クルセイダー
聖華暦839年 帝国・聖王国国境
その日、僕は帝国と聖王国の国境で発生した小規模な軍事衝突に介入した。
たまたま別の勅命で近くまで来ていたのだけど、友軍の旗色が芳しくなく、撤退支援の要請を打診された。
僕は味方を見捨てない。
だからこの要請を受けて帝国軍の撤退支援をするべく戦場に突入する。
確かに、帝国軍は押されていた。
撤退している帝国軍は機兵が6機と複数の従機。
どれもが小破以上の損傷を負っていて、隊長機が見当たらない。
指揮官を失って敗走しているのは明らかだった。
対して敵である聖王国軍は数の上で敗走している帝国軍に倍するほどはいるし、何よりも厄介な相手が混ざっている。
それは眩ゆい輝きを放つ光の剣を手に機兵を最も容易く屠る存在、聖王国の切札たるクルセイダー。
クルセイダーを先頭に迫る聖王国軍に複数の魔弾を撃ち出す暗黒魔法『黒魔弾』をその足元に叩き込んで牽制し、足を止めさせる。
そして僕は聖王国軍、特にクルセイダーの乗る機兵、シュヴァリエルの正面に立ちはだかる。
シュヴァリエルは聖王国の保有する第七世代機兵だ。
さらにクルセイダーの搭乗機となると魔装兵として改修されていて、クルセイダーが操る光魔法の力を遺憾無く発揮出来る。
光魔法自体は暗黒騎士の操る暗黒剣技や暗黒魔法には及ばない。
けれど、彼らも自身の不利を熟知しており、だからこそ単純な力押しなどでは遅れを取る事も珍しくもない。
決して侮る事など出来ない相手だ。
僕の機兵、ノクス・ズィリオスを取り囲むべく展開しようとした聖王国軍の機兵達をクルセイダーは手で制し、僕に光剣の切先を向けてきた。
わざわざ数の有利を活かさずに一騎打ちを挑むか。
どうやら相手はよっぽどのロマンチストか、馬鹿、あるいは、猛者。
とはいえ、僕は帝国軍が安全圏まで撤退するまで相手を足止めすれば良い。
なら相手の部隊が動かないなら好都合だ。
この一騎打ちに乗ってあげようじゃないか。
暗黒闘気を纏い、ソウルイーターを発現させる。
互いに一歩ずつ進み、数瞬の睨み合い、そして互いに得物を打ち付ける。
僕のソウルイーターは相手の光剣よりも威力が上だ。
暗黒闘気があるから単純な力比べでもこちらが有利。
だけど、相手は光剣で上手くこちらの太刀筋を流すようにいなし、すかさず光剣で反撃してくる。
もちろん、僕もただでやられてやる義理なんて無いから、光剣をソウルイーターで押し返し、シュヴァリエルに肉薄する。
数度斬り結んで判った。
自分と相手の力量を正確に把握して、僕の攻撃を正面から受け止めるような愚を犯す事はせず、きちんと太刀筋を読んだ上でいなしつつ、的確に反撃を繰り出してくる。
なるほど、この相手は強い。
奢っていたり、相手を侮っていたわけでは無いけれど、僕も気を抜けば返り討ちにあってしまうだろう。
奥の手を使うか、と思いかけた時、視界の隅で信号弾が上がったのを確認した。
あの色は撤退が完了した合図だ。
なら、これ以上の戦いは必要無い。
僕は構えを解いてクルセイダーを正面に見やった。
僕の行動に相手も構えを解き、僕を真正面に捉える。
「僕は暗黒騎士リコス・ユミア。君は強いね、名前を聞いておこうか。」
拡声器で相手に呼びかけ、それに相手も応えた。
『クルセイダー・マクシミリアン・ゲーティアだ、覚えていてもらおう。』
思っていたよりも若い男の声だった。
ひょっとすると僕と歳もそう変わらないかもしれない。
「クルセイダー・マクシミリアンか、確かに覚えたよ。残念だけどこの勝負は預けておくよ。またどこかの戦場で会ったら決着を付けよう。」
言うなりシャドウホッパーで後方へ跳躍して一気に距離を取る。
『逃げるのか!』
「余計な殺し合いは嫌いなだけだよ。」
相手を視界に収めたまま後方へ逃走する僕を、それでも相手は追撃してこなかった。
ああいった手合いが一番厄介なんだよな。
でも勝負を預けると言った以上、次に会ったら決着を付けないといけないな。




