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転生ミスで異世界へ  作者: たけのこ
第九章
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第九十七話 vsグラフォード

 女の子を、戦いの余波が及ばない場所まで避難させる。

 一応、周囲に魔物がいないことは確認済みだ。

 それでも、万が一の時は戦いを中止し、女の子の身柄を優先する約束もしてある。


「さてと……しばらく実戦から離れていたからな。せいぜい、楽しませてくれよ」


 準備運動と言わんばかりに、足を伸ばすグラフォード。

 俺も負けじと、腕を伸ばしたりしてみる。

 不思議なことに、そうするだけで強者感が出て来る気がするのだ。


「そのナマクラは使うの?」

「いや、使わない」


 多分、グラフォードは肉弾戦メインの戦い方を得意としている。

 拳を相手に、切れ味ゼロのこの剣を利用すれば、逆に不利になりかねない。


「どうしたんだ? 珍しく不安そうだけど」

「だって、あいつが指定してきた勝利条件は、私達かあいつの気絶だよ? 正直言って、私の水魔法は向いてないもん」


 言われてみれば、レイナの使う水魔法はどれも気絶には向いていない。

 水斬撃(ウォータースラッシュ)は切断系の魔法だし、(ミスト)水の泡(アクアバブル)は防御系の魔法、レイナの切り札ともいえる水激流(アクアストリーム)も、本来は場の制圧に特化した魔法だ。

 強いて言うなら、水流弾(ウォーターショット)を頭に当てるとかだが、あまり現実的ではない。


「あ、窒息させる手もあるか」

「それはうっかり殺しかねないから却下だ」

「じゃあ、私はエトの援護に務めるよ」

「ああ、頼んだぞ」


 レイナが援護となれば、前衛は当然、俺だ。

 腕っぷしを武器とする奴となら、以前に一度戦った。

 だが、今回の相手はそいつよりも数段格上だろう。

 一層、気を引き締めないと。


 大丈夫……俺が負けなければいいだけだ。


「今からこの石を真上に投げる。この石が地面に着いたと同時に開始だ」


 グラフォードが石を真上へと投げる。

 クルクルと宙を舞う石が、刹那の静寂をもたらす。

 そのせいで、俺の心臓が奏でる音が、余計に際立って感じられる。


 そして、石が地面と衝突した。


「はぁ!!」


 開始の合図と同時に、グラフォードが地面を蹴る。

 距離にして20メートルは離れていたが、たったの一歩で詰められた。

 決して油断していたわけではないが、目の前にいきなり拳が迫って来たため、俺は両腕で受けるだけで精一杯だった。


「――――――――ッ!」


 受けた両腕に強い衝撃が走る。

 両足で踏ん張るが、耐えきれずに後方へと殴り飛ばされた。

 ただ、威力が強いというよりも、勢いが凄い感じだ。

 両腕の骨も、特に問題はない。


「レイナッ!!」


 グラフォードはこっちに追撃するよりも、レイナへの攻撃を優先したようだ。

 進路をグンと変えて、一目散に彼女へ向かって走り寄る。

 前衛よりも先に、後衛を仕留めるつもりのようだ。


「上等ッ! 『水流弾』!」


 レイナが次々と水の弾を放つが、グラフォードはサイドステップで躱す。

 水流弾は真っ直ぐにしか飛んでいかないため、反復横跳びのような動きをされれば簡単に回避されてしまう。この弱点を、早々に看破されたのだ。


「チッ! 『水激――――――――」

「させんぞ!」


 魔法を発動するよりも先に、グラフォードの拳がレイナに届く。

 あの図太い腕から繰り出されるパンチが、彼女の土手っ腹を正確に狙い打ったのだ。

 レイナは防御力に関しては生身の人間と何ら遜色ないため、今ので決定打になっていてもおかしくない。


「ん!? これは……」

「『水の泡』 ただで殴られるわけないでしょ」


 全力で駆け寄る俺の目に映ったのは、グラフォードの拳が泡に包まれている場面だった。

 泡のおかげで威力が軽減され、レイナは軽い吐血だけで済んでいる。

 まさか、殴られるあの一瞬で施したのだろうか。


「だったら、逆の拳で――――――――」

「させねぇよ!!」


 射程距離内に入り、俺は背後から電撃を放つ。

 俺の気配に気づいたグラフォードは、大きく跳躍して距離を取る。

 不意打ちできるチャンスだったが、ここはレイナの身を優先した。


「大丈夫か!?」

「ケホ……これくらいは問題ない。殴られるのも作戦の内だったから。まあ、諸刃の剣だったけど」

「悪い、俺がちゃんとしなかったせいで……」

「これは私達2人の戦いなんだから、これくらいのことで動揺しないで」


 威力を抑えたとはいえ、レイナは吐血している。

 一方の俺は、ほぼ万全と言って差し支えない。

 それにもかかわらず、彼女の方が数段冷静だった。


「それより、私の魔法、全然当たらないんだけど」

「あいつの武器は、速度でも拳の威力でもなく、瞬発力だ。だから、ただ魔法を放つだけじゃ躱される」


 最初の一撃の時も、地面を一蹴りするだけで、距離を詰められた。

 100メートル走で言うならば、走り出しが速いタイプ。

 もちろん厄介だが、ただずっと速い奴よりかはやりようがある。


「この泡、面白いな。打撃による衝撃が吸収される」

「でしょ。素手じゃ、そうそう破れないよ。大人しくしてれば、もう片方の手にも同じものプレゼントしてあげる」

「そうか、残念だが、俺には合わないプレゼントだ」


 グラフォードは持ち前の牙で、右手の泡を破ってしまった。

 ただ見ただけの感想だが、そこらの刃物と遜色ない切れ味のようだ。

 あまり使って来る様子はないが、警戒しておこう。


「えぇ……私が殴られた意味ないじゃん」

「まあまあ、一撃でも威力を抑えられると考えれば、十分な成果だろ」


 グラフォードは犬の獣人だ。

 どうやら人間離れした瞬発力は、獣人族として持ち合わせた身体能力に、魔闘気による強化が上乗せされた結果というわけか。


「『電撃銃(スタンガン)』」


 グラフォードが再び大地を蹴るのと同時に、俺は両手を構えて連射する。

 これも左右に動くだけで回避されるが、真っ直ぐ接近されるよりは時間稼ぎになる。


「ぅおらッ!」


 グラフォードと俺の拳が真正面からぶつかり合う。

 お互いの力は拮抗し、膠着状態に陥る。


「ほう! 俺を左右に回避させたのはこのためか!」


 グラフォードは初速がトップスピード。

 だから、回避されることを前提に魔法を連射することで、初速の勢いを殺すことが出来る。


「最初さえ対処できれば、お前の強みは死んだも同然だ」

「ほう……試してみよう!」


 グラフォードが回転蹴りを繰り出してくるが、問題なく右腕で受ける。

 その隙に、空いた左手で奴の顔面を狙おうとしたが、片足で跳躍され叶わない。

 空中に飛び上がったグラフォードが、今度は踵落としを構える。


「『水流弾』!」


 レイナの放った魔法が、逃げ場のない空中にいるグラフォードを捉える。

 が、奴は踵落としの標的を変えて、水流弾を蹴り落とした。

 一連の様子を見届けながらも、俺は片手を構えて電撃魔法を放つ。


「『電撃(スパーク)』」


 電気出力を高めた電撃が、今度こそグラフォードに直撃する。

 意識は保っているようだが、痺れて体が動かないだろう。

 現に、着地に失敗して、体勢を崩している。


「おらぁ!」


 その隙を逃すまいと、俺は全力の一撃を顔面へと叩き込む。

 そして、今度は本気の蹴りを脇腹に叩き込む。


「ふん!」


 もう一撃入れようとした矢先、グラフォードが動き出す。

 俺の拳に合わせるように、カウンターを繰り出してきたのだ。


 グラフォードの方がリーチが長く、奴の拳が顔面に入った。

 勢いがないため衝撃はさほど受けなかったが、それでも鼻血が一筋と唇からの出血を負った。


「痛っ……」


 気絶させるために電気出力を高くしたはずが、3秒程しか行動不能に出来なかった。

 俺の全力のパンチにも耐えられていたし、元々の筋肉に加えて、魔闘気による防御力向上が影響しているのだろう。

 さらに電気出力を上げれば殺しかねないし、悩みどころだな。


 グラフォードの攻撃力は卓越したものでもない。

 俺には自然治癒があるし、しっかりガードさえすれば問題ない。

 このまま接近戦を仕掛けて、奴の長所を潰す戦い方でいこう。


「勝ち筋が見えた……という顔だな」


 グラフォードがニヤッと不敵に笑う。

 そしてそのまま走り出し、俺のまわりをピョンピョンと駆け回り始めた。


 本来だったら、段々と減速するはず。

 しかし、グラフォードは一歩一歩に渾身の脚力を込めて、常に初速と同等の速度を保っている。

 いや、何なら脚力が重なり合って、初速を上回っているようにも感じる。

 矛盾している言い方だが、まるで最初の一歩を繰り返しているようだ。

 これじゃ、攻撃を当てるどころか目で追うのでやっとだ。


「クソ……」


 援護をしようとレイナが杖を構えるが、俺に命中する可能性を考慮してか、なかなか仕掛けることが出来ない。

 やがて、グラフォードが進路を変えて、こちらに最速で向かってきた。

 持ち前の瞬発力を活かした作戦に、俺は一手行動が遅れることになる。


「――――――――ぐッ」


 グラフォードの拳が、俺の脇腹を打つ。

 幾重にも重なり合った脚力が織りなす勢い、それが乗った拳の威力は想像の上をいき、俺は遥か後方へと吹っ飛んだ。


「エト!!」

「次はお前だ!」


 優位な状況になっても、やはり狙いはレイナのようだ。

 再び地面を蹴り、彼女に向かって一目散に距離を詰める。


「……『水壁』ッ! 」


 すかさず、レイナが大きな水の壁を作り上げる。

 未知の魔法を警戒してか、グラフォードは無理矢理突っ込むことはせず、一旦足を止めた。


「この程度の魔法で――――――――」

「『水斬撃』」


 グラフォードがゆっくりと手を伸ばす中、水の壁から無数の斬撃が飛び出る。

 咄嗟に回避に専念するグラフォードだったが、壁と距離が近かったこともあり、肩や太ももに切り傷を負った。


 これはまさか、魔法の同時発動だろうか。

 サンダルト魔法学校において、魔法の同時発動が出来るのは上位クラスの限られた生徒だけだった。

 レイナがそんな高等テクニックを身に付けているなんて、ずっと一緒にいたのに今初めて知ったぞ。


「驚いた。ただの魔法使いの少女と侮っていたようだ。やはり、お前から仕留めた方がいいようだ」


 グラフォードが両足を踏ん張り、勢いよく跳躍する。

 その高さは、レイナの水壁を軽々と越えていた。


「ちょ、マジで……」


 壁がちょうど視界を遮っているため、俺は向こう側の状況を把握することが出来ない。

 ただ聞こえてくるのは、レイナの戸惑うような声だけだった。


 すぐに駆けつけようと地面に手をつくが、脇腹に激痛が走り、うまく立ち上がれない。

 先程の一撃で、どうやら脇腹に相当なダメージを負ってしまったらしい。

 くそ、威力は大したことないと高を括っていたせいだ。


「レイナ!! 逃げろ!!!」


 激痛に耐えながら、大声を振り絞る。

 グラフォードが俺にしたように本気で駆け回れば、レイナじゃ為す術がない。


「頼む……さっさと治ってくれ」


 すでに鼻血も唇も治っているが、脇腹の負傷には時間が掛かっている。

 もしかしたら、骨だけじゃなく、内臓にもダメージがいっていたのかもしれない。


 突如、周辺に深い霧が現れる。

 これは、レイナが霧を発動させたのか。

 きっと視界を遮り、グラフォードから身を守るためだろう。

 この判断は最善策と言える。相手がグラフォードでなければだが。


「駄目だ! 今すぐ『霧』を解け!!」


 アエルで、グラフォードを撒くことが出来なかった理由。

 霧による視界不良の中、奴が迷うことなく俺達を追跡することが出来た理由。

 そう、奴は目ではなく、鼻で俺達を認識していたのだ。


 叫びも虚しく、ものの数秒で霧は薄くなり、水の壁も崩壊する。

 ようやく俺の目に映った光景は、こちらに視線を向けるグラフォードの姿。

 そして、足元に横たわるレイナの姿だった。


「クソ……クソ!!」


 痛みを我慢して、立ち上がる。

 このままじゃ、俺達の負けになってしまう。

 レイナは死んでいない。気絶しているだけだ。

 そう、自分に言い聞かせる。


 それでも、胸の底から膨れ上がる怒りを、知らんぷりすることは出来なかった。


 レイナを傷つけたグラフォードだけじゃない。

 彼女を守ることが出来なかった自分自身にも、腹が立って仕方ない。


「あとは、お前だけだ」


 レイナの援護が望めなくなった以上、自分だけの力でグラフォードを撃破しなくてはならない。

 今の俺じゃ、タイマンで奴を倒せるかどうか分からない。

 だから、殺さないようにとか、そういう邪魔な足枷は一旦全て頭から破棄する。


 今度はもう加減しない。

 俺の最大出力の電撃魔法を喰らわせてやる。

 もしも殺してしまったら、その時に考えればいい。


「行くぞ!」


 グラフォードが、クラウチングスタートの形を取る。

 どうやら、他に意識は割かず、確実に俺を仕留める気のようだ。


 次の瞬間、グラフォードが全力で大地を蹴る。

 あまりの強さに、その場には大きな凹みが生まれている。

 それほどの勢いを纏ったまま、最短で距離を詰めてきた。


「――――――――ッ!」


 俺は瞬時に頭部を両腕で守り、グラフォードの拳を正面から受け止める。

 どんなに速く、そして勢いがあろうとも、グラフォードの武器は拳だ。

 ガードの上から貫通されることはない。

 完全に勘だったが、狙って来る箇所はビンゴだった。


「ほぅ! まだそんな元気があるか!」


 グラフォードからすれば、俺はすでに脇腹に大きなダメージを負っている満身創痍の状態。

 自然治癒能力の存在を知らないんだ。そう考えても無理はない。


 しっかりと構えていたが、それでもやはり後方に吹っ飛ぶ。

 まだ体勢を整えることが出来ていない中、グラフォードはさらに追撃を加えて来る。

 一撃一撃はそう重くないが、瞬発力を活かしたヒットアンドアウェイに、ガードするので精一杯だ。


 このままじゃ、埒が明かない。

 だったらここは、賭けに出るべきだろう。


「『電撃』!」


 ガードを解き、両手から電撃を放つ。

 警戒したグラフォードは一瞬攻めるのを躊躇するが、結局は構わずそのまま突っ込んでくる。

 多少、曲げられるとはいえ、最短で向かって来るグラフォードにはなかなか当てられない。


「おえ……」


 グラフォードの蹴りが、土手っ腹に命中する。

 痛みに悶絶し、地面を転がることしかできない。


「もう勝敗は見えている。棄権するのも手だぞ」

「ここで棄権したら……レイナの痛みの意味がない」

「いいぞ、それこそ戦士の考えだ」


 グラフォードが再び俺のまわりを走り出す。

 今度こそ終わらせるつもりらしい。

 くそ、せめて一発だけでも、電撃を命中させることが出来れば……。


 次の一撃は、恐らく致命的な一撃になるだろう。

 正直に言って、防げる自信はない。

 魔人族の血の影響で反射神経や動体視力が向上しているとは言え、練度の優れた魔闘気には遠く及ばない。

 いや、正確には目では追えているが、体が追いついてこないのだ。


 だったら一か八か、賭けてみよう。

 片手に魔力を込めておき、グラフォードが確実な一撃を放った後で、最高出力の電撃を放つ。

 意識を保てるかは分からないが、それならば最悪、相打ちに持っていけるだろう。


「次で最後だ」

「ああ、そうだな」


 警戒されないように隠しながら、右手に魔力を込める。

 その間も、確実に命中させるために、目でグラフォードの動きを追い続ける。

 一度、深呼吸をして、覚悟を決める。


 グラフォードがこちらに進路を変えるため、最後の一歩を踏み込む。

 まさにその瞬間、大地が張りを失った。


「――――――――なッ!?」


 まるで大洪水の後のように、大地が柔らかい泥に変化した。

 この光景……俺は見たことがある。

 そう、あれはヴェロニカと対峙していた時、彼女の土魔法をシェリィが防いだ方法と全く同じだ。


 大地から勢いを得るはずが、いきなり泥に変化したため、グラフォードは足を踏み損なう。

 中途半端に加速していたこともあり、体勢を崩したまま俺に向かって倒れ込む形で突っ込んで来た。

 一体誰の仕業なのか、そんなこと考えるまでもない。


 ただひとつ言えることは、俺達の勝ちということだ。


「『電撃』」


 もう隠す必要もない。

 俺は片手を構えて、突っ込んでくるグラフォードに向かって電撃を放った。

 中途半端な電気出力ではなく、確実に殺すつもりで。


「ぐおおぉぉ!!」


 直撃したグラフォードは叫ぶ。

 そしてそのまま白目をむいて、泥の上に滑り倒れた。

 万が一に備えて、もう一度電撃の準備をするが、その必要は無さそうだ。


「直撃したのに、生きてるのか。ほんと、タフだな」


 全力の電撃で死なないとはな。魔闘気は偉大ってことか。

 ただ、ちょっと焦げ臭いにおいが漂って来る。


「ケホ……ナイスチームワークだね」

「お前……無事で良かったよ。てっきり、気絶したかと思ってた」

「いや、実際ちょっとしたよ。だけど、信念で復活したの」


 口から血を流しながらも、レイナはよろよろと自分の足で歩いて来た。

 見たところ、重症とかでもなさそうだし、ひとまず安心だ。


 気絶した後に攻撃するなんて反則だ、とか文句を言われる筋合いはない。

 だって、俺が残っていた以上、勝負はまだ続いていたんだし、気絶から回復した人間が攻撃しちゃ駄目ってルールもなかったんだ。


「どうやって耐えたんだ? 魔闘気を使えないお前には重い一撃のはずだけど」

「はっはっは、服の内側に泡を挟んでおいたんだ。形状も大きさも操れるからね。いやぁー便利な魔法だよ」

「けど、あんまり過信しすぎるなよ。こいつ以上に、腕力が強い奴が相手だったら危ないぞ」

「分かってるよ。ていうか、殴られるのも作戦の内って前もって言っておいたんだけどね」

「それでも心配したんだぞ!」

「ふっふっふ、敵を騙すなら、まずは味方からだよ」


 こいつ、ドヤ顔で言いやがって。

 本当に助かったよ。


「ありがとう」

「どういたしまして」

「それにしても、何時こんな魔法を習得したんだ?」

「習得はしてないよ。ただ、魔の大陸の一件以降、水王についてちょっとだけ調べた時期があるの。

 曰く、何かの戦争の最中、当時の水王は地面の広範囲を泥に変えることで、数千もの兵士を足止めしたんだって。その逸話を覚えてたから、勘で試してみたんだ」


 勘って……それじゃあ、ぶっつけ本番で成功させたってことかよ。

 前々から天才だとは思っていたけど、もう凄いとしか言葉が出てこない。


「ただ、だいぶ強引なやり方だったから、魔力ほとんど消費しちゃったよ」

「もう大丈夫だよ。この戦いは、終わったから」


 疲れ果てたレイナは、深い溜息をつく。

 そんな彼女を支えながら、俺達は一度女の子のもとまで戻ることにした。

 グラフォードのことは……まあ、目覚めるまでは面倒を見てやるとするか。


 魔人族の血の影響で、俺は最近、勝ち続きだった。

 だけど、この一戦で再び思い知らされることになる。

 やっぱり、上には上がいるということを。


 今回はレイナの助太刀のおかげで、何とか勝利できた。

 しかし、あの女の子を助ければ、グラフォード以上の強敵と敵対することになるだろう。

 そう脳裏では理解しているが、もう後戻りはできない。


 賽はもう、投げられたのだ。


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