第8特戦隊駐屯地にて
聖華歴836年10月 アルカディア帝国北方の国境
僕の名はリコス・ユミア。
正規の暗黒騎士に任官して6ヶ月が経った。
今回の勅命は第8特戦隊『オルトロス』と共に鋼魔獣の掃討という、実にありふれたものだった。
鋼魔獣とは、僕ら『新人類』を造ったとされている『旧人類』が戦争の道具として製造した無人の殺戮兵器で、旧人類がいなくなってからも何処からか現れては破壊の限りを尽くす厄介な奴らだ。
ものによっては強力な火砲を備えているものもおり、遠距離からの砲撃で機兵が撃破される事も珍しい事では無い。
さらに通常の魔獣とは違って生物では無い機械だから、恐怖などを感じずに完全に破壊されるまで動き続けるので、本当に厄介な奴らなのだ。
「お久しぶりですね、ユミア卿。あの頃に比べて少し背が伸びましたか。」
「お久しぶりです、アメルハウザー少佐。いえ、今は中佐ですね。あの時はお世話になりました。今回は弟子ではなく暗黒騎士として、お世話になります。」
「ふふ、あの少女が今や帝国に名にし負う暗黒騎士とは感慨深い。」
「まだ新米ですよ。」
この第8特戦隊『オルトロス』の責任者であるアメルハウザー中佐は、僕が弟子であった頃にお世話なっている。
中佐だけではなく、このオルトロスの隊員達も。
ここで軍人の何たるかを、その身を持って示し、叩き込んでくれたのだ。
「ああそうだ。一足先に到着しているアンヴァーク卿は、すでに哨戒部隊と一緒に出ています。」
「そうですか。アンヴァーク卿、随分と早く到着したんですね。」
アンヴァーク卿も僕が弟子だった頃に何度かお世話になった暗黒騎士の一人だ。
彼は鳥人族の亜人で、見た目は人型で人間大の鴉そのもの。
初見では驚いてしまったけれど、礼節を弁えた人格者だ。
また、鳥人族特有の空を舞うような滑空能力を活かした空中機動戦闘を得意としていて、特殊な機兵である獣翼機『フィアラール・クロウ』も跳躍能力と滑空能力に優れた機体だ。
その空中機動戦闘技術は翼竜の群れを相手にするよりよほど恐ろしい。
「さて、立ち話ついでに状況を説明しましょう。これまでの鋼魔獣出現パターンから言うと今は丁度『大量発生』する時期に来ています。事前に資料は読んで頂いていると思いますが、主な鋼魔獣はアクロイ、ゲフィート、シノオクリト、スポッターがこれまでに確認されています。」
アメルハウザー中佐の説明に出てきたアクロイ、ゲフィート、シノオクリト、スポッターは比較的出現頻度が高い鋼魔獣という事だ。
アクロイは四足獣型で火器の他に爪等による近接戦闘も行える。
機兵並の大きさでパワーがあり、群れで行動するので厄介だ。
ゲフィートは四足歩行の蜘蛛のような形状をしており、一門備えた大型の火砲は重機兵が大破するほど威力が高く、遠距離では一番の脅威だ。
シノオクリトも四足歩行だがこちらは蒸気車両に足が生えたような形状で、車体上下の火砲四門はその一門ごとに機兵を十分撃破する威力を持っている。
スポッターは体長3m程度の小型竜型で身体の半分を覆う盾と体長よりも長いガンランスを装備し、数体の群れで行動している。
これ自体はさほどの脅威ではないが、他の鋼魔獣を呼び寄せる特性を持っている為、早期に排除しないと次々と鋼魔獣が参戦してきて長期戦になる恐れがある。
「それ以外にも普通に魔獣が出てくるのでこちらも気を抜けない。」
「以前に来た時よりも忙しいわけですね。」
「ええ、比べものにならないくらいに。」
鋼魔獣の大量発生に加えて今まで通りに魔獣も掃討しなくてはいけないのか。
確かに比べものにならないくらい忙しさと危険度が上がっている。
「今から2時間後に次の哨戒部隊が出立します。ユミア卿はそちらに同行して頂きたい。」
「判りました。では準備をしておきます。」
お互いに敬礼をしてその場を辞し、割り当てられた宿舎に荷物を置いて駐機場へと向かった。
出立準備を終えて待機している哨戒部隊の隊員達を見つけ、挨拶する為に近寄る。
彼らの機兵、ヴァント・フェアデルブには見覚えのある部隊章があった。
「ボルサ中尉、久しぶりです。」
「おぉ、リコ……いやいや、ユミア卿、お久しぶりです、また会えて光栄ですよ。」
「あの時の鬼教官に敬語を使われると変な感じがしますね。」
そう言って笑うと他の隊員達からも笑いが漏れる。
「それではまたお世話になります。」
「こちらこそ。」
彼らと敬礼を交わし、それぞれの機兵、彼らはヴァント・フェアデルブに、僕はノクス・ズィリオスへと搭乗した。




