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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第六章
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第六十三話 ベルリオ

 ロザン神聖国、ベルリオ。

 そこは至って普通の田舎町だった。

 見たところ宗教国家という感じはしない。


 事前情報通り、町の奥に権力者が住んでいる大きな屋敷があった。

 なるほど、確かに奴隷組合の拠点にはもってこいだな。

 この町の規模から考えて、ルビアさん達はあそこにいる可能性が高い。

 が、あくまで可能性の話でしかない。


「それで、まずはどうするの?」

「情報収集だな。後は……そうだな、作戦の拠点になる宿とかか」 

「宿は僕が探そう。ついでにこの町も見て回りたいからな」

「決まりだな。それじゃあ、2つに分かれるか」


 まずは情報収集を担当するグループと救出作戦の拠点を探すグループの2つに分かれることになった。


 情報収集担当はカルス、レイナ、そして俺の3人。

 頭を使うのに比較的向いていないメンバーだ。

 しかし、戦闘力的には十分なので喧嘩になっても問題ない。


 拠点探し担当はクリスとアンドルの2人。

 冷静沈着なクリスと洞察力に優れるアンドルのコンビなら、きっと蟻の巣まで見逃さないだろう。


「情報収集って言っても、何処に行くんだ?」

「俺に任せろよ。この道のプロだぜ?」 


 自称プロを先頭に町を歩き回ること数十分、着いたのは酒場だった。

 まあ、薄々そんな気がしてたよ。


「おいおい、情報収集に酒場はもってこいだろ。

 地元のやつらからよそ者まで、ありとあらゆる情報が集ってるんだぜ?」


 まあ確かにそう言われればそうだけどさ。

 プロとか言ってんのに考えてたこと俺と一緒だったぞ。


「おっと、頼むから揉め事だけは起こさないでくれよ。目を付けられるのはまずいからな」

「カルスじゃないんだから、大丈夫だよ」

「ほんとにな。頼むぞカルス」

「……てめぇら」


 さ、揉め事が起きる前に早く中に入るとしますか。


「一丁前に3階建てみたいだ。俺は1階、レイナは2階、エトは3階でいこう。

 各自で情報を収集し、またここで合流しよう」

「ああ」

「わかった」

「じゃあ、散ッ!!」




 ---------




 俺の担当は3階だったが、酒場は酒場だ。

 特に変わったところもない。

 強いて言うなら、メニューに肉料理がなかったところかな。

 もしかしたら、国教で禁止されているのかもしれない。


「さて、どうしようか」


 こういう時は声をかけるのが第一だとはわかっている。

 しかし、一体誰に話しかければいいのだろう。

 あのカウンターで酒に溺れてるお爺さんか?

 ……いや、あれはギャンブルで負けて絶望中って感じだからやめておこう。

 あのテーブルに座ってる強面の男はどうだ。

 ……いや、舌打ちとかして不機嫌そうだ。やめておこう。


「おいおい、バリア張り過ぎだろ」


 皆の周りに『近づくなよバリア』が張られていて近づけない。

 強行突破しようものなら、こちらもきっと甚大な被害を負うだろう。

 もっとましなやつはいないのか?


「……だめだ」


 3階ということもあってか、そもそも人が少ない。

 まあ、混んでもないのにわざわざ3階まで登って来るやつは変わり者か独りになりたいやつだけか。

 これなら早くレイナかカルスと合流した方が良さそうだ。


「おっと、一応聞いておくか」


 3階のカウンターを担当しているであろう女の人に奴隷について尋ねてみたが、知らないの一点張りだった。

 本当に知らないのか、それとも答えたくないのか。

 その真偽は不明だが、これ以上は口を聞いてもらえなかった。



 階段をおりて2階に向かうと、ちょうど同じく階段を利用しようとしていたレイナとバッタリ会った。

 どうやら彼女の方も成果はないようで、3階の俺の元へと向かおうとしていたらしい。

 2、3階がダメとなると、消去法で残りは1階だけになる。


「何の成果も得られなかったか……」


 残念だが、これが現実か。

 そもそもこの町は人口が少ない上に、訪れる人も多くないだろうし。


「ったくよ……なめやがって」


 1階におりてきてすぐ耳に入ったのは、まさに酔っ払いの文句だった。

 ああ、結局か。しかし、きっとカルスなら……。


「わかるぜ。本当に許せねぇよな? 一発ぶん殴ってやりてぇよな?」


 いや、お前もそっち側かい!!

 近づけないどころか、近づきすぎて取り込まれちゃってるじゃん。


「お? おい、こっちだこっち」

「うわ、見つかった」

「行くしかないか……」


 渋々カルスの元へと向かう。

 そして酔っ払いを囲うように座らされた。


「この方、なんとこの町の屋敷に仕える衛兵様なんだ。

 本日はご主人様がいないから久しぶりに酒場に来たらしい」

「ふん、別に願ってアイツに仕えたわけじゃねえや」


 この酔っ払いが衛兵だって?

 果たしてそんな話を信じてもいいものか……。

 どうやら、かなり主人にご不満があるようだけど。


「人間は権力を持つと傲慢なクソ野郎になっちまう。

 だからよぉ、たまにはこうして息抜きも必要だよな?」

「おうおう、わかってんねえ。

 けどよ、明後日にはまたどこの誰かもわからねぇ奴隷どもの見張りをしなくちゃならねえ。

 ほんと勘弁してほしいよ」


 今、確かに奴隷と言った。

 この酔っ払いの言うことが正しいなら、あの屋敷が奴隷組合の拠点であるということだ。

 それに屋敷の主人は今は不在で、おそらく明後日に帰って来る。


「奴隷だなんて……冗談ですよね?」

「それがな……本当なんだよ。つい最近も新しい奴隷が来たぜ」

「……それって、もしかして銀髪だったりする?」

「あれ? 何で知ってるんだよ?」


 いくら酒に酔っているからって、ポンコツにもほどがあるな。

 しかし今の俺達にとっては、すごく助かる。


「まあ、もうすぐ別のとこに移されるらしいけどな」


 酔っ払いはお酒を飲み干しながら愉快そうに笑う。

 その姿に、レイナは怒りを我慢するのに必死だった。


「……罪の意識とか、感じないの?」

「ん? まあ最初こそ驚いたが、今じゃもう何も思わないね。所詮は他人事だし」


 酔っ払いはまたお酒を口に運び、幸せそうにゲップをする。

 ついにレイナも我慢の限界を迎えたのか、勢いよく立ち上がる。


「聞いてらんない……。外で待ってる」


 カルスとの約束を覚えていたのか、レイナは手を出すことはしなかった。

 しかし、これ以上はもう我慢できないと言わんばかりに酒場から出て行った。


「言葉遣いはきついが、優しいな。ああいう性格は好きだぜ俺は」


 酔っ払いは自分が原因だと思ってもいないようで、のらりくらりとしていた。

 そんな様子に俺もイライラが積もってきた。

 しかし、コイツが貴重な情報源であることは疑いようがないため、カルス1人に任せるわけにはいかない。


「実は俺達、色々な国をまわって都市伝説を調べてるんです。

 よければ、もう少しお話を聞かせて下さい」

「もちろん、その礼に酒の代金を払ってやる」

「ええ……どうしよっかなあ。口止めされてるからなあ……」


 嘘の設定で情報を引き出そうと試みたが、ここにきていきなり勿体ぶってきやがった。

 さっきからちょくちょく口止めされてること話してたくせに。


「ようし、あの赤髪の女の子で手を打とう」

「……は?」

「どうやら一目ぼれしちまったみたいなんだよ。是非とも俺好みに調教してやりたくてなあ」

「……あ?」


 赤髪って、レイナのことだよな?

 このセクハラ酔っ払い野郎が……。

 いかん、情報を引き出さなくちゃいけないのに、逆にイライラを引き出されてしまっている。

 今は我慢だ、耐えるんだ。


「金ならある。それで手を打てないか?」

「金はいつでも稼げる。が、あの女はきっともう会えない気がする。このチャンスは逃せねえよ」

「どうしてもか?」

「どうしてもだな」

「……そうか、残念だ」


 カルスは一度バンとテーブルを叩くと、立ち上がった。

 そのまま殴り飛ばすかと思ったが、どうやら違うらしい。


「帰るぞ」

「え? でも……」

「大丈夫だ」


 カルスの力強い瞳を見て、それ以上は何も言わずに後を追った。




 ---------




 その後は酒場の外で待機していたレイナを拾い、クリス達と合流した。

 どうやら、いい感じの拠点となる宿を見つけてきたらしく、その場所へと向かう。


「ここだ」

「……え?」


 てっきり安い宿に連れて行かれると思いきや、なんと町はずれの空き家だった。

 木造でボロボロ、まさかここが宿とでも言うのだろうか。


「ここなら見つかりにくいし、足もつきにくい。それに、馬も隠しておけるだろう?」

「まあ、確かにそれなら……」


 想像していたものとは違うが、クリスが選んだというのなら異論はない。


「それで、そっちは情報を得られたのか?」

「一応、あの屋敷が奴隷組合の拠点になっているという話は聞いた」

「あと、母さんたちはもうすぐ別の所に移されるとも言ってたよ」

「ただ真偽も不明だし、それ以上の情報も得られなかった」

「……やはり、そう簡単にはいかないか。

 僕の方も町をまわるついでに屋敷を偵察したが、特におかしなところは見つからなかった」


 お互いあまり良い手ごたえとは言えない。

 こうなれば直接屋敷の内部へと侵入して調べるしか手はないか。


「ま、平和な手段でやろうとすればここが限界だな。エト、付いて来い」

「あれ? 私は?」

「お前は待機だ」


 カルスは物騒なことを言い、馬の手綱を引いて歩き出す。

 一体どこへ向かっているのかはわからないが、言われた通りついて行くことにした。


「なあ、この方向ってまさか酒場か?」

「ああ、あそこに戻る」

「また、あの酔っ払いと話しに行くってことか?」

「まあな。ただ、さっきみたいな平和なやり方は終わりだ。次は俺のやり方でいく」


 カルス流のやり方。

 そう聞いただけで、なんとなく想像できるぞ。

 ああ、だから一頭だけ馬を連れて行くのか。


「けど、さすがに酒場で揉め事を起こすのはまずい」

「うまいように誘導する。だから、頼むぞ」

「……わかった」


 あまり乗り気じゃないが、仕方がないか。

 これもルビアさん達を助けるためだ。


「それじゃあ、俺は酒場の裏で待機してるぞ」

「ああ、ついでに馬もな」

「まあ、手綱を引くぐらいなら」


 やがて先程の酒場へと到着した。

 そして酒場に入って行くカルスを見届け、俺は馬の手綱を握り裏へとまわった。

 あとはカルスがうまくおびき出してくれるまで、ここで隠れて待機だ。



 あまり時間はかからずにカルスと酔っ払いは酒場の裏に現れた。

 2人で仲良く談笑している声が、隠れている俺のところまで聞こえてくる。


「おいおい、あの赤髪の子はどこにいるんだよ」

「まあまあ、もうすぐ現れるって」


 カルスがうまく酔っ払いの視線を逸らしていることを確認し、俺はゆっくりと姿を現す。

 音を立てないように細心の注意を払いつつ、確実に距離を詰める。

 そして射程距離内に入った瞬間、俺は右手の親指を上に立て、人差し指を正面に向けて銃の形をつくる。


「『電撃銃(スタンガン)』」


 右手の人差し指から放たれたか細い光弾が、酔っ払いの背中を直撃した。


「よし、誰も見てないな」


 酔っ払いは何も反応することなく、その場で倒れ込んだ。

 カルスが周囲を確認するが、人影はどこにも見当たらなかった。


「あとはコイツを馬に乗せるだけだ」

「はあ……、これがカルス流か」

「コイツが悪いんだよ。それより、新魔法はどうだ?」

「まあ、いい感じかな」


 人に対して使うのは初めてだったが、これなら効果は十分。

 王都で散々練習した甲斐があった。


『電撃銃』は集団戦を想定して開発した魔法だ。

『電撃』よりも一発の威力と速度は劣るが、連射速度は上がっている。

 この先、きっと使用する機会が多くなるだろう。


「ほら、早く行くぞ。誰かに見られたら面倒だ」

「わかってるよ」


 この後、きっとこの酔っ払いには可哀想な出来事が待っているだろう。

 ただでさえ、そういうのに乗り気そうなカルスがいるというのに、そこにヘイトが溜まりまくっているレイナまで加わるのだ。

 ああ、だからクリスはあんな場所を拠点にしようと言ったのか。

 あそこなら多少の悲鳴なら誤魔化せるもんな。

 せめて半殺しで終わればいいのだが……。

 まあ、クズだから同情はしなくて済むのがせめてもの救いか。


 酔っ払いを馬に乗せ、人目に付かないようにこそこそ移動しながら、そんなことを考えていた。


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