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大貴族の御令嬢

 贖罪のリコス〜少女暗黒騎士物語〜

 #23 大貴族の御令嬢


 聖華暦833年10月6日 帝国統轄騎士會


 今日は師匠とともに、帝国統轄騎士會へと出頭した。

 実戦訓練における成果と成長具合を報告する為だ。


 広い部屋に8人の帝国統轄騎士會の代表、弟子達の間では『長老方』と呼ばれている元暗黒騎士だった方々が僕の前に鎮座して、値踏みをするようにこちらを見入っている。


 僕は緊張しながらも、まずは暗黒闘気、次にソウルイーターを披露する。


 長老方はヒソヒソと小声で何やら話し合った後、師匠を残して僕に退出を促した。


 扉を後ろ手に閉じて、ようやく緊張が解けた。


「……ふぅ。」


「よっ、リコス。」


「久しぶりだな。」


 声をかけて来たのは双子のヴィンセント姉弟。

 会うのは二ヶ月ぶりだ。


「お久しぶりです。」


 僕達は場所を変えるため歩きながら話をした。


「長老方のとこに呼ばれたって事は……、リコス、お前もう『ソウルイーター』まで使えるようになったのか?」


 どうやら長老方のところへ呼ばれるのは、修行がある程度進んだ者だけらしい。


「ええ、まぁ。」


「コイツは驚きだ。10ヶ月でそこまで出来るようになるとはな……。」


「はー、なるほど。お前、天才だな。」


 ディックさんは心底驚いたように、ルイースさんは感心したように言った。


「それは言い過ぎですよ。」


「何言ってる。実力、練度ともにNO.1だって言われてるビクトルのクソヤローでさえ、そこまで行くのに一年以上かかってんだぜ。」


「その通りだ。ズルのしようが無い以上、これは天賦の才と言わざるをえないな。」


「やめてくださいよ。背中が痒くなります。」


 なんだかむず痒い。


「アッハッハ、照れるな照れるな。」


 ルイーズさんは相変わらず陽気だ。

 だけどディックさんは少し深刻そうな顔をした。


「だが気をつけておけ。この事は必ずしも良い事じゃない。誰の嫉妬や不興を買うか、分からないからな。」


「そんな事言われても……。」


 たしかに、優れた人への嫉妬というのはあるだろう。

 自分だってそうなる時だってある。


 それが、まさか自分が嫉妬を向けられるようになるとは思ってもみなかった。


「実際、私もお前の才能は羨ましい。」


「アタイもな。」


「えぇ……。」


 二人はニヤニヤと笑い、僕は心底困った顔をした。


 それから30分ほど談笑していた時だった。

 珍しく、彼女が僕達に声をかけて来たのは。


「ご機嫌よう、ヴィンセントさん、ユミアさん。少しよろしいかしら。」


 彼女の名前はリューディア・フォーレンハイト。

 ふわりとしたセミロングの金髪、青眼、色白の女性で、とても美人だ。

 その上、大貴族であるフォーレンハイト侯爵家、の分家ではあるけれど御令嬢である。

 ルイーズさん達はお嬢と呼んでいる。


 気位が高いらしく、普段は僕達に話しかけて来る事なんて無かったのに。

 なにか嫌な予感しかしない。


「おうお嬢、珍しいな。なにか用か?」


「えぇまぁ、用というほどでは。ところでユミアさん、代表達のところに呼ばれていたそうですけれど、どういったご用件だったのかしら?」


「なんだよ、もうそんなに広まってるのか。長老方のところに行く用件なんて、一つしか無いだろ?」


 ルイーズさんが僕の代わりに返答してくれているけれど、どうにも挑発じみているような気がしてならない。


「まぁ、という事は…、すでに『ソウルイーター』を使えるという事かしら。……それは……それは素晴らしいですわね。」


 リューディアさんは表情こそ笑みを絶やしていないけれど、言葉の端に感情の揺らぎがあるのが感じられた。


「一体どのようにしたらそんなに早く習得する事が出来るのかしら。ぜひお聞きしたいですわね。ねぇユミアさん?」


 出来るだけ嫌味にならないよう僕は気を配り、差し障りない返答をした。


「師匠の指導の賜物と心得てます。」


「まぁ、なんて嫌味な! それは親愛なる我が師、ヒムロ・ケイ様の指導が至らないと遠回しに侮辱しているのですか⁈ 我が師への侮辱は赦しませんよ!」


 差し障りない言葉を選んだつもりだったけど、ストレートに地雷を踏んだ事だけはよくわかった。


「いえ、そんなつもりは……、お気に触ったのなら謝罪します。」


 これ以上面倒な事にしたくなかったので、さっさと頭を下げて謝罪した。


「ふぅ、私の方こそ短気を起こしてしまいました。陳謝致しますわ。」


 一応、リューディアさんも矛を収めてくれたようだ。

 とは言え、その表情こそ笑みを絶やしていないけれど、眼光は僕を射抜かんとばかりに鋭さを増している。


「では私はこれで失礼致します。ご機嫌よう。」


 去り際に僕を一瞥して、リューディアさんは去っていった。


「あーあ、厄介なのに目をつけられたな。」


 ルイーズさんの残念そうな表情が、今後、面倒事が起こるであろう事を物語っていた。

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