ギルガメア王国攻防戦 中編
聖華暦833年12月24日
魔獣群は一日に二回、たまに三回、だいたい数十〜数百匹単位で襲撃をして来ていた。
大概は大型種を中核に据え、中型小型が脇を固めるような布陣で攻めてくる。
それだけならまだマシな方だ。
たまに大型種だけで突っ込んで来たり、翼竜で揺動をかけて大量の小型種が突貫して来る事もあった。
それに、今日はいくつかの小集団で緩急をつけて突っ込んで来ている。
まるで魔獣達に指揮官がいて、その指揮の元に動いているかのようだ。
「はぁ、ハァ、師匠すみません、そっちに抜けました。」
『構うな、次を仕留めろ!』
アレナイトテイル数匹を取り逃し、その後から迫るディロフォス十数匹の群に向かってドゥ・ボーゲンを放射状に放つ。
先頭の数匹が反物質の矢を浴びて絶命するのも省みず、一心不乱に突貫してくる。
僕はダブルソウルイーターでその全てを切り刻む。
そしたらまたその後ろからティールテイルの群が見えて、またドゥ・ボーゲンで射抜いてゆく。
最後のティールテイルを仕留めて、ようやく襲撃は終わった。
「各機、現状を報告せよ。」
『こちらイディエル、損害無し。』
『サヤ・ファリオン、無事です。』
「リコス・ユミア、異常ありません。」
ファリオン卿へ各機が無事である事を報告する。
『全機帰投する。』
僕達は警戒をしながら、要塞内へと機兵を移動させた。
僕達がギルガメア王国の要塞にやって来てから、もう一週間にもなる。
この一週間、戦いの無い日は無かった。
ローテーションを組んでいるお陰で連戦する事はなかったけれど、疲労は着実に蓄積して来ている。
動きに精彩を欠いて、危うくなる場面もいくつかあった。
それでも、全員負傷もせず、機兵の損害も軽微な範囲で収めているのは、皆の技量と覚悟の賜物なのだろう。
「お疲れ様。体調はどう?」
「サヤさん、お疲れ様です。僕は大丈夫です。」
「そう、それなら良いんだけど。無理しちゃダメですよ。リリィさんやジェラルディンさんも熱を出してダウンしていますからね。」
「はい。体調管理は気をつけます。」
いつ終わるともしれない長い戦いに、二人は体調を崩してしまった。
昨日から二人とも寝込んでいる為、ローテーションにも穴が空き、その分を師匠達が補っている。
「うふふ、貴女は素直で良い子ですね。私の妹にしたいです。」
そう言って、サヤさんは僕の頭を優しく撫でた。
こういうのは悪い気はしないな。
……エミリさんを思い出す。
「あの、サヤさん、……もうそろそろ、良いですか?」
「あ、あぁごめんなさい。可愛いからつい。」
止めないと、いつまでも僕の頭を撫でていそうだったので声をかけると、サヤさんは小さく舌を出して片眼を瞑った。
「後で二人の様子を見に行きましょう。」
「ええ、そうしましょう。」
『エーテルロケーターに反応! 魔獣の大軍団が接近中! 繰り返す、魔獣の大軍団が接近中! 至急迎撃体制を取れ! 繰り返す、至急迎撃体制を取れ!』
けたたましい警報とともに、魔獣群が接近中と知らせている。
僕とサヤさんの持つ多機能通信魔導器にも通信が入る。
『リコス、至急駐機場に来い。再度出撃だ。』
「! 判りました、すぐに向かいます。」
僕はサヤさんと顔を見合わせて、すぐに走った。
駐機場にたどり着くと、今動ける暗黒騎士が全員揃っていた。
これは只事では無い。
「揃ったな。現在、推定4万以上の魔獣が北上して来ている。進路から言ってこちらを掠める程度ではあるが、それでも数千はこちらにやって来るだろう。我々は総力を持ってこれを迎撃する。」
ファリオン卿からの説明は簡潔ではあったけれど、その内容はこれまでの戦いの中ではもっとも厳しいものになると予想された。
「フギン卿、ジルベール卿、アルコリオ卿、イルフート、シャックは前衛、スタンフィールド卿、アンヴァーク卿、ガーランド卿は中衛、先程出撃した私とイディエル卿、サヤ、ユミアは後衛だ。ハーティス、マルケスは予備戦力とする。」
ゴクリ、と唾を飲む。
暗黒騎士が総掛かりでの出撃なのだ。
それがいかに異常事態なのであるか、想像に難く無い。
「ファリオン卿、我々も出撃します。」
「ジュベール中佐、要塞守備隊は要塞の防御に専念し、我らが撃ち漏らした魔獣の始末を頼む。」
「しかしそれでは…。」
「最低機兵では荷が重いじゃろう。ここは我らに任せておけ。お主らはこの国を守る為にも死に急ぐ様な真似はせん事じゃ。」
ジルベール卿の一言に、ジュベール中佐も判りましたと言い、守備隊の全員で僕達に敬礼を贈る。
僕達も敬礼を返し、魔獣の大軍団を迎え撃つべく出撃する。
そして、僕達の死闘が始まったのだ。




