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ヴァルハラの宴

 聖華暦834年 5月20日


 この日、僕は師匠からこう言い渡された。


「リコス、今年の『ヴァルハラの宴』で行われる御前試合、その選抜試合に参加しなさい。」


 唐突だったので、一瞬なにを言われたのか、理解が遅れた。


「ヴァルハラの…宴……、御前試合、ですか?」


「そうだ。」


 ヴァルハラの宴、それは帝国の建国記念日に行われる国家行事としての機兵競技だ。

 皇帝陛下の御前で貴族や廷臣だけが観戦する、非常に厳粛な行事だと聞いている。


「暗黒騎士の弟子達の成長具合を皇帝陛下が御覧になる為に、弟子達だけで選抜試合を行う事になっている。」


「それは…、ルイーズさん達から先日聞きました。でも、修行が2年未満の弟子は慣例的に選抜試合には出ない事になっている、と。」


 そう聞いた。

 だから自分には関係無いと、そう思っていた。


「そのような決まりはそもそも無い。それはこれまでソウルイーターが使えるようになるのに2年かかる者達がほとんどだった為だ。」


 つまり、最低限ソウルイーターが使えるようになったかどうか、ここが修行の進捗具合の判断基準となるようだ。


「……判りました。参加します。」


「うむ。明後日に統轄騎士會で参加申請をする。」


「はい。……ところで師匠、選抜試合は『ジョスト(一対一の決闘)』ですか?」


「無論だ。ただし、暗黒闘技までしか使ってはいけない。暗黒剣技も暗黒魔法も無しだ。」


「判りました。参加する以上、全力を尽くします。」


 師匠は無言で頷く。

 なんだか今からドキドキして来た。


 *


 同年 5月22日 帝国統轄騎士會


「おい貴様、選抜試合に参加するというのは本当か?」


 そう聞いて来たのは、暗黒騎士ニルギリ卿の弟子と、その取り巻き達だった。

 名前は確か……なんだったかな?


「……はい、師匠よりそう指示がありました。」


「巫山戯るな。修行が2年に満たない者は選抜試合に参加しないという慣例を破るつもりか!」


 やっぱり、その事を持ち出して来た。


「師匠からはそのような慣例など存在しないと、伺いました。それに、参加自体は師匠からの指示によるものです。それを無視する事は出来ません。」


 師匠からの指示だという事を強調する。

 どのみち師匠が言い出さなければ、今年の選抜試合には参加しようとは思っていなかったわけだし。


 流石に彼らも、暗黒騎士からの指示である事をとやかく追求する事は出来ず、舌打ちをして僕を睨め付けたあと、連れ立って行ってしまった。


 なんだか色々と目をつけられている感じがしないでもない……。


 *


 同年 5月26日 帝都ニブルヘイム 軍区画訓練場


『そういや、リコスと機兵で組手するのは初めてだなぁ。』


 開かれた通信回線でルイーズさんがそう漏らした。


「そう言えばそうですね。」


 僕も返す。


 僕は軽機兵スパーダの操縦槽で機体の感覚を確かめる。

 この操縦槽にもすっかりと馴染み、スパーダは手足のように思い通り動いてくれる。


 映像盤には長剣を持った魔装兵クローエ、ルイーズさんの搭乗している機兵が映っている。

 僕のスパーダとルイーズさんのクローエには、機体のあちこちに攻撃が当たったかを判定する為の魔導器が取り付けられている。


 第六世代機兵であるクローエは僕の軽機兵スパーダと比べて機動性で劣る代わりに膂力、装甲、出力ともに上回っている。

 その為、正面からまともにぶつかればこちらが不利だ。


 なので、こちらはあくまでもスピードで撹乱するしかない。


『さぁて、生身じゃちっとも敵わなかったが、機兵ならどうかな?』


 クローエが長剣を構える。


「お手柔らかにお願いしますね。」


『はっハァ、本気で行くぜぇ!』


 ……十数分後。


「あっはっは、いやぁ参った、機兵でも敵わねぇ。」


 ルイーズさんは機兵から降りるなり、笑いながら大袈裟な身振りで肩をすくめた。


「ルイーズさんだってかなり強いじゃないですか。」


 実際、ルイーズさんのクローエはグイグイと攻めて来て、何度も危ない場面があった。

 その都度、スパーダの機動性の高さでどうにか掻い潜り、最終的に撃破判定をもぎ取った。


「いいや、実際負けたわけだから、それはもう強いとか言えないな。」


 ルイーズさんは頭を掻きながら、また大袈裟に悔しそうな表情を作る。

 それがちっとも悔しそうに見えない。


「……ルイーズさんって、勝ち負けには拘らないんですか?」


「いいや、やっぱり勝ちたいし、負ければ悔しい。」


「その割にはあっけらかんとしてますよね。」


「そうか? まぁそう見えるかなぁ。でもな、勝敗の結果は自分の実力だからなぁ。負けるのは相手がアタイよりいろんな意味で強かったワケだろ? それに対して羨んだり妬んだりしても、アタイは強くなれたりしない。ただ結果を受け止めて、そっから学ばなくちゃな。あ、これは師匠の受け売りな。」


 そう言ってニシシと笑うルイーズさんは心が強いなと、思った。


「それで、今の組手で何か学べたのか?」


 僕達の側へやって来たアーダルベルト卿がルイーズさんに聞く。


「はい師匠、リコスが強いという事がわかりました。」


「全く、それじゃなにも判ってないのと同じじゃないか。」


 ルイーズさんが頭を掻いて笑い、アーダルベルト卿も呆れたように笑った。


 こうも清々しい人だと、かえって羨ましく思えた。


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