5話
保弘は横にいる柊をジッと見つめて、疑いでは無く、確定で柊が隠したと知っている口調で問いかける。
どうして?私は何も言ってない、この人に確定される行動もしていないはず。
なのにどうして、この人は私が隠したと知っている目で見てくるんだろう。
早く……何か言わないと……
「何にが?柊は隠してないよ!」
「……」
保弘は無言のまま柊を真っ直ぐ見つめ、口を開いた。
「柊、お前とはさっき会ったばかりだが、さっき俺達を見た時一瞬俺達を探るような目を向けただろ。
子供は俺達を見たら、怯えるか、無警戒に近づいて来るか、そのどちらかが多い。でもお前は違った。お前は俺達を見て考えただろ?自分にとって敵か味方か。それが目に出てた、だから隠したのはお前だと思った」
バレてたのか。でも私が探ろうとしたのは保弘さんが言った通り一瞬でその後は出来る限り、無邪気な子供を装った。
保弘さんが私を見て同じ様に探っていると気付いたから。
保弘さんって私が思った以上に凄い人だ。
「降参!」
未だに真っ直ぐ見て来る保弘に柊は参ったと両手を挙げる。
「疑ったのはみんなを傷つける人達か知りたかったから!ここから柊達を助けて出してくれるのか知りたかったから。ほとんど、保弘お兄ちゃんの言う通りだよ!」
「そうか、俺の思い違いじゃなくて良かった。俺達が疑われるのはしょうがない、こんなナリだからな」
疑ったのは見た目の問題じゃないけど、確かにみんな厳つすぎるよね。
「まだ、完全に信じられないだろうが、お前達に危害を加える事は決してしない。保護した後は帰る家がある奴は帰す、無ければ組で面倒を見る。元々依頼してきた奴とそう言う話になってたしな。俺達にお前達が幸せになれる様、手助けをさせてくれ」
保弘さんは私と目線を合わせる為に片膝をついてくれて、真っ直ぐ目を見つめて来る。
保弘さんの目は前世の姉と雛菊にとても似ている。
素直な人間の瞳だ、私この瞳で見られると拒否できないんだよな。信じたくなっちゃう。
「ありがと!柊、保弘お兄ちゃんのこと信じるよ!お兄ちゃんの目柊の大好きな人にそっくり!きっと皆んなも信じてくれるよ!」
「ありがとな、その信頼に応えられる様努力する」
まだ、無邪気な子供の振りは辞められないけど、いつか素でこの人と話したいな。
それにこの人になら裏切られても後悔しない。
まぁ、裏切られてもタダでやられる私じゃないけどね!
「ここだよ!このテレビ台の下に地下室があるの、そこにみんながいるよ!」
「ここの施設は本当に凄いな、地下の更に地下があるのか」
「凄いでしょ!施設長は敵が多いから商品を守る為に地下室を作ったんだって。普通の人は地下に降りたら更に隠された地下室があるとは思わないでしょ?」
「そうだな、俺も他に地下室があるとは思わなかった」
施設長は敵が多い、その為商品にも危害を加える者が出てくる。そうゆう客から商品を守る為にこの地下室は作られたらしい。
私は、施設長が自分を守る為に作っただけだと思ってるけどね。
「みんな〜!柊だよ〜開けて〜!」
「合言葉言って!」
「えぇ〜」
「お母さんは!」
「猫さん」
「せいかーい!」
雛菊の声が扉の奥から聞こえてきて、2人だけに分かる合言葉を言うと明るい声が聞こえて扉がゆっくりと開く。
「今の何だ?」
「雛菊と柊だけしか分からない合言葉だよ!」
「そうなのか、意味は?」
「なぁ〜いしょ!」
1回聞いて真似されちゃうと声で判断するしか無くなっちゃうんだけどね。
お母さんの事を知ってる人なら直ぐ分かっちゃう合言葉だし。
「柊〜無事で良かったよ〜!」
「約束したからね!」
扉から雛菊が飛び出して来て、そのままの勢いで柊に抱きついた。
「雛菊、苦しいよ〜紹介したい人もいるから1回離して?」
「紹介したい人?」
柊が雛菊の背中を軽く叩き、ゆっくりと自分の体から話すと、雛菊が首を傾げる。
「このお兄ちゃんだよ!柊達を安全な所に連れて行ってくれるんだって」
「ん?それってもう買われたり売られたりしないって事?」
「そゆこと!」
柊の話を聞いた雛菊は、唖然とした顔をした後、花が満開に咲いた様に明るく笑った。
「みんな〜助けが来たよ!」
「助け?」
「このお兄ちゃんが雛菊達をここから連れ出してくれるんだって!」
「ほんとに?やったー!」
「わぁー!お母さんに会える!」
「……」
雛菊がみんなに笑顔で伝え、子供組は喜んでいたが、大人組は警戒した様な顔付きになり、黙ったままゆっくりと子供達を自分達の背中に隠す様に立った。
そりゃ〜いきなり助けが来ましたって言われても、はいそうですか、と信用する事は出来ないだろう。
此処にいる人達は騙されて連れて来られた人も多いしね。
「みんな、このお兄ちゃんは信用しても大丈夫だよ!柊を信じて?」
「柊ちゃん!何処に行ってたの!?心配したんだから!」
柊が大人組に声を掛けると、その中から茶髪の女性が柊の側まで駆けて来る。
「クルミお姉ちゃん、心配かけてごめんね?でもこの通り、全然大丈夫!このお兄ちゃんが助けてくれたの。ホラ見て怪我してないでしょ?」
柊はその場のみんなに見える様にゆっくりと1回転して見せた。
「良かった、本当に何処も怪我してないんだね。もう、柊ちゃんに何かあったらどうしようかと…」
「そうだぞ!俺達はまだ、柊と雛菊に恩返し出来てないんだからな!」
「私達は別に何もしてないんだから、恩返しして貰う事なんて無いよ?」
「雛菊も心当たり?無いよ〜」
「「「そんな事は無い」」」
「「おぉう…」」
柊と雛菊の言葉にその場にいる全員で反論され、2人とも一歩下がり、狼狽え苦笑いをする。
柊は気持ちを切り替えると話の続きを始めた。
「取り敢えず、このお兄ちゃんはみんなに酷い事しないよ!みんなの事保護して家族の所に帰してくれるんだって!もし、お兄ちゃんに着いて行ってみんなが酷い目にあったら柊が命賭けて守るから、だから信じて!」
柊は胸を張り、自分の胸を強く叩き微笑む。
それを聞いた大人組は少し考える素振りをして、お互いに顔を合わせると小さく頷く。
「柊ちゃんを信じるよ」
「ありがと!」
「正直、そこの兄ちゃんは信用ならねぇが、柊が大丈夫だって言ってんだ!信じない手はねぇだろ?」
「それで騙されても柊に背負わせねぇよ、俺らも命かけるからな」
「ありがとう!」
良かった、みんな信じてくれた。これで一安心。
保弘さんの事を信じて、この施設よりは良い環境で生活出来ると信じよう。
「柊、すまん。説得任せちまって、あの状態で俺が説得したとこで、信用されなかっただろう。柊のお陰で助かった、ありがとな」
「どういたしまして!全然大丈夫だよ!柊の出番だと思ったからやっただけ!」
柊は満面の笑みを浮かべ、保弘は柊に出会って初めて柔らかい微笑みを浮かべた。
おお、破壊力抜群の笑顔だ。雛菊には負けるけど良い笑顔。
「え〜と、何処だろ?お、いたいた。保護色過ぎて何処にいるか分かんなかったよ。今日から施設を出て別の場所に行く事になったんだよ?多分此処にはもう戻って来ないと思う。いつも通り背中のバックに手紙を入れるからルゥに必ず届けてね」
少女が鳥に話し終えると鳥は少女の手を数回突ついて、吹き抜けの中庭から羽ばたいて行った。