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蹂躙する黒翼

 第八特戦隊駐屯基地を出発して一時間、今のところ特に問題は起きていない。


 せいぜい10分ほど前に体長20m程度のバジリスクと遭遇し、これを難なく駆除したくらいだ。


 オルトロス第四小隊『ヤークトフント』の3機が散開してバジリスクを包囲し、注意を反らしている間に、僕が集約した黒魔弾でバジリスクの頭を消し飛ばしたのだ。


 戦闘時間は僅かに1分弱。

 誰一人として損傷を受けていない。


 バジリスクの死骸は放置して、僕らはさらに北上する。

 程なくして、前方の空に発光体を視認した。


『中尉、北北東に信号弾を確認! 救援要請です!』


『どうやら本命が出たらしい。全機、全速で向かうぞ! ユミア卿。』


「ええ、先に行きます。」


 ボルサ中尉が言わんとした事を瞬時に理解し、先行する。


 僕はノクス・ズィリオスの下半身を半騎馬形態に変形させ、一気に加速させた。

 半騎馬形態とは言うものの、実のところは風魔法で機体を浮かせたホバー機動である。


 まばらに生える木々を避けながら、滑るように高速移動を行う。


 遠目だけど、何かの爆発と、空を舞う大型の飛行物体が視界に収まる。

 あれは巨大な鴉……、いや、アンヴァーク卿が駆る獣翼機『フィアラール・クロウ』に間違いない。


 一旦、足を止めて遠視の魔眼で確認する。

 だが、映り込んだ光景をみて、思わず息を呑んだ。


 そこには凄まじい数の鋼魔獣が蠢いていたから。

 確認できるだけでもアクロイが20機以上、幸いゲフィートやシノオクリトはいないようだ。

 スポッターにいたっては数を数えるのが馬鹿らしい。


 そんななか、アンヴァーク卿と共に出ていた哨戒部隊『ルクス隊』は乱れる事なく魔導砲を斉射して、的確にスポッターを駆逐している。


 そして、フィアラール・クロウは空中で小刻みな回避運動を取りながら、地上に向かって魔弾を連射していた。


 魔弾が地表に当たる度に、爆発が起こっている。

 魔弾は当たった場所を反物質による侵食で削り取るが、火炎を伴った爆発はしない。

 おそらくは破壊された鋼魔獣の燃料なり弾薬なりが誘爆しているのだろう。


 燃え続ける夥しい残骸が、今だ激戦の最中である事を物語っている。


「凄いな……、おっと、眺めている場合じゃない。」


 アンヴァーク卿や哨戒部隊が優勢とはいえ、数が多くて鋼魔獣の勢いが衰えていない。

 早く行って支援をしなくては。


 再びノクス・ズィリオスを走らせる。

 ほんの3分で交信可能な距離まで接近した。


「こちらリコス・ユミア、援護に入ります。」


『リコスか、久しぶりだね。まずはルクス隊に殺到するスポッターを片付けてくれると助かる。』


「了解です。」


 アンヴァーク卿からの返事と指示を受けて、僕は哨戒部隊を取り囲もうとするスポッターの右翼集団に向けて、数十発のドゥ・ボーゲンを放つ。


 10体ほどのスポッターに黒い矢が降り注ぐが、動力を破壊して動かなくなったのは僅かに3体のみ。

 他のスポッターは損傷を受けても構わずに行動をしていた。


 やはり鋼魔獣はしぶといな、流石にこの程度では倒せないか。


 手数で攻める事は諦め、戦い方を1体ずつ確実に屠る事に切り替える。


 ルクス隊の左側に回り、ハンドサインでそれぞれに仕留める対象を定めて攻撃を開始、僕は地面に片手を突いて詠唱する。


「蝕むものよ 突き進め 立ち塞がりしを蹴散らして エクリプス・ウォール」


 言葉とともに僕の眼前に漆黒の闇が機兵を覆うほどの壁となって立ち上がる。

 僕がその壁を押すと、闇の壁は走るくらいのスピードで前進し、ランスチャージで突っ込んでくる何体ものスポッターを呑み込んで消し去っていった。


 ※


 参戦してから15分ほど経過した。

 スポッターは随分と数を減らしたようだが、それでもまだまだ数が多い。


 相変わらず遮二無二突撃してくるだけだから、まだ対処しやすいけれど、ルクス隊の残弾が心配だ。


 だが後方で発光信号を確認し、ヤークトフント隊ももうすぐ合流するから、そうすればこちらは心配無くなるだろう。


 それよりもアンヴァーク卿だ。

 あちらは単騎でアクロイとスポッターの群を相手にしており、こちらよりも負担が大きいはずだ。


 けれども空中を滑空する獣翼機という特性が、地上戦力だけの相手には非常に有利に働いている。


 すでに対空火器を搭載したアクロイを排除している為、もはや回避を気にする必要が無く、鋼魔獣の群の頭上で旋回しながら、ただただ一方的に魔弾を叩き込んでいる。


 とはいえ、獣翼機は完全に飛行しているわけではない。

 さっきも言ったように、『滑空』しているだけなのだ。

 滑空だから高度を自力で上げる事は出来ず、緩やかに高度は下がってゆく。


 再び滑空する為には、着地してから高く跳躍する必要があり、それこそが獣翼機の最大の弱点なのである。


 鋼魔獣の方もフィアラール・クロウが徐々に高度を落としている事は把握しているようで、頭上からの攻撃耐えながら、着地の瞬間を狙っているようだ。


「くそ、こっちも早く片付けてアンヴァーク卿の援護に行きたいのに!」


 我知らず歯ぎしりをし、独り言ちた。

 アンヴァーク卿が歴戦の勇士で、新米に心配されるような方では無いのは重々承知してはいる、いるのだけれど、援護どころかこっちもすぐに片付きそうも無い事で、僕自身が焦ってしまっている。


 眼前のスポッター2体をソウルイーターで両断して、深呼吸で気を落ち着ける。

 他を気にしていてはこちらが覚束ない。

 僕やルクス隊が撃墜されてはそれこそ暗黒騎士の面汚しだ。


 新たに眼前から突っ込んでくるスポッターを次々と斬り伏せて、黒魔弾でその後ろのスポッターをさらに削り取る。


 ほんの少しだけ間合いを広げ、チラリとアンヴァーク卿を視た。


 フィアラール・クロウは着地の体勢に入っており、そこを鋼魔獣達は突こうと待ち構えている。


 フィアラール・クロウは下肢からソウルイーターを発現させ、そして着地地点の鋼魔獣を即座に排除した。


 けれど、それだけでは無かった。


 フィアラール・クロウが着地した瞬間、その足を起点に真っ黒い茨がフィアラール・クロウの周辺に広がり、周りの鋼魔獣達を呑み込み、絡め取って行く。


 あれは暗黒魔法の一つ、イビル・ソーンだ。

 術者を中心に反物質の茨を作り出し、周囲を侵食する攻防一体の魔法だ。

 反物質の茨は捕らえたものを蝕み破壊する。


 的確な方法で着地地点の安全を確保しつつ、鋼魔獣の数を減らす。

 これが、暗黒騎士アンヴァーク卿の実力か。


 漆黒の獣翼機は力をその足と翼に溜め、再び彼は空へと舞い上がる。


 地上の敵を、蹂躙する為に。

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