ……」


坊ちゃんと呼ばれる青年は、老婆から注射器のようなものを受け取り、自身の腕に刺した。

そして、みるみるうちに真っ赤に染まっていく筒内を見て、俺は胸騒ぎが起きるのを感じた。

どうか俺の予感が当たらないでほしいと願うが、やはり現実は非情だった。


「や、やめて……嫌あああぁぁぁ!!」

「こうして、俺の血を体内に入れてやるのさ!!」


注射器の針が女性の腕に突き刺さり、筒に溜まった血が注入された。

目の前で起きる非道な所業に、俺は血の気が一斉に引くのを感じる。

あまりの惨たらしさに、目を逸らさずにはいられない。


「ああ……いやあぁ……」

「チッ、やっぱり失敗か」


体内に血を注射された女性は、最初こそ大きな金切り声を上げていたが、次第に大人しくなっていった。

虚ろな眼がこちらを睨み、その顔は恐怖で歪んでいる。

目の前で今、罪なき女性が殺された。


「だが、安心するがいい。次こそは成功する!! そして、行く行くは量産し、父上に喜んでもらうのさ!!」

「お前ら……最っ低だな」

「あ? 何だって?」

「今までもゴミみたいな人間はたくさん見てきたけど……お前らは人間じゃねえよ。

どうしてこんな悪魔みたいなことを……笑いながらできるんだ?」


この世界には人族の他にも、獣人族や巨人族、人魔族やらがいるが、俺は彼らのことを同じ人間として見てきた。

そう、種族の違いなんて地球で言う人種の違いのようなものだと考えていたからだ。

だがしかし、こいつら魔人族だけは違う。

こいつらはただクソみたいな理由の為に、多くの罪なき人間を嬉々として殺してきた異常者だ。


「物を申すなら、それに見合った実力を示してもらわんとな。喚くだけじゃ、何も変えられんぞ」

「説教はいい!! 婆や、さっさと始めるぞ」


注射器の筒の中が、再びどす黒い鮮血で染まる。

もう何を言っても中断しそうにない。

くそ、あの時おつかいを断っていればこんなことにはならなかったのに……。

この期に及んで頭をよぎるのは、ああすればよかったなんて後悔ばかりだ。


「待て!! 実験台にするなら我にしろ」


絶体絶命の瞬間、背後からけたたましい叫び声が割って入ってきた。

その声の主はハルマという、俺よりも先に囚われた部族の男だ。


「強い駒が欲しいのだろう? それなら、その子よりも我の方が適しているはずだ。

もっとも、そんな阿保らしい方法で実験が成功するとは思えないがな」

「その声……覚えているぞ。俺の部下を苦戦させた槍使いだな。

お前の肉体を使えば、さぞ屈強な兵が出来上がるだろう!

だが、残念だったな! お楽しみは後に取っておくと決めている! まずはこの貧弱な小僧からだ!!」


ハルマが庇ってくれたが、どうやら無駄らしい。

事態をひっくり返す手段を考えようにも、頭の中では先程死んだ女性の断末魔が離れない。

もうすぐ自分もああなるのだと思うと、目を覆うくらいしかできなそうにない。


「……最悪……だ」

「なぁに、絶望することはないぞ!! お前はこれから生まれ変わるんだからな!!」 

「……馬鹿だな。生物が生まれ変わるのは、死んだときだけだ」


まあ、俺の場合は肉体や記憶を引き継いで生まれ変わったんだけどな。


「ほんと……こんなことになるなんてな」

「ふぇふぇふぇ、急に泣き言か?」

「……違う。どうせ死ぬなら、お前らのこと侮辱してやろうと思ってな」


このまま潔く死を受け入れられるほど、俺は人間として出来ていない。

ただし、この状況から助かる策を思いつかないのも事実。

それならせめて、こいつらに殺された犠牲者たちの為にも、精一杯の反撃をしてやる。


「おい、坊ちゃんとかいうアホ。そんな方法で実験が上手くいくと本当に思ってるのか?」

「あ、アホだと……? この小童がぁ!!」

「待ちなされ。そのまま怒りをぶつければ此奴はバラバラになってしまいますぞ」

「第一、他人の血をそのまま体内に注射すれば、拒否反応が起きるなんて考えるまでもなく分かるだろ。少しは頭を使ったらどうだ」

「こ、殺してやらぁ!!」


いいぞ。

どうやら、坊ちゃんには口撃が効果抜群のようだな。

このまま煽りまくって逆上させれば、もしかしたら事態を混乱させることができるかもしれ――――――――


「黙らんか!!」

「うぅ!?」


な、何だ……何をされた?

視界が揺れる……音が曇って聞こえてくる。

この痛み……そうか、老婆が俺の顎を蹴りやがったんだ。


「ぅ……」


くそ、くらくらする。

意識を保つのが精一杯で、口を動かす暇がない。


「助かったぞ、婆や。危うく怒りでこの小僧を粉砕するところだった」

「ふぇふぇふぇ、念のため、もう一発いれておくかのう」


もうまともに体を動かせない。

どうやら、終わりみたいだ。

それなら最後に……最後にひとつだけ願い事がある。


どうか家族の皆が俺を助けに来ませんように。




---------




時は進み、場面は要塞の麓。


「それで、どうやって侵入する?」

「見たところ、正面からしか無理だな」


要塞は隆起した大地を一方から削って築かれている。

つまり、大地の中にあると言っても過言ではない。

その影響で、正面を除いた周囲からは侵入する経路がないのだ。


「めんどくさいから正面突破でいいだろう」

「何を言っている。敵の数は不明、対するこちらは4人だぞ」

「雑魚が束になろうと問題ない。尋常な生命力も首を切れば意味をなさないし」


侵入方法を巡り、ジークとシェリィの意見は相対する。


シェリィの案は、小細工なしの正面突破。

その場合、余計な策等を考えずに即行動に移せる。

一方、敵の戦力が未知数なため、それ相応の危険が伴う。


ジークの案は、隠密な侵入。

無駄な戦闘を避け、より安全に行動できる。

ただし、侵入方法を考える時間が必要になるし、一度騒ぎになればアウトだ。


「私はシェリィに賛成。無駄な時間を掛ける必要ないし」

「俺も……同じだ。今は時間が惜しい!」

「いいのか? 戦闘は避けられんぞ。それにレイナはともかく、お前の火魔法は奴らとは相性が悪いぞ」

「わかってます。それでも、友達を助けたいんです!」

「……わかった」


エリックの熱意を汲み、ジークは渋々認めることにした。


「そうと決まればさっさと行くぞ!!」


侵入方法が決まり、シェリィは物陰から堂々と姿を現す。

隠れる必要がなくなったことで、彼女はのびのびとした背伸びをする。


「前方に複数の敵だ」

「ま、見張りってところだろうけど、ザルだね」


要塞に向かって正面から歩いてくる4人の姿を認め、見張りは武器を構える。

同時に応援を呼ぶかと思われたが、その気配はない。

それどころか、声を張り上げながら突進してきた。


「この状況で向かって来るってことは、自分たちが負けるなんて思ってないんだろうね」

「まあ、あんな生命力あったら、自分は死なないって勘違いするのも分かる気がするな」

「もう雑魚に用はないから、さっさと死んでもらおうか」


シェリィが杖を構える。

この距離間ならば避けられるリスクもあるが、敵はその不死性故に回避を選択しない。


「『水の槍(アクアランス)』」


水から形成された無数の槍が、見張りに向かって飛んでいく。

読み通り、見張りは避けることなく頭部に直撃し、そのまま倒れた。


「頭部を潰すのもアリみたい」


シェリィは髪の毛をクルクルと巻きながら、潰れた頭部を見下ろす。

生きているなら再生するはずだが、その兆候はない。


「さぁて、盛大なパーティーと行きますか!」


そして、侵入者4人は正面から堂々と侵入するのだった。


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