第一話 アルムガルト家
目が覚めると、知らない部屋のベッドの上にいた。
何でこんなところにいるんだっけ?
確か俺は、天使様と話し終わった後、草原を歩いていたんだ。
誰かしらに会えると思っていたけど、会えなくて、変なカエルみたいな化け物に追い回されて、命からがら逃げた。
それから……、あれ? それからどうしたんだっけ?
ベッドの上で必死に思い出していると、コンコンとドアをたたく音がした。
「入りますよ」
そう言って、一人の男が部屋に入ってきた。
茶色の髪の毛に、青い瞳。どこか優しい印象を受ける人だ。
「体調はどうかな?」
俺のことを心配してくれてるらしい。悪い人ではないのだろうか?
「大丈夫です。ただ、お腹が減っていまして……」
「それなら、用意するように頼んでくるよ」
食事まで用意してくれるらしい。
もしかして、本物の天使様なんじゃないか?
「あ、あの……。俺はどうしてここに?」
「家に帰っている途中で、君が倒れているのを発見したんだよ」
気絶してたのか。道理で記憶がないわけだ。
つまり、この人は倒れている俺を助けてくれたわけだ。
早速死にかけたらしい。本当に俺は、この世界で数年間も生きていけるのか?
「助けてくれてありがとうございます」
「例には及ばないよ。助けるのは当然のことだからね」
なにこの人……。マジで本物の天使様なんじゃないか?
「私の名前はカイン・アルムガルトだ。君の名前は何かな?」
名前か……。本名を名乗ってもいいが、どうやらこの世界では西洋風の名前が一般的なのかもしれない。
うーん。何がいいかな。
名字と名前から一文字ずつもらってエトというのはどうだろうか?
わるくないな。よし、それでいこう。
「エトといいます」
「エト君か。いい名前じゃないか。それで、姓はなんというのかな?」
げ!! それも考えなきゃいけないのか。
でも、勝手に姓を名乗っていいのだろうか……。
俺が思案していると――――――
「無いのかい?」
うーん。無いと言ったほうがいいかな。
「すみません……。無いんです」
「そうか……」
そう言って、考え込んでしまった。
やっぱり姓が無いのはダメだったかもしれない。
「よし!! 今日から君はアルムガルトを名乗りなさい」
「え!?」
こうして、こちらの世界での俺の名前はエト・アルムガルトとなった。
つまり、俺はこの人の家族になったのか?
こんな俺が、やさしさの塊みたいなこの人と家族になっていいのか?
なんて考えていると、ドアに隠れている二人の存在に気が付いた。
「あの人達は……」
「ああ。紹介しよう」
そう言ってカインさんが、ドアに隠れている二人に対して、こちらに来いとジェスチャーをした。
一人が、待ってましたと言わんばかりに俺の前にやってきた。
「初めまして!! リダ・アルムガルトといいます!」
銀髪の可愛らしい男の子だった。この子とは仲良くなれそうだ。
遅れてもう一人がドアの影から出てきた。
「は、初めまして……。レイナ・アルムガルトです」
これまた銀髪の可愛い女の子だった。俺と歳が近そうだ。
すごく怯えている。当然か。
いきなり、知らない人が家にやってきたんだもの。
「エトです。できれば仲良くしてくれるとありがたいです」
そう言ってお互いの自己紹介が終わった。
カインさんは、「ご飯ができたら呼びに来る」 と言って部屋から出て行った。
子供たちも続いて出て行った。
俺はベッドに横になって考えた。
このまま、この家で数年間過ごせばいいんじゃないか?
少なくとも、草原を歩き回るよりは百倍ましだ。変な化け物もいないし。
ただ、天使様が与えてくれた能力っていうのが気になるが……。
数十分後にカインさんが俺を呼びに来てくれた。
部屋を出て一階のリビングに向かった。
食卓にはスープや煮物などが置かれていた。
見た目はおいしそうだ。
なんて考えていると――――――
「初めまして。私はルビア・アルムガルトです」
銀色の長髪を肩にかけた、美しい女性が話しかけてきた。
あまりの美しさに見とれちゃいそうだ。
落ち着け! まずは自己紹介だ!
「初めまして! エトと言います」
「元気そうで良かった。これからよろしくね」
「はい!!」
何て美しいんだ……。なんて考えていると、後ろからカインさんの無言の圧を感じた。
ルビアさんは、カインさんの妻だろうからね。
大丈夫。手を出す気はないから。
ていうか、そんな勇気が俺にあるわけないだろ。
遅れてレイナとリダがやってきて席に座った。
続いてカインさんとルビアさんも席に座る。
俺も、空いている席に座り、食事が始まった。
正直、俺はここに居ていいのかという疑問が頭をよぎる。
もしも、俺が犯罪者だったりしたら、大変なことになるのに。
俺が犯罪者じゃないという確証があるのだろうか。
ただ、少なくとも俺は、この人たちを裏切ることはない。
恩を仇で返すような真似はしない。
食後、俺はまたベッドの上にいた。
ルビアさんの作る食事はうまかった。
こちらの世界の料理は、俺には合わないかもしれない思っていたが、そんなことはなかった。
これなら、約束の時までの数年間は食事に困ることは無さそうだ。
しかし、今考えてみると、なぜ俺はこちらの世界の人と普通に会話ができるのだろうか。
これも転生ミスの影響なのだろうか。
まあ、考えてもキリがないな。
数年しか居ないとしても、こちらの世界について知っておいたほうがいいかもしれない。
明日にでもカインさんに教えてもらうとするか。
こうして1日が終わった。