6話
「はいはーい!皆さんゆっくりトラックに乗り込んでくださいねー!」
一樹さんが大きな声を出して、施設のみんなをトラックの荷台に誘導している。
このトラックの荷台、改造されてるのかな?触ってみるとフカフカなカーペットみたいのが敷いてある。
これなら揺れても痛くなさそう。
「柊!すごいよ見て!トラックと車だよ〜初めて見るね!
「本当だね。あの小さいタイヤでいっぱいの人を運べるなんて不思議だね」
「ね!」
私は前世を覚えているからトラックも車もそこまで珍しく無い、なんなら通勤で良く使っていたから馴染みがある。でも雛菊は生まれて少ししてから施設に売られたから、外の事をあまり知らない。
多少は私が教えたけど、私自身もこの世界の事詳しくないから下手に教えられなかったし、これから色々楽しい事知って欲しいな。
「雛菊ちゃん達は、車見るの初めてなの?」
「そうだよ!」
「車ってお金いっぱい無いと買えないから、一般には流通して無かったからね〜」
「そういえばそうか、てか柊ちゃん、流通なんて難しい言葉よく知ってるね」
「意味分かって言ってる訳ねぇだろ、どうせ大人連中とか本とかで知って何となく使ってるだけじゃね?」
「隆はまた意地悪言うんだから」
「事実だろ」
隆之介さんが私に突っかかると一樹さんはまた隆之介さんに反論して喧嘩を始める。
「おい、お前らその辺にしとけ。双子以外はもう全員乗ったぞ。お前らを早く乗れ」
「は、はい!」
「すみません」
保弘さんにまた怒られた2人は、またショボンとして、1台だけある高級そうな車に乗り込んで行った。
「毎度騒がしくて悪いな、俺らはあの車に乗ってるから何かあったらトラックに付いてる無線で教えてくれ」
「全然大丈夫!騒がしいのはいつもの事!」
「そうそう!施設もいつも賑やかだったから、むしろ騒がしい方が落ち着く」
「そうか」
保弘はそう言うと私達を抱えてトラックの荷台に乗せてくれた。
「よし、出発するぞ!荷台から身を乗り出すんじゃねぇぞ」
保弘さんの号令でトラックがゆっくり出発すると思いの外心地良い揺れに早々に雛菊が眠ってしまい、話し相手がいなくなり、暇になったので私も寝る事にした。
「………きて……起きて!柊ちゃん、雛菊ちゃん。組に着いたよ!おーきーてー」
「ん〜?もう着いたの?」
「もう着いたのって…あれからもう2時間以上経ってるよ?それより、雛菊ちゃんが全然起きてくれなくて、起こして貰っても良い?」
「ごめんね!起こしてくれてありがと!今直ぐ起こすね」
「よろしくね!」
一樹さんは私を起こすと小走りで組の屋敷に入って行った。
トラックの荷台から顔を出して、辺りを見回すと住宅街が広がっていて、本当に施設から出られたのだと再認識した。
「雛菊〜着いたよ!起きてー!」
「う〜ん…あと5分〜」
「……甘〜いケーキが有るらしいよ」
「食べる!」
よし!引っ掛かった。昔からこの技使うと一発で起きるんだよね〜
「あれ?ケーキどこ?」
「あのお屋敷の中に置いてあるんじゃ無い?」
「そうなの?じゃあ早く行かなきゃ!無くなっちゃう〜」
そう言うと雛菊はトラックの荷台からピョンっと飛び降り、柊を置いて真っ先に屋敷の中へ入って行った。
「雛菊、早すぎる。私も早く入ろ」
屋敷の中は外と違い、私達と一緒に来た施設の人達で溢れかえっていて、ヤクザの人達が忙しそうに動き回っていた。
私小さいから下手に動いたら蹴り飛ばされそう。
「男は僕に着いて来てください〜!」
「女の子達は私に着いて来てね〜」
髪がプリンになっている青年と焦げ茶でセミロングの女性が施設の人達を誘導している。
「あれ?雛菊が居ない、何処言った?」
もしかして、迷子?私の嘘を信じてケーキを探しに行ったな。
探しに行くか、そんなに奥には行ってないと思うけど、早く見つけないと何かあったら大変。
一様、玄関に居るヤクザさんにも見てないか聞いてみるか。
「ねぇねぇ」
「ん?何だ?…チビ助どうした?」
「チビ助。まぁ、間違っては無いんだけど…柊だよ!」
「おお、そうか!俺は田代実だ!んで?柊はオッサンに何の様だ?」
「柊と顔そっくりの女の子見なかった?」
「いや?見てないな!どっか行っちまったのか?」
「そう、どっか行った。教えてくれてありがと!その辺探してみる」
小さいから誰にも見られずに通り抜けたのかな?
どうしよう、雛菊方向音痴だから来た道分からなくなって帰れなくなってるかも。
能天気だから泣いては居ないと思う、むしろ陽気に歌ってる可能性の方が高いけど!
迷子に変わりはないから、早く探しに行こ。
柊がその場を離れようとすると後ろから声が掛かる。
「柊!ちょっと待ってろ!」
「ん?」
実さんは私に声を掛けると近くに居た若い青年に何か言い、私の側まで寄って来てしゃがんだ。
「俺も一緒に探してやるよ!たった今暇人になったからな!」
「それってサボり?」
「まぁまぁ!俺が居たって大した役に立ってねぇから良いんだよ!ほら行くぞ!」
「本当に良いの?」
「良いって言ってるだろ?さっさと行くぞ!」
実さんはそう言うと私を軽々と持ち上げて、肩車をした。
「わぁ!高い!天井に頭当たりそう」
「この方が遠くまで見えて良いだろ!」
それは外の場合の話では?
それにしても、天井が当たりそうでめっちゃ怖い。
この屋敷の天井が異様に高くて良かった。
でも、肩車されるのなんていつ振りだろう。
懐かしいなぁ〜