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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第六章
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第六十話 食料調達

 おや、このほんのりと酸っぱさを含んだ懐かしいにおいは……。

 そうだ。いつも学校に行く前に飲むのが日課だった、あれだ。


「コーヒーッ!!」


 久しぶりに嗅いだ匂いに、思わず俺は飛び起きた。

 同時に目に入ったのは見慣れない豊かな自然だった。

 ああ、そうだった。


「そういや、山にいるんだったな」

「おいおい、悪夢でも見たのか? まだレイナが寝てるんだから静かにしろよ」

「ああ、ごめん」


 カルスの言う通り、レイナだけがタオルにくるまって寝ていた。

 しかし辺りを見回してみてもクリスとアンドルの姿が見えない。

 周囲の偵察にでも行っているのだろうか。


「ほら、こんなのでよければ飲むか?」

「これは一体……」


 カルスから受け取ったコップの中には、謎の黄緑色の液体が入っていた。

 これは……人間が飲んでも大丈夫なやつなのだろうか。

 魔物のしぼり汁にしか見えないのだが。新手のいじめか?


「なあ、カルス。悪いことしたなら謝るよ」

「何言ってんだ。こいつは冒険者の間で流行ってる飲み物だよ」


 おいおい、いくら冒険者は裕福な職業ではないとはいえ、こんなものを好き好んで飲むやつがいるのかよ。

 いやしかし、匂いだけはコーヒーに似てるような……。

 ええい、こういうのは見かけで判断してはだめだ。


「わかった。飲んでみる」


 恐る恐るすすると、口いっぱいに広がったのは独特な臭みだった。

 しかし決して不快な臭みではない、クセになる臭みだ。

 わざわざ自分で淹れようとは思わないが、くれると言うのなら喜んで貰う。

 そんな感じだ。


「どうだ? うまいと思うか?」

「う~ん……。とりあえず、目は覚めた気がするよ」


 味に関してはあえて触れないことにしよう。

 そんなやり取りをしている間に、馬の手綱を引きながらクリスとアンドルが姿を現した。


「日の出が近い。そろそろ出発するぞ」

「だってさ。起きろよ、レイナ」


 まだ辺りは薄暗い。それに、眠気だってある。

 しかし予定通りに到着するにはやむを得ないか。




 ---------




 出発してからかなりの時間が経過した。

 ようやく日が昇り始め、辺りが明るくポカポカしてくる。

 気が付くと周囲に木々が見当たらなくなり、一面草むらへと変化していた。


「のどかな場所だな」


 木々もなければ魔物もいない。

 ただ青空が広がっているだけの高原を俺達は真っ直ぐ進む。


「そろそろ見えてくる頃だ」


 ゆるい坂を上がり終える時、クリスがそんなことを呟いた。

 何が見えてくるのか。

 そんなことを口に出そうとした矢先、目の前が一変した。


「……すげぇ」


 目の前に広がるのはシアン色に光り輝く美しい湖。

 そしてそれを取り囲む赤や黄、緑やピンクのカラフルな一面の花畑。

 青々とした葉が生い茂る大木たち。

 そしてアルプス山脈のような切り立った岩肌を持つ山々。

 まさに自然が作り出した芸術だった。


 そんな風景を前にして、俺の心には壮大な感動と同時に素っ気ない虚しさが湧いていた。


「綺麗だね」

「ああ。皆にも見せてあげたいくらいだ」


 そう、皆だ。

 その中には当然ルビアさんやリダも含まれるが、それだけじゃない。

 俺が本当に見せてあげたいのは、前世の皆だ。


 前世の家族や友達。

 その皆はこの風景を一生見ることができないだろう。

 この感動を味わうことは一生できないだろう。

 不慮の事故に巻き込まれていなかったら、俺でさえそうだった。

 俺は偶々だったんだ。

 地球に帰ったとしても、この感動を分かち合える人は誰一人いない。

 そう考えただけで、俺の心に言いようのない虚しさが湧いてくる。


「せめてカメラでもあればよかったんだけど」

「……かめら? なにそれ?」

「え? ああ、なんていうか……。

 こういう風景を記録としてそのまんま保存して置けるやつ……みたいな」


 あって当たり前だったカメラでも、こっちの世界のレイナにとっては未知の存在なんだった。

 こういう認識のずれが時々厄介に感じる。

 皆が知ってて当然だと思っていたものを、何も知らない人に一から説明するのって結構大変なんだよな。


「模写とは違うの?」

「ああ。模写なんかよりももっと鮮明で美しいんだ。

 きっとこの風景も肉眼ほどじゃないにしろ、綺麗に記録してくれるはずだ」

「ふーん。魔法はないくせに、そういうところだけは発展してるんだね」

「魔法が無いからこそ、じゃないか?」

「いいもん、別にカメラなんてものがなくたって。私にはこの頭があるんだからね」


 そう言ってレイナは自分の頭をトントンと叩く。

 もしかして、自分の脳みそに記録するって言ってるのか?

 それはただの記憶なんだが……。

 しかし、今この場で目の前の風景を記録できるとしたら、それは自分の頭しかないのは事実だ。


「じゃあ目に焼き付けておくよ。絶対に忘れないように」


 ……皆の分も。

 そうしたらきっと、話のネタにくらいはなるかもしれない。


「この辺は魔物の生息地だったはずだが……」

「あそこ! あそこに魔物がいます」


 首を振って周囲を確認するクリスの隣に並び、馬を止めアンドルが指差す。

 その方向に目をやると、湖で水を飲む魔物が確かに居た。

 馬と同じくらいの大きさで、角を持っているやつだ。

 ……なんかすごく鹿に似ているな。


「ありゃ、食用か?」

「はい、前に図鑑で見たことがあります。豊かな土地にしか存在しないと言われる魔物です」

「決まりだな。あいつを狩ろう」


 この世界では動物という概念がなく、ほとんど全て魔物に分類される。

 街中にいる犬とか今乗っている馬とかもそうだ。

 つまり魔物は魔物でも、その全てが敵というわけではなく、中には食用の魔物や友好的な魔物もいるってわけだ。


「どうやって狩る? このまま近づいて狩るか?」

「それは駄目です。あいつは耳が非常にいいから、きっと逃げられる」

「それならどうする?」

「二手に分かれて、一方は奥に回り込んでこちら側に追い込み、もう一方が岩陰に隠れて仕留めましょう」


 アンドルの考えた作戦を聞き、さっそく役割を分けた。


 追い込む係がアンドルとカルス。

 仕留める係が俺とレイナ、そしてクリスだ。


「うっし……。いっちょやりますか」


 追い込み係だというのに、やけにカルスはノリノリだった。

 てっきり俺が仕留めるって言いだすかと思ったのに。


「あそこの岩とか、どう?」

「確かに3人くらいなら隠れられそうだな」


 さて、アンドルとカルスが奥へと回り込んでいる間に決めておかなくちゃいけない役割がある。


「それで、誰が仕留める?」


 対象は1匹だけ。

 当然、実際に仕留める役割になるのは1人だけだ。

 残った2人は万が一失敗した時の為に後ろで待機することになる。

 保険があるとはいえ、かなりの責任が伴う役割を誰が引き受けるか……。


 ここは俺が行くか?

 昨日、心の中で食料調達に貢献するって決めたんだし。

 正直、ただの魔物なら一撃で殺せる自信はある。しかし、絶対とは言えない。

 それはレイナもクリスも同じだ。

 ただし、最も失敗する確率が低いのが誰かと問われると、やはりクリスだろう。

 ここは彼に任せるのが賢明だろうか。


「私がやりたい。新しい魔法を試すいい機会だし」


 責任とかいろいろ考えていた俺と違い、レイナからしたら魔法の実験程度のことらしい。

 そんな気楽な感じでいいのか? この機会を逃したら食料を確保できないかもしれないというのに。


「カルス達が配置に着いた」


 対象は未だに水を飲んでいる。

 計画に変更はない。そう全員が判断した瞬間、カルスが堂々と姿を現す。

 そして大きく息を吸い込み――――――――


「うおおおぁぁぁ!!! クソおやじがあぁぁぁ!!」


 ただ大きな声を出すだけでいいというのに、

 何を思ったか、カルスは自分のおやじへの怒りを叫びだした。

 ああ、だからあんなに気合入れてたのか……。


「来るぞ」


 クリスの言う通り、対象が声に驚きこちら側へ猛スピードで走って来る。

 かなりの速度だが、想定の範囲内だ。


「体を出すなよ。まだ悟られては駄目だ」


 対象はどんどんこちらへと向かって来る。

 きっとこのまま進めば俺達の隠れる岩のちょうど隣を通過するだろう。

 狙うタイミングはきっとそこだ。


 まだだ……もう少し。

 あと十数秒。

 10秒………………5秒…………3……2……1……


「今だ!!」

「『水の泡(アクアバブル)』!!」


 レイナが杖を構えたと同時に、先端から大きな泡が出現して対象を包み込む。

 一連の流れは音もなく、そしてスマートだった。

 泡に包まれた鹿は中でジタバタと暴れるが、その努力も虚しくやがて動かなくなった。


「……死んだのか?」

「この泡の中は水で満たされてるからね。食べるんだったら綺麗な方がいいでしょ?」


 それはそうなんだが……。

 せめて楽に殺してあげようとは考えなかったのだろうか。

 ていうか、試しって言ってたよな? もしかして、人に使う気なの?


「いつの間にそんな魔法を身に付けたんだ」

「エトが買ってきてくれた本に載ってた。

 中級魔法で扱いが難しかったんだけど、この杖のおかげで制御できたよ」


 閉じ込めた対象を無力化して仕留める魔法。

 すごく有用な魔法ではあるが、恐ろしくもあるな。


「おし、うまくいったみたいだな」


 奥から満足げな顔をするカルスと顔を引きつるアンドルが歩いてきた。


「アンドルのおかげだ。ありがとう」

「べ、別に特別なことをしたわけじゃないからな!」


 そう言って顔を逸らすアンドルだったが、口元が緩んでいるのを俺は見逃さなかった。




 ---------




 食料を無事に調達できた俺達は、次の休憩地点まで歩みを進める。


 休憩地点に到着したのは日が暮れた後だった。

 昨日より寒さはましだったが、やはり寒いものは寒い。

 今日もまた焚き火にお世話になるとしよう。


 ちなみに仕留めた鹿はアンドルが短刀で綺麗に捌いてくれた。

 経験はなかったそうだが、やり方は前に本で読んだことがあったらしい。

 よく読んだだけで実際に出来るよな。

 きっとアンドルの才能なんだろう。


 今日の見張りはレイナとカルスが務めることになった。

 カルスは2日連続だったが、体力には自信があるとか言って引き受けてくれた。


 今日はあんまり役に立てなかったな。

 あまり焦るのも違うが、明日こそは何か貢献したいと思う。


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