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 ウンディーネ戦の後、実際に交戦したクオンは指令室に呼び出されていた。

 言ってみれば反省会。そして、またも現れた謎のグリモアルマについての報告。

「今回の敗因は攻撃手段の選定ミスだな」

「そうです、ね」

 そこは素直に認める。

 あの時電撃ではなく、最初から冷凍光線を放つか、超高熱の熱線を放っていれば結果も変わっていただろう。

 尤も。電気分解するにしろ凍結させるにしろ蒸発させるにしろ、軽く十メートル以上の人型になった水の塊全体に効果が及ぶまでどれだけの時間が必要になるだろうか。

「まあまあ、責めないのレっちゃん。どうせあんなの勝てないって」

 と、ドクターは笑い飛ばす。

 流石にこれはレキも眉間に皺をよせる。

「レっちゃんも解ってるんでしょうに。あの場所じゃあ生半可の攻撃は通用しなかった。電気は純水だから通じない。凍らせようにも一点だけではすぐにその部位を切り離されて効果的じゃない。じゃあ熱で、となってもそこまでの高熱を出したところで足元にある海水で冷却してきてどうしようもない。最初から――アイツが海に陣取った時点でこっちは成す術ナシだったわけだ」

「だが。結果として撃破はできた」

 そう。一見撃破が不可能に見えたモンスターであったウンディーネであったが、まるでビルキスを助けるように顕現したあのグリモアルマが撃破した。

「アレイスターから返答はあったか」

「はい。流石に今回の戦闘で得た情報を入力したところ、ヴィルヘルミナ、という名前が返ってきました」

「ヴィルヘルミナ――それがあのグリモアルマの名前か」

「能力は超音波――というより振動そのもの、か。でなければウンディーネを蒸発させた攻撃の説明がつかない」

「それで、クオン。実際にあれを見てどう感じた」

 レキのその質問に、クオンは一拍置いてから語りだした。

「あれは敵ではありませ、ん。かといってあれは現状味方でもありませ、ん」

「ふむ。不思議な評価だな」

「前にゼノビアと戦闘になったのは、こちらから攻撃を仕掛けたか、ら」

「では、奴の目的はなんだと思う?」

「やはりページの回収でしょう、か」

 ふむ、と何か納得したかのようなレキ。ドクターのほうもクオンの言葉を聞いてうんうんと頷いている。

「わかった。下がっていいぞ」

「失礼しま、す」

 一礼し、指令室から去っていくクオン。

 その背を見送り、レキとドクターは互いに顔を見合わせた。

「やはり、モンスターから抜け落ちるページには何かあると考えるのが自然か」

「現状私達の知っている情報はアレイスターから部分的に開示された情報と、状況証拠くらいだものね。原初の魔導書のページ。全部集めるとどうなるのか、興味は尽きないわ」

「そうだな。だが、まずは――山城、吾妻。こちらの被害報告」

「出撃が遅れた第三部隊以外出撃した部隊は全滅。うち一機はあのグリモアルマ――ヴィルヘルミナに使われて大破。残ったフレームは回収部隊が回収しました」

「周辺地域への被害についてですが、ウンディーネ撃破時の爆発で埠頭の施設に深刻なダメージが発生。修復にはシルキーを投入しても最短三か月だそうです」

 これでも被害は最小限、といって良いだろう。

 いきなりグリモアルマで戦いを仕掛けていたら、あの超音速で振りぬかれる水の鞭に切り裂かれて貴重な魔導書を使えるウィザードを失っていたかもしれない。

 それでも八機ものミツルギを失ったというのは手痛い損失ではある。

 加えて本土との交易拠点の一つが三か月も使えないとなるとそれもセリオンシティ全体の物資供給への影響は避けられないものになる。

「香取、ガードからは何と?」

 レキが最も気にしているのはこれである。

 アビスアルターとシティガードは互いに互いの粗を探して徹底的につつきあうような関係。

 今回の戦いでは、アビスアルター側の戦力は何の成果もあげておらず、第三勢力によって事態が解決してしまった。

 おまけに南埠頭をはじめとした港、空港などは軍部の管理地区。つまりシティガードの上位組織の管轄下にある場所だ。

 そこで好き勝手に暴れた挙句何もしていないのだから、当然つついてくるはずだ。

「埠頭の壊滅という結果は大変遺憾である、と」

「貴様等の到着が遅いからだウスノロ、と返しておけ。全く。グリモアルマでどうにもならんかった相手にアルマでどうにかできるものか」

 ウンディーネ。間違いなくこれまで現れたモンスターとは一線を画すモンスターである。

 下級のゴブリンやドライアドなど足元にも及ばない。

 最低でも中級。海上に陣取っていれば上級に匹敵、といったところかもしれない。

「初の上級モンスターかもしれんな」

「あの、司令。少し気になったことがあるんですが」

「なんだ、香取」

「クオンさん、普段は妙なしゃべり方をしてますけど、ビルキスを使ってるときは普通に喋ってますよね。あれ、なんでなんですか?」

 一瞬、レキの眉がピクンと動いたが、別段怒る様子もなく少し考えこんだ。

「説明していなかったか?」

「あ、俺たちも聞いてないですね、なあ吾妻」

「おう。ずっと気になってたんですけど、なんか聞き辛くて」

「ドクター、お前の出番だ」

「うぇ!? 今からポテトチップス食べようとしてたのに!? いやまあ、いいか」

 と、一度咳払いしてからドクターが意気揚々としゃべりだす。

「ウィザードは通常の人間と異なり、情報の処理能力に優れている。それは脳に特殊な領域を持つからであり、それ以外は普通の人間と変わらない。そう、変わらないんだ。三桁同士の乗算除算を普通の人間がひっしこいて説いている間に――それこそ筆算しようと一文字目を書いた途端に回答できてしまうけれど、結果だけ見れば回答したという点では変わらないだろう。あ、これこのまま続けるとかなりズレてくる奴だ。軌道修正っと。ウィザードがいくら処理能力に優れるからといって、限界がないわけじゃない。クオンの場合はね、入ってくる情報量が多すぎるのさ。好奇心旺盛というか、警戒心が強いというか。で、それをすべて処理しようとして、許容範囲ギリギリのところを常にキープしている。なのにそこに会話という高等作業が加わるとさすがに無理が出る。その結果、しゃべってる最中に()()()()()()

「しょ、処理落ち!?」

 まさかの言葉に吾妻が声を荒げた。

 その横では香取と山城が長すぎる上にマシンガンのような勢いでしゃべりだすドクターについていけず、頭を抱えていた。

「そ、処理落ち。まあそれでもできるだけ長文をしゃべろうと気合で何とかしてるみたいだけど。そして、なぜビルキスを使っている時だけ普通に喋るのか、という点に関しておそらくはビルキス自身がクオンの情報処理を補助しているからだろうさ」

「グリモアルマが補助、ですか。もしかしたら他のグリモアルマもそういう機能が?」

「さあ。そこらへんは調査中。ほら、オペレーター諸君。本来任された君らの職務を果たしたまえ。特に山城くん。キミの仕事は遅れ気味だぜ?」

「あ、はい」

 そう言って本来の業務に戻させる。が、レキが自分のほうを睨んでいるのに気づき、ドクターも黙ってコンソールのほうに向き、自分の作業を始める。

「しかし……現状のグリモアルマの戦闘力だけでは対処しかねる敵か。戦力強化は急務ですね」

「けどどうする。グリモアルマの基礎性能を上げるにはページの回収をしなきゃだろ」

「で、回収するにしたってモンスターが倒せないんじゃあ意味がないだろ。それに――」

「もたもたしてるとヴィルヘルミナに全部持っていかれる、か」

「いっそのこと武器とか作れないのかね」

「それだああああああああ!!」

 と、オペレーターたちの話を聞いていたドクターが叫びながら立ち上がった。

「それだよ、吾妻くぅん! なんでこの発想に至らなかったんだ! グリモアルマが人の形をしているのならば、人が使う武器と同型のものを使うこともできるはず! いや、それだけに囚われない武器も可能かもしれないな!! これは、腕が鳴るぞ!」

 と、コンソールをものすごい勢いで操作し始めるドクター。

「気合が入るのはいいが、本来の役職を忘れないでくれドクター」

 そうは言ってみたが、すでにレキの言葉などドクターは話など聞いていない。

 レキは諦念をため息とともに吐き出した。



 ウンディーネが出現した同日の深夜――セリオンシティの郊外にある森林。

 人工的に生み出された環境ではあるが、そこには確かに生態系が生まれ、自然に生まれたものと遜色ないものがそこにはあった。

 本土と違いクマやイノシシといった危険生物、シカなどの万が一が起きうる大型生物もいないこの場所は、休日ともなればハイキングやピクニックなどで人気のある場所である。

 だが、やはりそこは人工的に生み出されたもの。あるいは――隠しておきたい何かを隠すためのカモフラージュとして作り出された環境。

 少しばかり深めに地面を掘り返せば、それが露になる。

「――――」

 その少女は、地面に触れると目を閉じて()()

 しばらくして、目当てのものを見つけたのか、少女の顔が明るくなる。

 その表情を見つめているのは、いくつもの小さな目――小鳥やウサギといった小動物ばかり。

 もしここに人間がいたらどのような感想を抱くのか。どのような感情を抱くのだろうか。

 きっと、その時の少女の顔は、そう。人の一般的な感性からすれば――不気味、だろう。

 カタカタと細かく揺れるそれは、人と寸分違わぬ容姿をしていながら明らかに異質なものであると物語っている。

 ぐるん、と首が回る。上半身だけが反転し、それから遅れて下半身が上半身に追随する。

「まだ、今じゃない。けど、もうすぐ」

 そう言って、少女は手のひらから紙切れを一枚生み出してそれを地面に放り投げる。

 ひらひらと、静かに地面にふれたそれは、まるで水面にでも触れたかのようにゆっくりと地面めがけて沈んでいった。

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