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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第二章
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第十話 辿り着いた町

 一体俺たちはどのくらいの距離を移動したのだろうか。

 時間で言うと数日だったかもしれない。

 それでも俺にとっては果てしなく長く感じた。


 代わり映えのない景色。

 常に付きまとう食料問題。

 このままここで死んでしまうのではないかという不安。

 そんな重圧に耐える毎日。


 それも今日で終わりだ。


 俺たちはついに町に辿り着いた。

 ここなら住と食には困らないはずだ。


 ここで装備を整えて、さらに遠くに逃げる。

 そうしよう。


 町には木造の似たような建物がたくさん立ち並んでいた。

 特にこれと言って目立つものもない。

 ただ人はそれなりにいるようで、活気はあった。


 そんな町中を、俺たちは馬を引きながら歩いていた。

 もちろん髪に染魔薬を塗っているから呪子だと疑われることはない。


「まずは今日泊まれる宿を探すか」

「それは賛成だけど、お金あるの?」

「カインさんから、いくらかお金をもらってる」

「……どのくらい?」

「銀貨3枚」

「それって足りる?」

「……わからない」


 一気に不安になった。

 そのことを考えていなかった。

 いや、考えたくなかった。

 せっかくここまで来たのに、結局お金が足りないとなったら俺は折れるだろう。


「と、とりあえず探そ!」


 話はそれからにしよう。

 ネガティブに考えるから人間ダメになってしまうのだ。

 何事もポジティブが一番に決まってる。

 そう自分に言い聞かせた。




 ---------




 それから、しばらく町をまわった。


 この町には人族が多くいた。

 その内の大半が鎧を着ていたり、剣を携えていたり、杖を持っていたりなどしていた。

 戦闘狂が集まる町なんだろうか……。

 ちょっと怖い。


 それと目的の宿なんだが……、あっさりと見つかった。

 それもたくさん。

 なぜこんなに多いんだろうか。


 とりあえず俺たちは、見つけた宿の中で一番安いところに泊まることにした。

 一番安いと言っても、一泊銀貨1枚である。

 3日は住に困らないが、他のものが何も買えなくなってしまう。

 まあ、簡潔に言おう。

 金が足りないのだ。


 もちろん2部屋借りる金銭的余裕はないので、俺とレイナは同室になる。

 俺は別にいいんだが、レイナはどう思っているのだろうか。

 もしも「同室とか絶対に無理!!」とか言われたらショックで寝込んじゃうかもしれない。


「ねえレイナ……、同じ部屋で大丈夫?」

「お金ないし、しょうがないでしょ」


 つまりお金があれば別々がいいと……。

 まあ当然か。


 俺達の借りた部屋は古くて、所々に蜘蛛の巣が張っており、どこか懐かしい匂いがした。

 まあ一番安いんだから、こんなもんだろう。


 ただ一つ、俺の想像していなかった事態が起きた。

 ベッドが一個しか無かったのだ。


 正直少しうれしかった。

 だって考えてみてほしい、俺は女子と同じベッドで寝たことなんてない。

 これはチャンスだ。

 少なくとも、俺はそう受け取った。


 レイナは露骨に嫌そうな顔をしていた。

 ちょっとショックだった。


「ともかく、これからのことを考えよ」


 そう言って俺はベッドに腰を落とした。

 彼女もいつにも増して真面目な表情を顔に浮かべていた。

 これからする話は俺たちの今後を左右する重要なことだからな。


「私はこの町でお金を稼ぐべきだと思う。

 ていうか、それ以外ないでしょ」

「うん。まったくの同意見です」


 この町で金を稼ぐ。

 それしか俺たちに残されている道はない。

 それはわかっているんだが……。


「お金……。どうやって稼ぐんだ?」


 俺はこの世界の知識があまりない。

 歴史とかならある程度知っているつもりだ。

 けれどお金の稼ぎ方なんて本に載っていなかった。

 いや、もちろん働けばいいっていうのはわかってる。

 でも、どんな仕事があるかも知らないし。


「……冒険者にでもなる?」


 ……冒険者。

 魔物とかを倒したり、ダンジョンとを攻略したりする仕事か。

 まあ一番わかりやすい仕事ではあるな。

 命の危険があるけど……。


「他の候補はない?」

「ない。私には思いつかない。

 それともエトには商人の才能があるの?」

「……ないです」

「でしょ、それなら決まりだね」


 くそ……、もっと商売のことを勉強しとけばよかった。


「でも何処で依頼を受けるんだ?」

「さっき街をまわってるときに冒険者ギルドがあった」


 ……冒険者ギルド。

 まあ、どんなところかは大体想像できるな。


「それなら明日にでも行ってみるか」

「そうしましょ」


 そう言って彼女はベッドに潜った。


「今日はもう疲れたから寝る」


 ああ、もうそんな時間か。

 それにしても、ベッドで寝るのなんて久しぶりだな。

 しかも女の子と一緒に。

 これが本当の幸せなんじゃないだろうか。


「俺も寝る」


 そして俺もベッドに潜ったのだった。




 ---------




 うーん。なんだか寒いな……。

 ここはミシバ村とは気候が違うのかな。

 あれ? なんかベッドがやけに硬いな。

 まあ、安い宿だし仕方がないか。

 ……ん? でも昨日はこんなに硬くなかったような。


 まさかとは思うが……。


 俺は恐る恐る目を開けた。

 そこには茶色いものがあった。

 埃を少しかぶっているけど、木目を見ることはできる。

 ……うん。床だ。


 俺は無言で立ち上がり、ベッドでスヤスヤと寝ているレイナから毛布をはがしたのだった。


「うわ! 寒! なにすんの!」

「こっちのセリフだわ!!

 どんな寝方したら人のこと蹴り落とせんだよ!」

「寝相が悪いのは昔からだから仕方ないでしょ!」

「うっせ! おかげさんで最悪な目覚めだったよ!」


 そんな言い合いから一日が始まった。

 はぁ……、こんなんじゃ先が思いやられる。

 人間というのは目覚めが一番大事と言っても過言ではないのに。


「わかった。じゃあ、今日は私がエトの分まで働くよ」

「……え!?」


 おいおい、それは一番心配な奴じゃん!


「その間、寝てていいよ」

「……いや、それはちょっと」

「遠慮はしないで」

「いやいや、めちゃめちゃするわ!」


 まったく、何を言い出すかと思えば……。

 恐ろしい女だ。


「それじゃあ冒険者ギルドに行こ」

「……ああ」


 なんか今日めんどくさいことになりそうだな……。

 俺は心の中でそう思ったのだった。




 ---------




 冒険者ギルド。

 それは宿からほんの数百メートル離れた所にあった。


 見た目は古臭い木造の建物だった。

 他よりも少しでかいくらいの。


「さ、早く入ろ」

「ちょ、ちょっとまだ心の準備が……」


 俺たちは入り口の前にいた。

 かれこれ、5分くらい。


「建物に入るのにどんな準備がいるのよ」


 彼女はそう言って、無情にも俺を無理やり引っ張る。

 冷酷だ。

 鬼だ。


「わ、わかったから放せって!」


 俺がそう言うと、彼女は手を放してくれた。

 あー、怖かった。

 レイナを怒らすのはやめておこう。


 それにしても、冒険者ギルド……。

 果たしてどんな奴がいるだろうか。

 やっぱりムキムキの男かな。

 いや、もしかしたらモブみたいな奴ばっかりかもしれない。

 はたまた、超絶美人な人ばっかりかも……。


 そんな期待だったり、不安だったりを胸に、俺は冒険者ギルドの中へと踏み込んだ。


 ……結論から言おう。

 俺の予想は外れた。


 冒険者ギルドの中にいたのは、イケメンでも美女でもなかった。

 まあ、ちゃんと探せば一人や二人は見つかるかもしれないが。

 とにかく、中に入って一番最初に目に入ったのは、性格がひねくれてそうな男の顔だった。

 まるでいじめっ子のような顔だ。

 それもたくさん。

 ああ、終わった。


「何してんの、早く!」


 レイナはいつの間にか受付にいた。

 振り返って俺を見ている。

 さっさとしろと目で訴えてきている。


「い、今行くとこ!」


 落ち着け!

 受付まではほんの数メートルだ。

 目を瞑って行けば怖くない。

 何も心配することは無い! 大丈夫だ!

 ――――――――いや、ここは堂々としないと舐められるかもしれない。

 こういう時は最初が重要なのだ。

 よし! 勇気を出せ!

 周りの奴は人形だ!

 リ〇ちゃんだ!


 俺は自分に言い聞かせ、足を進めた。

 出来る限り周りを意識しないようにしていたが、男たちの視線を浴びているのが感覚でわかった。

 目をつけられてないといいけど……。


 なんて考えていると、あっという間にレイナの所にまで来ていた。

 ハァ、なんかすごい緊張したな。


「そちらの方もパーティーメンバーですか?」


 受付の人が俺に聞いてきた。

 ……受付の人まで男か。

 場を和ませてくれる美人さんはいないのかね。


「まあ、そうです」

「他にはいらっしゃいませんか?」

「はい」


 2人パーティーってありなのかな。

 俺の知ってる冒険者パーティーって言ったら4人か5人なのが普通だからな。


「2名のみとなりますと、受けられる依頼が星2のものまでとなりますがよろしいでしょうか?」

「……星?」


 結局、受付の人が一から教えてくれた。

 依頼は基本的に2種類ある。

 個人からの依頼か、国からの依頼かの違いだ。


 そして、星というのは依頼の危険度を表しているのだそうだ。


 星1は、魔草や魔石などの回収等といった命の危険のない、1人でも出来る依頼だ。


 星2は、危険度の比較的低い魔物の退治といった2人以上から受けられる依頼だ。


 星3と星4は、危険度の比較的高い魔物の退治といった3人以上から受けられる依頼だ。


 星5は、竜などの凶暴な魔物の討伐といった依頼だ。

 当然、危険度が滅茶苦茶高いため5人以上のパーティーしか受けられない。

 まあ、俺がそんな依頼を受けるわけがないが。


 結局、俺たちは星2の依頼を受けた。

 依頼内容は、現地に行ってから直接依頼主が説明してくれるらしい。


 初めての依頼……。

 正直、俺は複雑な気持ちだった。

 不安6割、期待4割といったところか。


 ともあれ、お金を稼がなくちゃいけない今、失敗は許されない。

 気を引き締めていこう。


 そう心に決めながら、俺たちは冒険者ギルドを後にしたのだった。


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