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 小規模とはいえマギスエフェクトが発生したことで都市機能に影響が出ている。

 討伐完了したのが陽が沈むくらいの時間であったということもあり、月が昇っても街の明かりはついていない。

 交通機関も信号代わりに警察官が指示灯を振って交通整理。そもそも車そのものも電子機器を扱ったものは軒並み機能を停止。カーナビなんて当然使えない。

 都市部全域を回る環状線は当然機能せず、通信網も有線回線以外軒並みダウン。

 一番の被害を受けたのは医療機関。機械類の一切が使用できない為入院患者たちの命に係わる問題に発展。

 流石にこれに対してはシティガードが動き、大容量バッテリーとマギスエフェクトの影響下においても稼働し続けられる旧型発電機を使い、病院の機能だけはなんとか確保した。

「……で、俺たちの機体も発電機として使われる訳、か」

 高雄はサキモリの操縦席に座り、ただ動力部を稼働させ続けている。

 モンスターと近接戦を行うこともある戦闘用アルマは当然ながらそれらの発するマギスエフェクトにある程度の耐性を持たされており、こういった場面では発電機に早変わりする。

 とくに、今日は派手にぶっ壊された機体がいっぱいある。それらをすべて発電機として稼働させれば、都市全域の重要施設くらいは通常時と同程度とまではいかないまでも、最低限の設備を稼働させることくらいはできる。

「まあこれも再出現を警戒してのことなんですから、我慢しましょうよ」

「解ってるよ、んなこたぁ」

 シティガードがモンスターを撃破した後、三十六時間以内の同一ポイントでの再出現率は五割程度。

 それを過ぎると一気に確率は加速度的に低下し、四十八時間を超えるとゼロになる。

 つまり丸二日間。その間は警戒しておく必要がある、ということである。

 とはいえさすがに撃破から三時間もしないうちに再出現することも珍しいのだが。

「ところで隊長。あのメイガススーツの女からどれだけ話を聞き出せたんです?」

「さっぱりだ。ただ、モンスターってのが俺たちの思ってるより厄介な奴だったってのは判ったぞ」

「厄介っすか?」

「そりゃあ放置すると何が起きるか分からないなんて言われたら、どうにかしなきゃとは思うだろ。尤も……」

 早急に相手を処理するならばシティガードの戦力では到底足りない。

 というよりは、中級以上になるとまるでこの世の理とは別の法則の中に存在しているかのように、こちらの攻撃がほとんど効いていない。

 下級モンスターですら集中砲火でようやく一体まともに倒せるかどうか。近接攻撃のようにある程度の質量を持った攻撃ならば有効打にもなりうるのだろうが、その近接戦を挑めばモンスターが放つマギスエフェクトの影響で機体が機能停止する可能性が高くなる。

「どう考えたってAA(ダブルエー)に任せたほうが被害が少なくなるんだよなあ」

 情けない話だ、とため息をつく。

 と、メインモニターの端で一瞬強い光が見えた。

 照明の類などではない。

「拡大して再生」

 OSに指示を出し、強い光が発生した場所を拡大し、それを確認した数秒前から映像を再生する。

 シティガードの隊員の一人であるのは、制服を見れば疑いようはない。

 彼は制服の胸元に手を突っ込むとタバコの箱を取り出し、慣れた手つきで箱を振って一本だけ取り出して咥える。

 続いてライターを取り出し、火を出した瞬間。その火は火柱となりそれに驚いた男はライターから手を放す。

「なんだ、これは」

 普通ではない。何が起きている。

 計器類に大きな異常はない。いや、一か所だけ正常時と異なる数値を出すものがあった。

「酸素濃度が増加している……?」

 なるほど。ライターの火が火柱になったのはこれが理由か。

 いや、だがしかし。問題なのはどうして酸素濃度が増加していっているのか、という話である。

「おい、AAに問い合わせろ。こっちのセンサーじゃ捉えられていないものがあるかもしれん!」

「え、何が……」

「計器見ろ! 微量ずつだが、周辺の酸素濃度が上昇していっているだろ! こんなの自然に起こり得るものか!」



 シティガードからの連絡を受けたアビスアルターは即座に調査を開始した。

 局地的な酸素濃度の上昇。たしかにこれは自然現象ではありえない。ましてや夜であるし、植物が酸素を吐き出しているという可能性はない。

 そもそも、そうだとしても一方的に上昇し続けるというのもおかしな話である。

「マギスエフェクトは未確認。あるいは、こちらが探知できないくらいの微弱なものである可能性もあります」

「アイオーンゲートの展開も未確認。ただ酸素濃度だけが上昇し続けています」

「……」

 判断がつかず、レキは頬杖をついて膝をゆする。

 ついさっきも反応が微弱すぎて捉えきれなかったばかり。

 モンスターが出現している可能性が否定できない。というよりは、異常な現象が起きている以上はモンスターが潜んでいると考えて間違いない。

 問題はそれがどこのポイントか、という話だ。

「報告のあったエリア以外からも確認されているせいで特定が困難です」

 オペレーター三人が必死になって調べようとしているが、結果は芳しくない。

 ただ判っているのは昼間にモンスターが出現した場所と同じ場所で酸素濃度が上昇し続けているということだけ。

「このペースのままだとあと二時間で頭痛を起こす濃度に。三時間で呼吸困難、四時間後には呼吸不可能になります」

「三時間。それがタイムリミットか……」

 時間が足りない。

 酸素濃度が高まり続けているのはE5、G4、G6。昼間にモンスターが出現した場所、というのは間違いなく何らかの関係がある。

「周辺エリアにも捜査範囲を広げろ。それで見つからなければ……ウィザードによる現地調査を強行する」

「了解」

 マギスエフェクトによる都市部への影響が、などと言っていられない。

 三時間を過ぎれば三つのエリアはありとあらゆる生物の生存を拒絶する超高濃度領域になる。

「アイオーンゲートの反応感知! 場所は――」

「F5だと!?」

 ノーマークの場所からの反応に、レキは声を荒げる。

 だが、そのエリアは異変の起きている三か所に挟まれるような形になる場所である。

「やられた。ここが本体だ!」

「モンスター、顕現――いえ、地中から出現します!!」

「映像出せ!」

 メインモニターが切り替わり、マギスエフェクトの影響を受けない遠距離からの拡大映像が表示される。

 そして、またもや異様な姿に指令室は絶句する。

「なんだ、あれは……」

「巨大な、木?」

「周辺の建築物との比較から、およそ40メートル。出現と同時に周囲の酸素濃度上昇。本体周辺の酸素濃度、すでに生物生存の限界値を越えています!」

「アレイスターから応答あり。トレントです!」

「出撃可能なグリモアルマを総動員。早急に撃破する」

『ちょっと待ってください!』

 そう、指令室に飛び込んできた声は、ツキヒのものであった。

『相手の目的はともかく、酸素濃度が高い空間での戦闘は避けるべきです』

「ではどうやってアレを始末する。放置すれば、生物の存在を拒絶する超高濃度酸素領域が生まれるだけだぞ」

『ですが、あの酸素濃度では少しの火花でも大爆発になります! ましてや、鈴谷さんがやったら大惨事を起こしますよ』

「……」

 説得力がすさまじかった。

『ニトクリスも攻撃の際にどうしても金属同士が接触。ゼノビアに関しては論外。ビルキスは――』

「ビルキス以外では対処不能だ、と」

『作戦が必要だと言ってるんです』

「それを練っている時間などないぞ。何せ――」

「アイオーンゲート再展開。ヴィルヘルミナ、顕現しましす!」

「バカが動いた」



 巨大な金属製の樹木。それが周囲の大気の成分を書き換えていく。それは自身に都合のいい環境を作るため、だけではない。

 そうすることで、別の目的も果たせるからである。

「育て、育て。もっともっと。天へ伸び門に届け、鍵を開け」

 くるくると舞う少女。その眼前に巨人が降り立った。

 ヴィルヘルミナ。降り立つなり強烈なマギスエフェクトを少女のほうに向けて放出し、足場ごと吹き飛ばそうとする。

 が、実際に放たれた魔術的衝撃波では少女そのものは一切傷を負わず、立っていたビルの屋上のみがごっそりと吹き飛んだ。

 続けて巨大な拳が少女へと迫る。が、直撃する寸前に拳が止まる。

『オオオオオオオオ!!』

 唸り声を上げながら、拳を押し込もうとするが、全く拳が進んでいかない。

「無駄。無駄無駄。今は届かない。お前の力では届かない」

 少女の目がカッと見開かれた。その瞬間、ヴィルヘルミナは巨大な何かに殴られたかのようにくの字になりながら吹っ飛ばされ、そのまま地面を割って出現した機械の大木に激突する。

 叩きつけられ、四肢を力なく垂らしてうつ伏せに倒れ込む巨体。

 すぐに拳を地面に叩きつけながら立ち上がり、少女を睨みつける。

「狂乱せよ。――トレント」

 そう告げ、瞳孔が開いた笑顔を見せた少女は夜の闇へと消えていく。

 攻撃すべき対象を失ったヴィルヘルミナは、自身が背にしているものへと視線を移す。

 自身の頭頂高をはるかに上回る機械の巨木。

『――――』

 巨人はその巨木めがけて両肩のウィップスマッシャーを伸ばす。

 が、その攻撃が届くことはない。

 二つのウィップスマッシャーの切っ先は何かにぶつかり、弾かれる。

『圧縮された空気の防壁……違う』

 伸び切った鞭を巻き戻しつつ、攻撃を弾いたものの正体を推測する。

 圧縮した空気による防御。それは考えたが、その場合光の屈折率が変わるはずであり、周囲の景色と異なって見えるはずだ。

 だとしたら何だ。

 何が攻撃を弾いた。

 それを確かめるために、もう一度ウィップスマッシャーを放つ。

 案の定、その攻撃は再び弾かれる。

 が、今度は感覚を掴めた。

『なるほど、な』

 それを確かめると、ヴィルヘルミナはぐっと膝を屈めて勢いをつけて跳び上がり、先ほどよりも高い位置から、今度は振り下ろすようにウィップスマッシャーを振り下ろす。

 先ほどまでは点での攻撃だった故、簡単に弾かれた。だが今度は打撃。面での攻撃である。

 振り下ろされたウィップスマッシャーは目視できない何かを叩き、その勢いでヴィルヘルミナはさらに高く跳び上がる。

 それを繰り返し、空を駆けあがる巨人。

 やがてその高度は、巨木の頂点を越えて巨木の全体像を俯瞰できるほどの高さに達した。

 が、空中でまともな身動きができないヴィルヘルミナめがけて巨木――モンスター・トレントから放たれた閃光が殺到する。

『ちぃっ』

 せっかく高高度に達したというのに、空中で自由に動けないが故に迎撃され、それを防ぐために身動き一つとれないまま、ヴィルヘルミナは自由落下を始めた。

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