表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/99

噂の真偽

 聖華暦833年 11月28日


 例の噂は本当であったらしい。

 そのニュースが帝国にもたらされたのは、自由都市同盟において発生した未曾有の大規模魔獣災害、後に『バフォメット事変』と呼ばれるそれが発生してから二週間が過ぎてからだった。


 当然ながら帝国内でもそのニュースは衝撃的だった。

 同盟よりもさらに大陸の南から、数万匹を数える魔獣が北上しており、その進路上をことごとく蹂躙しているのだから。


 同盟は持てる軍事力の全てでもって、魔獣の侵攻を食い止めるべく戦っている。

 けれど、もしも同盟軍が壊滅し、自由都市同盟という国が崩壊する事になれば、次は帝国と聖王国に魔獣達の矛先は向く事となるだろう。


 そうなれば戦いは必至、いや、下手をすればどれ程の被害が出るか、想像もつかない。


 帝国軍はこの事態を重く見ていて、どう動くべきか検討を行なっており、近日中に正式な発表が為されるらしい。


 そしてこれは、(ルイースさん曰く)かなり信頼出来る筋の情報らしいのだけど、同盟と国境を接しているジルベール侯爵領への増援として、帝国軍主力艦隊とともに暗黒騎士十数名とその弟子が派遣される、らしい。

 らしいらしいばかりで、本当にそうなるかは未だにわからない。


 わからなかったけれど、それは本当の事になった。

 帝国統轄騎士會から先程戻って来た師匠に、支度をするように言われたから。


 僕達はジルベール領の国境守備の増派として派遣される事が正式に決定したとの事だった。

 僕達の他にはアーダルベルト卿とヴィンセント姉弟、ケイ卿とリューディアさん、その他暗黒騎士10名、その弟子23名。

 全部で40名にもなる。


 その中にビクトルとその師匠のシークヴァルド卿は入っていない。

 帝国統轄騎士會の現役代表となる暗黒騎士8名とその弟子は、帝都の最終防衛戦力となる為、帝都を離れる事が出来ないからだ。


 とは言え、帝都に駐留する暗黒騎士の6割が動くという事になる。

 本来なら暗黒騎士がこのように纏まって動く事などありはしないのだから、それだけで異常事態なのだ。


 *


 聖華暦833年12月2日


 暗黒騎士13名、弟子27名の派遣が正式に発令された。


 明後日の12月4日にはジルベール領へ向けて出立する。

 僕達も明日には帝国統轄騎士會で集合し、陸上艦に乗り込む事になる。


 期間は未定、持って行くのは必要最低限の物、心なしか不安が込み上げてくる。

 もちろん同盟が善戦して魔獣を撃退すれば、僕達の出番は無い。

 それが一番良い。


 そう上手くいってくれる事を祈りたい気持ちになる。




 *


 出発する朝。


「リコス様、ご武運をお祈りします。どうか、ご無事で。」


「エミリさん、行ってきます。」


 エミリさんは一度、僕をしっかりと抱き締めて、もう一度、ご武運を、と囁いた。


 師匠とともに馬車に乗り込み、帝国統轄騎士會へと向かう。

 帝国統轄騎士會には既に多くの暗黒騎士と弟子達が集まっていて、皆その時を待っている。


 口数は少ない。

 喋っている人もいるけれど、空元気なのがすぐに判る。


「リコスさん、おはようございます。」


「お、リコス、来たな。」


「おはようございます。」


 挨拶の後も特に会話も無く、点呼が済んだら陸上艦湾口へと移動をする。

 僕達の機兵は二隻のカルリーク級軽機兵母艦に載せられ、僕ら自身は四隻のラスハー級重巡航艦に分かれて乗り込む。


 これから僕達はユークリッド領を通り越してジルベール領へと向かい、四隻のラスハーはジルベール領の国境に沿って点在する4つのエーレンヴェルグ城塞に振り分けられる事になる。

 城塞は北から南にかけてそれぞれ第一の砦、第二の砦、第三、第四とあり、同盟方面への防衛網を構築する重要拠点だ。


 僕と師匠はエーレンヴェルグ城塞第二の砦へ行く事になっている。

 アーダルベルト卿とルイースさん達は、第一の砦に行く為、別の艦に乗っている。


 僕と同じ艦に乗っているのはケイ卿と、リューディアさんだ。

 他の暗黒騎士はあまり知らない。

 その中でも一番目を引いたのは、『フギン』で通っている暗黒騎士だった。

『フギン』は本名ではなく通称なのだとか。


 彼?は、とても背が高く、全身を真っ黒に染め上げた鎧兜に身を包み、フェイスガードの隙間から覗く紫眼以外に外見的な情報が無い。


 あまり言葉を発する事が無く、会話は最低限のジェスチャーで済ませる事がほとんどだ。

 それに、白いワタリガラスをいつも肩に乗せている。


 いろんな暗黒騎士がいるけれど、彼は特に変わり者だろう、と師匠は言っていた。

 ただ、その実力は本物だとも。


 あ、目が合った。

 つい見ていたのを気付かれたようだ。

 僕は慌てて会釈をする。


 彼方は僕の無礼を咎めず、会釈を返してきた。

 そしてそのまま行ってしまった。


 しばらく彼の行ってしまった方を見ていたけれど、ここでぼぉっとしていても仕方がない。

 割り当てられた船室へ戻る事にした。


 *


 12月6日 エーレンヴェルグ城塞第二の砦


 目的地に到着した。

 眼前に堅牢で長大な防壁、無数に並ぶ大口径の対艦魔導砲、居並ぶ数十機の機兵と陸上戦艦群。


 帝国の護りの要の一つ、エーレンヴェルグ城塞が誇らしげにその威容を、その存在感を見せつける。

 ラスハーから降り立った時、緊張で手が震えた。

 ここが、最前線となる場所なのだ。


 かえって、今の僕達は人員だけが先に来ている。

 僕達の機兵を載せたカルリーク級軽機兵母艦は第一の砦へ先に向かい、彼方に駐留する暗黒騎士達の機兵を降ろしてからこちらにやって来る事になっている。


 よって、機兵の到着はおそらく明日になるだろう。

 それまでに魔獣が大挙して押し寄せる事も無いとは思うけれど、やはり機兵が無いのは心許ない。


 何事も無く過ぎる事をただ祈るのみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ