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シオンの涙雲  作者: 居鳥虎落
第1章
10/30

10話

「やっと僕の番ですか。久しぶりだね、僕の事覚えてるかな?」

「もちろん!」

「リクお兄ちゃん、じゃなくて。海斗お兄ちゃんだよね!」

「覚えていてくれて嬉しいよ。改めて、僕は夏目海斗なつめ かいとです。あの時は色々とありがとう、2人のお陰で情報収集が捗って予定より早くあいつを捕まえることが出来たよ。利用してしまったのはごめん」

「全然!お役に立てて良かった!」

「柊も一緒に遊んでもらって楽しかったよ?お話もいっぱいしたし!」

「そう言ってくれると有難いよ」



 態々頭を下げて謝るなんて、随分気にしてたんだな。

 でも、私もこの人のお陰で施設を安全に出る事が出来たんだよね。

 あの施設はもう潮時だったし、雛菊が今笑っているなら、利用されようがどうでも良い。



「もう本題に入っても良いか」

「あぁ、すみません。また後でゆっくり話そう」

「「うん!また!」」



 次の約束をすると前に少し出ていた海斗さんは、また組長さんの後ろに下がっていった。



「海斗の件は俺からも礼を言う。ありがとな」

「「いえいえ!」」

「それとお前らを呼んだのは顔が見たかったってのもあるが、もう1つ聞きたい事があったからだ」

「聞きたい事?」

「なんでも聞いて!」



 この部屋に入って最初に言ってたやつか。

 何聞かれるんだろ?



「正直に答えて欲しいんだが。2年前くらいに施設でこんな顔の監視役の男に会わなかったか?」



 そういうと総一郎は男の写った1枚の写真を柊達に見せた。


 あれ?この人って確か。



「幸くんだ!ね!柊」

「そうだね、幸くんだ!」


 私達はその顔に見覚えがあった。

 2年前、海斗さんと同じ様に私達に話し掛けてくれた明るく優しい人だった。

 でも、出会って少し経った頃に商品の女性、結さんと恋に落ちて脱走を企てた男だ。



「やっぱり知っていたか、今どこに居るとか分かるか?」

「死んじゃったよ?」



雛菊がそういうとほんの僅かに期待の篭った目を向けていた部屋に居る大人達は顔を歪めた。



「確かなのか…」

「う〜ん、多分!施設長が見つけて殺せって怒鳴ってた!」

「死体も施設に持って帰って来たから、本当だと思うよ!」

「なんで殺されたとか知ってるか」

「お姉ちゃんと逃げたから!」

「商品だった結さんと恋人になって、結さんが買われそうだったから一緒に駆け落ちしたんだって、施設長が言ってた!」

「そうか」

「幸ちゃん好きな人出来たのね」

「女守る為に死んだなんて、俺の弟は男になったんだな〜」



 確かに、今までも商品と恋人になる人は良く居たけど、駆け落ちまでしちゃう人は居なかったな。

 それで殺されてちゃ世話ないけど…

 てか、総一郎さんの弟!?全然似てない!



「教えてくれてありがとな!」

「役に立たなくてごめんなさい」

「ごめんなさい」

「良いんだよ!死んだって分かっただけでも良かった」



 私達に気を遣わせない為に無理矢理作った笑顔だ。



「総お兄ちゃん、幸くんのお兄ちゃんなの?」

「あぁ、そうだぞ」

「全然似てないね!」

「あはは、言うね」

「無礼者が」



 雛菊は相変わらずストレートに言うな〜

 私も思ってたから良いんだけど、健剛さんめっちゃ怒ってるから後で言わなきゃ。



「まぁ、似てねぇのは母親が違うから当たり前だな」

「お母さんが違う?」

「この国は貴族だけが一夫多妻制なんだが、例外があってな。ヤクザの組長も特別に一夫多妻制を許されてんだよ」

「そうなんだ〜変だね!」

「雛菊〜、一夫多妻制の意味〜分かってんの〜?」

「本で見た事あるよ!」

「なんて本見てんのよ…」



 しょうがない、あの施設には子供用の本なんて用意されてないんだから。

 でも、大人向けの本は一般常識を学ぶ上でとても役に立った。



「幸くんと仲良かったの?」

「そこらの兄弟よりは良かったぞ?あいつ俺を支えるんだって仕事を色々手伝ってくれてな。監視役を名乗り出たのもその思いがあったと聞いてる」

「そうなんだ〜」

「監視役は定期的に決まった時間と場所に来る事になってたんだけど、いつまで経っても現れない幸太郎を心配した総一郎様が僕を潜り込ませたんだ。その時にはもう辞めたとだけ言われて、大人組にも聞いてみたけど、同じ事言われて。死んでたのか」



 海斗さんもだが、この場に居る大人全員が悔しそうな顔をしていて、総一郎さんなんて手から血が出る程強く握り締めていた。




「2人とも改めてありがとな!」

「「どういたしまして!」」

「腹が空いてるだろ?もうすぐ夕飯だから、それまではゆっくりしてろ」

「「は〜い!じゃ、失礼します!」」



 柊達は総一郎の部屋を後にする。

 部屋の襖が閉まるのを見ていると肩を震わせる総一郎の姿が隙間から見えた。





「幸くんがヤクザさんって意外だったね!」

「ね!意外!」

「そうか?普段は優しいが仕事してる時はおっかない奴だったぞ」

「そうなの?」

「柊達は優しい幸くんしか知らない!」

「…幸くん生きてたら良いのにね!」

「俺らもそう思ってるが、死体が確認されてるんなら望みは薄いな」

「そうだよね〜」



 今凄い気まずいけど、この人達が私を油断させる為に幸太郎さんが大切だと演技してる可能性はどうしても捨て切れない。

 まだ言わない方が良いよね、実は幸太郎さんが生きてる事。


 血の繋がりなんて、信用する材料には値しない。


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