第十四話 剣術と不安
特に問題もなく数日が経過した。
ロドルフの協力もあり、この数日でだいぶ稼ぐことが出来た。
思ったよりも使える奴だったのだ。
「裏切るつもりなんだろ?」って問いただしてみたりもしたんだが、「兄貴は将来、大物になりそうなんで裏切るわけにはいかないですよ」なんて返された。
誰がお前の兄貴だよ。
でも、実際言われると案外気持ちいいものなんだよな。
レイナにもビビりまくってるし、裏切る勇気もないだろうしな。
なんて言うか、牙を抜かれた虎みたいに大人しくなっちゃったし。
あと最近知ったんだが、この町はテサーナ王国の西端に位置するオメドと言うらしい。
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今日、俺は朝早くから酒場に向かった。
ロドルフに用があったからね。
「今日は何用で?」
ロドルフは俺を見るなり姿勢を正した。
その顔は若干こわばっている。
「まあ色々とね。それより、毎日助かってるよ」
「いえいえ、当然のことです!」
ほんと最初の威勢は何処に行ったのか……。
まあ実際、助かっているのは本当なんだけどね。
ロドルフのパーティーは本人含め5人だ。
彼がリーダーらしいので、実質パーティー自体が俺の言いなりのようなもの。
そこで、彼らのパーティーが稼いだお金を分けてもらい、俺らは別で依頼を受ける。
結果、数日間でたっぷりお金を稼げたのだ。
「今日はちょっと聞きたいことがあるんだ」
「……こんな自分にですか?」
ロドルフは怪訝な顔をする。
「俺もこの先、魔法だけじゃ勝てないことも出てくるかもしれないからさ。
俺に剣術を教えてくれないか?」
「……自分が?」
「ああ、中級剣術をマスターしてるんだろ?」
俺がそう言うとロドルフは目を逸らして言った。
「実は、自分中級じゃないです……」
俺は一瞬思考が停止した。
けど、すぐに理解した。
「つまり、嘘をついていたと……?」
「ま、まあそうです」
殺意が沸いた。
今度こそは体を消し飛ばしてみせようか。
「で、でも下級くらいの実力はあります!」
「……くらい?」
「自分は初級の認可しかもらっていませんので」
ロドルフ曰く、剣士は己の師匠から認可をもらって初めてその階級を名乗ることが出来るのだとか。
ロドルフは初級の認可をもらった後に師匠と別れたため、初級剣士のままなのだそうだ。
「ははーん。つまりは、初級ですらないけど滅茶苦茶強いっていう剣士もいるってことか」
「師匠がいない剣士であれば可能性はあります」
ついでに、剣術の流派についても教えてもらった。
この世界には5つの流派が存在しているらしい。
一つは真剣流。
最も習得が簡単な流派で、大半の剣士がこれなんだそう。
どちらかと言うと攻撃に重点を置いていて、どんな場面でも対応できるのが強みらしい。
ちなみに当代の『剣王』もこの流派なのだとか。
一つは甲剣流。
この流派は守りに重点を置いており、相手を倒すっていうよりは時間を稼ぐことに適しているのだそう。
この流派を極めた者を倒すには、多大な時間と労力を使うらしい。
我慢強い人が向いているみたいだから俺には合わないな。
一つは双剣流。
この流派は二刀流が基本なんだそう。
片方の剣で防御を崩し、もう一方の剣で致命傷を与えるらしい。
手先が器用な人じゃないと、まともに戦闘もできなそうだ。
一つは龍剣流。
体を極限まで使って戦う流派なんだそう。
スピードと体力が求められるため、かなり人を選ぶらしい。
ちなみに、ロドルフを含む獣人族の剣士の多くがこの流派らしい。
一つは無剣流。
初代剣王が生みだした流派で、『一閃』と呼ばれる奥義を用いて、初撃で相手を殺すことに重点を置いているらしい。
つまり居合だ。
俺の中二病がうずくね。
是非習得したかったのだけど、5つの流派の中で最も習得が難しいせいか、すでに継承者がいないのだそう。
初代剣王と言えば、7000年ほど前に存在した、人族の英雄の一人だ。
アルムガルト家でこの人物についての本を読んだことがある。
なんでも、世界最強の剣士と言われ、生涯無敗を誇ったのだとか。
ともあれ、いかに実力が下級剣士並みでも、初級の称号しか持っていないロドルフに剣術を教えてもらうのはなんか嫌だな。
「……ロドルフ」
「は、はい」
「さっきの話、やっぱりなしで」
「……了解です!」
コイツ、なんで若干喜んでるんだよ。
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その日の夜。
依頼を終えた俺は、いつものように宿の部屋にいた。
あと何日この生活を続ければいいんだろうか。
テサーナ国王は驚くほど沈黙を貫いている。
一体何が狙いなんだろうか……。
「エト、今いい?」
突然、扉の向こうからレイナの声がした。
俺、何かやらかしたっけ。
「大丈夫だけど……」
俺の返答を聞くと、レイナはゆっくりと扉を開けて入ってきた。
見慣れた寝間着を着て。
「明日の事なんだけどさ」
そう言って、ベッドに座る俺の前に立つ。
「お金も十分に稼いだし、明日この町を出発しない?」
「……明日?」
確かにお金も十分に稼いだ。
そろそろ町を出発してもいい頃だ。
それでも、俺の中にはモヤモヤするものがあった。
「……そっか、わかった」
レイナは、そんな俺の様子に気づいたらしく――――――――
「なにか不安でもあるの?」
ベッドに腰を下ろし、俺に聞いてきた。
「ちょっとね」
レイナに相談をするのはこれが初めてじゃない。
彼女は俺の話をいつも聞いてくれる。
なんて言うか、彼女には安心感がある。
自然と相談したくなるのだ。
「家族の事?」
「それもあるけど、別の事」
「じゃあ、なに?」
「何て言うか……。事がうまく運びすぎてる気がするんだ」
「と、言うと?」
「俺たちはこの町に一週間ほど滞在してるのに、未だに国王からの刺客が来ない。
俺たちの居場所が把握されてないならそれでいいんだけど。
都合が良すぎる気がするんだ。
アルムガルト家を襲った時だって、いくらカインさんが注意を引いていたとしても、家の裏口に騎士が一人もいないなんておかしくないか?
まるで、裏から逃げてくださいと言ってるようなもんだよ」
俺がそう言うと、レイナは顎に手をあてて考え込んだ。
そして、口を開いた。
「確かに、私もおかしいとは思う。
けど、そうするメリットが果たして国王にあるのかな」
言われてみればそうだ。
アルムガルト家の血を引くレイナを殺したいのだったら、わざと逃げさせる必要もない。
「それだったら、何が狙いなんだ?」
俺はしばらく考えてみたが、答えは出てこなかった。
レイナも同じらしい。
「とりあえず、この国から離れた方がいいことに変わりはないから。
明日この町を出て、もっと西に行こう」
「……わかった」
レイナは少し微笑むと、ベッドから立ち上がり部屋を後にした。
相手の策略が不明なのは気がかりだが、いつまでもこの町にいるわけにもいかない。
何としてでも出し抜いてみせる。
そしてカインさん達を助け出す。
そのためには、もっと俺がちゃんとしないと。
レイナにばっか頼らずに。
とりあえず今日はもう寝よう。
明日は早いだろうしな。
そして俺はベッドに潜るのだった。




