第四話 信じる
話をまとめよう。
まず、呪子と呼ばれる大事件を引き起こすような奴がいると。
それで、そいつらは全員共通して髪が黒色なんだと。
――――――――何それ!?
聞いてないぞ! それじゃあ俺も呪子だって疑われるじゃん!
「俺は呪子とか言う奴とは無関係ですよ!!」
俺は必死に訴える。
このままでは家を追い出されるかもしれない。それはまずい。
何とかカインさんに証明しなくては。
なんて考えていると――――――――
「大丈夫だよ。私たちは信じてるから」
カインさんは優しく微笑みながら答えた。
俺はうれしかった。それと同時に疑問も生まれた。
「……何で疑わないんですか? もしかしたら俺は呪子なのかもしれないのに」
「……なんでだろうね。正直、君が呪子なのかどうか私には分からない。けどね、あの日、君は確かに死にかけていた。それを前にして見捨てるなんてことは私には出来ないよ」
俺の心から何かがこみ上げてくる。
彼は、呪子なのかもしれない俺を見捨てることなく助けてくれた。
こんな俺のことを助けてくれた。彼には感謝してもしきれない。
「いつかは話そうと思っていたんだ。今になってしまってすまない」
「……いえ、こちらこそすみません」
「君が謝る必要はないよ」
そう言ってカインさんは言葉を続ける。
「私の父は……、テサーナ王国の前国王だったんだ」
「――――――――え!?」
初耳だぞ。
本当にカインさんの父が前国王なのだとしたら、何でこんな田舎に暮らしているのだろうか?
「このことは子供たちには言っていない」
「それは、一体どうしてですか?」
「子供達には自由に生きてほしいんだ。そんなものに縛られないでね」
何て立派な父親なんだろう。
まるで父親の鑑みたいだ。
「それなら何で俺にだけ話したんですか?」
「何でだろうな……」
そう言ってカインさんは深く考え込んでしまった。
もしかしたら、彼が俺を心の底から信頼してくれているから話してくれたのかもしれない。
「父は人一倍優しかった。どんな人に対しても」
彼はどこか遠くを見ながら言葉を発した。
俺も馬鹿じゃない。彼の言葉と今の状況から察するに、彼の父親は亡くなったのだろう。
何か複雑な事情があったに違いない。
俺なんかが首を突っ込んではいけないのだ。
「私はそんな父に憧れていた」
「……」
「父はいつも言っていたよ。アルムガルト家は優しさを大切にする一族だと」
「カインさんは、俺が今まで見てきた人の中で一番優しいですよ」
そういうと、彼は微笑みながら俺を見た。
「今まであってきた人を覚えているのかい?」
「……あ、いえ、たった今思い出しました!」
しまった! 気が抜けていた。
怪しまれるかな?
「それに、私は全然優しい人じゃないよ」
俺が焦っているのを察してくれたのか話題を変えてくれた。
「私はある人物を恨んでいるからね」
「ある人物?」
「ああ、私の父を……、アルムガルト家を陥れた男をね」
やっぱりそうだった。
アルムガルド家を陥れた人物か。
まあ大体予想がつくな。
「陥れた男というのは、現国王ですか?」
「そうだよ。ドルズ・ランベルクという男だ」
ドルズ・ランベルクか……。
お前の名前は忘れんぞ。いつか報いを受けさせてやる。
今の俺では無理だけど。
「カインさん」
「なんだい?」
「俺は、カインさんは世界一優しい人だと思っています。この気持ちは一生変わりません」
「――――――――そうか。ありがとう」
俺は彼の目から流れるものを見た。
すると、カインさんは立ち上がった。
「君に渡したいものがある」
そう言って家の中に入っていった。
渡したいものとは何だろうか……。
もしかしたら、剣とか持ってきて「国王の首をはねるぞ」とかいうのかもしれない。
――――――――そんなわけないか。
少ししたら、カインさんが何かを持って戻ってきた。
「これは?」
丸い容器だった。
「染魔薬だ。昔、レイナが使っていた奴だよ」
「どうやって使うんですか?」
「髪に塗るんだ。そしたら髪色が変わる」
「それってつまり……」
「ああ、これさえあれば街で騒がれることもないだろう」
俺は飛び上がって喜んだ。
やっと外出できるぞ!
「すまない、呪子について説明することをためらってしまったせいで、これを渡すのが遅れてしまった」
「謝らないでください。むしろ感謝したいくらいですよ」
俺は感謝することしかできないのが悔しかった。
彼にいつか恩返しをしてあげたい。
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明日、テサーナ王国の王都テリラスに向かうことになった。
もちろんレイナに秘密でね。
「楽しみだなぁ、初めての外出」
ワクワクしすぎて寝れないかもしれない。
早くレイナの驚く顔が見たいな。泣いて喜ぶかもしれない。
――――――――冗談はさておき、
「はぁ、どうしようかな」
カインさんは俺を信じてくれた。
俺もみんなを信じてもいいんじゃないだろうか。
ばれるよりも、自分から話したほうがいいに決まってる。
「よし、決めた」
レイナの誕生日に、俺は全てを打ち明けることにした。




