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捜索任務

 聖華暦834年7月


 その日、ベインはシルヴィアから一つの任務を下された。


「ゴトフリー卿と連絡が取れない?」


「そうです。一昨日の時点でレスクヴァ要塞とデンバー遺跡の中間あたりまで進出していたようですが、そこで定時連絡が途絶えています。」


 ゴトフリー卿はベインよりも5年先輩の暗黒騎士で、見た目はガタイが大きく四角い顔、一言で言えば体育会系の暑苦しい男である。


 このレスクヴァ要塞への援軍でシルヴィア達が赴任した次の日にはベインやヴァーノンを引っ捕まえて酒盛りを強行するような、本当に暑苦しい愛すべき人物だ。


 暗黒騎士としての実力は残念ながらベインよりも下ではあったが……。


「もちろん通信機器の故障という事も考えられますが、通信途絶から二日経っても帰還していないのは不審です。」


 彼は暗黒騎士に就任して以来、ずっとレスクヴァ要塞に詰めており、もはや要塞専属暗黒騎士だと本人も言っている。

 それだけに、要塞司令官バルトメロウス少将や他の将兵が、彼の安否を気遣っている。


「それで、捜索することになったわけか。」


 ベインは話を聞きながら顎を手で摩る。

 実力はベインよりも下とはいえ、ゴトフリー卿も正規の暗黒騎士である。

 先輩なだけに実戦経験とて十分に積んでいる。

 雑兵の如き聖騎士相手に遅れを取るとは思えないが……。


「それで、どこを捜索すれば良い。」


 シルヴィアは卓上に周辺の地図を広げ、マーカーで二つの円を書き込む。


「ベインはシュナーベル小隊とこの地点を重点的に捜索してください。私はこちらをリリィ、カルト小隊と捜索します。」


「了解した。すぐに出る。」


「ベイン、十分に気を付けなさい。」


「そっちこそな。」


 二人の暗黒騎士は時間が惜しいとばかりにすぐさま出撃準備を整えると、颯の速さで機兵を走らせた。


 *


『こちらシュナーベル3、見通しが悪く難航してます。』


『こちらシュナーベル2、右に同じく。木が邪魔で探しにくいったら。』


『二人とも愚痴るな。敵も潜んでる可能性があるんだ、気を抜くな。』


 シュナーベル小隊の通信を聞きながら、ベインもゴトフリー卿の捜索を行なっている。

 場所は森の中、機兵で動くには差し支えない程度には開けているが、やはりそこらに生えている木々によって視界が狭い。


 加えて森自体はそれなりの広さがある為、捜索には時間がかかる。

 もっとも、この森の中にいるかどうかもわからないから、森の中を探しているとも言える。


 とはいえ、やはり敵の陣取るデンバー遺跡から20kmほどの地点だ。

 シュナーベル1が言うように敵が潜んでいる可能性は十分に考慮しなければならない。


 まったくもって自分には向かない任務だと、ベインは思った。


 ふと、ベインの右手方向に何かを見つけた。

 近づいて確認すると、それは木の皮が丸く抉れた跡……、魔道砲の弾痕だ。

 幾つかの木に複数同じような跡がある。

 そして地面には複数の機兵の足跡。


「間違いない、戦闘の跡だな。」


 比較的新しい戦闘痕を見つけ、緊張が高まる。


「こちらはベイン、戦闘の痕跡を見つけた。シュナーベル小隊各機は警戒して捜索を続行せよ。」


『『『了解。』』』


 ベイン達は戦闘の痕跡を追って進む。

 進む毎に戦闘痕はハッキリとしたものとなり、やがて。


『イルフート卿、擱座したレーヴェを発見しました! 機体番号は……ゴトフリー卿と一緒に出撃したケーファー小隊のものと一致!』


『シュナーベル3、生存者は?』


『……残念ながら。』


「この周囲を徹底的に探せ。」


『了解しました。』


 ベイン達は擱座したレーヴェを中心に周辺の捜索を開始し、すぐに別のレーヴェと、撃破された魔装兵クローエと思しき機兵を発見した。

 思しきというのは、上半身が焼け爛れているせいで識別が困難になっていた為だ。


 それから……。


『……イルフート卿……。』


「あぁ…、シュナーベル2、念話にてガーランド卿に連絡。ゴトフリー卿のレギンレイヴ、その残骸を発見した、と。」


『りょ、了解……。』


 ベインは目の前の、まるで十字架に磔にされた罪人のごとく、槍に突き立てられたレギンレイヴの上半身を見つめて歯軋りをした。


 *


 ベイン達はシルヴィア達と合流し、発見した機兵の残骸を回収、要塞へと帰投した。

 念話により要塞へ報告を行った事で、ベイン達が帰投するなりバルトメロウス少将自らの出迎えがあった。


「皆さん、お疲れ様でした。」


「発見できたのは全部で4名の遺体だけでした。」


「そうですか……。改めて御礼申し上げます。」


 バルトメロウス少将は悔しさを滲ませた表情を一瞬だけ見せ、すぐに切り替える。


「……暗黒騎士を討ち取る相手が現れた、つまりクルセイダーが敵軍の中にいる可能性は大いにあるとみて間違いないでしょうな。」


「えぇ、私もそれを考えていました。」


 少将とシルヴィアのやり取りを聞きながら、ベインは強く拳を握りしめた。


 ゴトフリー卿の事は正直言って鬱陶しく感じていた。

 だが、嫌いでは無かった。


 なによりも同じ暗黒騎士なのだ。

 心の底で感情が熱く燃えたぎる。


 仇は必ず取る。

 ベインは無言で黒竜神にそう誓った。

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