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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第五章
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第五十話 魔法の特訓

 昼飯を済ませ、少し休憩をはさんだ後。

 前半の剣術指南に続き、これから魔法の特訓が始まろうとしていた。

 参加者は俺とカルス、そしてレイナも含めた3人だ。

 ちなみにだが、特訓は今日で2回目である。

 1回目はレイナのヤツはいなかったんだが、どうやら今日は部屋から出てくる気になったらしい。


「正直な話、魔法つってもよ。レイナはまだしも、エトに関してはあんまり意味ねぇんじゃねえか? 特異属性魔法を使えない俺じゃあ教えようがない」

「それはまあ……」


 カルスの言っていることは、おそらく正しい。

 電撃魔法は俺オリジナルの魔法だ。多分、この世界で使える人間は後にも先にも俺だけだろう。

 俺だけの魔法だと言われれば聞こえはいい。けれど、今になってそれが仇になってしまっている。

 参考に出来る図鑑も、教えてくれる人間もいない。つまり、自分自身で試行錯誤しなくてはいけないのだ。


「事実、昨日も俺はたいして役には立てなかっただろ」


 カルスにそう言われ、俺は昨日の記憶を遡った。

 ……確かに、彼は離れた位置から俺を見守っていただけだったな。

 強いて言うなら途中何度か俺が質問をして、それに答えてくれたくらいか。

 正直な話、俺ひとりでも成り立つような内容だった。

 カルスもそれがわかっているから、今日になって言い出したのだろう。

 けれど、俺の中では彼の存在があるかないかだけで大きな違いだった。


 俺の中で彼の存在は自習時の先生のようなものだ。

 普段は各々に任せて、質問された時にだけ答えてくれるような存在。

 温かく見守ってくれる安心感の塊みたいなものだ。


「カルスは何て言うか……、居てくれるだけでありがたいんだ」

「……それなら別に構わねぇけどよ」


 カルスは満更でもない顔をしていたが、あえて指摘はしないでおこう。


「それにさ、もしかしたら基礎的なこととかで疑問ができるかもしれないし」

「こほん……。ま、何でも答えてやるよ!」


 そう言って、カルスは自信満々に胸を張ってみせた。

 自信があるのは結構なことだが、俺にわかるように伝えられるかどうかは別問題だ。

 事実、剣術指南はボロボロだったし。

 ……でも少し前、公都クルドレーでの魔力総量だとかの話は分かりやすかったんだよな……。

 多分、教える内容に得意不得意があるんだろうな。


「あ、簡単な質問だけにしてくれよな」


 カルスは思い出したように小声で付け足してきた。

 しかし、その点は心配する必要はないと思う。

 俺がそんな難しい質問をできるわけがないし。


「それにしても、お前参加するんだな」

「……え、だめ?」

「いや、そういう意味じゃないけどさ。少し意外だなって」

「新しい魔法を試したい。あとは……」


 レイナは言葉を続けるわけではなく、横目でカルスのことを見た。

 俺にはそれだけで何が言いたいのか伝わった。

 多分、俺と同じ理由なんだろう。


「まったく、揃いも揃って俺がいないと駄目なんてな」


 カルスは余程うれしかったのか、ガハハと大きな声で笑った。

 どうやら、レイナはそれが気に食わなかったらしい。


「じゃあ、1人でやろっかな」

「おいおいおい。嘘に決まってんだろ。悪かったって」


 うん。さすがレイナだ。




 ---------




 幸いなことに庭はかなりの大きさを誇っている。

 そのおかげで俺がある程度のスペースを取ったとしても、レイナは大して困ることはなかった。

 やはり広いは正義である。


「ハア……ハア……」


 30分程が経過しただろうか。

 そんな短時間で音をあげるなーとか言われちゃいそうだが、実際にやってみてほしい。

 これ結構、集中力をつかうのだ。


「いまいちうまくいかないな……」


 開始30分でもう行き止まりに来てしまった。

 剣術も魔法も駄目なんて、俺の長所は一体何なんだ。


「はっ!! いかんいかん。こういう時は助言を乞うのだ」


 そうと決まれば善は急げだ。

 早速カルスのところに聞きに行くとしよう。


「あの~、ちょっと行き詰ってしまって。何か助言とかないですかね?」

「ちょっと大雑把すぎないか? 詳しく何が知りたいのか教えてくれ」


 カルスに指摘されて、改めて悩みこむ。

 一体俺は何が駄目なんだろう。

 センスと言われればそれで終わりだが、もっとこう体勢とか力の入れ具合とか。

 俺にも出来るアドバイスがほしい。


「頭では何をしたいのか分かってるはずなんだけど、実際に試すとうまくいかないんだ」

「何事もそういうもんだろ。そんな簡単にできたら苦労なんてしない」


 カルスの言うことは、ごもっともだ。俺だって馬鹿じゃない。

 けれど、今は状況が状況なのだ。

 限られた時間の中で実力をつけなくちゃいけない今、やはり助言は欠かせない。


「しかしだ。お前の焦る気持ちもよくわかる。だから俺も何か助けにならねぇとな……」


 カルスは俺の気持ちを汲んでくれたようで、何かできないかと思案し始めた。

 腕を組んで空を見上げる彼を、俺はキラキラした目で待ち続けた。

 やがて答えがでたようだ。


「魔法を使う時に大事なのは想像力、そして何より集中力だ。

 自分の使う魔法をしっかりとイメージして、魔力を込める。まあ、後は忍耐力だな」

「魔法をイメージ……ね。ありがとう」


 時間が惜しいため、俺は感謝の一言を残してすぐに特訓に戻る。


「ふぅ……。イメージ、イメージ。そして集中」


 俺はひとまず深呼吸をする。そして、カルスの言葉を呪文のように繰り返した。

 そして右手を前へと向ける。


「『電撃』」


 その一言と共に、右手から眩い稲妻が放出される。ここまではいつも通り。

 問題はここからだ。


「曲がれぇ!!」


 俺は右手から放出される『電撃』に意識を全集中させる。

 もちろん具体的にどうすればいいのかはわからない。

 ただ言われた通りにイメージして、後は気合だ。


「うおぉぉ!!」


 いくら特異属性魔法だからと言っても、魔力を使うことに変わりはない。

 つまり俺の右手から放出されているこの稲妻も、姿を変えた魔力ってことだ。

 それなら感覚的には魔力を曲げるのと似てるはず。

 ――――――――自分で言ったけど、魔力を曲げるって何だよ。


「あっ!!」


 たった一瞬の出来事だったが、俺は見逃さなかったぞ!

 確かに今、稲妻が微かに右に曲がった!


「やった……」


 俺は一言だけポツリと呟き、大の字に倒れ込んだ。

 やっと結果が出てくれて全身の力が抜けたのだ。


「おやおや、何か新しい魔法でも習得したの?」


 天をぼーっと眺めていた俺の視界に突然レイナが現れた。

 どうやらこちらの状況を確認しに来たらしい。


「いや、そういうわけじゃない。『電撃』を少しだけ曲げることができただけだ」

「ふーん。それって、そんなに凄いこと?」

「案外難しいんだ。やってみれば分かるぞ」


 俺の最終目標はレイナの言っていた通り新しい魔法の開発、そして習得だ。

 しかし技量不足ゆえ、現時点ではまず不可能だろう。

 そこで俺はまず第一段階として『電撃』を自由自在にコントロールすることを目標とした。


 思い出すのは初めてクリスと会った時。

 その時は事情があったとはいえ戦闘になった。

 今でも思い出したくない苦い経験だ。


 敗北の原因は色々あっただろうが、一番ショックだったのは俺の電撃魔法が一切通用しなかったことだ。

 今まで魔物相手に有効だったために調子に乗っていたが、人間相手で通用しないようなら致命的である。


 ではなぜ電撃魔法が通用しなかったのか。

 もちろん相手の技量が高かったのもあるが、やっぱり俺の技術不足が原因だろう。

 どんなに速度が速かったとしても、真っ直ぐにしかいかない単純な攻撃では防がれたり躱されたりしてしまう。

 だからこそ『電撃』を自由にコントロールできるようにならなくてはいけないのだ。


「レイナの方こそ。何か進歩はあったのか?」

「私はボチボチ……かな。まだ練習は必要だけどね」

「そっか。そうとなれば俺も負けてられないな」


 俺は気合十分にバッと飛び起きた。


「よし! やるぞ!」


 俺は一度頭を切り替えるために頬を叩いた。

 そしてすぐさま練習に取り掛かる。


「ま、まだまだ時間はあるし。俺も付き合ってやるか」


 遠くでこちらを見つめているカルスが、そんなことを呟いたのが聞こえた。



 こうして今日という一日は無事に終わった。

 問題は明日。ディオンテさんの弟子との決闘だ。

 なるべく疲労を残さないように早く寝て、万全の状態で臨もう。


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