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第一歩

 聖華暦833年 1月20日 帝都ニブルヘイム


 僕は生まれ育ったバウルスハイムを離れ、アルカディア帝国の中心地、帝都ニブルヘイムにその第一歩を踏み出した。


 連絡船に揺られる事15日。

 今はニブルヘイムの陸上船舶の湾口区にいる。


 両親には、ちゃんと話して来た。

 最初は二人とも酷く動揺したけれど、父さんは最後には理解してくれた。


 母さんは最後まで泣いていた。

 それでも、家を出る時には抱き締めてくれた。


 軍学校は辞めて来た。

 校長先生は、我が校から暗黒騎士が輩出されるのは誉れ高い、と舞い上がっていた。

 教頭先生は、身体に気をつけなさい、と気遣ってくれた。

 担任のクロビス先生は、我が校の精神を忘れずに何処にいても励みなさい、と言った。


 先生達には内緒にして欲しいとお願いしていたのに、どこから漏れたのか……

 僕が暗黒騎士の弟子になる事は、何故か全校生徒の知るところとなり、それまで大して親しくも無かったクラスメート達だったけど、こぞって僕に激励の言葉を掛けてくれた。


 後で考えれば白々しい気もしたのだが、その時はなんだかむず痒かった。


 随分と昔の事のように懐かしく思う。

 あそこまでは、僕の平穏な日常だったのだろう。


 そして、これからは過酷な日々が始まる。

 僕は、自分の中の心の闇と向き合って、これを御さなければならない。


 でもその前に、お迎えが来ているはずなので合流しなくてはいけない。

 確か、ターミナルの出口で待っているという話だったのだけど……


<リコス・ユミア様、到着歓迎>


 と書かれた看板を持ったメイド風の女性が立っているのが見えて、一瞬ギョッとした。

 自分の名前がデカデカと掲げられていたのもそうだけど、それを持っている女性に驚いた。


 端的に言って、とても美人だった。

 思わず見惚れてしまうほどに。

 一応、僕は女の子だと言っておく。

 その女である自分から見ても、美人だと断言出来る。


 長いストレートヘアの金髪にエメラルドグリーンの瞳、透き通るように白い肌に頬は薄桃色に彩られている。


 正直羨ましい……不公平だ。


 ……ああ、そうだ。

 どうやらあの人がお迎えらしい。

 困ったなぁ、どう声を掛ければ良いんだろう……


「あのもし、リコス・ユミア様、ですか?」


 僕がどうするか思案していると、彼女の方から僕に声を掛けて来た。


「は、はいっ、そうです。」


 少し驚いて声が上擦ってしまった。

 恥ずかしい……


「初めまして、私はエミリ・フランソンと申します。貴女をお迎えに参りました。」


 にっこりと笑った顔がとても綺麗で、月並みな言い回しだけど、まるで花が咲いたよう、と言うのが本当にぴったりだと思った。


「長旅でお疲れになったでしょう?

 あちらに馬車を用意してあります。御屋敷に着きましたらごゆっくりして下さいね。」


「あ、あの……オルテア…様は?」


「はい、ご主人様は任務で外出されています。

 戻られるのは明後日になりますね。

 でも心配には及びません。それまでは私が貴女のお世話を致します。」


 エミリさんはどんと胸を叩いてまた笑った。

 ドキドキする。なんだかズルいなぁ。


「判りました。お世話になります。」


「はい、承りました。」


 また彼女は笑い、僕も彼女に釣られて笑ってしまった。


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