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 ゼノビアによる狙撃を受けた大蛇型モンスターが地中に逃げてから一時間。

 得られた情報から敵の特徴を割り出そうと、アビスアルターの指令室はフル稼働状態になっていた。

 何せアレイスターが特定できないモンスターとなれば、それはそれで問題である。

 ウンディーネですら、その情報を入力すればすぐさま返答してきたというのに、今回のモンスターに関してはその頭部が特徴的な外見をしていたというのに、それでも特定できないときたものだ。

 つまり、その頭部がモンスターの能力に由来するものではない、ということだ。

「ゼノビアは警戒態勢で現場の監視を続けろ。吾妻、山城。あのシールドマシンはなんだ」

 人工島であるセリオンシティには存在するはずのない掘削機。それをベースとしたモンスターが、どうして出現したのか。

 あるいは、ベースにしたのではなく、自身の能力か機能なのか。

「E9の開発時に埋められたなんらかの機械をベースにしている、というのはほぼ間違いないでしょうが……」

 エリア開発時、土を敷き詰める際に故障した機械類も一緒に埋めた。その事実が今になって明らかになった。それも最悪の形で。

「それで、その機械類の中にボーリングマシンは――あるわけがないか」

 掘削機を人工島の大地で使う必要性がどこにある。

「となれば、やはり掘削機をベースにしたわけではなく、ああいう性質のモンスターということか」

 その可能性が高い、とレキが納得しかけた時、指令室の扉が開いてドクターがやってくる。

「うん? これシールドマシンとしての機能は副次的なものじゃあないかな」

 と、メインモニターに表示されるモンスターの映像を見ながら呟いた」

「ドクター?」

「コヨミちゃーん。奴の潜航速度と全身が消えるまでの時間から推測されるヤツの全長は?」

『多分、あれだけで200メートルはあります』

「うわーマジかー。切り離された部位だけでそれか」

「……今、なんだって?」

「アレイスターが特定できてないってことは、本体じゃないってことでしょ?」

 その可能性を失念していた。

 確かに、本体でないのならばアレイスターが反応を示さないのも納得だ。

「だが、そうだとして、だ。切り離されたパーツで200メートルだと? ならその本体はどこに――」

 そこまで言って、レキが気付いた。当然、それを聞いていた三人のオペレーターたちも。

「エリアF10のエーテル集束率は!?」

「依然高い数値を維持していますが、アイオーンゲート展開には至らず」

「最初に観測したときからの推移をグラフにして表示!」

「出します!」

 香取が慌ててエリアF10のエーテル集束率の推移を折れ線グラフにしてモニターに表示する。

「これは……」

「微量ながら上昇し続けている……」

「アハ体験みたいな微々たる変化だけど、確実に何かがまだ起きるよ」

「現在のペースだとゲートが開くまで何時間かかる」

「いま、算出しています……」

 吾妻が計算している間に、レキはゼノビア以外の戦力を投入すべきかどうかを考える。

 ウンディーネの件でシティガードに散々嫌味を言われた後だ。討伐失敗は避けたい。

 だが、現状でわかっているのは、確認できたのがモンスターの身体の一部であるということだけ。それもその一部だけで200メートルもあるという。

 では、完全体になったらどれだけの巨体になるというのだ。

「出ました。あと五時間です」

「五時間、か。流石に長いな。山城、他の三人は動かせるか?」

「日向と鈴谷が可能です」

「ツキヒとミクか……」

 二人のグリモアルマはどちらも近接型。あの巨体相手に近接攻撃を仕掛けるというのは無謀のように思える。

 あの巨体相手ならば遠距離から攻撃可能なクオンのビルキスのほうが適任ではあるのだが――。

「ビルキスは先の戦いのダメージが抜けきっていないため、と北上が出撃を拒否しています」

「仕方ない、か」

 完全に修復できない以上、ビルキスを出すわけにはいかない。

 戦って勝利し、ページを回収することができれば戦闘力向上に直結するが、万全でない状態で戦って敗北すれば何にもならない。

「コヨミにはあと一時間そこで待機するように伝えろ。交代でミクを出せ」

「了解しました」

「問題は、本当に五時間も待ってくれるか、だな。ドクター、新人のほうはどうなった。ここに来たってことはそれなりに成果を出せたんだろうな」

「ん? いや、あれ無理」

 と、あっさり言い切るとドクターはタバコを咥える。

「無理、とはどういうことだ。あれもウィザードだろう」

「ウィザードもウィザード。過去に類を見ないほど優秀な、ね。ただその優秀さが問題なのよさ。何せ解析済みも未解析も、ウチに保管されている魔導書すべてが反応。しかしそのいずれもに適合せずとか、あり得ないでしょ」

「妙な話だな。過去に類似の事例は?」

「あるわけないでしょうが。過去のウィザードはいずれも反応したのは一冊。当然ほかの魔導書に適合する訳もなし。他国支部にも問い合わせたけれど類似する事例は一切なし。そもそも複数の魔導書が反応する事例そのものが報告なし! ここまでないない尽くしじゃあどうしようもないわさ」

 と、完全に自棄になったように笑う。

「――ま、一つだけ言えることがある」

「急に冷静になるな」

「あのコ、怪しすぎるわ」

 紫煙を噴きながら、レキに向かって言い切った。

 その目は、いつもの雰囲気とは異なり真剣そのものであった。

「……ウィザード相手に監視をつけれるわけがないだろう」

「それもそうなんだよなあ」

 仮に悪意があってアビスアルターにやってきていたとして、その相手がウィザードであった場合は状況を確認し、整理してその状況から脱する手段を短時間で導き出せる。

 一見不可能なような状況であっても、魔術を使えばその状況をひっくり返せる。

 ウィザードの監視にはウィザードをつけるしかない。それも魔導書を扱えるウィザードを。

「狭霧セツナに関する件は保留だ。それよりも問題なのは正体不明のモンスターがどこへ逃げたか、だ」

「空中からドローンが振動を感知。追尾していますが……」

 観測した振動から割り出した移動経路をメインモニターに表示する。

 と、奇妙な動きをしている。

 まるで円を描くような動きで、エリアE9を周回している。

 加えて、少しずつ検知する振動が小規模になっている事からモンスターは少しずつ深い位置へと向かっているようである。

「何故そこまで深い位置に向かう」

 何が目的だ。なぜ深い場所へ向かう。

 まさかアビスアルターを直接攻撃しようとしているのか。

「ちょっと待てよ……まさかここって」

 吾妻が何かに気付いてコンソールを操作する。

 自身の目の前のモニターに表示するのは、セリオンシティ建造時のデータ。

「やっぱりッ。司令、エリアE9の地下には古い水路が存在しています」

「水路? 何のだ」

「今は使用されていない汚水処理施設が処理水を排出する為の水路です。行先はシティ内の各河川。老朽化と新しい処理施設の感性に伴い使用されなくなったのですが、奴が通れる程度の大きさがあります」

「それでは……ヤツはまさか」

「その水路を通ってシティ本体を襲おうとしているのか?」

 と、レキ自身が口にした瞬間。それは違うと彼女自身の直感が告げてくる。

 そもそも、今逃走しているモンスターは不完全な状態。なのに、その状態で本気で侵攻するつもりなのだろうか。

 否。否である。

 だとすると、何かの準備。

「偵察隊を水路の出口に向かわせて状況観測。何か異変があれば即座に報告。香取、アレイスターには行動パターンも追加入力して検索」

「はいっ」

「念のためシティ内にツキヒを配置。メイガススーツまでは許可。グリモアルマに関してはこちらの指示を待つよう通達」

 今打てる手はこのくらいだろうか。

 あとはアレイスターの返答待ち。

「えっ……これって」

 香取が手を止めた。

 アレイスターからの返答があったのだ。ただし、特定できたというわけではない。

 可能性として、いくつかの候補まで絞れた、というだけの返答だ。

「司令。アレイスターからの返答あり。候補として二種のモンスターを提示してきました」

 香取の操作で、メインモニターの一部にアレイスターが提示したモンスターの名前と特性が表示される。

 一つ。サンドワーム。地中を移動し、地盤そのものを破壊する地形破壊に特化したモンスター。

 そしてもう一つが――バジリスク。有毒物質を精製し、それを散布するモンスターである。

「サンドワームは除外していい。もしそうならさっさと街を目指すはずだ」

「ではバジリスク、ですか」

「厄介ですね」

「地中に向かえる機体があればさっさと撃破できるんだけどな……」

 ゼノビアでは無理だ。ロスが大きすぎる。

 比較的簡単に地中へ向かえそうなビルキスは出撃不能。

 残る二機のグリモアルマ、ペンテシレイアとニトクリスも難しい。

 出口から逆行するにしても、戦闘する位置によって市街地の真下でグリモアルマを顕現させなければならなくなり、そうなると都市機能に多大な影響が出る。

 それだけは避けなければならない。最悪、人命にかかわる問題に発展する。

「ヴィルヘルミナなら、あの超振動で地面を掘り進めるんだろうけど」

「ドクター、戦力ではない戦力をアテにしても仕方ない。すべては、奴等が動いた時に――」

「司令! F10のエーテル集束率上昇! 大幅に予定時間が繰り上がります!」

「なんだと」

「アイオーンゲート、今すぐにでも開放されます!」

「ツキヒとミクにスクランブル発令。コヨミはそのままF10へ直行」

 嫌な予感がする。それは指令室にいる誰もが感じていることであった。



 森の中で踊る少女がいる。

 くるくると回り、楽しそうに笑ったような表情を作っている。

 これから始まる狂演を待ち望むかのように。

 だが、それが人ではない何かであるというのは、遠目からでもわかった。

 なにせ、足先の向きと胴体の向き、そして頭の向きまでおかしい。

 それはまるで人形。等身大の人形だ。

 造形は人間のようでありながら、異質。不気味の谷とも少し違う、見てはいけないものを見ているように思わせる神秘性。

 にもかかわらず、それは人の心を惹き付けるほどの美しさも兼ね備えている。

「来るよ、来る来る。離れた半身。結んで繋いで生まれるの――」

 一人きりの舞踏会。その最後に天を仰ぐ少女。

 すべての身体のパーツが正しい位置に揃うなり、彼女の足元が盛り上がり、その何かはうねりながら自身が向かうべき場所へと向かって地面を進んでいく。

 姿の見えない巨体を見送った少女は、誰も見ていないというのに、スカートの裾をつかんで持ち上げ頭を下げる。

「――バジリスク」

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