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皇帝陛下への謁見

 聖華暦834年 9月7日 帝都ニブルヘイム 皇宮


「ジークハルト・フォン・ユーゼス・アルカディア陛下の御成である!」


 その言葉と同時に、僕を含む暗黒騎士4人は膝をつき首を垂れる。

 謁見の間の奥の扉より、皇帝陛下……鮮血帝ジークハルト陛下がその姿を現し、僕達の正面に設られている玉座へと腰を下ろした。


「面を上げよ。」


 言葉に従い、僕達は顔を上げて皇帝陛下の御尊顔を拝した。

 ジークハルト陛下は、まだ若い。

 もっとも、僕のような子供では無く、僕よりも10歳は年上だ。

 金髪に赤い瞳、端正な顔立ち。その表情には鋭く強い意志がハッキリと現れている。

 そして、誰もが思わずたじろぐほどの、その身に纏う王者の風格。


 この方に決して逆らってはいけない。

 本能的に、そう思えた。


 今回、皇帝陛下への謁見は師匠のお供としての事、つまり僕はオマケのようなものだ。

 後の二人は暗黒騎士シークヴァルド卿と、その弟子。

 ……そう、ビクトル・ライネリオである。


 帝国統轄騎士會で合流して、一緒に皇宮までやって来たのだけど、ビクトルは移動中、僕を終始無視していた。


 僕の方も、彼と会話を楽しみたいとは思わなかったので無言だった。


「シークヴァルド、イディエル、久しいな。此度の帝国統轄騎士會での綱紀粛清、大義であった。」


「勿体無い御言葉でございます。」


 鮮血帝の言葉に、師匠達は恭しく首を垂れ、僕達もそれに従う。


「さて、ビクトル・ライネリオ。此度の御前試合の予選を勝ち抜いた事は聞き及んでいる。御前試合を楽しみにしているぞ。」


「有難き御言葉。御前試合におきまして決して失望させぬ戦いを御覧にいれるよう、粉骨致します。」


「ふむ、期待している。」


 ビクトルにも御声をかける。


 まぁビクトルはともかく、僕のような若輩者は師匠のオマケでこの場に同席させて頂いているだけで、何も無いだろうと思っていたのだけど。


「其方がリコス・ユミアだな。」


「……はい、お初に、御目にかかります。」


 僕にも御声をかけられた為、ドキリとした。

 でも、師匠達の前でそれを晒すわけにはいかず、表面では平静を装った。


 ……装えた、はずだ。多分……


「思っていたよりも小柄であるな。まぁ女児であるならば仕方がない。……あぁ気を悪くするな、其方の事を馬鹿にしているのでは無いぞ。」


 皇帝陛下の謝意に、僕は恐縮です、と返すのが精一杯だった。


「此度、余は不正によって試合に敗れた其方に雪辱の機会を与えんとした。だが其方はそれを固辞した。それは何故か?」


「はい、ぼ…私は、己が未熟であるが故に敗北致しました。いかに不正があったにせよ、敗北した事は事実です。これは実戦であるならば取り返しのつかない失敗です。それなのに、皇帝陛下からの恩情であろうとも、その事を無かった事として済ませるわけにはいきません。それ故、不敬を承知で固辞させて頂きました。その事で陛下のお気に障るのでありましたら、いかような処分も甘んじてお受けする所存でございます。」


「ふむ……」


 僕は、思いの丈を皇帝陛下に伝えた。

 これで、何かしらの罰が降る事になっても仕方がない。

 そう覚悟している。


 数瞬の沈黙の後、皇帝陛下は言葉を発した。


「リコス・ユミア、其方の気概には敬意を表する。確かにこのような恩情など軽率の極みであった。余は其方のような誇り高い者が暗黒騎士として、我が陣営に加わる事を頼もしく思っているぞ。」


「私のような若輩者には勿体無い御言葉でございます。」


 その後、皇帝陛下は僕達4人に労いの言葉をかけ、執務の為に退出された。


 僕達も謁見の間を出て、無言で皇宮を後にした。


 帝国統轄騎士會に戻り、師匠達は別件で奥へと行ってしまい、今は僕とビクトルは二人で待たされている状態となった。


 正直、彼と二人で一緒にいるのは居心地が悪い。

 特に親しいわけではなく、むしろ仲が悪い方だと僕自身も思っている。


「……ふん、皇帝陛下の前で随分と見栄を張ったな。」


「……別に見栄じゃありませんよ。何度も言うように、僕は未熟なんです。」


「そうとも、お前は未熟者だ。俺は来年には暗黒騎士になれるだろうが、お前はまだまだ先の事だ。……次の御前試合では無様を晒さぬよう、精々精進する事だ。」


「ご忠告どうも。」


 この後は僕達は師匠達が戻ってくるまで無言のまま、お互いに目も合わせなかった。


 何と言うか……、いや、もういいか。


 彼に何をどう言われようと、手合わせでまだ一度も勝った試しも無いのだから、それは仕方がない事なんだ。


 だけど、いつまでもやられっぱなしには絶対にならない。

 彼が正式に暗黒騎士になるまでに、必ず一本取ってみせる。


 この日、僕はそう固く誓った。

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