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シオンの涙雲  作者: 居鳥虎落
第1章
23/30

23話

「たのもー!」

「お菓子作らせろー!」

「うおっ!ヒナヒイじゃねぇか!」

「お菓子を作りたいんですか?」

「そう!カヌレ食べたいの!」

「雛菊自分で作ってみたい!」

「カヌレって?」

「これだよ!」



 雛菊はぴょこぴょこ跳ねながら文哉さんに本を見せる。



「これは、見た事も聞いたこともないお菓子だね」

「そうなの?」

「ぼっ、僕にもみ、見せて欲しい」

「わあ!」



 近い、いつの間にか側にロリコン料理人が居て初めて声かけてきた。

 もしかしてお菓子が好きなのかな。

 それにしても見たことも聞いたこともない?

 これだけ日本に似た世界ならカヌレくらい知ってても良いはずなのに、チグハグな世界だな。



「お菓子好きなの?」

「え!かわっ!待って近い」

「皮?川?」

「いきなり近づいてごめんね?」

「あぁ〜〜今のは気にしないで、コイツはパティシエなんだよ。だからお菓子の話はすぐにのってくるんだ」

「なるほど!」

「パティシエさんだったのか!」



 すごく意外だ、てっきりただのロリコンで更にお菓子好きが追加されたのかと思ったけど、パティシエという職人さんだったとは。



「そっ、そのカヌレ?ってどうやって作るもの?」

「この絵本に作り方載ってるよ!」

「見る?」

「み、見せて!」

「「どうぞ!」」



 雛菊がレシピ本を差し出すと、私達に近づかない様になのか手だけを目一杯伸ばし、恐る恐る受け取って1ページ1ページゆっくりと読んでいた。



「こっこれすごい!ぼっ僕の知らないお菓子がたくさん載ってる!これは一体誰が書いた?」

「柊が考えて、お母さんが書いたんだよ!」

「あ,言っちゃった…」



 雛菊を口止めしとくの忘れてた。

 4歳くらいの頃に日本のお菓子が食べたすぎてお母さんに作れるか聞いて書いてもらったことがあったんだよね〜

 貧乏すぎて食材買えなかったからプリンしか作ってもらえなかったけど、プリンも美味しかったなぁ〜



「きっ君は天才だ!可愛いだけじゃなく頭脳まで兼ね備えているなんて!そしてこれだけの新しいものを自ら作り出せるなんて素晴らしい!」

「あはは!」



 ヤバい、私が作ったなんてとんでもない。

 前世の各国の偉人たちが苦悩しながら作り上げた物なのに、罪悪感が半端じゃない。

 でも私が考えてないってなるとじゃあ誰が考えたのって聞かれて適当に母親って答えるわけにもいかないし。

 異国の本とか言っても後々墓穴踏みそう。

 本当の事なんて言えるわけないし……黙っとくか。

 前世の偉人の皆さんごめんなさい!



「このレシピ本もらっても良い!?」

「それはダメー!」

「お母さんが作ってくれたものだからあげられない!」

「そ、そうなんだ。な、なら仕方ないね…」



 私達が一斉に講義をするとロリコンは悲しそうな顔をして絵本を差し出してきた。

 そんなロリコンを見て雛菊が私の顔を見てとニコッと笑って訴えてくるので仕方なく、本当に仕方なく、ロリコンに提案した。



「あげられないけど、貸してあげる!」

「ッ!ほ、本当に!良いの?」

「その代わり大切に扱ってね!」

「もっもちろん!僕の命よりも大切にするよ!」

「命は1番に優先して!?」



 いつも遠くから見てくるだけだったから分からなかったけど、この人めっちゃ面白い人だな。

 リアクションがいちいち大きい。



「じゃあ早速作って行こう!」

「このカヌレ?ってやつを作るんだよな?」

「そうだよ!」

「どんな味がすんのか楽しみだ!」

「僕も食べて良いですか?」

「「もちろん!」」

「このレシピを見た感じ、厨房にある材料で出来る」

「そうなの?」

「良かった!」

「じっじゃあ作っていこう」

「「はーい!」」



 ロリコンさんが持ってきてくれたカヌレの材料は地球では見たことが無いものあってやっぱり異世界なんだなと思った。



「まずはバニラビーンズを削いで行くんだけど、これは2人にはちょっと難しいし、可愛い手が怪我をしたら困るから僕がやっちゃうね?」

「ありがとう!」

「お兄ちゃん優しい!(可愛い手ってのは要らないけど)」

「変態お兄ちゃん優しい〜〜可愛い手って言うのなんかキモーい」

「なんで!?じゃあ文哉さんはこの子達の可愛い手が怪我しても良いの?!」

「いや、良くないけど普通に怪我したら危ないからで良いのに可愛い手をつけるのが変態臭い」

「嘘だ」



 雛菊の笑顔にやられたのか顔を真っ赤にしていたロリコンさんが文哉さんの棒読みの揶揄いに行き良い良く反論しているし、私達と話す時よりもスムーズに言葉が出ている印象だった。

 文哉さんとは仲良いのかな?

 それともほぼ初対面の私達には緊張しちゃう感じなのか、雛菊が可愛いから変態を抑えようと必死なだけか。

 ところでロリコンの事は今どうでも良いんだけど、このバニラビーンズ、めっちゃキモイ、食べ物に有るまじき青色に黄色と兎に角色がぐちゃぐちゃになってて食欲が失せる色だ。



「バニラビーンズってカラフルだね!」

「私はあんまり好きじゃない…」

「そうなの?カラフルで綺麗だけどなぁ」

「禍々し過ぎるだろこれは、」



 雛菊は初めて見るから新鮮に映っているんだろうけど、これは絶対に綺麗なものではない。

 バニラビーンズって本来黒でしょ?どうしたらこんな気持ち悪い進化をするんだ。



「そうだろ!バニラビーンズはカラフルで綺麗って有名なんだよ!」

「こんなにカラフルな植物はあまりないし、あんまり取れないから貴重なんだ」

「柊、これは綺麗なんだって!」

「…マジかよ」



 異世界の価値観ってちょっとズレてる。

 いや、ここではこれが当たり前な訳だから、日本の感覚を持ってる私の方が変なのか?



「このバニラビーンズとバターを牛乳の中に入れて、沸騰させたら氷水で急冷」

「あっためたのに良いの?」

「良いんだよ。熱い状態だと使えないから冷やすんだ」

「そうなんだ〜」

「そうらしい、熱いまま他の材料と混ぜちゃうと焼き上がった時の中ふわがネチョネチョしちゃうってこのレシピに書いてある」

「本当だ!」



 そう言えばそんな事もお母さんに書いて貰ってた気がする。

 今更だけど、ロリコンさんお菓子作ってる時は私たちに対しても吃りが無くなるんだな。

 お菓子を作る事に集中していると私達に注意が行かなくなるからスムーズに話せるのかな?



「ひっ!雛菊ちゃん卵混ぜてもらっても良いかな?」

「良いよー!」



 そんな事なかった、私達を呼ぶのはまだ緊張するのか吃ってるな。



「ひっ!柊ちゃんは薄力粉を篩にかけてもらえる?」

「了解!」

「じゃあ2人ともお願いね」



 料理を作っている時は普通に喋ってるし、変態発言もないからロリコンと感じさせない爽やかっぷりだな。

 てか、ロリコンって私が思ってるだけで本当にそうかは確認取れてないけど、ロリコンで定着しちゃってるから名前聞くまではこのままでいいか。



 ロリコンの事はさて置き、さっきから気になってるんだけど、雛菊が使ってるの大人用の泡立て器だからデカすぎて扱いづらそうだな。

 王様からのご褒美、子供用の料理道具一式でも良かったかも。

 今更言うのは遅いから、ルーに作ってもらおうかな。

 今回だけ使うなら大きくても良いけど、雛菊はこれからいっぱいお菓子作るだろうし。



「じゃあひっ柊ちゃんの篩終わった薄力粉をひっ雛菊ちゃんの混ぜ終わった卵と合わせて置いておいた牛乳を2回くらい気分けていれる最後にラム酒を入れたら生地の完成」

「ラム酒ってお酒?雛菊達お酒飲んで良いの?」

「少しなら大丈夫、焼いたらアルコールは飛んじゃうから2人でも食べられる、けど2人は体調が完全に治ってないからラム酒は大人用で子供用には入れないよ」



 はぁ、ラム酒入り食べられないのかぁ。お酒と名の付くものを口に入れて味わいたかったのに、でも今は体調を戻す事に専念するべきか。



「そうなんだ〜残念、あっじゃあ和花ちゃんも食べれる?」

「ううん、お嬢はまだ1歳だからラム酒無しも食べれない」

「食べられないのか〜じゃあプリンは?」

「プリンは食べれるよ?」

「なら和花ちゃん用にプリン作ろ!」

「雛菊は優しいな!」



 料理長に同感。

 私は和花ちゃんの為に態々別でプリン作るなんて面倒くさいから言わなかったけど、そう言う事サラッと言っちゃうのが雛菊なんだよね。



「う〜ん、このギザギザの容器に入れるってなんだ」

「専用の容器があるんじゃね?」

「料理長、ギザギザしてる小さいグラタン皿とかないです?」

「あ?あったっけな、ちょっと探してくるわ!」

「助かります」



 そうだった、カヌレはカヌレ用の型があったの忘れてた。

 これもルーにお願いしておこう、料理道具のついでに他の型も作ってもらおうかな。



「待たせたな!こんなんで良いか?」

「どうだろ?ひっ柊ちゃんこれでいい?」

「うん!大丈夫だと思う!」

「これで焼けるって助かりました」

「料理長ありがとう!」

「これで美味しいカヌレが出来るよ!」

「おう!」



 料理長が持ってきたのはカヌレ型にかなり似ているグラタン皿で完璧には形にならないかもしれないけど、限りなく完璧に近い形のカヌレが出来そう。



「後はこのカヌレ生地を冷蔵庫で2時間寝かせて、型に入れて50分焼いたら完成」

「冷蔵庫にレッツゴー!」

「2時間待つの?お腹すいたー!」

「その間にプリン作る?」

「作る!」

「そうだった、プリンも作るんだ忘れてた」



 プリンは比較的簡単で作りやすかったけど、小さい体でやるとどうしても時間がかかって完成する頃には2時間なんてあっという間だった。

 後は寝かせたカヌレ生地を焼くだけで、溢すといけないので私と雛菊は生地を型に入れるのだけ手伝って後はロリコンさんにやってもらった。



「今更だけど、パティシエさんの名前聞いてなかった!なんてお名前?」

「ぼっ、僕!?」

「パティシエさんはお兄ちゃんしか居ない!」

「お兄ちゃんしか知らない!」

「そっそうだよね!?ぼぼっ僕は、いっ犬島和希いぬしま かずきです」

「和希お兄ちゃん!よろしくね!」

「はぁぁぁぁぁぁ!幼女に名前を呼ばれて、おっ、お兄ちゃんとまで!?よろしくぅぅぅ!」

「あれ?文哉お兄ちゃんは猫さんで和希お兄ちゃんは犬さんなんだね!」

「……そんな可愛い天使の様な声で残酷な現実を見せないで…」

「あははっ、苗字の事は余り言わないであげて、結構気にしてるから。コイツが」



 文哉さんは苦笑いしながら横で落ち込んでいる和希さんを親指で指す。



「文哉さんと対照的に見られるのはちょっとキツイ」

「嫌って意味か」

「違う!恐れ多いって意味だよ!分かってて言ってるよね!?」

「バレたか」

「仲良しだね!」

「楽しそう!」



 さっきも思ったけど、和希さんは文哉さん相手なら吃らないんだな。

 料理長には敬語使ってたのに文哉さんにはタメ口で喋ってるし。

 長い付き合いとか、親しい間柄なのかも。



「コイツが生まれた時からの付き合いだから腐れ縁みたいな感じだね」

「ぼっ僕が生まれた時に隣に住んでた高校生の文哉さんに良く面倒みてもらってたんだって、その頃の事は良く覚えてないけどね」

「へぇー!生まれた時からなんて本当のお兄ちゃんみたいだね!」

「ね!兄弟だ!雛菊達と同じだ!」



 やっぱり、親しい間柄だった。

 2人が醸し出してる雰囲気が信頼してる感じで、そうじゃ無いかなって思ったんだよね。

 言動とかがなんとなく似てるし。



「そんな事より、カヌレが出来上がったみたいだよ?」

「もうそんなに経ったの!」

「ほんとだ!良い匂い!」

「暑いから触るんじゃねぇぞ!」

「「はーい!」」



 私と雛菊は触っても暑くない様にミトンを付けてオーブンから出されたカヌレをお皿に盛り付ける分と袋に入れてラッピングする分に分ける。



「ゆっくり、ゆっくり」

「慎重に!気を付けてね!」

「うん!分かってる!」

「はぁ、幼女が頑張ってる姿メシウマ」



 恐る恐るカヌレを盛る雛菊の真剣な顔マジで可愛い、いつもニコニコしているから余計にレアで可愛い癒されるな〜。

 横でガン見しているロリコンは無視しよう。あ、文哉さんにしばかれた。



「盛り付け終わったよ!」

「美味しそうにできた!」

「凄いなヒナヒイ!お前ら天才だ!」

「初めて作ったとは思えないよ。すごく上手」

「そ、それに美味しそう、」

「えへへ!みんな手伝ってくれてありがと!」

「手伝ってもらえたから上手に出来た!ありがと」



「じゃ!作った人特権で出来立ての食べよ!」

「食べよ!食べよ!一番乗り〜」

「「いただきます!」」

「「「頂きます」」」



 はぁ〜、これこれこの味だよ。

 前世で姉さんが良く作ってくれた味に似てるよ。

 この世界では卵とかめっちゃ高いし、貧乏で買えなかったけど、お菓子食べれるなんて湊崎組に来て正解だったな。



「ん〜!美味しい〜!初めての味!」

「美味しいねぇ!」



 雛菊は正真正銘人生で初めてのお菓子だから私よりも感動がすごいかも。

 幸せそうに食べてて私も嬉しい。



「これは不思議な食感!外カリ中ふわで洋酒が良い味わいを出してる今まで食べたお菓子とは全く違う新しいお菓子だ!これを考えたひっ柊ちゃんは本当に可愛くて天才!ひっ雛菊はお菓子作りの天才だね!」

「確かに美味しいけど、お前お菓子の事になると本当に饒舌だね。後お菓子の感想に混ぜてキモイこと言うな2人が引いてるよ」

「ん?引いてないよ!」

「うん、引いてないよ!」

「うめぇ!出来立てなのがより良いな!」



 3人も喜んでるみたいで良かった。

 1人は別の事で喜んでるみたいだけど、私は本当に引いたよ、急に来ると構えてないからゾッとするよ。



「これみんなに渡しに行こ!」

「プリンも渡しに行こうね」



 言うと思った。まぁ、その為にいっぱい作ったんだから配らないと勿体無いよね。

 この量5人で食べきるの絶対無理だし。


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