29話
「お初にお目にかかります。雛菊と柊の母一花と申します。私に2人を引き取らせていただけないでしょうか」
「君はいきなり来て何を言っているんだい?」
「いきなりじゃない、今日は私が雛菊と柊に会う約束をしていたの。いきなりアポも取らずに来たのは貴方の方じゃないの?」
「ッ、随分と生意気な口を利く様になったなアポの件は此処の方達に申し訳ないと思っている。だが、君が2人を捨てた事には変わりないだろ」
「…」
母さんが私達の隣に正座をして総一郎達に深々と頭を下げて自己紹介をするとさっきとはまた別の探る様な視線を感じる。
本当の母親だから安心して欲しいな、父親と違って私と雛菊と瓜二つでしょ?
誰かが化けてたら意味無いけど。
探る様な視線はきっと母さんが私達を置いて1人で逃げたから。
私達が説得して逃したと言ったがそれでも置いて行った事実は変わらない。
私達は小さ過ぎるからそれもあるだろうし。
だからこの人達は探っている。
どちらに預けた方が私達が幸せか……それとも自分達にどんなメリットデメリットがあるか…かな?
「確かに私が2人を置いて逃げたのは紛れもない事実です。2人に説得されてこれ幸いと逃げました」
「逃げた、はっ!違うだろ?君は2人を捨てたんだ」
「いいえ、捨ててません。貴方に殺されるのが怖かったから逃げた、でもすごく後悔しました。置いて来なければ良かった、もし殺されてたらどうしようって後悔しました。この子達を想わない日はありませんでした」
「この期に及んでなんて白々しい嘘を…」
「どんな苦しみにも耐えて見せます。2人を何があっても守っていきます。もう2度と置いて行ったりしない。それに柊だけを可愛がる貴方のご両親に預けるわけにはいかないので」
「お前っ!」
「私が2人を引き取ります。引き取らせてください」
母さんはまっすぐ前を見て。もう一度総一郎さん達に頭を下げた。
「お願いします」
その姿はとても堂々としていて眩しい。
母さんの心境にどんな変化があったのか知らないが、ただ震えて耐えるだけの母親じゃ無くなったんだ。
私達を守ろうと強くあろうとしてる。
「頭を上げてください、貴方にもお聞きしたいことがあります」
「はい」
「先程の柊ちゃんだけを可愛がると言うのはどう言う事でしょうか?」
「そのままの意味です。具体的には柊の瞳の色が伯爵家に代々伝わる黄金色でそれが当主の証らしいのです。だから色を持つ柊を可愛がり色を持たない雛菊は存在が無い者のように扱われているのです」
「うっ嘘です!そんなことはあり得ません!両親は2人を平等に愛しています!」
「ドゥエイさん、口を閉じてください。貴方には聞いていない」
母さんが言った事に反論を口にしたドゥエイは瑞生さんに凄まれ真っ青な顔をして口を継ぐんだ。
「伯爵家の件は理解出来ました。では次は貴方に2人を養っていく為の余裕があるかどうかです」
「正直2人を養う余裕はありません。でも、精一杯頑張ります!」
「いやぁ〜頑張るだけじゃダメでしょ〜何かぁ?具体的な計画とか無いと〜?」
総一郎の後ろに控えていた日翔がいつもの間延びした喋り方で母親に問いかける。
日翔さんの言う通り、頑張るしか考えがないのならダメだ。
何か具体的な事を言わないとこの人達は納得しない。
私も計画がないわけじゃ無いけど、今ここで言うのは無理だ。
私の後ろに誰か居ると勘付かれる。
ここは母さんに頑張ってもらうしか無い。
「…必死に働きます。私が居ない間は私の幼馴染に見てもらえる様頼んで了承を貰いました。贅沢はさせてあげられません。でも、精一杯愛します」
本当に母さんは変わった。
私達が逃した母さんはいつも震えながら私達を守っていた。
いつもドゥエイに怯えて、父方の祖父母に私を奪われるのでは無いかとずっと怯えていたのに、今は背筋を伸ばして堂々としている。
手は今もちょっと震えてるけど…ふふっ
「愛するだけか?それなら私達も愛する事など簡単にできる!贅沢もさせてやれるし、良い学校に通わせることも出来る!私達に引き取られた方が柊は幸せだ!お前は大人しく引き下がればいっ」
「雛菊はお母さんとずっと一緒にいたい!お母さんと暮らしたい!」
現実的に見たら、ドゥエイの話を信じるなら、ドゥエイの方に行った方が幸せになれる確率が高い。
でも、あの爺婆が雛菊を孫として大切に扱う姿をとても想像できない。
それに今更心を入れ替えて孫の様に扱うと言われても…あの頃の態度が綺麗さっぱり消えるわけじゃ無いだろう。
私は絶対に許さない、雛菊を居ない者としたあの害虫どもを許しはしない。
「柊もお母さんと一緒にいたい!」
私はまだ2人を幸せに出来てない。
雛菊と一緒に私は母さんに抱きついた。




