表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第四章
38/90

第三十六話 命を懸けた鬼ごっこ

 地獄の鬼ごっこが始まった。


 舞台は巨大な王城。

 鬼の数は何十人、もしくは何百人。

 追いかけられてるのは2人の男女。

 捕まれば、待っているのは死。

 まさにデスゲームだ。


「はぐれるなよ!!」

「わかってる!」


 謁見の間を飛び出だした俺達を、階段が出迎えた。

 ここは一度通ったところだ。

 長さはそれほどでもない。


 こけないように細心の注意を払いつつ、俺達は数段飛ばしで駆け下りた。

 すると、今度は十字路に辿り着いた。


「ここからどう行くの?」

「勘で行く!」


 来た道をそのまま戻れば、確実に外には出られるだろう。

 けれど、そのルートには大勢の騎士がいる。

 まず戦闘は避けられないだろう。


 勝機はあるのかと言われると、微妙だ。

 二対一なら勝てるかな、くらいだ。

 まあ、そんな都合よく一人ずつ来てくれるなんてことはないだろうから、戦闘するのはなしだ。


「右に曲がるぞ!!」


 とりあえず、勘で右に進むことにした。

 理由は簡単、敵が見えなかったからだ。

 もしかしたら、この先で10人くらいと出くわす可能性も無くはないけど、その辺はもう運任せだな。


「腕は……大丈夫なの?」

「使い物にはならないだろうけど、大丈夫だ」


 痛みはさほど無い。

 もしかして、慣れちゃったのだろうか。

 それとも、あまりの酷さに逆に痛くなくなったのか。

 真相は不明だ。


「とにかく!! 何が何でも死ぬなよ!!」

「了解!!」


 今のところは順調だ。

 後はこのまま王城を脱出して、カルスの所に逃げるだけで――――――――


「――――――――ッ!!」

「ん?」


 恐れていたことが起きた。

 角を曲がってきた騎士と、バッタリと出くわしてしまったのだ。

 しかし幸い、一人だけだった。


「な、お前たちは一体――――――――!?」


 すかさずレイナが『水流弾(ウォーターショット)』を放った。

 遭遇してから魔法を放つまでのタイムラグは、まさに一瞬だ。

 当然、騎士は反応することすら叶わずに吹き飛ばされた。


「ぐぅ……、侵入者だ!! ここに侵入者がいるぞ!!」


 吹き飛ばされた騎士は、直撃したのにも関わらず意識を保っていた。

 まあレイナの狙いは殺すことではなく、体勢を崩すことだったので当然か。

 俺達にとっては、その間に距離をとることが出来れば十分なのだ。

 あくまで、今は脱出優先なのだから。


「レイナ! 急ぐぞ!」


 倒れた騎士に目もくれず、俺達は全速力で直進した。


 まずは下に続く階段を見つけなくてはいけないんだけどな。

 果たしてこちら側にあるのだろうか。


「侵入者を発見!!」

「くそ、マジか」


 気が付くと、前方を塞ぐように、3人の騎士が立ちはだかっていた。

 まだあまり時間が経っていないというのに。


 くそ、誤算だったな。

 侵入者を確認してからの、この対応の早さ。

 俺はどうやら、テサーナ王国の騎士団を見縊っていたらしい。


 それにしても、あの反応。

 どうやらまだ俺達が国王を殺したことは広まっていないらしい。

 不幸中の幸いとでもいうべきか……。


「レイナこっちだ!」


 前方は完全に塞がれてしまった。

 さっきは不意打ちだったからよかったけど、流石に3人相手はきついな。

 仕方がない、別の道に行くしかない。


 左には何やら部屋があるが、逃げ込んでしまったら袋のネズミになってしまう。

 一方の右側は何もない。

 強いて言うなら、窓がある。

 ここから飛び降りたら、間違いなく死ぬだろう。

 つまり消去法で後方しかない。


「戻るぞレイナ!!」


 正直、一回通った道を戻るのは好ましくないな。

 けれど幸い、後方には追手がいないようだ。


「くそ、なんであんなに速いんだよ」


 驚くことに、騎士は甲冑を着ている筈なのに、俺達と同等の速度を保っている。

 それ故、なかなか距離が広がらない。

 まったく、一体どんなものを食えばあんなにイカれた体になるんだよ。


「ハア……ハア……」


 右に行ったり、左に行ったり。

 さっきから無我夢中で走り回っているが、なかなか階段が見つからない。

 思っていた以上に、この王城は広いみたいだ。

 もう自分がどこら辺にいるのかさえもわからなくなってきた。


 追手も当然のようについてくる。

 流石に息切れはしているみたいだが、まだまだ動けそうだ。

 撒くのは無理そうだな……。


「いたぞ!! 皆の者、心してかかれ!!」

「またか! レイナ、右に行くぞ!!」


 追手が5人、左側から追加された。

 これで合計8人。


「『光の鎖(ライトチェーン)』」


 後方から追ってくる騎士の一人がそう唱えると、俺とレイナの周囲に六角形状の小さな魔法陣が現れた。

 これは一度見たことがある。

 確か、人魔族の男が使っていた魔法だ。

 あの時と同じだとしたら、この魔法陣から出てくるのは――――――――


「くるぞ!!」


 やはり出てきたのは鎖だ。

 おそらく、これを使って俺達を拘束しようとしたのだろう。

 けれど、鎖が出てくるのさえわかっていれば避けるのは容易い。

 前に一回喰らったおかげだ。


「くそ! 避けられた!」


 後方から、そんな言葉が聞こえてきた。

 しかし、そんなものなど関係ない。

 今は追いつかれないようにするのが大事なのだ。


「エト! 前からも来た!」

「まずい……」


 前方から5人の騎士が向かって来る。

 それも、殺気をまき散らしながら。


 後方からも以前、8人の追手が迫っている。

 立派な甲冑を鳴らしながら。


 非常にまずいことになった。

 今ここは一本道。

 左右に逃げることは不可能。

 つまり、逃げ場がなくなったということだ。


「生け捕りは不要!! すぐに殺せ!!」


 すぐに殺せ。

 騎士のその言葉で、俺の心臓はドクンドクンと騒ぎ出した。

 もう少しで爆発してしまうのではないかと思うほどに。


 戦うしかない。

 生き残るためには、戦うしかない。


 前方からは5人の騎士。

 後方からは8人の騎士。


 勝てる可能性は限りなく低い。

 けれど、ここで諦める訳にはいかない。

 せめてレイナだけでも……。


「エト、こっち」


 レイナはそう言って、俺の袖を力強く引っ張った。

 まるで、私に任せてとでも言うように。


「レイナ何を……」


 俺が尋ねる間もなく、レイナは左側の窓を水魔法で割った。

 すると、外の凍えるような風が凄まじい勢いで中へと入ってきた。

 逃げるのに夢中で気が付かなかったが、外はどうやら嵐のようだ。

 横殴りの雨と分厚い雲によって、街を見渡すこともできない。


「おい、まさかレイナ……」


 レイナが考えていることが分かった。

 分かってしまった。


 彼女は飛び降りようとしているのだ。

 実際はどれ程なのかは分からないが、おそらく25メートル以上はあるだろう高さから。

 そんなところから落ちたら、高確率で死ぬだろう。良くても重症だ。


 しかし、彼女もそれは理解しているようだった。

 だと言うのに、何故この方法を選ぼうとしているのか。

 答えは単純、木を利用しようとしているのだ。

 王城の周囲に無数に生えている木を。


「やってみなくちゃ分からないよ」

「待てレイナ!!」


 俺の静止も虚しく、レイナは割れた窓から飛び降りてしまった。

 迷う素振りすら見せずに。

 いや、どちらかと言うと吹っ切れたような感じだった。


「殺せ!!」


 取り残された俺に向かって、怒りの表情を浮かべた騎士たちが迫ってきた。

 せめて一人でも殺してやる、って感じの目をして。


「あー! くそ! もうどうにでもなれ!!」


 俺はブレーキを掛けようとする足を、思いっきり叩いた。

 そして勢い任せに、窓から思いっきり飛び降りたのだった。




 ---------




 地面に着地するまでに、一体何秒くらい宙に浮いていたのだろう。

 とても長かったようで、短かった気がする。

 今もあの不思議な感覚が残っている。


 結論から言おう。

 俺は死なずに済んだ。

 木の枝に引っ掛かりながら落ちたために、衝撃が複数回にわたって軽減されたおかげで。

 まあ軽減されたと言っても、体中に痛みはあるけどな。


「ふぅ……、流石に死んだと思った……」

「でも死んでないでしょ。ほら、追手が来る前に早く行くよ」


 レイナは体中傷だらけだった。

 おそらく、木の枝にぶつかった時についたものだろう。

 回復魔法を使えばすぐに治すことはできるだろうが、彼女はしなかった。

 それをする時間も無駄だと言わんばかりに。


「……ああ、わかった」


 それなら、俺もこんなところで時間を費やす訳にはいかないな。


「で、ここはどの辺なんだ?」

「わからない。けど、多分私たちが入った方とは正反対だと思う」

「とりあえず、カルス達の所まで行こう」

「うん」


 俺達が目指す場所は、転送屋だ。

 そこに行き、ギボレー公国まで戻る。

 そうすれば、おそらく安全だろう。


「見張りがいるかもしれない。気をつけろよ」


 一応、注意だけはしておいたが、その意味はあまりなかった。

 俺達の予想外の行動と、この悪天候が重なったおかげか、見張りに見つからずに王城から離れることが出来たのだ。


 追手の姿も特に見えない。

 今のところは撒くことが出来た、ということでいいのだろうか。


 ていうか、さっきから街中がやけに騒がしい。

 まるでお祭りみたいだ。

 いや、もしかしたらそれ以上だ。

 これに乗じれば、うまく転送屋まで辿り着けるかもしれない。




 ---------




 それからしばらくの時間が経過した。


 謁見の間から今に至るまでずっと全速力で走っていたせいか、流石に限界が近づいてきた。

 足が言うことを聞かなくなってきている。

 心臓もオーバーヒートしてしまいそうだ。


 しかし幸いなことに、途中から覚えのある道に出てくることが出来た。

 ここまで来れば、転送屋までの道のりは簡単だ。


「ハア……ハア……、もう少しで……」


 一回の転送にかかるお金は、ひとり金貨10枚。

 つまり、俺とレイナで合計金貨20枚が必要になる訳だ。

 もしものことに備えて、俺は事前に金貨を25枚持ってきているので、十分足りる。


 けれど問題は騎士団がいるかどうかだ。

 仮にいるのならば、公都クルドレーに戻ることは不可能になってしまう。

 頼むから、いないでくれ。


 やっと転送屋が目前まで迫ってきた。

 今のところは騎士の姿は確認できない。


「ハア……ハア……」


 転送屋の中にも、騎士は一人もいなかった。

 いつも通りって感じの空気が流れているだけ。

 けれど、いつ騎士たちが来るかわからない。

 さっさと公都クルドレーまで転送してもらわなくちゃな。


「すみません。お金はあるので、今すぐ公都クルドレーまで送ってもらえませんか!?」


 俺は全身水浸しの体を動かして、職員に詰め寄った。

 すると驚くことに、職員は青ざめ、震え始めた。

 これは病気なんかじゃない、恐怖におびえている感じだ。


「い、命だけは、どうか!!」


 何故か命乞いまでしてきた。

 俺が一体何をしたって言うんだ?


「だ、誰か!! 騎士団を呼べぇ!!」


 この職員だけじゃない。

 転送屋にいる俺とレイナを除いた全ての人が恐怖で怯えていた。

 中にはその場にへたり込んでしまう人までいる。


「何でだよ……」


 まったく意味が分からない。

 まさか、俺達が国王を殺したことを知っているのか?

 でも、それにしては反応がおかしすぎる。


「……は、早く公都クルドレーまで送れ!!」


 周りの反応に、俺まで気味が悪くなってしまった。

 こんなとこ、早く立ち去りたい。

 若干乱暴な振る舞いになってしまうが、さっさと公都クルドレーまで行かなくては。


「ほらレイナ! 早く魔法陣の上に乗れ!!」

「ちょっと待ってエト!!」


 レイナは何かに気づいたのか、真っ青な顔をして叫んだ。

 まさかレイナまでおかしくなったのか?

 ――――――――いや、それはない。

 可能性としては、俺の身に何かおかしなことでも起きているのかもしれない。

 新手の魔法だったりの影響で。


 けれど、それを確認する前に光に包まれてしまった。

 転送が始まったのだ。


 お金は一応、職員の足元に投げておいた。

 持ってきた金貨25枚全て。

 時間がなかったので、致し方がない。


 やがて、光が弱まった。

 転送が完了したのだ。


「やっと着いた!!」


 この一度見た光景。

 間違いない、ここは公都クルドレーの転送屋だ。

 俺達は、何とかここまで戻ってくることに成功したのだ。


「……あれ?」


 しかし、俺は皆の視線が自分に向いているのに気が付いてしまった。

 この感じは、さっきと同じだ。


「に、逃げろ!! 呪子だ!!」


 そこで俺は、なぜ自分がこんなに恐怖されるのかが分かった。

 逃げるのに夢中で、全く気付いていなかった。


 考えてみればそうだ。

 染魔薬は雨に流されてしまう弱点がある。

 そして、テサーナ王国は嵐だった。


 つまり、俺は今黒髪になってしまっているのだ。


「し、しまった……」


 もはや場を収めることは不可能。

 きっとすぐに兵が俺を殺すためにやって来るだろう。

 言ってしまえば、もう俺はこの国にはいられないのだ。


「俺についてこい」


 しかし、一人だけ違った。

 その男は、恐れることなく俺の手を握ってきた。

 まるで、長年の友であるかのように。


 そう、その男はカルスだったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ