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機装兵の適正

 聖華暦833年7月18日


 今日は師匠と共に、ニブルヘイムの軍区画へとやって来ていた。

 いよいよ、機装兵での訓練を行う事になったのだ。


 ちなみに、僕はまだ従機しか操縦した事しか無い。

 従機というのは、『機装兵に付き従う者』という事で従機と呼ばれている。全高4mほどの廉価版機装兵というところだろうか。

 機装兵と比べると手足が短く、膂力、機動性、全てにおいて劣っている。

 ただ操縦適正が低くても扱い易い。


 軍学校の授業では従機の操縦をした事はある。

 成績は結構良かった。


 でも機装兵と従機は別物だ。

 機装兵は全高8mほど、完全な戦闘用の人型機械だ。

 その力は凄まじく、手にした武器を振り下ろせば、大地を割るほどに強力だ。

 機兵を倒せるのは同じ機兵だけだ。

 その分、操縦は従機よりも難しくなっている。


 一応、師匠には僕が従機までしか操縦した事が無い事は伝えてある。

 だから、今日のところは機兵適正を見るだけらしい。


 軍の正式な機兵適正判定プログラムに則って、機装兵を動かす事になる。


「イディエル卿、お待たせ致しました。準備が整いました。どうぞこちらへ。」


 帝国軍士官が直接、機装兵の準備が出来た事を伝えにやって来た。


「うむ、リコス。」


「はい。」


 師匠に促され、僕はそばで待機していた整備士と共に用意された機装兵へと向かった。


 今日、僕のテストの為に用意されたのは軽機兵のようだ。

 従機のように上手く扱えるか、心配になってしまう。

 膝を折って駐機姿勢となっている細身の機兵の操縦槽は開いており、僕は中へと入って着座する。


「こちらの機体は軽機兵『スパーダ』です。装甲が薄く軽量に仕上がっていて、高い機動性を持っています。その分、操縦には繊細さが必要となります。」


「判りました。」


 整備士からの説明を聞きながら、まずは足踏板に足を通し、次に操縦桿に腕を通す。

 ふぅっと息を吐き魔力を放出する。機体に魔力を吸われる感覚を覚え、魔導炉にエーテルが流れ込む。

 転換炉が黒血油を送り出し始め、機体が稼働状態となった。


「では私が離れたら、操縦槽を閉じて立ち上がってください。以後は通信装置を使ってのやり取りとなります。」


「はい。」


 僕の返事を聞いた整備士はさっさと機体から離れていった。

 僕も操縦槽を閉じる。

 映像盤が機体の眼である魔晶球の拾って来る外部映像を映し出した。

 映像盤を確認しながら、慎重に機体を立ち上がらせる。


 とりあえず、立ち上がらせる事は出来た。バランスも問題無いようだ。


『それではまずは10歩前進、そのあと10歩後退してください。』


「判りました、前進開始。」


 通信装置から聞こえて来る指示に従い、10歩前進し、10歩後退した。

 この軽機兵は思いの外スムーズに動いてくれている。


『では次に右回りに旋回しながら歩いてください。一周したら次は左回りに旋回です。』


 続いて右旋回、左旋回を行い、屈伸から小ジャンプ、指示通りに腕を動かして、15分ほどで操縦適正判定プログラムは終了した。

 僕はスパーダを元の位置に戻して駐機姿勢を取らせ、操縦槽から降り立った。


「お疲れ様でした。」


「ありがとうございました。」


 僕は整備士に一礼して、師匠の待つ待機所に戻った。


「御苦労だった。」


「はい。」


 思ったよりも、苦も無く動かす事が出来てほっとした。きっと扱い易い機体だったんだろう。

 そう思っていた。


 ほどなくして士官の元に先程の整備士がやって来た。何か書類を渡している。


「イディエル卿、判定結果です。こちらを。」


 師匠は無言で書類を受け取ると、興味深げに書類に目を通す。


「ふむ……大尉、演習場を借りるぞ。リコス、もう一度機兵に乗れ。」


「え、もう一度ですか?」

「は、はい、了解致しました。すぐに手配致します。」


 僕と士官はほぼ同時に声を上げる。

 僕は困惑していたが、士官はすぐに場を離れた。


「師匠、適正結果が良くなかったからでしょうか?」


 適正判定が芳しく無く、再テストしろという事なのだろうか。

 失望させてしまったのかもしれない。

 そう思うと、どうにも居た堪れない。


「もう少し調べておきたい。」


 師匠はそれだけ言うと瞑目してしまった。

 そのまま、10分ほど無言で待機していた。


「イディエル卿、お待たせ致しました。第二演習場へお越しください。」


「リコス、行くぞ。」


「はい、判りました。」


 士官に案内されて第二演習場へとやって来た。

 演習場には先程のスパーダが待機させてあった。


「リコス、今からあの機兵に乗って、私の指示通りに動きなさい。」


「師匠、一つ良いでしょうか?」


「なんだ?」


 僕はこの再テストの真意を確かめたかった。


「今から行う事は、何の為ですか?」


「お前の適正をより詳しく知る為だ。軍の判定プログラムだけではお前の正確な能力を測りきれんと判断した。」


「師匠、それは?」


「詳しくは終わってからだ。行きなさい。」


「……判りました。」


 どっちとも取れない返答ではあったが、これ以上食い下がっても仕方がない為、僕はスパーダへと乗り込んだ。


『リコス、今から演習場をランニングで一周、その後ダッシュ10本して腕立て伏せ30回、スクワット30回、その後一度待機だ。本気で行う事。』


「判りました。」


 機兵に乗ってまで生身と同じトレーニングメニューなのは腑に落ちないけれど、指示に従いランニングを始めた。


 スパーダを走らせる。この機体は足取りが軽く、スムーズに動く。

 あっという間に演習場を一周し、続いてダッシュ10本も難なくこなした。

 腕立て伏せ、スクワット30回も遅滞なく行い、待機姿勢へと入る。


『良し。リコス、その機体には小型魔導板が搭載されている。それを使って跳躍をしなさい。』


「っ! 跳躍ですか? ……判りました、やってみます。」


 これまで従機しか扱った事が無いから、跳躍なんて初めてだ。

 上手く出来るか不安に思いながらも、息を吐いて気を落ち着かせる。


 僕は一気に機体へ魔力を流し込み、魔導板を起動させて高く飛び上がった。


 機兵の高さを軽々と越える。

 高度計は19mを示す。

 そのまま落下が始まり、着地した。


 操縦槽も大きく揺れたが、揺れが治ってから機体ステータスを確認する。異常は無し。

 無事に着地出来た事に安堵した。


『御苦労だった。降りて来なさい。』


「はい、了解しました。」


 通信が切れてから、ふうぅっと深く息を吐いた。

 機兵を元の場所まで移動させてから駐機姿勢にして降りた。


「ではリコス、お前の適正だが……結果はA+だ。」


「……はい? ……A+、ですか?」


 一瞬、予想外の事に何を言われたか解らなかった。

 適正がA+というのは、相当に高い。

 いや、僕の事なのに、なんだか僕の事では無いような気がしてしまう。


「本当にA+なんですか?」


「そうだ。お前は機兵に類稀な適正を持っている。お前は初心者では到底扱えないスパーダを難なく操ってみせた。それが証拠だ。」


 そう言われ、初めて師匠から褒められたような気がした。

 そうか……僕は機装兵に高い適正があるんだ。


「それから、このスパーダが今日からお前の機兵だ。」


「!…判りました。この機兵、受領致します。」


 僕にも秀でた才能があった。

 その事がとても嬉しいと思った。

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