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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第三章
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第二十七話 暗闇の中で

 気が付くと、辺りは真っ暗闇だった。

 1メートル先すら見えない。

 こんな時に役立つ光球体も、落下するのと同時に失くしてしまった。


「いってえな……」


 どのくらいの高さを落ちたのだろうか。

 真上を見ても、黒一色なので確認のしようがない。

 ただ、この腰の痛みはあるけれど、死んでないってことは、そこまでの高さではないのか?


「――――――――って、何だこれ!!」


 立ち上がろうとした時、やっと気づいた。

 俺が落下したのは、何やら柔らかくて、ねちょねちょしたものの上だったのだ。

 おそらく、これが落下の衝撃を和らげてくれたのだろう。


 正体を確認したいが、なにせ暗闇の中だからな。

 確認のしようがない。


「はぁー、これからどうしよう」


 ひとまず、手に着いた粘液のようなものを拭った。

 そして、辺りを見回す。

 ……が、もちろん何も見えない。


 これって、もしかして……、()()ってやつ!?

()()()()だ~!」 なんて言ってくれる人もいない。

 独りぼっちだ。


 こういう時って、一体どうするのが正解なんだろう。


 自分たちで戻る道を探すべきなのか。

 はたまた、その場でずっと助けが来るのを待つべきなのか……。


 いや、ちょっと待てよ。

 俺以外にも、確かレイナとアンドルも巻き込まれてたよな。

 つまり、近くにいる可能性が高いのではないだろうか。


「おぉーい!! レイナァー!! アンドルゥー!!」


 俺の渾身の叫びが響く。

 これで聞こえないのならば、絶望的だ。


「よかった、生きてたんだね」

「うわ!!」


 いきなり、暗闇の向こうから声がした。

 それも、かなり近くで。

 顔は見えないが、声でレイナだと判断できた。


「マジで驚かせんな。寿命縮まるだろ」


 心臓が、今にも爆発しそうなほど騒いでいる。

 俺はホラー系は得意じゃないだからな。

 今回だって、レイナじゃなくて別の女だったとしたら、多分俺はショック死してたかもしれない。


 でもまあ、これで一先ず安心だ。

 ……所詮、遭難者が2人に増えただけだけど。

 それでも、独りよりは百万倍ましだろう。


「アンドルはどこ?」

「わかんない。でも、多分この辺にいると思う」


 レイナがいたんだ。

 アンドルも、きっといるはずだ。

 ……死体で、かもしれないけど。


「この気持ち悪い地面は何?」

「……わかんない」


 これに関しては、マジでわかんない。

 何かの液体なのか? それとも、もしかして生き物?

 せめて明かりさえあればわかるのにな。


「とりあえず、上に戻る方法を探そ」

「……え、ちょっと待て。本当に移動していいのか?」

「じゃあ、移動しないでここにずっと居る気?」


 レイナが、一体どんな顔をしているのかは見えない。

 けれど、声の感じからして、おそらく真面目な顔をしているんだろう。


「もしさ、助けが来なかったらどうするの?」

「……どうするって……」


 一体どっちに賭ければ正解なんだ?

 カルスを信じて、ここにずっと留まるのか。

 それとも、自分たちで上に戻る方法を見つけるか。


 本音は、前者を取りたい。

 カルスはああ見えて、情が厚い。

 きっと、俺達を見捨てたりしないと思うからだ。

 それに、魔物に遭遇する危険性もない。


 ……それでも、迷ってしまう。

 現に、カルスの気配は今もない。

 俺が先程叫んだ時も、返事はなかった。


 それにだ。

 俺達は今、食料を持っていない。

 カルスに持たせたのが、裏目に出たのだ。


 このままカルスが来なかったら。

 もしくは、助けに来るのが遅れたら。

 そうなれば、俺達は死ぬだろう。


「………………わかったよ」


 結局、俺は後者をとった。


 この判断が、どう転ぶのかはわからない。

 ただ、最終的に「ああすればよかった」なんて後悔は絶対にしたくない。

 だから、選んだからには全力でやる。


「……」


 その時、カルスのあの言葉が俺の脳裏をよぎった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ああ、この言葉には、こういった事態のことも含まれていたのだろうか。

 そうとなれば、尚更カルスを頼っている訳には行かないな。


「よし、行くぞー!! って言いたいところだけど、まずは明かりをどうにかしないとね」

「でも、こんな暗闇の中で、手のひらサイズの光球体を探すなんて無理だろ」

「……だよね。どうしようか」


 正直言って、この暗闇の中を明かりもなしに進むのは危険だ。

 魔物にでも襲われたら、対処のしようがないし、また落下する可能性だってある。

 やはり、明かりは必要だろう。


「とりあえず、今度は離れないように、手を繋ごう」

「わかった」


 許可が下りた。

 なので、レイナがいるであろう方向に、暗闇をかき分けるように両手を前に伸ばしながら進んだ。

 しかし、なかなか見つからない。


「レイナ! 声を出し続けてくれ!」

「あーーーーーー」

「ん? 何だこれ?」


 声のもとまで迫ったっていうのに、なにやら障害物が邪魔をしている。

 ……柔らかい手触りだ。

 それに、なんだか触っていると幸せな気持ちになる。


 ――――――――おっといけない。

 今はそんなことをしている暇はないんだった。


「レイナ! 少し下がっててくれ!」


 この障害物の正体を知りたかったが、仕方がない。

 とりあえず、俺の電撃魔法で取り除く!


「いくぞ!! 電……」

「おちつけ」


 殴られた。

 それも、レイナに。

 あれ? 障害物があるはずなのにどうやって?


「そんなに私の胸が好きなの?」

「………………胸?」


 え? もしかしてだけど……、障害物ってレイナの胸?

 あれ? もしかして俺、めちゃめちゃ犯罪行為してた?


「ご、ごめんなさい!!」


 暗闇の中で、俺は土下座をした。

 1秒もかからないほどのスピードで。

 土下座世界大会があったら、多分一位だっただろうな。


「いいけどさ、別に減るもんじゃないし」


 なんと、許してもらえた。

 ああ、彼女は天使だ。


 それにしても、胸か……。

 しかも、女子の。

 こんな経験は、赤ちゃん以来だ。

 あの感触を、俺は未来永劫忘れないだろう。


「あれ? まだ何かある」


 今度は足元に何かが転がっている。

 すぐにでも触って確認したいが、またさっきみたいになりそうで気が引けてしまう。

 ――――――――いや、なるわけないか。

 レイナの位置はわかってるんだし。


 だとしたら、一体なんだ?

 もしかして、アンドルだろうか。


 ……くそ、考えていても埒が明かない。

 ここは勇気を出して触ってみることにしよう。


「魔物かもしれないから、レイナは下がっててくれ」

「いや、魔物だったらすでに襲われてるでしょ」


 まあ、確かにそうだな。

 俺は何をビビってるんだ。


「………………これは、人か?」

「アンドルじゃない?」


 とりあえず、顔と思われる部分をピチピチと叩いた。

 すると、反応があった。


「い……たいな」


 この声、アンドルで間違いないな。


「……は! ここはどこだ!?」


 アンドルは目覚めると同時に、慌てだした。

 それを両手で制止する。


「落ち着け、アンドル」

「その声……、エトか!」

「私もいるよ」

「その声は、レイナ!」


 俺達の存在を認識したからか、アンドルは落ち着きを取り戻した。


「くそ、アリスはどうなったんだ……」

「アリスには、カルスがついてる。だから、大丈夫だ。

 それよりも、ここから出る方法を考えないと」


 アンドルは頭がいい。

 彼がいれば、何かいい案が浮かぶかもしれない。


「確かに、そうだな。とりあえず、周りの状況を確認しよう」


 おいおい、こんな真っ暗闇の中で、どうやって周りの状況を確認するってんだ。

 まさか、火魔法を使うつもりじゃないよな。


「………………え」

「何をそんなに驚いているんだ?」


 なんと、アンドルから光が発せられた。

 いや、違う。

 正確には、彼の持つ球体からだ。


「アンドル、お前……」

「なんでそんな、裏切られた! みたいな顔をしてるんだ?」


 俺とレイナはちゃんと失くしたってのに、アンドルはしっかりと持っていただと……?

 そんなんじゃ、さっきの一連のやり取りが茶番じゃないか。


「もしかして、失くしたのか」

「そうなんです……」


 だってしょうがないじゃん! いきなりで驚いたんだもん!

 まさか、あそこで地面が崩れるなんて思わないもん!

 とまあ、言い訳はたくさん浮かぶ。


「まあ、嬉しい誤算ってやつだよ。気にしないで」


 なんかレイナがフォローしてきた。

 でもさ、お前も失くしたんだからな。

 なに自分は関係ありませんみたいな顔してるんだよ。


「とりあえず、僕が先頭で行こう」


 こうして、俺達は明かりという強力な助っ人を手に入れた。


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