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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第三章
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第二十六話 古の洞窟

 古の洞窟。

 そこに一歩踏み入れただけで、明らかに異質だとわかった。

 薄暗く、凍えるような寒さ。

 洞窟内と外でこんなにも違うなんてな。


 鳥肌がこれでもかと逆立つ。

 今すぐに、ここから立ち去るよう無意識に体が警告しているのかもしれない。


「念のため言っておくが、火魔法は使うなよ」


 ああ、そのことに関しては、どっかの本に書いてあった気がする。

 密閉された空間で火を使うと、一酸化炭素中毒になるんだっけか。

 そんなので死ぬのは御免だな。


 この洞窟内で火魔法は使えない。

 つまり今回、アンドルは魔法を使えない。

 アリスも戦力にはならない。


 そうなると、この古の洞窟を俺とレイナ、そしてカルスだけで攻略しなくてはならないということだ。

 想像以上に難しくなりそうだな。

 なるべく戦闘を避けて、安全に行くことを心がけよう。




 ---------




 今回、この洞窟の全容が不明なため、準備を念入りにしておいた。

 といっても、ほとんどはカルスがやったのだが……。


 まず、食料。

 栄養満点……なのかはわからないが、それでも数日は持つ量だ。

 洞窟攻略において一番大事なものなので、カルスが持っている。


 次に、魔法具だ。

 今回使うのは、蜘蛛退治の際にも使用した、あの球体だ。

 光球体というらしい。

 洞窟攻略には必須品らしいので、とりあえず一人一個持つことにした。


 後は止血薬と大きめのタオルだ。

 このパーティーで回復魔法を使えるのはレイナとカルスとアリスの3人だけ。

 詳しく言うと、アリスは初級、レイナは下級、カルスは中級までだ。

 アンドル曰く、部位欠損までいかなければ、大抵の傷は中級で治せるらしい。


 ところが、洞窟攻略となると何が起こるかわからない。

 パーティーの誰かが怪我をしたときに、その場にこの3人がいない可能性もある。

 故に持っておいて損はないということだ。

 これも一人一個持っておく。


 ではタオルは一体何に使うのか。

 結論から言って、特に特定の用途がある訳ではない。

 ただ、何か使い道があるかもしれないので持っていくことにしたのだ。


 とまあ、準備不足で困ることはないという訳だ。


 唯一の懸念点は、洞窟攻略に掛かる日数だ。

 もしも、想像以上にこの洞窟がデカかったとしたら、おそらく食料が足りなくなるだろう。

 最悪、遭難することだってある。


 そうならないためにも、カルスが通った場所に等間隔で目印をつけるようにしている。


 本当だったらテープを巻くなりするのだろうけど、今回はそんなものはない。

 なので、カルスが土魔法で壁に小さな穴をあけることで目印とした。


 まあつまり、遭難の危険はないということだ。

 ……絶対とは言い切れないけど。




 ---------




 洞窟に入ってしばらくは一本道だった。

 ただ、所々で狭くなったり広くなったりと形は一定ではなかった。

 それでも、着々と最奥部に向かうことが出来た。


 ところが、30分ほど経ったあたりから通路が広くなり、やがて開けた空間が見えた。


「魔物だ」


 カルスの一言で、俺達は瞬時に臨戦態勢をとった。

 そして、注意深く前方を確認する。


「……3匹か。俺が正面をやる。レイナは右、エトは左だ」

「わかった」

「了解」


 俺とレイナはカルスの両隣に移動した。

 そして、いつでも魔法を放てるように構えた。


「――――――――今だ!」


 カルスの合図と同時に、俺は『電撃』を放った。

 不意打ちの一撃だったため、当然避ける暇などない。


 俺の手から放たれた眩い閃光は、容赦なく魔物の命を絶った。

 他の2匹も同様に、一撃でお陀仏となった。


「すごい!! さすがだね!」


 背後で、アリスが一人喜んでいた。

 しかし、アンドルに静かにするように促され、口をへの字にしていた。


「……なんか、蜘蛛に似てるな」


 今倒した3匹は、どれも足は4本だった。

 それでも、目が複数あるため蜘蛛に見えなくもない。

 ああ、トラウマが蘇る……。


 でもまあ、大して強い魔物ではなかったな。

 まだ洞窟に入ってすぐだからかもしれないけど。

 このままテンポよく進んでいけたらいいんだが……。


「……ん? なんだ?」


 気のせいだろうか。

 今、右の壁から何か音がしたような……。


「エト!!」

「――――――――ッ!!」


 紙一重だった。

 一瞬でも前のめりになるのが遅れていたら、俺の頭と体は2つに別れていただろう。

 しかし、この体勢では次の攻撃には対応できそうにない。

 

 万事休すかと思われたが、すかさずレイナが水魔法を放ってくれた。

 おかげで、何とか俺は体勢を立て直し、逃げ出すことが出来た。


 壁の中に隠れていたものの正体……。

 それは、二足歩行の魔物だった。


 両腕は立派な鎌になっており、口からはジュルジュルとよだれがあふれ出ている。

 まるで人型のカマキリみたいな感じだ。

 ホラー映画にでも出てきそうなほど気持ち悪い。


 けど、考えてみろ。相手は1匹だけだ。

 こっちは5人もいる。

 まあ、戦闘できるのは3人だけだが……。

 それでも、十分だろう。


 ――――――――なんて思ってたら、他にも仲間らしきやつ等が、壁から続々と出てきた。

 そして、最終的に5匹になった。

 うう、蜘蛛じゃなくても吐き気がしてくるな。


「ありがとう、レイナ。マジ助かった」

「首がくっついてるようで良かった」


 それにしても、マジでビビったな。

 最初の3匹を倒したせいで、完全に油断してた。

 もしかしたら、それがこいつ等の狙いだったのか?

 それとも、たまたまだったのか……。


「こんな魔物、今まで見たことがないぞ」


 物知りアンドルでさえも知らない魔物か。

 なかなか手強そうだな。


「とりあえず、アンドルとアリスは下がっててくれ」


 未知の敵相手に、アリスは当然として、魔法の使えないアンドルを戦わせるわけにはいかない。

 なので2人には後ろで大人しくしててもらおうと思っていたのだが……。


「カルスさん、僕も戦います」


 こんなことを言い出した。


 一体何を考えているんだろうか、アンドルは。

 さっきのカルスの話を何も聞いてなかったのか?


「待ってろ、今つくる」


 今度はカルスまで、おかしなことを言い出した。

 まさか、古の洞窟に入った者はみんなおかしくなってしまうのだろうか。


 しかし、俺はすぐにカルスの言葉の意味を理解した。


「土魔法って、そんなことも出来んのかよ」


 なんと、カルスは器用に土の剣を作り出したのだ。

 かかった時間は、ものの数秒だった。


「エト、お前にもやるよ」


 そう言って、カルスは俺にもお手製の剣を作ってくれた。


「あ、ありがとう」


 受け取ったはいいんだが、残念なことに俺は剣の腕に自信がない。

 こんな2つの鎌を使う魔物相手に、対応できるか不安だ。


「私とカルスが援護するから、エトとアンドルは前をお願いね」


 おいおい、レイナは俺が剣術出来ないの知ってるだろ。

 でも、もう剣を受け取っちゃったからな。

 ええい、こうなったらやけくそだ。


「うおおおおお!!」


 俺は目の前の一体に向かって一心不乱に斬りかかった。

 しかし、その一撃は右の鎌で簡単に受け止められてしまった。

 この魔物……、想像以上の膂力だ。

 こうなったら、至近距離から電撃魔法を浴びせてやる。


 そう考えた時には、すでに左の鎌が袈裟懸けに斬りつけようと動き出していた。


「――――――――あっぶね……!」


 またも紙一重だった。

 全身の力を抜くように、体を屈みこませたおかげで斬りつけられずに済んだのだ。


「エト! 跳べ!」


 その言葉が聞こえた瞬間、俺は屈んだ状態から跳んだ。

 出来るだけ足を高く上げるのを意識して。


「はあぁぁ!!」


 雄叫びを上げ、アンドルが身を低く保ちながら剣を振るった。

 同時に、か細い足が宙を舞った。


「グギュイィィ!!」


 足を失った魔物は、凄まじい悲鳴を上げた。

 しかし、そんなものお構いなしに、俺は両手で剣を握り、振りかぶった。

 そして、着地すると同時に魔物の頭を真っ二つに斬り裂いた。


 頭を失ったら、さすがに魔物といえども生きられるはずがない。

 これで1匹撃破だ。


「まだだ、来る!!」


 一息つく暇もなく、残りのやつ等が一斉に襲い掛かってくる。

 けれど、テラーモンキーみたいに協力しているようには見えない。

 チームワークという考えがないのだろうか。

 仲間がやられても、特に怒っているわけでもないし。

 ただ、そのおかげで、一旦下がる余裕があった。


「『水斬撃』!」


 俺とアンドルが下がったのを確認した後、レイナが水魔法を放った。

 ――――――――が、両の鎌で防がれてしまった。


「足だ! 足を狙うんだ!!」

「『水斬撃』!!」


 アンドルの言葉を受け、レイナはすかさず水魔法を放った。

 今度はやや下に向けて。


「グギィィィ!!」


 先程は防がれたが、今度は綺麗に切断して見せた。

 やはり、アンドルの言う通り、足が弱点らしいな。


「『土の槍(アーススピア)』」


 カルスの言葉と共に、地面から槍のようなものが伸びて、魔物たちの足を貫いた。


 体を支えるための足を失い、魔物たちは為す術なく地面に落ちた。

 頑張って体を起こそうとしているが、持ち前の鎌が邪魔をして起こせない。

 これは誰がどう見てもチャンスだ。


「今だ! やれ!」


 俺とアンドルは迷わず突っ込んだ。

 両手に、しっかりと剣を握りしめて。


「おらぁ!!」


 手始めに、一番手前で這いつくばっているヤツの首を目掛けて、力いっぱい斬りつけた。

 途端に、血しぶきが上がる。

 同時に、断末魔も。


 そんなものは気にも留めず、返す刀でもう一匹の首も斬り裂いた。

 こちらも、綺麗に首を真っ二つだ。


 正直、自分でもびっくりしている。

 映画に出てきた剣士の真似をしただけだが、想像以上にうまくいってしまった。

 くそ、これを前の世界でやっていたら、間違いなくモテただろうに。

 まあ、前の世界には魔物なんていないから意味ないんだけどね。


 それにしても、この剣……。

 土魔法でポンと作ったとは思えないほどの切れ味だ。

 間違いなく、前に持っていた剣よりもいい。

 これを俺の愛刀にしようかな。


 ――――――――おっと、いかんいかん。

 ちょっとうまくいったからって、調子に乗ってはいけないな。

 まだ戦闘は終わってないんだ。

 集中しなくては。


 なんて思った時には、残りの魔物もアンドルとレイナが、あっさりと倒してしまっていた。


「ふー、久しぶりに剣を使ったよ」


 アンドルは膝に手をあてて、疲れ顔をしていた。

 比べて俺はまだまだ余裕だ。

 まあ、俺は昔っから体力はあったからな。

 学校の長距離走でもトップを争うレベルだったし。


 ただ、それだとしてもアンドルの体力は人並以下ではないだろうか。

 剣士は体力がないとやっていけないと思うんだが……。


「なんで剣、使ったんだ?」


 そう聞くと、アンドルは少しムスッとした。

 もしかして聞かない方がよかったかな。


「たまには使わないと、鈍っちゃうだろ。でもまあ、確かに僕には剣術の才能はないけどさ」


 怒ったかと思ったら、今度は落ち込み始めたぞ。

 なんか、ものすごく申し訳ないな。

 すまない、アンドル。


「それにしても、気持ち悪い魔物だったな」


 改めて自分の倒した魔物を見ると、今にも吐きそうになってくる。

 こんなのを見た後だったら、本物のカマキリが可愛く見えるだろうな。


「気持ち悪いけど、倒せない敵ではなかったね」


 そう言ったのはレイナだった。

 彼女はしゃがみ込んで、先程自分で倒したヤツをツンツンと突ついている。

 美味しそうだとでも思っているのだろうか。


「こいつ等はまだ序の口だ。この先はもっと危険な奴らがいる」


 序の口か……。

 でもまあ、強いかと言われたら微妙だったな。

 確かに斬撃だけでなく、魔法さえも防ぐ鎌は驚異的だった。

 けれど、知能は高くなかったし、弱点もしっかりとあった。


「アリス、絶対にカルスさんから離れるんじゃないぞ」

「も~! お兄ちゃんしつこい!」


 またも心配性なアンドルが、アリスにあれこれ言っている。

 

 まさに兄と妹ってかんじだ。

 なんだか羨ましい。

 俺も前の世界で、兄とこんな関係になりたかったな。


「さっさと進むぞ」


 カルスが急かしてきた。

 せっかく、微笑ましいやり取りを見てたのに……。

 この男は絶対、一人っ子だな。




 ---------




 カルスを先頭に、俺達は古の洞窟のさらに奥へと進む。

 進めば進むほど、辺りは暗くなり、寒くなる。

 ただ、あれから魔物には一切あっていない。

 不吉な予兆かな?


「なあ、あとどれくらい進めば、アスクレピスが見つかるんだ?」


 そろそろ腹も減ってきたし、休憩したい。

 このままじゃ、疲労のせいで戦闘どころではなくなってしまう。


「カルス、そろそろ休憩を――――――――」


 その時だった。


「うお!!」

「わ!」

「な!」


 足元に違和感を感じた瞬間、地面が崩れた。

 何かに掴まろうと手を伸ばしたが、間に合わなかった。


「お前ら!!」


 最後にカルスの叫ぶ声が聞こえた。

 ただ、それだけ。


 俺とレイナ、そしてアンドルは、深い闇の中へと落ちていった。


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