第二話 魔法
目が覚めた。
どうやら朝が来たらしい。
寝て起きたら日本に戻っているかもと思ったが、そんなことはなかった。
少しがっかりしたが問題ない。
「下に行くか」
ぽつりとつぶやいて部屋を出た。
すると、いきなり何かに抱き着かれた。
「おはよ!」
リダだった。
朝から元気だな。
「おはよう」
そう返して、一緒に一階へと向かった。
朝食はパンのようなものだった。
リダは夢中で食べていた。12歳らしいから、育ち盛りなんだろうか。
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朝食後、俺はカインさんと一緒に庭にいた。
この世界について知りたいことが山ほどあるからね。
「あの、カインさん、聞きたいことがあるんですけど」
「何かな?」
うーん。どう質問すればいいだろうか……。
いっそ、俺が転生者であることを明かしたほうがいいだろうか?
――――――――いや、言ったら怪しまれるかもしれない。
家を追い出されたら、たまったもんじゃない。
そうだ! 記憶がない設定はどうだろうか?
怪しまれるかな? いや、きっと大丈夫だろう。
「実は記憶が曖昧でして……。この世界について教えてくれませんか?」
「うーん。この世界についてか……」
やばい! 困惑し始めちゃった!
もっと考えて質問するべきだったかな……。
なんて考えていると――――――
「父さん。魔法の練習に付き合ってよ」
そう言ってレイナが庭に姿を現した。
――――――――ん!? 今、魔法と言った?
「魔法と言うのは何ですか!!」
俺は目を輝かせながらレイナを見つめた。
当の本人は、若干引いている。
「魔法も覚えていないのかい?」
隣にいたカインさんが、俺に聞いてきた。
「はい!! ぜひ教えてください!」
俺は輝く目をカインさんに向けた。
カインさんは、少し悩む素振りをした。しかし、すぐに口を開いた。
「レイナ、エトに魔法を見せてやってくれ」
「ええ!?」
「彼、記憶が曖昧らしくてね。魔法のことを忘れているんだ」
「はぁ、仕方がないなぁ」
そう言って、レイナが俺の前に立った。
待ってました!! と言わんばかりに、俺は熱い視線をレイナに向けた。
彼女は、少しやりにくそうにしていたが、すぐに真面目な顔になって、手を斜め上に向けた。
そして――――――――
「『水流弾』!!」
彼女の手の平に集まった水が、空に向かって勢いよく放たれた。
「す、すげぇ!!」
俺は目を見開いて、驚きの声を上げた。
それを聞いてレイナは少し照れている。
「俺もやってみます!!」
そう言って俺も手を斜め上に向けた。
きっと天使様のくれた能力は魔法に関係するものなんだろう。
ここで俺がすごい魔法を放って二人を驚かしてやる!
「『水流弾』!!」
その言葉と同時に、俺の手の平から空を覆いつくすほどの水が――――――――
出なかった。一ミリも。
「あれ!?」
おかしいぞ! 天使様がくれた能力は魔法関係じゃないのか!?
俺が、おどおどしていると――――――――
「すぐにできるわけないでしょ」
レイナが俺に鋭い言葉をかけてきた。
うう……、恥ずかしい……。
「これは基礎から教えなきゃダメかな」
「教えてください……!」
「いいかい? 魔法には種類がある」
「種類……」
「まず、五大属性魔法と言われる火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法があり、それに加えて無属性魔法と言われる回復魔法、結界魔法、封印魔法、召喚魔法、呪法などがあるんだ。」
「そんなにたくさんあるんですね」
「ああ。さらに魔法にも階級があってね。それぞれ初級、下級、中級、上級に分けられるんだ。さっきレイナが使ったのは下級水魔法だよ」
ふむ……、魔法と言うのは結構、複雑なんだな。
「つまり、俺は初級から学ばなくちゃいけないということですか?」
「その前に、属性調査をしないと」
「属性調査?」
「ああ。人は生まれつき使える属性魔法が決まっているからね、それを調べるんだ」
「なるほど」
転生者の俺はどうなんだろうか……。できれば、全属性を使うことができるとかだったら良いんだけど。
少しすると、レイナが何かの葉っぱを持ってきた。
全部で5枚だ。これを属性調査に使うのだろう。
「さあ、この葉っぱを一枚ずつ手に取って魔力を込めてごらん」
「どうやって込めるんですか?」
「力を込める感じだよ」
「……。分かりました」
そして、俺はカエンソウと呼ばれる葉っぱを一枚手に取り、思いっきり力を込めた。
――――――――しかし、何も変化はなかった。
「火属性に適正は無いみたいだね」
ま、まあそういうこともあるよね!
ポジティブに行こうじゃないか。
次にミズナソウを試してみた。
結果は、反応なし!
次はヒカリソウを試してみた。
反応なし!
ジメンソウを試す。
反応なし!
最後はフウマソウ。
反応なし!
――――――――ふざけんなよ!!
流石に全属性を使えるというのは欲張りすぎだとしても、全属性適正なしとか!!
「まあ……、そういうこともあるよ」
レイナにも同情される始末だ。自分が情けない……。
「カインさん、俺っておかしいですかね……?」
「い、いや、稀に全属性に適正が無い人も生まれるんだ。……多分」
なんか悲しくなってきちゃった。
俺は選ばれし者では無かったようだ。
「属性魔法が使えないとなると、無属性魔法を習得するか、剣士になるかのどちらかだね」
「無属性魔法は、よく分からないので剣士になることにします」
かっこいい魔法使いにでもなろうかと思ったんだが……。
こうなっては仕方がない。俺はかっこいい剣士になろう!
そう心に決めたのだった。