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 エリアZ26。人工物や電子回路を使う一切の存在がないアビスアルターの所有する演習場に、ペンテシレイアが降り立つ。

 その正面にはもう一機のグリモアルマ、ビルキスの姿があった。

 とはいえ、前の戦闘から日が浅く、再生が終わっていない為か装甲表面はボロボロ。確かに戦闘に参加できるような状態ではない。

「しゃあ! 三分切ってやったぜ!」

 ビルキスが、ガッツポーズをとるペンテシレイアに近づき、その装甲に触れる。

「んで、何か判りそうか?」

「そんなにすぐ結果が出る訳ないじゃないの」

 直接触れ、ペンテシレイアの装甲に付着したバジリスクの毒を自身にもつける。

 接触面から取り込んだ毒の成分をクオン自身の分析能力とグリモアルマの機能を使ってどのようなものかを調べ出す。

 その答えは、ごく短い時間で導き出された。

「何……これ」

「どうしたクオン」

「未知の物質で出来てる。生物を蝕み、それ以外は溶かす。そんな物質」

「そういえば――」

 バジリスクが破損し漏れ出た毒霧で木々は枯れ、岩は溶けた。

 そんな特性を持つ物資などありはしない。となれば、やはり未知の物質としか考えられない。

「でも、大丈夫。中和できる物質を創造するから」

「……お前、さらっととんでもねえ事いうのな」



 ヴィルヘルミナに殴打されピクリとも動かないバジリスク。装甲の再生は始まっているが、再起動できるほどには至っていない。

 だがしかし。ゼノビアとニトクリスの前に立ちはだかるのはそれではない。

 ヴィルヘルミナ。二機と同じ、グリモアルマである。

 破損したバジリスクがまき散らす毒霧が広がる中、両肩の鞭を大きくしならせヴィルヘルミナが二機に襲い掛かる。

 振り下ろされる鞭。それをマスケットを展開して鞭を受け止めつつ二機は後退する。

 同時に後退しながらガトリングガンを生成したゼノビアが弾丸を吐き出し反撃。

 だがその弾丸は本体へ引き戻される鞭によってすべて叩き落される。

「うそでしょ!? 毎秒1000発の弾丸を全部叩き落した!?」

「うっわ。ありえないでしょ。どんだけ速く動くの、よッ!」

 今度はニトクリスが薙刀を構え、一気に距離を詰めてヴィルヘルミナに斬りかかる。

 その攻撃を、裏拳を刃の腹に当てること弾き、軌道がそれたタイミングで左手を伸ばしてニトクリスの頭を掴んでそのまま地面に叩きつけた。

「ぐっ!?」

「ツキヒちゃん!」

「大丈夫、こいつからは、殺気を感じないから。それより……!」

「解ってる!」

 大量のマスケットを周囲に展開し、その銃口をバジリスクへ向け弾丸を発射する。

 ただし、放つのは実弾ではない。

 放たれた弾丸はバジリスクに着弾。巨体が氷で包み込まれ、拘束するとともに毒がこれ以上拡散するのを防ぐ。

 尤も、バジリスクが再起動すればこの氷の防壁も容易く破られるのだろうが。

「時間は稼いだ。あとは――」

「暴れまわるこのじゃじゃ馬をどうにかするだけ、か」

 押さえつけられたままのニトクリス。自由に動く右手を地面に叩きつける。

 と、ヴィルヘルミナの真下から槍が突き出しその両脚の太ももあたりを穿った。

『!?』

 返しがついていて簡単には抜けないその槍。だがそれだけではない。

 ヴィルヘルミナの足は全く動かなくなっている。

「まだまだッ!」

 続けてニトクリスが返しのついた槍を展開。ヴィルヘルミナの前身を貫いていく。

『……ッガァ』

「ニトクリスの毒は、どうかな。生物には効かないけれど、モンスターとグリモアルマには効くのよね。その効果は――魔術的存在に対する神経毒」

 ニトクリスの能力は、武器の生成能力ではない。

 多種多様なポールウェポンの生成はグリモアルマが元々持っている機能を拡張して使っているだけ。

 本来の能力は、武器による攻撃の付属効果であるスタン。

 効果持続時間は安定せず命中した箇所にのみ効果を発揮するものの、生物に対しての神経毒のように機体の機能を麻痺させることができる。

 つまり、全身をニトクリスの生成した槍で貫かれたヴィルヘルミナはしばらくの間身動き一つとれないということである。

 これは稼働時間に制限があるヴィルヘルミナにとっては致命的だ。

「ちょ、ツキヒちゃん、なんかやばいんだけど!」

「やばいって何、が……」

 視線をヴィルヘルミナから外すと、視界に飛び込んでくる氷の塊――の内側に満ちている霧状の毒。

 封じ込められたことによって密度が増し、バジリスクの姿を覆い隠してしまっている。

「というか、これ多分再生終わってて状況を利用して毒吐きだしてるよね」

「そうとしか考えられない、かな?」

 撃破するなら今だろう。だがしかし、毒霧が充満したこの氷を砕けばどれだけの毒が周囲にまき散らされるのか想像もできない。

『ペンテシレイア、ビルキス、まもなく合流予定』

「と、いうことは」

「あの毒を無効化する手段が確立したってことでいいのね」

『ただし、ビルキスの現着まで敵撃破は待て。中和剤はビルキスしか生成できない』

 毒を中和することができるなら、遠慮なくあの大蛇を倒せる。

 問題は、ニトクリスの攻撃で身動きを封じられたヴィルヘルミナの動向。

 今は毒が効いているのか身動き一つとろうとはしない。

『……あまり、私を舐めないでもらいたい』

 それは、ヴィルヘルミナから発せられた声。

 明確な意思をもつ人の声。

「何をするつもりぃっ!?」

 バラバラと装甲が砕け、ヴィルヘルミナの姿が消え、全身を槍で貫かれたアルマのフレームが遺される。

 代わりに飛び出してきたのはメイガススーツを纏った人間。

 それがニトクリスの顔に張り付き、拳を振り上げる。

「ちょ、まさか――」

「たかがグリモアルマの頭。この状態で十分だ」

 放たれた拳は一撃でニトクリスの頭部を陥没。その衝撃で大きく仰け反り、そのまま転倒する。

「何アレ!? メイガススーツが出せるパワーじゃないんだけど!」

 ニトクリスを転倒させた直後、次の標的をゼノビアに定めて飛び掛かる。

「このっ!」

 自身と向かってくるメイガススーツとの間に防壁を展開する。

 その防壁に衝突し、動きが止まる魔術甲冑。

 が、その防壁に両手を突っ込んで強引にこじ開けていく。

「あんまり使いたくなかったけど!」

 こじ開けようとしているメイガススーツの真正面にマスケットを出現させ、即座に発砲。

 無論、避けることなどできず直撃し、人間大のものが吹っ飛んでいく。

 生身で受ければ跡形もなく吹き飛ぶような一撃。

 たとえメイガススーツを纏っていたとしても、直撃すれば形を保てても衝撃で中身が死ぬ。

「殺ったの?」

「わからない。あ、ツキヒちゃんあれ」

 上空に見える二つの機影。

 ペンテシレイアと、自身の武装であるワイズクリスタルを足場にして滞空するビルキスである。

「待たせたな」

「中和剤の散布準備、できてるよ」

「よっしゃ、んじゃあ派手にいくぜぇ!!」

 ペンテシレイアが両手に炎を纏わせながら凍り付いたバジリスクのほうへと飛び出していく。

 それに合わせ、ゼノビアがマスケットを展開。自身もガトリングガンを構えてバジリスクに向けてすべての銃身から弾丸を吐き出す。

 頭部が陥没したままのニトクリスも、四方八方から薙刀をバジリスクめがけて跳ばす。

 最初に届いたのはゼノビアの弾丸。それらが氷を砕き、大量の毒霧を周囲にまき散らしていく。

「はい、散布っと」

 まき散らされていく毒霧に、ビルキスのワイズクリスタルが散布する中和剤が混じり合い、その毒性を失わせていく。

 流石にごく近い場所は多少の影響を受けているが、それでも毒の霧の効力は無効化されている。

『――――!!』

 氷を貫いてバジリスクの本体に弾丸が当たり始める。

 そこへニトクリスの放った薙刀が突き刺さり、バジリスクの動きを鈍らせていく。

「さすがの巨体。これでも数が足りない……けどッ!」

 さらに武装を展開する。その一つ一つが、モンスターの機能を麻痺らせる猛毒を持った一刺し。

 それらが殺到し、大蛇を地面に縫い付けていく。

「いっくぜぇぇぇ! ファイヤウォール!!」

 ペンテシレイアが着地と同時にバジリスクに向けて両腕を突き出し、燃える両手を組む。

 同時に、組んだ両手から炎の嵐を噴き出して大蛇の全身を包み込む。

「突撃ィィッ!」

 その状態で、自身の背面からも炎を噴き出して加速。真正面から衝突する。

 直撃。瞬間バジリスクの装甲がまるでチーズを手で裂くかのように、裂けていく。

 頭から尻尾の先までを貫き、突き抜けたペンテシレイアが纏った炎を振り払い、見得を切る。

「爆破ッ」

 ミクの声と共に、大蛇の身体が爆ぜ、中から二枚の紙切れが飛び出した。

「ページが二枚!」

 ペンテシレイアが振り返り、それに手を伸ばす。

 一枚は伸ばした手に吸い込まれ、回収される。

 が、もう一つのページは触れる直前で視界から消えた。

「なっ」

「嘘、グリモアルマの攻撃を受けたのに……」

 横からページを搔っ攫っていったのは、先ほどゼノビアの放ったマスケットの直撃を受けたはずのメイガススーツ。

 ただ流石に無傷とまではいかないのか、全身の装甲がひび割れている。

「冗談だろ、オイ……なんてしぶとさだよ」

「こいつは渡せない。原初の魔導書のページはすべて私が回収する。いずれは貴様等のグリモアルマの回収したページも頂く」

 回収したページを掌から吸収したその魔導甲冑。しかし限界を迎えていたのか、その装甲は砕け始める。

「チッ」

 どうやらそのメイガススーツの主は顔を見られたくないのか他の装甲を犠牲にしてでも、頭部の装甲だけは維持する。

 結果、露になったのは、その場にいる誰もが見覚えのあるもの。

「アビスアルターの、制服……?」

「それに、女、か」

「……」

 一瞥するように各機を見渡し、メイガススーツの女は背を向けて歩き出す。

「逃がすと思う?」

 その進路を、ニトクリスの生み出す槍が塞ぐ。

 が、それに触れるだけで槍を分解し、メイガススーツを再構築。地面を蹴って跳び上がると、そのまま加速してどこかへと去って行った。

「クオン、追尾!」

「無理。完全に振り切られた。監視衛星も同様だから完全に見失った」

「クソがッ!」

 ミクの苛立ちをダイレクトに読み取り、ペンテシレイアが地面に拳を叩きつける。

 モンスターの撃破はできた。ページも二つ出たうち一つは回収できた。

 モンスターの持った毒はビルキスが生成した中和剤で無効化。

 地形的には壊滅的という被害ではあったが、戦果としては上々。

 ただし、生まれた新たな疑念が四人にのしかかる。

 グリモアルマ・ヴィルヘルミナの術者は、自分たちの身内の中に紛れ込んでいる。

 では、一体。誰だ。

「……可能性としては、狭霧ちゃんかな」

「まさか。アイツは魔導書に適合しなかったんだろ」

「でも、アビスアルターの職員でウィザードなのってもうセツナちゃん以外……」

「まあ、考えても仕方ない、でしょ。とりあえず後始末は後続に任せて私達は撤退しましょう」

 クオンに促され、四機のグリモアルマもエリアE9を離れていく。




 その様子を見ていた少女は、去り行く巨人の背中に向かって頭を下げる。

「次の仕込みを始めましょう。次はどこに仕掛けましょう」

 そう言って、くるくると踊りながら闇の中へと消えていった。

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