第七話 誕生日
二人と合流した後、カインさんの提案で服を買うことになった。
俺は服についての知識が皆無だったので、プレゼント選びは苦戦した。
めちゃくちゃ悩んだ結果、帽子をプレゼントに選んだ。映画に出てくる魔女がかぶっているようなやつに似てるな。
レイナは魔法使いだから、きっと似合うだろう。
そんな感じで買い物が終わり、家に帰った。
あとは誕生日が来るのを待つのみだ。
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誕生日当日になった。
目が覚めて、部屋から出たところで、珍しくレイナとバッタリ会った。
寝起きなのか、透き通るような銀色の髪がボサボサになっている。
そんな彼女に向かって俺は開口一番――――――――
「誕生日おめでとう」
本日の主役に向かって言った。
彼女は一瞬ポカンとした顔をした。
しかし、すぐに理解したようで――――――――
「あ、ありがとう」
彼女は、ぎこちない言葉で返してくれた。
うーん、やっぱり壁がある感じなんだよな。
俺が呪子だと疑っているんだろうか。
まあ、仕方がないか。
その後、俺はキッチンでリダと一緒にルビアさんの手伝いをした。
そして、あっという間に夜になった。
夜ご飯は、ルビアさんの手料理がふんだんに振舞われた。
どれも絶品だ。
家族みんな話しながら食べた。
みんなで笑い合いながら。
何故か、いつもよりも楽しく感じた。
この瞬間が一生続けばいいなと思った。
料理を食べ終わった後、カインさんがレイナにプレゼントを渡した。
続いてルビアさんとリダが渡す。
最後は俺の番だ。
俺はプレゼントを持って、レイナの前に立った。
彼女は驚いていた。
俺がくれるとは思っていなかったようだ。
「改めて、誕生日おめでとう」
プレゼントを渡した。
喜んでくれないかな?
なんて、少し心配していたけど――――――――
「ありがとう」
彼女は、俺はまっすぐに見つめながら笑っていた。
レイナが初めて俺に笑顔を向けたのだ。
俺は驚いた。
まさか、こんなに喜んでくれるとは思ってもいなかったから。
ただ、同時にすごくうれしかった。
これを機に、もっと仲良くなれたらいいな。
がんばろう。
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プレゼントも渡し終えて、ひと段落した。
リダはソファの上で豪快に眠っていた。
あいつ、よく飯の後にすぐ寝れるな。
これが若さなのか……。
まあ、俺も十分若いんだけどね。
それはさておき……。
「今日は、みんなに伝えなくちゃいけないことがあります」
今日、俺の全てを家族に話す。
前々から決めていたことだけど、緊張するな。
家族は、俺の真剣な顔を見て何かを察したように席に着いた。
リダを除いて。
まあ、リダにはちょっと難しい話かもしれないから丁度いい。
そして、俺の全てを包み隠さず話した。
別の世界に住んでいたこと。
その世界では黒髪が普通だったこと。
ある日、雷に打たれて死んだこと。
転生ミスでこの世界に来たこと。
説明が下手なところもあったかもしれない。
けれど、みんな真面目に聞いてくれた。
「これが、俺の全てです」
話し終わった。
みんな困惑した顔をしていた。
突然こんな話をされたら、そうなるよな。
「すみません、嘘くさい話ですよね」
「……いや、信じるよ」
カインさんがそう言ってくれた。
「そうだとすれば、今までの辻褄が合う。それに、魔法が使えないのも、それが理由かもしれない」
俺がこの世界の住人ではないから。
つまり、体に魔力がないから魔法が使えないのかもしれない。
「私も信じますよ」
ルビアさんも信じてくれた。
「私も、信じる」
レイナまで信じてくれた。
これには驚いた。
てっきり「頭おかしいんじゃないの?」って真顔で言われると思っていたから。
それにしても、やっと言うことができた。
胸の中にあったモヤモヤが綺麗さっぱり無くなったような気がする。
やっぱり隠し事をするのは気分がよくないものだな。
「……それと、見てほしいものがあります」
そう言って、俺は左手の人差し指と右手の人差し指を向かい合わせた。
そして力をいれる。
次の瞬間、左右の人差し指が細長い光で結ばれた。
「そ、それは……?」
カインさんは驚きの声を上げた。
ルビアさんとレイナも目を見開いている。
「この魔法、ご存知ありませんか?」
「ああ。見たことも聞いたこともないよ」
やっぱりそうだった。
この能力は、この世界に存在しない。
天使様がくれた、俺だけの能力なのだ。
まあ、カインさんたちが知らないだけなのかもしれないけどね。
俺はこの能力を電撃魔法と呼ぶことにした。
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真夜中、俺は一人で庭の椅子に腰を下ろし、夜空を見上げていた。
目を凝らせば、きれいな星が見える。
少し寒い。
体感温度は10度くらいだろうか。
ただ、それでも外にいたかった。
何でだろう。
――――――――いや、本当は自分でも分かっている。
「こんな遅くに何してるの?」
突然、後ろから声がした。
振り返らなくても、声の主が誰なのか分かった。
「レイナこそ、こんな夜中になにしてんの?」
「……眠れなかっただけ」
ふーん。
分かりやすい言い訳だね。
「……それで、何してんの?」
「ちょっと家族のことを考えてた」
「家族って、前の世界の?」
「……うん」
俺が顔を少し曇らせたのを見て、レイナは何を思ったのか隣の椅子に座った。
「家族が恋しいの?」
「恋しいっていうか……。なんていうか、よく分からない」
「深刻そうだね。何かあったの?」
レイナが親しげに話しかけてくれる。
これがプレゼント効果なのだろうか。
「……俺さ、この家で暮らしてみて分かったんだ」
「ふーん、何に?」
「俺はクズだったんだ」
「……」
「思い返せば、夜遊びばっかりして母を困らせてばっかりだった。当時の俺は、そんなこと気にも留めなかった」
俺はレイナに吐き出した。
「うちの家族は、父親がいなかったんだ。俺が生まれてすぐに死んだらしくてさ。それでも、母は俺と兄を育ててくれた。弱音も吐かずに。それなのに俺……、迷惑ばっかりかけてたんだ。母の気持ちなんか知らずに」
気づけば、俺は大粒の涙を流していた。
「家族なんかクソくらえって思ってた。でも、この家に来てから分かった」
俺は震える声で言った。
「家族って、こんなに温かいものなんだなって」
泣きじゃくる俺の背中をレイナが撫でてくれた。
ただ、そっと。
やがて、俺は泣き止んだ。
どのくらい泣いていたんだろうか。
「ごめん、こんな話しちゃって」
すると、レイナは首を振った。
「こちらこそ、ごめん。私、今までずっとエトのこと避けてた」
やっぱりか。
「それは俺が黒髪だったからしょうがないことだよ」
「それもあるけど、それだけじゃない。あの日、突然エトがこの家に来て戸惑ってたからなの」
まあ、普通そうだよな。
いきなり赤の他人が一緒に暮らすことになったら、誰だって戸惑う。
カインさんたちが特殊なだけだ。
「でも、もう大丈夫。エトは私にとっても家族だよ」
ついにレイナにも認められた。
「……でも、数年したら帰っちゃうんだよね?」
「……うん」
「そっか。寂しくなるな」
「でも、まだ時間はあるよ」
「うん。それまでの間、改めてよろしくね」
「こちらこそよろしく」
こうして、レイナとの間にあった蟠りが無くなった。
「じゃ、私はもう寝るから」
そう言い残して、レイナは家の中に入っていった。
俺は、もう少し外の風にあたることにした。
さっきよりも寒くなった気がする。
レイナと話したおかげで、だいぶスッキリした。
明日から気持ちを切り替えて頑張ろう。
そうポジティブに考えていた。
この後、悲劇が起きるとも知らずに……。