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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第五章
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第四十一話 ラー王国

 転送魔法陣に乗るのは、これが3回目だった。

 そのおかげか、とくに怖くはなかった。

 しかし光がおさまった後に映し出された景色に、俺は思わず息をのんだ。


「着いたぞ」


 たった一言。

 クリスはそれしか言ってくれなかった。

 しかし、俺にはたった一言で片づけられるようなものではなかった。


「ここが……、ラー王国か」


 現存する世界最古の国。

 噂には聞いていたが、想像以上だった。


 目の前いっぱいに広がるのは、貴族のものと思わしき豪勢な邸宅。

 華やかな服に身を包んだ住民たち。

 ずっと先まで続く上品な街道。

 洗練された水道橋と、そのすぐ下を流れるキラキラと輝く水。

 それら全てを包み込むようにそびえ立つ城壁。

 背後には思わず立ち尽くしてしまうほどの荘厳な王城。


 どこを切り取っても美しい。

 言うなれば、この都そのものが芸術なのだ。


 俺自身、この世界の町についてはそこまで詳しくはない。

 しかし、そんな俺でも何故か断言できてしまう。

 この町以上に美しい所はないだろうと。

 それほどまでに、この景色は俺の心を鷲掴みにしたのだ。


「おい、なに間抜けな顔してるんだ」


 クリスに言われて、やっと我に返った。

 ……間抜けなんて言わなくてもいいのにさ。


「俺はこれからどこに連れて行かれるんだ?」

「……お前に話す義理はない」


 相変わらずの対応だ。

 まあ殺さずにいてくれるだけで、俺にとっては万々歳か。


「ここからはカルス一人いれば十分だ。お前たちはここで待機していろ」


 クリスはレイナとアリス、そしてアンドルの順番に指を差した。

 最後のアンドルにはオマケと言わんばかりに、威圧するように睨みつけた。

 その鋭い視線に、アンドルは気圧されてしまった。


「ちえ~、面白くないな~」


 アリスはそんなものお構いなしと言わんばかりに、不貞腐れたような態度を取った。

 当然、そんな態度をクリスのやつが許すわけがない。

 もしかしたら「気が変わった」とか言って、すぐに俺のことを殺そうとしてくる可能性すらある。


「はは、すまないね。少しの辛抱だからさ、ここで待っていてくれ」


 驚くことにクリスはゆっくりと腰を屈めて、アリスと目線の高さを合わせたのだ。

 そして先程とは打って変わった、優しい声で言い聞かせたのだ。

 まるで小さい子の相手に慣れているかのような手際で。


 どうやら、さすがのクリスでも小さい子供にまできつく当たったりはしないみたいだ。

 彼なりの優しさなのだろうか。


「さあ、行くぞ。カルスにはその呪子について詳しく教えてもらいたいからな」

「詳しく知りたいってなら、俺よりも適任がいるぞ?」

「……誰のことだ?」

「私のことよ」


 レイナは胸を張って一歩前へと出た。

 力強く、そして堂々とした態度で。


「私はレイナ。エトとは家族だから、少なくともカルスよりは知ってるよ」

「……それならお前にも来てもらおう」


 こうして背後に堂々と佇む王城へと向かうメンバーは、俺とレイナ、そしてカルスの3人に決定した。

 願望を言えば、手厚い優遇をしてほしいけど、まあ無理だろうな。

 ただ、せいぜい人並の扱いだけはしてほしい。




 ---------




 ラー王国の王都、その名はサンダルト。

 そして俺達が今いるこの王城の名もまた、サンダルト城という。

 代々この王国を治めてきた王族の姓がそのまま付けられているらしい。


 それにしても、さすがは世界有数の大国だな。

 町だけでも十分だというのに、王城の中はさらに素晴らしい。

 少し前にテサーナ王国の王城にも行ったからか、余計にそう思えてしまう。

 なんと言うか、格が違うのだ。


 もちろん、テサーナ王国の王城もよかった。

 日本にあったら、間違いなく国を代表する観光名所になっていただろうと確信するくらいには。

 しかし、このサンダルト城が大きさと内外の質、そして存在感と言った全てを上回ってきたのだ。

 こんな王城は、多分この先一度も見れないんじゃないだろうか。


「こっちだ」


 そんな豪華な王城内を、なんと現地のガイド(無言)付きで歩いているのだ。

 両脇にはレイナとカルスという、とても心強い仲間もいる。

 さらには俺達を囲うようにラー王国の騎士が常に付いて来てくれている。

 まるでどっかの王様にでもなった気分だ。

 これで暗殺なんか怖くないぞ!

 ……なんてな。茶番はここまでにしよう。


 サンダルト城は前述したとおり、かなりの大きさを誇る。

 そう聞くと、前みたいに鬼ごっこになったとしても、楽に逃げられると思うかもしれない。

 けれど、今の俺にはその考えはない。

 いや、できないと言った方がいいか。


「……」


 無言で辺りを見回してみたらわかる。

 完全に包囲されているのだ。

 こんな状況で、もしもおかしな動きを見せようものなら、すぐにあの世に行くことになってしまうだろう。


「着いたぞ」


 サンダルト城をしばらく練り歩くこと数十分。

 一際大きい扉に突き当たった。

 どうやらこの先は、かなり特別な部屋みたいだ。

 もしかして謁見の間とかだろうか。


「少しここで待っていろ」


 そう一言だけ告げて、クリスは大きな扉をゆっくりと開けて中に入ってしまった。

 

 果たして、これから俺が会うのは誰なんだろう。

 王城の中にいて、尚且つクリスよりも目上の人なんて言ったら、俺が思いつくのなんて国王か騎士団の偉い人くらいだ。

 てっきり呪子に詳しい研究者とかだと思っていたんだけどな。


 それにしても、やっぱりこの感覚には慣れないな。

 今にも緊張と恐怖が体から溢れだしそうだ。


「入っていいぞ」


 ほんの数十秒したら、クリスが再び扉を開けて出てきた。

 なんだか先程よりも姿勢がピシッとしている気がする。

 もしかして、目上の人の前だからだろうか。


「ほら、さっさと動け」


 いきなり背後にいた騎士の男に小突かれた。

 ちょっと動くのが遅れただけだってのに、かなりせっかちだな。

 やっぱり目上の人の前だからだろうか。


「……懐かしいな」


 カルスがポツリとそんな事を呟いた気がした。




 ---------




 扉の先には、かなりの大きさを誇る部屋が広がっていた。


 部屋全体は白を基調としたデザインになっており、高貴で優雅な印象を受ける。

 側面の上部には装飾された大きな窓が構えられており、そこから差し込む光がより一層部屋の雰囲気を引き立てている。

 左右には立派な甲冑に身を包んだ騎士たちが部屋を囲うように配置されており、部屋に緊張感を加えている。


 そんな芸術みたいな部屋の中で、俺の目を釘付けにしたのは、正面に堂々と構えられた玉座とそれを我が物とする女だった。


「陛下、例の呪子を連れて参りました」


 クリスははっきりと言った。()()と。

 つまり俺達の目の前……、あの玉座に座る女こそがラー王国の国王であり、そして『光王』ということだ。


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