19話
「○○〜早く起きろ!仕事遅刻するぞー!」
1階から雨音の声がする。
朝からうるさいなぁ。
「○○ーー!」
「あぁ、もう!うるさいなぁ!今日は休みだっての!」
雨音の大声に耐えられなくなりベットから飛び起きて1階に駆け降りていく。
「雨音うるさい!私今日休みだから!」
「あ?そうなのか?それは普通にごめん」
「も〜う」
「しょうがねぇだろ?お前いつも遅刻ギリギリまで寝てるし、カレンダーに休みの日書いとけって言ってるだろ?」
「遅刻してないんだから良いでしょ?今月はちゃんと書いたし…雨音のせいで目が冴えちゃったよ」
「マジか、気付かなかった。でも早起きは良い事じゃん」
「良い訳あるか、休みの日はずっと寝てたいの!」
「そんなの休みがもったいねぇだろ?」
「ブラック企業は寝る時間もないから良いの」
2人がいつもの様に喧嘩を始めると後ろから柔らかな声が飛んでくる。
「まぁまぁ、2人とも落ち着きなさいってそんな決着の付かない喧嘩しないの」
「でも姉さん!」
「俺、悪くなくない?」
「どっちも悪いでしょ?カレンダーに休みの日書かなかった○○もお休みか確認せずに大声で起こした雨音も悪い。お休みの日をカレンダーに書くのは、お休みの日はお弁当作らなくても良い様に書くんでしょ?」
「その通りです」
「たまに書き忘れてる事もあるからしょうがないと思うけど、いつも通り謝って終わらせなさい。本当に小さい頃から変わらないんだから」
姉はやれやれと呆れた様に首を振る。
私と雨音は向き合って頭を下げた。
「ごめんな、次から気を付ける」
「私も毎月忘れずにちゃんと書く、ごめん」
「よしっ!謝ったらこの話終わり!ご飯にするよ〜」
料理が綺麗に並べられたテーブルにそれぞれ座ると姉がニコニコと笑っていて、その隣の雨音はそんな姉を愛しそうに見つめていた。
私は毎朝のこの光景が1番好き。
もうすぐここに新しい家族も加わるしもっと好きになるな。
「それでは!」
「「「いただきます!」」」
「…うぅ……何か懐かしい夢を見た気がする。てか、何処だここ、病院?」
喉がカラカラだ、掠れた声しか出せない。
手術…終わったんだな、眠ってからどれくらい経ったんだろ?
雛菊は無事かな?
「う〜ん、誰も居ない。何か呼び出しボタン的なの無いのかな?」
若干動きが鈍い体を動かして辺りを見回す。
部屋が暗すぎて何処に何があるのか分からない。
あれ?今気付いたけど、手に何か握らされてる。
日本のナースコールに似てるな、取り敢えず押してみるか。
何の反応もない。
壊れてんのかな、このボタン
数分待っていると扉が大きな音を立てて開けられた音がした。
「柊ー!やっと起きたー!心配したんだよ!」
「雛菊ちゃん静かに!他にも寝てる人いるから!」
「ごめんなさい!」
飛び込んできたのは雛菊でその後に続いて京さんと保弘さん、総一郎さんも入って来た。
「雛菊良かった、手術上手くいったんだね。みんなしてどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!手術後、雛菊はすぐ起きれたのに柊全然起きないからこのまま目を覚まさないかと思ったよ!」
「そうなの?」
懐かしい夢を見ていたせいかな?
起きたくなかったのかも。
あんまり覚えてないんだよな、姉さんの夢なのは分かってるんだけど。
「ここって病院?」
「う〜ん、大体そんな感じかな?研究所に隣接されてる基本は研究所で何かあった時用に機能する場所だね」
「あ〜爆発とか?」
「そう!時々やらかす奴が居るんだよね〜」
「1週間に1回のペースは時々じゃ無いだろ」
「あはは…アイツはどうする事も出来ない、自分でやって自分だけが怪我してるだけだから良いんじゃない?」
保弘さんが京さんの事をジトッと睨み、京さんは投げやりな言葉を放ち、乾いた笑いをした。
爆発起こす人ってどんな人だろう?
ルゥと相性良いかも、とんでもない物作りそうで怖いけど…。
「じゃあ起きて早々だけど、ちょっと体触るよ〜」
「はーい!」
「……よし!特に目立った異常はないね。明日にはいつも通り生活出来るよ」
「京お姉ちゃん、ありがと!」
「ううん、何もなくて良かった」
目覚めたばかりと言うこともあり、総一郎さんと保弘さんは少し話してからすぐに帰って行った。
雛菊は今日も泊まると言って私のベットに潜り込んで来た。
京さんの許可は取った。
「柊、眠ってる時泣いてたけど何か怖い夢見た?」
「ううん……姉さんの夢を見たよ。とっても懐かしくて幸せな夢だった気がする、あんまり覚えてないんだけどね」
「そっか、それなら良かった!苦しい夢だったらどうしようかと思った!家族の夢なら安心だね」
「うん、また見れると良いな」
「じゃあ雛菊も会いたいからおまじないしよ!」
雛菊はそう言うと私の左手を両手で優しく握っておでこに当ててお願いしていた。
「お願いします!柊のお姉ちゃんに会えます様に!」
「ふふ、会って欲しいな〜きっと気が合うと思うよ」
「そんな事言われたら尚更会いたくなった〜!」
雛菊と喋っていたらいつの間にか寝落ちた様で窓から入ってくる朝日で目が覚めた。
「眩しい…姉さんの夢、見れなかったな」
隣を見ると雛菊はまだ寝てる。
夢で姉さんに会えたかな?
「気持ち良さそうに寝てるから起こすのもうちょっと後でも良いな」
部屋の窓から外を見るとここにも桜があるみたいで、ちょっと外に出て近くで見ようと音を立てない様に部屋を出た。
「綺麗…」
柊が桜を見上げていると誰かが近寄ってくるのが横目で見えた。
「柊、こんな所で何やってる?もう体は良いのか」
「保弘お兄ちゃん!うん、もう元気だよ!」
「そいつは良かった。でも無理はするなよ」
「分かった!心配してくれてありがとう!」
「この季節はまだ冷える、部屋に戻るぞ」
「えー!もうちょっと桜見て行こうよ!」
「ダメだ、風邪を引いて入院が長引けば、雛菊が悲しむぞ」
「じゃあ帰る!」
「良い子だ」
保弘さんは満足そうに笑って私に近づき何処に持っていたのか、毛布を取り出し私を包むと抱き上げそのまま部屋に戻された。
体が小さいからか最近抱っこされる事多いな。
「柊、何処行ってたの?」
「ちょっと桜見に行ってただけ!」
「え!雛菊も一緒に行きたかったよ!」
「ごめんね、今度は一緒に行こ!」
「絶対だからね!」
部屋に戻ると少しむくれていた雛菊に怒られた。
京さんも顔を顰めている。
「柊ちゃん貴方は患者さんなの、私達の許可なく勝手に動き回ってはダメ。大人組が全員大丈夫だったからと言ってもマイクロチップを抜いた影響が貴方には無いとは言い切れないのよ?」
「…ごめんなさい、次から気をつける」
「私も危険性をちゃんと柊ちゃんに伝えるべきだった、ごめんなさい」
京さんは何も悪く無い、意見はごもっともだ。
何処かでみんな大丈夫だったんだから私も大丈夫だと思ってた。
私が死んだら雛菊が1人になっちゃうし、今まで以上に気を付けよう!
「じゃあ一通り検査して異常が無かったから、昨日言った通り帰って大丈夫だよ。お疲れ様!」
「お世話になりました!」
「京お姉ちゃんありがとう!」
「2人とも良く頑張ったね!今日は組でゆっくりしてね」
「「はーい!」」
「保弘、2人をしっかり送り届けてね」
「あぁ」
すぐ向かいなのに2人ともちょっと大袈裟じゃない?
心配してくれるのはありがたいけど、もう元気なんだけどな。
「あっ!おいみんな、帰ってきたぞー!」
「ほんとだ!帰ってきた!」
「無事終わったんだな!」
「雛菊ちゃん、柊ちゃん良かった」
組に帰るとベニさんやクルミさん達、施設の人が玄関の前に立って出迎えてくれた。
「今日帰って来るって聞いたからみんなで待ってたのよ」
「そうだったんだ!」
「みんな、ただいま!」
「どこも痛いところない?」
「無いよ!」
「元気モリモリ!」
「よかった!今日はうち達が手術の日なんだ!」
そう言ったのは小児組の中でも1番上の子だった。
その子の側には幼児・小児組全員が居た。
「頑張って来てね!」
「雛菊の元気分けてあげる!」
「うん!ありがと〜2人が応援してくれるなら安心!」
雛菊は小さな手でより小さな手を握り、お祈りする様に1人1人の手に元気を注いでいる。
「ありがと!もう行かなくちゃ!」
「みんな行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
「私達は付き添いで行って来るね」
「了解!みんな気をつけてね〜」
クルミさんと数人の女性は幼児・小児組の付き添いだそうで手を繋いで一緒に歩いて行く人と抱っこして連れて行く人に分かれていた。
順番や人数的にあの子達で手術は最後になる。
雛菊の為にもどうか成功してください。
その日の夜。
「今日は宴だぞ!全員の手術成功祝いだ!いっぱい食って気が済むまで酒を飲め!」
「ウェーイ〜組長太っ腹ぁ〜」
「ハメは外しすぎないでくださいね」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。せっかくの祝いの場なんですから」
「腹ぶっ壊れるまで食うぞ!」
「「「おぉーー!!」」」
大人組はめっちゃはしゃいでるな。
健剛さんや海斗さんや瑞生さん達は程々に楽しんでセーブはきっちりしてる感じだ。
正反対なのが、実さんと一樹さんと虎徹さん達元気組だな。
てか、料理長とかもいつの間にか混じって騒いでる。
今日の料理は出前頼んでるらしいから居て当たり前なんだけど、ちょっとはしゃぎすぎでは?
酔っ払いが雛菊に絡んだら嫌だから絶対に側を離れない様にしよう。
「おーい!ヒナヒイ!飲んでるかー!」
早速、酔っ払い1号が来た。
てか、酒臭っ!この短時間でどんだけ飲んでんだよ。
「雛菊達まだ子供だからジュースいっぱい飲んでるよ!」
「料理も食べてる!」
「そうかそうか!いっぱい飲んで食って良い女になるんだぞ!」
「頑張る!」
「ナイスバディなお姉さんになるよ!」
「何言っってんだこの酔っ払い!雛菊達も真面目に答えない!」
「はーい!」
「怒られちゃった!」
真面目に答えたわけでは無いけど、お母さんが中々ナイスバディだったので望みはある!
身長はちっちゃかったからそこは期待出来ない。
料理長は文哉さんに殴られて気を失ったのか動かなくなり引きずられながら回収されて行った。
「雛菊ちゃん、柊ちゃん食べてる?」
「食べてるよ〜」
「お寿司美味しい!」
「それなら良かった」
「海斗お兄ちゃんは?」
「僕も程々に食べてるよ?若い子に残しておきたいからね。たくさん用意してるけど、若い子はよく食べるから、いくらあっても足りないんだよ。特にあそこの4人は良く食べるから」
「あ〜確かに!」
「この前もいっぱい食べてた!」
あの4人は4人とも胃袋ブラックホールだもんな。
料理がいくらあっても足りなそう。
「食べてるなら良かった!酔っ払いに絡まれない様に気をつけてね?」
「分かってる!」
「周りの誰か助けてくれるから平気!」
「それもそうだね、じゃあ僕は総一郎様のとこに戻るよ。この前の約束覚えておいてね?近いうちに声掛けるから」
そういうと海斗さんはドデカイ瓶の日本酒を持って総一郎さんの元に歩いて行った。
総一郎さんにでも言われて様子を見に来たのかな?
色んな人に囲まれてるから分かりにくいけど、こっちに向かって手を振ってるし。
「楽しいね〜」
「そうだね、私達の事を他人が祝ってくれるなんてちょっと嬉しいね。雛菊は祝われて当然だと思うけど」
「また、そういう事言う!柊も祝われて当然だから!あと、ここの人達はもう他人じゃなくて家族だよ!」
「…ありがと!でも私はまだ雛菊とお母さん以外を家族とは思えない」
「も〜う、柊はしょうがない子だな〜!」
雛菊は困った様に笑い、私の頭を優しく撫でた。
こういうところはお姉ちゃんっぽいんだよな。




