第百話 四本腕
ニーナの身に起きた出来事を一通り把握し終え、早速行動に移すことにした俺達。
時間を浪費すればするほど、ニンバスの改革は進む。
それに、ニーナの母親の安否も気になるし。
「まずは情報収集だよね。近くを通る旅人を捕まえて聞いてみる?」
「いや、それじゃ確実性がない。俺がアエルに戻って、虱潰しに聞いてみるよ。あそこには酒場があった気がするから」
「情報集めは酒場で……か。カルスに似てきたね。
まあ、合理的ではあるけど――――――――ゲホッ!」
「ちょ、大丈夫か!?」
突然、レイナが咳き込み、膝をつく。
右手で口を覆うが、指の間から真っ赤な血が飛び出してくる。
「ちょっと、はしゃぎ過ぎたかも」
「お前、ひょっとして無理してるんじゃないか?」
「大丈夫だって。私が言ってるんだから、大丈夫なの」
誰がどう見ても、痩せ我慢だ。
グラフォードの一撃が想像以上に重く、足を引っ張っているに違いない。
自分から即行動と言った手前、今更引けない状態なのだろう。
「……俺がひとりでアエルに戻るから、レイナはここでニーナの護衛を頼む」
「私の話……聞いてなかったの?」
「そもそもの話、敵の目的であるニーナをわざわざ連れて行く必要はないだろ」
「じゃあ、どうして私が護衛? やっぱり、気を遣ってるよね」
「ああ、心配だからな。ま、仮に元気だったとしても、護衛はお前に任せるけどな。理由はお前も分かってるだろ」
この世界における要人の護衛には、剣士よりも魔法使いが就くことが多い。
理由としては、剣士が一対一を想定しているのに対し、魔法使いは対多数を想定しているからだ。
それに、魔法は何かと便利で融通が利くので、何が起こるか分からない現場では重宝される。
まあ、今回はそれに加えて、レイナの方が強いからってのもある。
「う~ん、分かってるんだけど、なんか言いくるめられてる気がしてならない」
レイナは口をとんがらせながら、地面に生えた草を引っ張り抜いている。
彼女の八つ当たりで散る雑草たちに、涙を禁じ得ない。
「あの……もし差し支えなければ、わたしが回復薬を生成しましょうか?」
場の空気を読んで話に入ってきたのは、渦中の人物、ニーナだった。
彼女は薬屋の娘で、幼いながらも魔法薬の知識は一級品。
さらには、口内で様々な液体を生成することも可能だ。
彼女が生み出した回復薬ならば、内臓にダメージを負ったレイナを治すことが出来るだろう。
しかし、俺達は知ってしまっている。
その液体の源は、彼女の唾液であることを。
つまり絵面としては、幼い女子の唾液を、もうすぐ16歳になる乙女が飲み干すというものになるだろう。
人によってはご褒美かもしれないな。
しかし残念ながら、俺にはそういった特殊性癖は備わっていない。
いや、そもそも残念がる必要もないだろう。
とはいえ、今は緊急事態のため、完治するなら飲むことも有りではある。
性質上は唾液から回復薬に変化しているだろうし、言うならば気持ちの問題だ。
前述したような絵面に耐えられるか、否かの。
「それじゃ、お願いしようかな」
レイナは迷う素振りも見せず、即答した。
これこそ、彼女が俺よりも強いと断言できる理由の一つだ。
卓越した魔力総量とセンスを持ちながらも、こうして割り切ることが出来る。
「わかりました! では、何か器をお貸しください!」
「この土鍋でいいなら」
一応、紳士として後ろを向いておいた。
今思えば、ニーナが使っていた吹き矢、あれにも彼女が生み出した麻酔薬か何かが塗られていたのだろうか。
……いや、これ以上考えるのは止めにしておこう。
「へぇ、ほんとに効果がある。体の中から温かくなるよ」
「それは良かったです」
今まで隠れていた笑顔を、ようやく見ることができた。
薬屋の娘として、人助けをすることが使命であり、夢である彼女の本当の姿と言える。
「ねぇ、こうして完治したわけなんだし、やっぱり皆で行かない?」
「さっき納得したんじゃないのかよ……」
「私達には情報が必要。そのために、あえてニーナを連れて行くんだよ」
「ニーナを餌にするのか」
俺達が今、必要な情報は――――――――現在のニンバスの状況、ニーナの母親の安否、敵の戦力。主に、この3つだ。
俺ひとりで、確実に情報を得られる保証はない。
しかし、ニーナを狙う輩ならば、少なくとも雇い主の情報くらいは持っているだろう。
「敵が居るなら居るで好都合だし、居ないならそれはそれで支障はない。どう? 理にかなってると思うけど」
「けど、万が一もあるし……」
「あの……わたしが意見する立場にないことは承知しているのですが、もし我儘が許されるなら、わたしも連れて行ってください」
ニーナは恐る恐る、しかし意を決して口を開く。
彼女はきっと母親が心配なんだろう。
自分を餌にして少しでも救出が早まるのならば、それも覚悟の上といった感じだ。
「決定だね。さ、早く行こう」
「はぁ……」
鳥のさえずりの中、俺の溜息だけが森に消え行った。
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アエルに到着した俺達。
前に騒ぎを起こした手前、フードを被って素顔を隠す。
まあ、霧のせいで俺達の姿を見た人間はいないだろうけど。
いや、宿の店主には見られたか。
あそこには近づかないようにしよう。
「一通り歩き回ってみたけど、どうやらニーナを知ってる輩はいないみたいだね」
「まだ屋内に潜んでる可能性もある。油断はするなよ。ニーナも、レイナから離れないようにな」
「あ! あそこ!」
ニーナの手を引き、レイナが走り出す。
行き先は、宿、の中にある風呂場だった。
あれ? 俺が今言った言葉、伝わってない?
いや、きっとレイナなりの気遣いなのだろう。
続く逃亡生活のせいで、風呂どころか髪の手入れもできなかったニーナへの。
仕方ない。酒場へは俺ひとりで行こう。
ひとりでアエルを歩き続け、酒場に到着した。
中に入ると、目に映るのは荒くればかり。
やはり、どこの酒場も中身は似たようなものか。
「すみません。ちょっとお話を聞きたいんですけど」
「あぁ? 気安く話しかけんなボケェ!!」
「あの……少しお話を――――――――」
「ガキは黙ってろぉ!!」
「お願いします。お話を――――――――」
「帰れぇ!!」
駄目だった。
やっぱり、弱々しい俺の顔面じゃ相手にされないらしい。
生まれ持ったこの顔面は変えようがないし、もう筋肉をつけるしかないか。
「あ、やっほー。何か成果は挙がった?」
「何も、得られませんでした」
「まあ、しょうがないよ」
風呂上がりで艶々の髪を靡かせながら、肩を叩いて来るレイナ。
こいつ、励ましているのか馬鹿にしているのか、どっちなんだい。
「酒場が駄目なら、冒険者ギルドは?」
「寄ってみるか」
町が小さければ、当然、冒険者ギルドも小さい。
俺達が訪れたところは、なんと1階建てで、受付も3人だけだ。
圧倒的なコンパクトさに、落胆を隠せない。
「あの、すみません。少しお話を伺っても大丈夫ですか?」
「あぁ? 何の用だ、坊主?」
酒場でもそうだったけど、初対面の相手にこの言葉遣い。
酷い対応だし、優しさの欠片もない。
だけど、この世界ではこれが普通なのだ。
毎日を悠々自適に生きる貴族に比べ、冒険者達は今日を生き抜くので精一杯。
要するに、他人に気を配れるほど余裕がない。
見返りを求めない善など、稀有な存在なのだ。
「ニンバスについて知りたい」
「ニンバス……? ああ、あのつまんねぇ町のことか。最近、行ったぜ?
どうしてもって言うなら相談に乗ってやってもいいけどよぉ、タダでってわけにはいかないなぁ」
「価値のある情報だと判断できたら金を払う。それでどう?」
「金ねぇ……おめぇら甘い考えしてんなぁ。金出せば、誰でも喜んで従うとでも思ってるのか? いいか? 情報ってのは時に、金以上の価値があるんだぜ」
「じゃあ、何をすれば教えてくれるの?」
明らかに、俺達をおちょくっている。
しかしそれでも、レイナは一縷の望みをかけて食い下がる。
「当然、お金以上の代物と引き換えだ」
「その代物ってやつを具体的に言ってくれない?」
「そうだなぁ……」
男は、レイナの体をマジマジと凝視する。
まるで品定めと言わんばかりの視線に、レイナは不快感を募らせるが、それを表には出さない。
「お前ら全員ガキかと思ってたが……お前はいいなぁ。よし、決めたぞ。今晩、俺の相手をしてくれるっていうなら、話してやってもいい」
「てめ――――――――」
とことん舐め腐り、見下した態度を前に、先に我慢の限界を迎えたのは俺の方だった。
ぶん殴ろうと右手を構えたが、後ろからレイナが制止してくる。
「もう行こう。これ以上は時間の無駄だよ」
一番殴りたかったのは彼女自身だっただろうに、下手な騒ぎを起こすまいとグッと堪える。
そんな姿を見せられたら、俺も大人しく退かざるを得ない。
当の本人が我慢しているのに、その意味を無下にするわけにはいかないもんな。
そんな感じで、結局、冒険者ギルドでも有力な情報を得ることは叶わなかった。
「もっと戻って、ルナに行くか? それとも、ニンバスに乗り込むか?」
「ここで駄目なら、ルナも同じだと思うよ。時間の無駄になることは避けたい」
「それじゃ、乗り込む一択か」
アエルを出て、小道を進むこと1時間。
あともう少しで、あの森に到着する。
「……」
町を出てからというもの、背中に執拗な視線を感じる。
人数までは分からないが、間違いなくつけられている。
「何してるんだ?」
「確かめるの。後ろは振り返らないでね」
レイナが右手の上に、小さな水玉を作る。
すると、プカプカと浮かぶそれに、背後の景色が映し出された。
なるほど、こうすることで敵に気取られずに後方の状況を把握できる。
「見たところ2人ってとこかな。私達に尾行がバレてるくらいだし、どうせ弱いと思う」
「いつ仕掛けて来るか分からない。ニーナは頼む」
「わかってる」
背後に意識を集中させつつ、歩き続ける。
いくら尾行が下手くそでも、流石に何もないこの小道で仕掛ける様子はない。
それなら、こちらから仕掛けやすい場所まで誘導してみるか。
「森の中に行こう。あそこなら人目がつかない」
グラフォードと激闘を繰り広げた森の中央部まで誘導する。
結構わかりやすい誘導なのに、敵はまんまとついてくる。
企みがあるのか、はたまたただの馬鹿なのか。
「……近づいて来る」
「ニーナ、私から離れないで」
森の中の静寂のおかげで、背後の足音が浮いて聞こえる。
距離を詰めるように早まる間隔が、そろそろ仕掛けてくることを暗示している。
「来る!」
背後から一際大きな足音がひとつ響く。
大きく力を込めて跳躍した合図だ。
「ヒャッハー!!」
左腰から剣を抜き、すぐさま振り返る。
まず目に入ったのは、空から得物を振り下ろしてくる男の姿。
重力と体重が乗ったその一撃を、俺は正面から受け止める。
「ぐぅッ!」
俺の剣と敵の得物がぶつかった瞬間、重苦しい音が森の中に響き渡った。
踏ん張る両足に凄まじい衝撃が走り、足元の地面がへこむ。
「俺の一撃を止めるったぁ、やるじゃねぇか!!」
「これは……棒か?」
「ご名答!」
男は棒をクルクルと回転させ、上下左右から自在に攻撃を繰り出してくる。
棒術の存在自体は把握していたが、その内容はからっきし。
俺は防御に徹するが、慣れない攻めに崩される。
「くらぇい!」
左頬を狙った薙ぎを、俺は左腕で受ける。
その瞬間、ゴォンという重い金属音が骨にまで鳴り響いた。
「――――――――レイナッ!!」
左腕へのダメージよりも注意を向けたのは、棒使いのさらに背後から飛んで来る魔法だった。
何処から飛んできたのか不明だが、無数の水の矢が宙を流れる。
狙いは俺ではなく、ニーナの傍にいるレイナだった。
「わかってる!!」
レイナは杖を持ち上げ、軽く振るう。
すると、水のウェーブが現れて、飛んで来る矢を吸収した。
「ナイス!」
「よそ見している暇があるのかぁ!?」
一瞬、目を逸らしたせいで、さらに棒の追撃を喰らう。
今度は右ももを直撃し、鈍い痛みが走る。
「野郎!」
剣を片手に、攻勢に転じる。
が、なかなか決定的な一撃を入れられない。
そもそもの話、剣と棒では手数の差があり過ぎる。
まさか、棒術がここまで攻守ともに優れているものとは思わなかった。
まるで真剣流と甲剣流の長所をミックスしたかのようだ。
だけど、目に見えて剣に劣る点もある。
それは、殺傷力だ。
いくら攻守ともに優れていようが、棒は何処まで行こうが棒だ。
肉体を切断するなんて芸当は不可能なため、一撃二撃喰らおうが特に問題はない。
それなら、思い切って剣以外の攻撃で――――――――
「はっはっはぁ! 掴まえた!」
電撃魔法を繰り出そうと、左手を至近距離に構えた時だった。
棒使いの纏うマントの内から、2本の手が伸びて来て、左手を掴んだのだ。
そしてそのまま勢い任せに引っ張る。
「は?」
左手を引っ張られたことで、俺の体勢は崩れる。
その隙に、棒が顎を目掛けて振り抜かれた。
「――――――――ッ」
フルスイングされた金属の棒が、無防備の顎に直撃する。
その衝撃は凄まじく、視界が揺れると同時に、俺は後方に倒れた。
ブワッと広がる鈍い痛みで、顎付近の感覚が塗りつぶされている。
遠くに飛んで行ったのは、血? いや、歯だ。
衝撃で歯が何本か飛んで行ってしまったのだ。
「あとは、あの女を殺して娘を……」
「待て……よ。まだ、俺は生きてんぞ」
「何を言う、ふらふらじゃねえか」
「びっくりしたんだよ。まさか、腕が4本あるビックリ人間だとは思ってもみなかったからな」
もう隠す必要もないと言わんばかりに、棒使いはマントを脱ぐ。
そして姿を現したのは、紛れもない左右の腕。
人族じゃない、こいつはどうやら人魔族のようだ。
人魔族は魔物の人間版みたいなものだから、こういう奴が居てもおかしくはない。
もう一人の方はレイナに任せるとして、何としてもこいつは俺が倒す。
とは言ったものの、顎をやられたせいで視界が歪む。
強がっているけど、立っているのもやっとだ。
「今度こそとどめだ!!」
再び棒による連撃が始まる。
剣を使って応戦するが、すぐに劣勢になる。
まずい、剣にうまく力を込められない。
「やはり限界のようだなぁ!!」
下の両手が、今度は俺の右手を掴んでくる。
また体勢を崩して、とどめの一撃を叩きこむつもりらしい。
「掴んでくれてありがとうなぁ!」
単純な力比べなら、俺の方が圧倒的に優位だ。
両足を踏ん張り、思い切り右手を引っ張る。
そしてそのまま、棒使いを投げ飛ばした。
さっきは突如出現した2本の腕の存在に呆気に取られ、対処が遅れてしまった。
だけど、そういう生態だと把握した今、もう同じ手は喰わない。
レイナから距離も取れたし、これで彼女も心置きなくやれるだろう。
「な、なんつぅ力だ」
「は! どうした? まさか、ビビったのか?」
「舐めるなよ……ガキが!」
口から流れる血を拭い、血反吐を吐き出す。
走り寄って来る敵を前に、俺は剣を鞘に収めた。
「何だ? 諦めるのか!?」
「ちげぇよ」
このまま剣で受け続けるだけじゃ、手数で押し負ける。
だったら、そうなる前に別のところから勝負をかけるまでだ。
「まさか、拳でやり合うつもりか!?」
前述した通り、棒術は殺傷力に欠く。
人体の急所を突かれなきゃ、ダメージは然したるものだ。
それに、手数が多いとはいえ、棒の動きは十分目で追える。
右からの攻撃を躱し、左からの攻撃は受ける。
衝撃が骨に伝わるが、同じ個所に何度も喰らわない限り折れる心配はない。
「どうした!? 随分と弱腰だなぁ!!」
拳で受け続け、流石に痛みが蓄積し始める。
電撃魔法でカウンターをしようにも、手数の多さでその隙が無い。
けれど、確実にチャンスは近づいている。
一方的な攻めが続き、棒使いはもう勝った気でいる。
相変わらず攻撃の密度は凄いが、攻撃の流れも大体把握できた。
そろそろいける。
「――――――――ここ!」
防御に徹していた両腕を伸ばし、ちょうど左側から向かって来る棒を掴まえる。
そして、棒を両腕でしっかり固定したまま、右足で棒使いを蹴り飛ばした。
「ごへぇ」
情けなく地面を転がる棒使いは、蹴り飛ばされた衝撃で棒を放す。
やはり反撃は無いと踏んでいた故か、気を抜いていたな。
まあ、仮に放さなかったとしたら、そのままもう一発喰らわせてただけだが。
「へぇ、結構軽いんだな」
これくらいなら、俺でも振り回せそうだ。
手触りはザラザラしており、所々には錆が生じている。
金属特有のにおいが苦手なので、棒は遠くに投げ捨てておいた。
「げぇ、手ににおい付いちゃったよ」
「お前、これが狙いだったのか」
「勝ったと思っただろ? ただの子供って油断したな」
「は! お前こそ、勝ったと思っているのか?」
棒を失った棒使いは、果たしてどうやって戦うのだろう。
答えは今、目の前にある。
そう、拳だ。
「うおおおらぁ!」
何度も繰り出される拳を、ひたすらにいなす。
拳での喧嘩は慣れたものだが、4本腕となれば話は別。
単純に拳が2倍になるんだ、当たり前だろう。
だけど、俺はそんなに焦っていない。
打撃の威力が低いということもある。
しかし、もっとも致命的だったのは、こいつが喧嘩慣れしていないことだった。
せっかく4本腕というアドバンテージがあるにもかかわらず、全く活かせていないのだ。
ただ殴るだけで、武術を扱う様子は皆無。
棒を扱うにあたっても、何故か下の腕は大人しいままだった。
それはおそらく、こいつは4本の腕を戦闘中に制御できるほど器用じゃないからだ。
今はその逆で、無理に使おうとしているから隙になっている。
「くそぉ!」
拳を当てられず痺れを切らしのか、俺の両腕を上の腕で掴まえてきた。
それをやって先程投げられたのを忘れたのだろうか。
いや、焦っていてそれどころじゃないと見える。
「喰らえぇ!」
上の腕で動きを拘束し、下の腕で俺のみぞおちを狙う。
いくら威力が低いとはいえ、無防備のみぞおちに打撃を受ければ、それなりに痛かった。
だけど、逆に言えばそれだけだ。
「俺の勝ちだ」
両腕は拘束されたままだが、問題ない。
俺に下の腕はないが、この無駄に硬い頭があるからな。
「おらぁ!!」
振りかぶって渾身の頭突きをぶつける。
昔得た知識によると、自分の頭が痛くなるまでやるんだったか。
もう一度振りかぶり、ぶつけようとしたところで気がついた。
こいつ、もう気絶している。
やっぱり、棒を失った時点でこいつは詰んでいたのだ。
それでもあんなに威勢が良かったのはプライドか、それとも強がりか。
「ふぅ……」
グラフォードの後だったから、余計に弱く感じたな。
まあ、生きたまま拘束することがノルマだったら、結構苦戦したけど。
棒使いの身柄を引きずりながら戻ると、もう決着はついていた。
見覚えのない男が、正座をしながら頭を垂れていたのだ、
恐らくこいつがもう一人の方だろう。
「よ、無事か?」
「見ての通りだよ。戦いとも言えないものだった」
この正座している男、水魔法の使い手としては悪くなかっただろうに、相手がレイナだったのが不運だったな。
他の魔法だったならまだしも、同じ水魔法ならば相性など関係なく、単純な力量で決着がつくからな。
「ともあれ、ようやく情報を得られるな」
こいつ等がどれくらい情報を持っているかは不明だが、せめて労力に見合うくらいはあってほしい。
そう願いながら、乾いた口元の血を拭った。




