第四十六話 予想外の展開
次の日の朝。
俺は昨日と同じようにふかふかのベッドの上で目覚めた。
そして大きなあくびをして、ふと斜め後ろに顔を向けた。
「うわっ!!」
次の瞬間、気持ちのいい目覚めのはずが、地獄へと変わった。
その元凶は枕もとに力なく落ちていたのだ。
その正体は白い髪。
そう……白髪が落ちていたのだ。いつもの黒ではなく、白が。
一瞬、何か異変が起きたのかと思った。
未知の病か、はたまた毒なのか。それともストレスによる老化か。
原因がわからず、ただ心臓の鼓動が早まるだけだった。
しかし時間が経つにつれて脳みそが稼働し始め、原因が浮かんできた。
そうだよ、俺はララ様に白髪にしてもらったんだ。
けれど15年以上黒髪で生きてきたんだし、たった2日で慣れるわけない。
特に寝起きなんて普通に勘違いしてしまう。
はあ……、こんな状態があと1週間ぐらい続くのだろうか。
「……しばらくは枕もと見るのやめるか」
俺は溜息をひとつこぼし、のそのそとベッドから身を起こした。
今日やることは特に決まっていない。
強いて言えば今後の動きとかを話し合うくらいか。
「ま、今日こそはゆっくり休憩しよう」
そんな呑気なことを言っていると、突然部屋のドアがバンッと開かれた。
またレイナの仕業かと思ったが、どうやら様子が違った。
茶色の何かがものすごい速さで俺の元へと飛び込んで来たのだ。
慌てて受け止めたが、体中にかなりの衝撃が走った。
「誰かと思ったら、アリスか。一体どうしたんだよ?」
俺は抱き着いて離れようとしないアリスの頭をゆっくりと撫でた。
すると、アリスが小刻みに震えているのが手の平から伝わってきた。
「私、皆と一緒に行きたいよぉ……」
「とりあえず、落ち着いて。な? 何があったか教えてくれないか?」
俺の胸の中で咽び泣くアリスに、俺は優しく声をかけた。
しかし、アリスは一向に泣き止む気配がなかった。
「アリス、お願いだ。僕の言うことを聞いてくれ」
今度はアンドルが部屋に入場してきた。
おいおい、昨日に引き続きまたかよ。
まったく、俺の部屋は社交場じゃないってのに。
それにしても、さっきのアリスの言葉はどういう意味だろう。
皆と一緒に行きたいって言ってたよな?
それって、もしかして……。
「なあ、もしかしてアリスを置いて行こうとしてるのか?」
「……少なくとも、僕はそうしようと思っている。
これから先、今までよりももっと過酷な旅になるかもしれないんだ。
これ以上、僕のわがままに付き合わせるわけにはいかない」
どうやら、アンドルなりの優しさらしい。
正直、彼の言っていることには、俺も共感できるところもある。
カルス達とパーティーを組んでからいろんなことがあった。
強い魔物とも戦ったし、食料が底をつきかけたこともある。
今思えば、常に死と隣り合わせだったような気もする。
そんな状況に、まだ10歳の少女を巻き込むのは、俺も不本意なのだ。
「前に言っただろ? 僕の生家はこの国にあるんだ。だから、僕とアリスで一旦帰ろうと思う。
もしかしたら、母と喧嘩になるかもしれないけど、せめてアリスだけは……」
「だから! 私は自分の意思でお兄ちゃんに付いて行ったの!!
後悔もない! 死ぬのだって怖くない!!」
アリスは張り裂けんばかりの声で怒鳴った。
あまりの声の大きさに、アンドルは黙り込んでしまった。
「……だって……だって、お兄ちゃんが死んじゃうのが一番怖いんだもん……」
アリスの両目から零れ落ちた大粒の涙が、俺の服に滴り落ちる。
その間、部屋には彼女の咽び泣く声だけが響いていた。
こういう時、どんな言葉をかけてあげればいいんだろう。
話し合おう? それとも、理解してくれ?
……いや、どれも違う。
こういう時は落ち着かせるのが最優先だろ。
「……」
俺はアリスの震える体を両手で優しく抱きしめた。
今はそれが、どんな言葉よりも効果があると思ったから。
「……」
しばらくの間、アリスは俺の腕の中で泣き続けた。
随分と、長い時間。
やがて、震えが収まった。
「……ごめんなさい、我がまま言って。本当は足手纏いなのは分かってるの。けど、やっぱり寂しい」
アリスは震える声で本音を漏らした。
「こんなだから、私はまだまだ子供って言われるんだね」
アリスは両目に溜まる涙を袖でふき取り、微笑して見せた。
けれど、俺にはそれが上っ面だというのがわかった。
「俺も正直な話さ、アリスと離れ離れになるのは辛いし嫌だよ。
けど、それと同時にアンドルの言うことにも共感できるんだ。
もしかしたら、こんな矛盾を抱えてる俺の方が、アリスよりも子供なのかもしれないな」
俺も微笑しながら話した。
中途半端な、どちらかに寄ることもできない本音を。
「だから、カルスとレイナも含めて、パーティーメンバー全員で話し合おう。今後の動きとかも含めてさ」
俺の提案に、アリスは頷いて答えてくれた。
アンドルもそれに賛成のようだ。
「それで、肝心のカルス達は?」
「レイナは庭にいると思う。カルスさんは朝早くから出かけてて、まだ帰ってないんだ」
「カルスのやつ、今日もかよ」
レイナのやつも何をしているのか謎だが、庭にいるのならまあ良い。
問題はカルスの方だ。
昨日、王都ツアーが無事に終わり、屋敷に着くとカルスの姿はなかった。
留守番を頼んでいたのだが、アンドルにも行き先を言わずにふらっと消えてしまったらしい。
結局、帰ってきたのは夜遅くだった。理由を尋ねても有耶無耶な返答ばかり。
帰ってきたら、今日こそは問い詰めるか。
「とりあえず、俺はレイナのところに行ってくる」
俺はそう言ってアリスの頭を撫で、部屋を後にした。
---------
玄関の扉を開けて庭に出ると、そこにはレイナの姿があった。
どうやら体育座りで何かを見つめているようだ。
「おはよう、レイナ。何を見てるんだ?」
「花だよ」
俺の問いかけに、レイナは一言だけポツンと答えた。
何だか元気のない様子だった。
「この花はね、毎年この季節になると咲くの」
「意外だな、レイナって花に詳しかったっけ?」
「別に全然だよ。ただ、この花は家にも咲いてたから」
レイナは目を細めて、花を人差し指でつついた。
すると、花は今にも倒れてしまいそうなほど揺れた。
「懐かしいな。この花を見ていると、あの頃の記憶が蘇ってくるの」
花が揺れるのをやめると同時に、レイナは立ち上がった。
そして、お尻に付いた土汚れをパンパンと叩きはらい、俺の方に向き直った。
「さ、早く戻ろ。今後の計画を話し合うんでしょ?」
レイナはそう言い、屋敷の玄関に向かって歩き出した。
「俺もそうしようと思ってたんだけど、カルスのやつ、また出かけてるらしい」
「え? 今日もまた? はあ……まったく、あの男は」
「俺も、同じ気持ち」
俺とレイナはぶつぶつと小言を言いながら、2人で並んで戻った。
---------
日が暮れて、外は真っ暗になった。
未だにカルスのやつは帰ってこない。
こっちはもう準備万端だってのに、いつまで待たせるつもりなんだ。
「……ねえ、ほんとにあの男は何をしてるの?」
「僕らに秘密ってことは、きっと大事な用件なんだと思う」
「でもさ、私たちはパーティーメンバーだよね。メンバー同士、秘密ごとはどうなの?」
「まあまあ、帰ってきてから一緒に問い詰めればいいだろ? だから、今は抑えてくれ」
カルスがあまりにも遅いため、レイナが少し怒りだしている。
彼女を鎮める役割は当然俺に回って来るのだから、勘弁してほしい。
「……っ!!」
その時、玄関のドアが開く音が聞こえた。
そう、例の男が帰ってきたのだ。
真っ先に反応したのはレイナだった。
猫並みの反射神経をしているのではないかと疑ってしまうほどの速さだった。
遅れて俺とアンドル、そしてアリスが玄関へと向かう。
「カ~ル~ス……、今まで何処に行ってたのか、全部吐いてもらうよ」
「お、落ち着け、俺もそのつもりだからよ」
カルスは怒りで燃え上がるレイナの横を逃げるように通ってリビングへと向かった。
そして暖炉の目の前に設置されている、大きなソファにドンと腰を下ろした。
「ふう……、さすがに疲れたな。やっぱり、家は落ち着くもんだ」
「かっこつけてないでいいから、さっさと教えてよ」
ソファの上で足を組んで暖炉を見つめているカルスに、レイナは無情な一言を浴びせる。
「なあ、俺マジで疲れてんだよ。なんてったって、お前らの為にかなり無理をしてきたんだからよ。だから、もう少し俺をいたわってくれ」
「……内容次第」
「へいへい」
レイナは両腕を組み、じっとした目でカルスを見つめている。
そのせいか、カルスは非常に話しづらそうにしていた。
「……まず、昨日の話からだ」
レイナのことは諦めたらしく、カルスは溜息をひとつして足を組みなおした。
「昨日、俺は王都で奴隷組合についての情報収集をしてたんだ」
「それで、どうだったの!?」
カルスの言葉に、レイナの目がカッと見開かれた。
そして前のめりの体勢になり、カルスに詰め寄った。
「とりあえず、話を全部聞けって。まず第一、テサーナ王国から連れ去られたんだろ?
それなら、そこの近くの拠点にいる可能性が高い。転送屋を使うと足が付くから、移動は馬車だろうしな。俺が調べたのは、テサーナ王国の周辺にある奴隷組合の拠点の数と位置だ」
「……!!」
カルスが喋るたびに、心臓がドクンとなるのがわかる。
ついに、ルビアさん達に繋がる情報が手に入ったのだという希望が湧いてきた。
しかし、そんなものとは裏腹にカルスの言葉で現実へと引き戻されるのだった。
「結果から言うが、期待通りにはいかなかった」
その一言に、俺は落胆した。
やっと見えた光明の兆しは、すぐに隠れてしまったのだ。
いや、そもそも俺は期待しすぎていたのかもしれない。
物事はそんな都合よく進むわけがないのだ。
そんな中、俺よりも落胆した人間がいた。
「……」
レイナは激高も、取り乱しもしなかった。
ただ膝から崩れ落ち、絶望に支配されていた。
「おいおい、なんかこの世の終わりみたいな顔してるけどよ、話を最後まで聞けって言っただろ」
「まだ、続きがあるの?」
「そう言ってんじゃねえか」
その瞬間、レイナの目に少しだけ光が戻った気がした。
「確かに位置に関してはさっぱりだが、数についての情報はあった。
正直、信憑性は決して高くはないが、俺の考えでは当たってると思う」
「それで、どのくらいなの?」
「小さい拠点も含めると、5つくらいってところだ」
5つ。それが多いのか、それとも少ないのか。
小さい拠点がどれくらいの規模なのかはわからないが、俺としてはかなりの数に感じた。
まずは、拠点の位置の特定から始め、ルビアさん達がいるか内部の調査をして、そして奪還の計画練り。
どう考えても時間がかかりすぎる。
その間に、もっと遠くの拠点まで移動してしまう可能性すらあるんだ。
「やっぱり、簡単にはいかないな。せめて、もっと情報が手に入れば」
「最悪、片っ端から襲撃して見つけ出してやる」
安全に救助できるように考えている俺の隣で、レイナはどうも物騒なことを言っている。
「やめとけ、返り討ちにあうだけだ」
「それなら、私が囮になる」
「それも却下。俺は誰か一人に重荷を背負わせるつもりはない」
カルスはきっぱりと言い切った。
レイナも特に反論しようとはしなかった。
「それじゃあ、どうやってレイナ達の家族を助けるんですか?」
「それについてなんだが、正直な話、俺達だけじゃ厳しい。
そこでだ、今日俺は世界一の情報網を持つ人間に掛け合ってみた」
世界一の情報網を持つ人間……。
そんなの、たった一人しか浮かばない。
「まさか、ララ様に?」
「おうよ。それが一番効率的だし、助けられる可能性が一番高いからな」
カルスは至って真面目な顔をしている。
どうやら嘘ではなく、ガチらしい。
ララ様に頼るという策は、割と最初に俺も考えた。
けれど、どう考えても無理だから早々にバツにしたんだ。
いくらララ様が俺達に優しいからって、それは彼女の機嫌の上に乗っているからだ。
これ以上、我がままを言ったら、さすがのララ様もお怒りになるに違いない。
第一、クリスのやつが絶対に許すわけがない。
「そんなの、無理に決まってる」
「くっくっく……、それがいけたんだよな」
「は!? そんなわけ……」
「もちろん、ただではないけどな。まあ、お前らに何か影響することはない。
強いて言うなら、ララのやつとこれからも仲良くしてやってくれって感じだ」
「ええ……」
ちょっと待ってくれ、頭がこんがらがってしまう。
俺らに影響はない? と言うことは、カルスにはあるってことか?
それなら、一体どんな影響?
「ま、そんな感じで、ララのやつの助力を得られるってわけだ。これでだいぶ楽になる」
「具体的には、どんな助けを得られるの?」
「まあ、情報だ。ラー王国ほどの大国になれば、奴隷組合の拠点の位置もばっちりだからな。
オマケに、組織の内部情報を探るために工作員を紛れ込ませているらしいから、レイナ達の家族が何処にいるのかもわかるかもしれない」
「ほんとに!?」
カルスの言葉に、レイナは飛び上がって喜んだ。
さっきまでの絶望顔とは打って変わって、満面の笑みを浮かべている。
俺もそれに引っ張られるように、無意識のうちに頬がほころんだ。
「後者はあくまで可能性の話だがな」
「それでも十分だよ!! 本当に、ありがとう」
レイナは立ち上がり、カルスに深くお辞儀をした。
今までにないほど深く、そして美しく。
俺も負けじと、彼女に続いた。
「ただでさえ世話になってるってのに、本当にありがとう!!」
「おいおい、まだ早いだろ? 感謝の言葉は全部終わってから聞くぞ」
何だか頼れる兄貴分って感じだな。
改めて、カルスに会えてよかったと実感する。
「ねぇ、それなら、私も一緒にいていいよね……」
すると突然、アリスが俺の袖を鷲掴みにして、今にも消えそうな声で呟くように言った。
よく見ると、彼女の手は小刻みに震えていた。
そして、今にも泣きだしそうな顔をしている。
思えば、カルスが帰ってきてから、ずっとこんな様子だったな。
「なあ、カルス。ルビアさん達の位置を割り出すのって、まだ時間かかるよな?」
「まあ、そうだな。少なくとも数日……長くて数週間くらいだろうな」
「それまでの間、俺達はこの国で待機するのか?」
「そのつもりだ。そうした方が、準備もできるし、転送屋で拠点近くの町まですぐに行けるからな」
俺はカルスの考えを聞いて、安心した。
これなら食料にも、住処にも困らないで済むからってのもあるが、一番は違う。
「よかったな、アリス。これなら、もっと一緒に居られるぞ」
「……ほんとに?」
俺の言葉を聞いたアリスは、目から一粒の涙を流した。
そして、兄であるアンドルに向かって、恐る恐る振り返った。
「カルスさんがしばらくこの国にとどまるって言うのなら、仕方がないな」
涙を流すアリスに、アンドルは優しく微笑んだ。
そして、抱き着いてくる妹をしっかりと受け止めた。
「でも、奴隷組合の拠点の位置が割れたら、その時は留守番をしていてくれよ」
「えぇ……」
「大丈夫、レイナ達の家族を助けたら、すぐに帰って来るから」
「……約束だよ?」
「ああ、必ず守るから」
アンドルは優しく包み込むように、アリスの頭を撫でてあげた。
アリスも満更でもないようで、うっすらと笑顔を浮かべていた。
「……まあ、よかったな」
カルスは事情を察したらしく、ちょっと苦笑いをしていた。
ともあれ、想定とは違ったが、解決したってことでいいのだろうか。
「ねえ、カルス。ララ様とどんな取引をしたの?」
突然レイナの口から、和やかな雰囲気を切り裂く質問が飛び出た。
「そうだよ、俺達には影響ないって言い回し的に、カルス自身にはあるんだろ?」
レイナに続き、俺もカルスを問い詰める。
今ここで聞かなかったら、この先絶対答えてくれないだろうから。
「私たちに出来ることがあるなら、教えて。少しくらい、助けにはなると思うから」
「……その気持ちはうれしいが、ほんとに大丈夫だ」
「ならせめて、取引の内容だけでも教えて」
レイナの問い詰めに、カルスは観念したように溜息をついた。
そして腕を組みなおし、語り始めた。
「前に俺の親については話しただろ?」
「えっと、確かそれなりの権力を持ってる人間なんだよね?」
「あの時はそう言ったが、実のところ俺の親は国王なんだ」
「……え」
もちろん、驚いた。
けれど、なんだろうこの感じ。
もしかしたら、俺は薄々勘づいていたのかもしれない。
今思い返してみれば、引っ掛かることが多かった。
その中でも一番は、やっぱりララ様との件だろう。
普通に考えて、世界有数の大国のトップと知り合いなんておかしい。
それも、昔からのだ。
「つまり、俺はその国の次期国王候補の筆頭ってわけだ」
「想像できないな。カルスが玉座に座ってる姿なんて」
「安心しろ、俺もだ」
カルスはガハハと笑い飛ばしているが、これに関してはマジだ。
リーダーシップはあるだろうが、国を治められるかと聞かれるとノーだ。
「大事なのは、この肩書だ。腐っても次期国王候補なんだからな」
「まさか、密約を交わしたのか?」
「その通りさ。俺が国王になった時に、ララ達に利益が出るようなるようなやつをな。ま、俺は国王になる気はねぇから、実質タダってことだ」
なんて男だ。
いくら国王になる気がないといえ、国の命運を左右しかねない密約を勝手に交わすなんて、並の人間じゃできないだろう。
純粋な戦闘能力に加えて、この大胆さとメンタル。
やはり彼は、俺には決して真似できない境地にいる人間のようだ。
「てなわけで、今日の所は解散でいいか? ここ最近、忙しくて寝不足なんだよ」
カルスはそうとだけ言い残して、返事を待たずに部屋へと戻って行った。
アンドルは何か言いたげだったが、カルスのことを案じて黙っていることにしたらしい。
「あ、ララのやつが明日、話をしたいって言ってたぞ。多分、例の本の件だ」
ドアの奥から、それだけ聞こえてきた。
そして、それ以上音が聞こえることはなかった。
「……明日もか」
正直、ララ様と話すのは緊張するから疲れるんだよな。
まあ、俺達に協力してくれるみたいだし、黙って従おう。
「明日、レイナも来てくれないか?」
一応、一人は心細いので誘ってみた。
アンドルはララ様とは面識がないから、誘える人は必然的にレイナ一人に絞られる。
「わかった。一応、私からもお礼を言っておいた方がいいだろうしね」
予想外、まさかのオーケーだった。
よかった。これで、少しは安心だ。
「俺もそろそろ部屋に戻る」
「そう、それなら私も」
そう言って、俺とレイナはそれぞれの自室へと戻った。
ドアを開けてすぐに、俺はベッドへとダイブした。
「……もう少しだ。ルビアさん、リダ」
今日は予想外の展開だったが、おかげでもう少しの所まで来ている。
あと、もう一息だ。
そんなことを考えながら、目を閉じた。




