御前試合予選 第二戦
第一戦目から二時間後、軽機兵スパーダの簡易整備が終わり、すぐに第四コートへの移動が指示された。
行った先では相手のクローエがすでに待っていた。
右手に長剣、左手に短剣を持った二刀流だ。
『来たな。力の差を思い知らせてやる!』
拡声器でそう言うと、クローエは構えを取る。
僕もスパーダに突剣を構えさせた。
『はじめ!』
開始の合図と同時にクローエが長剣を振りかぶり、踏み出して斬りつけて来る。
躱して突剣で突くが、相手は左手の短剣でその攻撃を弾く。
僕は横薙ぎの長剣をバックステップでやり過ごして足を狙うが、これも短剣で防がれた。
相手の左手の短剣は、まるで盾のように攻撃を防ぎ、右手の長剣で攻撃をしてくる。
相手は攻防のバランスが取れていて、強い。
けれど、勝てない相手では無い。
相手のその動きが、次にどう動くかが解る。
幾度となくお互いに攻撃を仕掛け、攻撃を避け、隙を突いて攻撃する。
打ち込み、防ぎ、躱し、間合いを詰める。
何度も攻防が入れ替わり、それでもじわりと僕の方が有利に事を運ぶ。
一旦仕切り直す為、クローエが間合いを取ろうと一歩下がったその一瞬。
今だ!
僕は一気に間合いを詰める為、踏み出した。
瞬間、機体がバランスを崩した。
「え、なに?」
すんでで転倒するのを立て直し、機体ステータスを確認した。
右足首の異常発生のランプが明滅している。
黒血油が吹き出し、油圧計の針が下がり始める。
すぐさま右足の黒血油のバルブを閉鎖するが、これで右足が使えなくなった。
どうにか立っているけれど、これでは動く事もままならない。
でもどういうわけか、相手はこのチャンスを突いて来なかった。
武士の情けか、それとも僕が降参することを期待してか。
だけど、まだ諦めたくは無かった。
実際の戦場ならば、諦めた時点で死が確定してしまう。
ならば、出来るだけ足掻いてやる。
突剣を構え、まだ戦う意志を無言で示す。
相手はイラついたように長剣の切先を地面に叩きつけると、正面から切り込んできた。
片足が使えないから踏ん張りは効かない。
当然、攻撃を受け止めるのも無理だろう。
けれど、これは生身の身体では無く機兵の戦いだ。
それに暗黒闘技までは自由に使える。
僕はシャドウアームドを両足に展開し、機体を支える。
それから跳躍して相手の頭上を越える。
相手も、まさかそんな回避をするとは予想していなかったようで、反応が遅れた。
僕は相手の背後を狙い、着地と同時にスパーダを急速反転させた。
ところが、今度は左足の魔力収縮筋が破断し、今度こそスパーダは転倒した。
転倒の衝撃で操縦槽は激しく揺れ、僕の視界が一瞬暗転した。
気がついた時にはスパーダの頭部を相手の長剣が貫いていて。
『第四コートそこまで。勝者エルマー・コーリング。』
僕の完全な負けが確定した。
……悔しかった。
知らず知らずに機体に無理のかかる動きをさせてしまっていたのだろう。
機体の負荷に気付かないようでは、やっぱり、僕はまだ未熟者だ。
「…ごめん、無理をさせて。」
動かなくなったスパーダの操縦槽で、僕は呟いた。
行動不能となったスパーダの胸部装甲は救護班の従機によって強制的に外され、僕は救出された。
医務室で体に異常が無いか簡単な検査を受けて、異常が無いと確認された。
その後は試合観戦に戻るように言われた。
訓練場へと戻る途中、僕は壁にもたれかかって項垂れた。
……とても……悔しかった。
……天狗になっていたんだろう。
選抜試合への参加指示を、自分の実力を認めてもらったように思い、慢心していたんだ。
皆から快く思われない事を、自分の実力が彼らを上回った証拠と、思い上がっていたんだ。
今日、それを痛烈に思い知らされた。
ふぅ、と息を吐き、頬を叩く。
良し、気持ちを入れ替えて、残りの試合を全て観て、また一から出直しだ。
そう決めて、訓練場へと歩き出した。
一瞬、視界が明滅し、次の瞬間には地面に倒れていた。
……体中が痛い。
何が起こったのか、理解出来ない。
いつの間にそこに居たのか、僕を覗き込む顔がすぐ近くにあった。
「へっ、気付かなかっただろう。どうだ、スタンボルトを食らった気分は?」
どういう事だ?
どうして、こんな……
「やったようだな。」
ソイツの後ろから、新たに三人の影が近づいて来ていた。




