2話
部屋の中を覗くと中にはボディーガードの男3人が床に転がっていた。
部屋の真ん中には施設長とそれを囲む5人の日本で言うところのヤクザの様な風貌の男達がいた。
「オラァ!テメェがやってる事は全部証拠が揃ってんだよ!」
「ウガッ!」
「大人しく貴方が隠している"商品"の所に案内して頂けませんか。貴方自ら案内して下さるなら、苦しまずに済みますよ?」
青髪で長身の男性が施設長の胸ぐらを掴みながら顔面を殴り、その横で黒髪で中性的な男性がニコニコと微笑みながら施設長を脅している。
怖、肉体的にも精神的にも追い詰められるやつだ。
「な、何の事だか私にはさっぱり分からない!商品ならさっきお見せしました!私が扱っているのは絵画や焼き物などの骨董品です。貴方達は何か勘違いをしているようだ!」
あぁ、あのカモフラージュの骨董品を見せたのか。でもこの人達が言ってるのはきっと私達の事だよね?
この施設の商品は人、でもそれがバレてるって事は、情報が漏れてるって事。
施設長は慎重な人だから人身売買は徹底的にかくしていたからこの施設に潜り込んでた人でもいるのかな?
今考えてみると、コウさんが消えた時期くらいに変な監視役の人が来たな。
普段は真面目に監視の仕事してるんだけど、その人が1人だけになると私達に近づいて来て、幾つか質問されて別の監視役が戻って来ると持ち場に戻る人。
監視役にしては珍しく大人組と世間話してたり、子供達と遊んでたり、施設に来てからまだ1年も経ってないのに施設長に随分気に入られてたみたいだから、ある程度の自由は許されてたっぽい。
あの人いつの間にか居なくなってたけど、もしかしてこの人達の仲間だったのかな?
「証拠は揃ってるって言ってるだろ?今更しらばっくれても意味ねぇよ、とっとと商品の所に案内しろ」
「だから、私は何も知らないと言っている!」
「往生際が悪いですね?大体この施設が建っている此処の土地は国所有の物です。国所有の土地は売りに出されている所もありますが、この土地は売りに出されていない。つまり貴方は不法侵入している事になってしまいますね?」
「こんな所に態々建物作って骨董品売り買いしてるとかどんな嘘だよ」
「それな!地上に出てる部分は小さく作って地下にこんなドデカイモン作ってるとか、やましい物隠してますって言ってる様なもんだよ」
「俺達が此処に来たのは国王から依頼があったからだ。依頼はお前を捕まえる事と此処に監禁されてる人間の保護だ。誤魔化しは効かない」
「え?」
赤髪のヤクザが言い終わるのを見計らって、クリーム色の髪をしたヤクザが大量の書類を施設長の顔面目掛けて投げた。
その書類に目をやった施設長は血相を変え散らばった書類を掻き集めた。
「何故これが此処に!私はあの時確かに処分させた筈!」
「人に見られちゃ不味い物は、例え絶大な信頼を置いてる部下にも任せちゃダメだろ?自分で処理しなきゃ」
「新しく入った人間の素性はちゃんと調べないとですよ?」
「全く不用心だな」
「うそだろ、ま、まさか。アイツが…」
「お前にはまだまだ聞きたいことが山ほどあるんだ、例えばコイツの事とかな」
「ッ!」
絶句している施設長を無視してクリーム髪のヤクザが写真の様なものを施設長に見せると施設長は心当たりがあるのか顔をこわばらせていた。
「しっ!知らない!そんな男は知らない!私は何も知らない!」
「その反応は知ってんだろ?2年前にこの施設に"商品"の世話係として働いてた男だ。」
ん?2年前、世話係の男ってもしかして…
「ここで名乗ってた名前はコウだ」
「知らない!知らない!」
「コイツは俺らの大事な弟分でな?探してるんだ、お前が知らないわけないよな?」
めっちゃタイムリー!さっき雛菊との会話で出たコウさんの事だ、この人達はコウさんを探しててそのついでに国王様の依頼を受けたのかな?
施設長が殺したって知ったら、この人達は施設長の事殺すのかな?尋問したり、拷問したり…それはもう惨たらしく。
殺してくれるなら私としては好都合、私と雛菊がこの施設に来たのが3年前。そろそろ此処は用済みだ、新しいところ探さなきゃいけなかったし丁度良いや。
新しく出来て支援金とかたんまり貰ってる組織のくせにケチ臭くて旨みがなかったんだよね。
それにこの組織は"近々潰される予定"だったし、ちょっと早まっただけだと思えば良いよね。
「知ってんだろ?!とっとと吐いちまえ!」
「私は知らないんだ、どうすれば良い、どうすれば、どうすれば……あっ」
「あ、まずい」
「ん?」
「なんだあの小さいの」
全員と目、合っちゃった。