第三話 呪子
アルムガルト家に来てから2週間が経過した。
この期間、俺はただボーっとしていたわけではない。
ルビアさんに貸してもらった本で、この世界の歴史を勉強したのだ。
俺は日本にいたときから歴史が好きだった。
昔に存在した人たちがとった行動によって、今この瞬間があるのだと考えるだけで興奮する。
だから勉強はそんなに苦ではなかった。この世界の偉人達についても知ることができたしね。
本によると、この世界には王の称号を冠する者がいるらしい。
権力ではなく、力を持つ者として。
有名なのは『炎王』、『水王』、『風王』、『土王』、『光王』。
名前からして五大属性魔法を使うのだろう。
なんでも、約8000年前に起きた魔災害にて出現した神龍を、勇者と共闘して討伐した功績で授けられた称号らしい。
そのことから五雄王とも言われてる。
まあ、俺的には五雄王と共闘した勇者のほうが気になるんだけどね。
さらには、魔の大陸を支配する『魔王』もいるらしい。なんかゲームみたいだな。
あとは『冥王』、『呪王』、『獣王』、『剣王』、『龍王』なんかがいるとか。名前しか書いてなかったから詳しいことは分からないけど、関わらないようにしよう。
他にも、カインさん曰く、この世界には至る所に魔物がいるらしい。
俺が草原で出会ったカエルみたいな奴もそうに違いない。
まったく物騒な世界である。早く日本に帰りたい。
この2週間で剣術を覚えようともした。
だが、残念なことにアルムガルト家の方々は剣術に乏しいのだ。
カインさんが剣術の初級をかじった程度である。ひとまず、剣の握り方や振り方を教えてもらった。
俺の2週間の成果はこんなところだ。悪くはないと思う。
しかし、課題ももちろんある。
レイナだ。
彼女は俺のことを避けている。
他のみんなは、俺に親しく接してくれる。なぜ彼女から避けられているんだろうか?
俺は距離を縮めようと頑張っているんだけど……。
まあ、時間はたくさんあるから、焦る必要はない。
この家での生活も、だいぶ慣れた。
本を読んだり、剣を振ったり、飯を食ったり。
なんか、日本での生活よりも充実している気がする。
そんな俺なんだが、実はまだ外出したことがない。
いつも庭までだ。
カインさん曰く、アルムガルト家はテサーナ王国の領土内にあるミシバ村の外れに位置しているらしい。
俺はカインさんに、外出したいとお願いしたんだが、断られてしまった。
何でダメなんだろうか? 魔物がいるからか?
まあ、家に住まわせてもらっている立場だから大人しくしようと思う。
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さらに3週間が経過した。
いつものようにベッドから起きて、廊下でリダに抱き着かれるまでが日課だ。
彼は、存分に甘えられる存在ができて毎日幸せならしい。
可愛い奴だ。
レイナは相変わらずだ。少しは話してくれるようになったが……。
あと、最近になって知ったんだが、彼女は魔法の天才らしい。
14歳とは思えないほど魔力総量があり、同い年と比べると群を抜いているのだとか。
……羨ましい。俺とキャラが逆なんじゃないか?
俺はというと、剣術の基礎は身に付いた。ただそれだけ。
カインさんが教えられることはもうないらしい。
結界魔法を身に付けて、最強の防御力をもつ魔法使いになろうと思ったが、俺には理解できないほど難しかった。この世界にも使用者はあまりいないとか。
なので、今はルビアさんに初級回復魔法を教えてもらっている。
この3週間はこんなところだ。
結局、天使様は俺にどんな能力をくれたんだ?
本当は何もくれなかったのかもしれない。あの天使様のことだからあり得るな。
それはともかく、なんと1週間後はレイナの15歳の誕生日らしい。
俺はチャンスだと思った。彼女にプレゼントをあげれば、もしかしたら仲良くなれるかもしれない。
そうと決まればプレゼントを買いに街まで行かなければ!
――――――――そういえば、俺は外出を禁止されているのだった。
仕方がない、カインさんを説得しよう!
そして、俺は彼のところへ向かった。
カインさんは、庭にある椅子に一人で座っていた。
俺はそっと隣の椅子に腰を掛けた。
「カインさん、お願いがありまして……」
「何かな?」
「来週、レイナの誕生日があるじゃないですか。その時にプレゼントを渡してあげたくて」
「――――――そのために街に買いに行かせてほしいと?」
「……はい」
カインさんが真面目な顔になった。
「私がなぜ外出を禁止したか分かるかい?」
「お、俺を信用していないからですか?」
「いいや、違う。私は君を信頼しているし、家族のように思っている」
「では、なぜですか?」
「君にとってはちょっと不快な話かもしれないよ」
俺は一瞬戸惑ったが、この世界で生活する以上、知っておいたほうがいいだろう。
「教えてください。お願いします」
カインさんは、一瞬難しい顔を浮かべたが――――――――
「エトは呪子という言葉を知っているかい?」
「いいえ、初耳です」
「呪子というのは、この世に存在する呪われた者のことを指す。彼らは突如として現れ、歴史に残る大事件を引き起こすと言われている」
その呪子と俺にどんな関係があるっていうんだ?
「呪子には共通する特徴がある」
「……」
「呪子は共通して黒髪なんだ」
――――――――え?
思考が停止した。
そう、俺も黒髪だったから。