9話
あり得ない、あり得ない、雛菊の前例があるからあり得ない事はないのかも知れないけど……
それでも、あり得ない人が私の目の前に居るんですが。
「こっちが雛菊でこっちが柊だ」
「いや、分かんないっすよ!」
「そっくりすぎて見分けが付かないです」
「こっちって言われても分かりませんよね?私も先程気付いたのですが、瞳の色が違うんです。雛菊ちゃんが空色で柊ちゃんが蜂蜜色をしているんですよ」
保弘さんの雑な紹介に瑞樹さんが丁寧に私達の違いを説明し直すと2人が近づいてくる。
「っ!」
「おぉ?柊どした?」
「くっ付いてていい?」
「…もちろん!」
「怖がらせてごめんっす!俺、三枝虎徹っす!よろしく!」
「すまんな、俺は黒木雨音だ。よろしくな」
「虎徹お兄ちゃん!雨音お兄ちゃん!よろしくね!雛菊だよ〜」
「ちょっとビックリしただけ、柊だよ!よろしく!」
顔も似てて名前まで一緒とか、まともに接せる自信ないな。
雛菊も慣れるのに時間かかったのに、お前はそっくり過ぎるんだよ。
アマネ……
「それじゃ紹介も終わった事ですし、そろそろ2人を部屋に案内しても良いですか?」
「そうだな、ついでに組長のとこに挨拶に行かすから俺も着いて行く」
「分かりました」
組長さんがついでで良いのかな?
優先順位おかしくない?
保弘さんが言ってるから良いんだろうけど…
「ここが雛菊ちゃん達の部屋だよ」
「わぁー!広ーい!」
「和室だ!良い匂い」
「喜んでくれて良かった。この部屋の隣が俺の部屋だから、何かあったら遠慮なく言ってね!隆の部屋も近いから俺が仕事でいない時は隆に言ってね」
「分かった!ありがとー」
「ありがと!」
一樹さんが隣なのは安心だな。
隆之介さんには嫌われてそうだし、出来る限り一樹さんに言うのが良いかもな。
保弘さんの前では言葉だけで攻撃されたけど、私と雛菊の3人きりになった時に蹴り飛ばされたら嫌だし。
近づかないに越した事ない。
「2人は施設から何か持って来た?」
「うん!これ!」
「これは、絵本?」
「そう!お母さんが描いてくれたの!すっごく面白いよ」
「2人のお母さん凄いね!絵、めっちゃうまい」
「でしょ〜?雛菊達の宝物なんだよね!」
「うん、宝物!」
貧乏だったから本を買うお金なんて無くて、それを気にしてたお母さんが使わない紙で描いてくれた絵本。
これだけは捨てられずに守ることが出来て良かった。
柊達は一樹に絵本を自慢した後、絵本を部屋の隅にある小さな本棚に入れて、部屋を出た。
「よし、組長んとこ行くぞ」
「了解!」
「レッツゴー!」
「俺はこれで失礼します」
「あぁ、後でな」
「はい。雛菊ちゃん、柊ちゃんまた後でね!」
「「またねー!」」
一樹と分かれ、そのまま保弘さんに付いて行くと屋敷の1番奥の部屋に着く。
保弘さんが部屋の前で止まると立ったまま部屋の主人に声を掛け、そのまま襖を開ける。
「総一郎、保弘だ。入るぞ」
「たくっ、勝手に入るなよ」
「いつも居るだろ」
「来客とか居たらどうすんだ。せめてこっちが返事をするまで待ってろ」
「善処する」
「絶対、またやるだろ」
組長は保弘の図々しい態度に呆れながら、襖の前で止まっている柊達に入ってくる様に手招きをした。
「「失礼します!」」
「元気が良いね〜お前達が噂の双子だな」
「噂?」
「海斗が良く話してたからな、お前らは幹部連中の間では有名人だ」
「凄い!雛菊達有名人だって!」
「うん!凄いね!」
姿形を見た事ないのに海斗さんが話しただけで有名人になっちゃった。
あんまり注目されるとボロが出そうでヤバい。
バレたらバレたなんだけど、もうちょっと隠しときたいよね〜
「あっ!」
「あれ?」
入り口からは見えなかったが、組長の正面に行くと組長の斜め後ろに見覚えのある男性がいた。
他にもやたらニコニコしている髪がド派手な青年と
ピンク髪の女性?が座っていた。
あの女性、奥さんなのかな?でも何か違和感があるなぁ。
何だろ?
「お前ら取り敢えず座れ。色々聞きたい事もあるからな」
聞きたい事?何を聞きたいんだろ?
施設の事は海斗さんにある程度話した気がするけどな。
「まずは自己紹介からだな、俺は湊崎総一郎だ。好きに呼んで良いぞ」
「はい!総お兄ちゃん!雛菊です」
「よろしく、総お兄ちゃん!柊だよ!」
雛菊が頭を下げて挨拶したのに対し柊は敬礼のポーズを取って挨拶をした。
柊達が総お兄ちゃんと呼んだ時と柊の馴れ馴れしい態度に総一郎の後ろに居た女性?が顔を顰めた。
「少々、総一郎様に馴れ馴れしいのでは?」
「ダメなのか?まだ子供だぞ?」
「そういう問題じゃない。子供だろうが馴れ馴れしい態度は直させるべきだ」
女性?が苦言を呈すとすぐ保弘さんが反論してくれたが、やっぱりちょっと馴れ馴れしかったかな?
まぁ辞めないけど、最初から敵意剥き出しの人は私に意識が向くように操作する。
雛菊より私の方が無礼な子供だとこの人に刷り込もう。
「気にするな。俺が好きに呼べと言ったんだ。それにこんな小さいのを好きにさせねぇなんて逆に心狭いって思われんだろ。だから良いんだよ、好きにやらせとけ。こいつら、礼儀は分かってる」
「…そうは見えませんが、総一郎様がそれで宜しいなら構いません」
良かった、組長さんがあの人を宥めてくれたからちょっとだけ敵意が薄まった。
まだ、警戒はされてるけどね。
「後ろの連中も紹介しとこう」
組長さんがそういうと派手髪の青年が真っ先に手を挙げた。
「はいは〜い、こんにちわ〜僕は宇佐美日翔で〜す。よろしく〜」
「「よろしく!日翔お兄ちゃん!」」
「わぁ〜お、流石双子!綺麗なハモリだね〜」
日翔さんは間延びしたようなふにゃふにゃした喋り方で一見一樹さんの様な雰囲気があるのにこちらを品定めしてくるような目をしていた。
「おい、健。むくれてねぇで名前言え」
「むくれてないです。はぁ、私は恋河内健剛です」
「え!男の人?」
「えぇ、可愛いでしょ?」
「自分で言うか」
「「とっても可愛い!」」
「見る目はあるみたいね」
まさか男性だったとは、さっき感じた違和感はこれだったのか。
確かに良く見ると喉仏が見える、でもやっぱり綺麗な女性にしか見えない。
凄っ前世の私より女子力高い。