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魔眼の発現

 眼の奥が焼ける様に熱い。


 眼だけじゃない。身体中が火を吹いているみたいだ。

 それなのに頭の芯は冷え切り、ガタガタと震えが止まらない。


 意識はある。それもとても鮮明に。


 僕はこのまま死ぬのだろうか。

 これが神様が僕に与えた罰なのか?

 そう思うと酷く安心感を覚えてしまう。


 けれども、家族の心配そうな顔が浮かび……

 ああ、家族を悲しませる事も罰なのかと。

 そう思うと酷く嫌悪感を覚えてしまう。


 僕は人を殺した。

 あれから半年の間、誰からも罪を責められる事も無く、誰からも罰を与えられる事も無く……

 穏やかに、何事もなく、のうのうと『生きて』来た。


 あの日から、あの時の光景を忘れた事など一度も無かった。

 後悔している。


 あの時、なぜ男の顔を観ていなかったのか……


 僕が自分で殺した男の最後の表情、それを観る事をしなかったのか……


 人殺しの罪を誰からも認められず、世間的には無かった事になってしまった。

 だけど、人を殺した事は紛れも無い事実なのに。


 ならば、せめてその最後の表情をこの眼に焼き付けておくべきだった。


 僕の人殺しの罪を僕自身が忘れない為に……


 もちろん、今日の今まで忘れた事なんて無い。

 それでも、やっぱりそれでも人殺しの罪を背負った以上、男の最後の表情を観ておくべきだった。


 僕の罪への罰として。


 きっと僕はこのまま死ぬのだろう。

 罪の意識と後悔に苛まれ、家族に悲しみを与えて、本当の赦しを与えられず……

 それが僕に下された罰なのだろう。


 けれどもし……

 もしも贖罪の機会が与えられるなら、僕はなんでもやろうと思う。

 どんな辛い思いをしても、どんな苦しい目にあっても、赦されるのなら、なんだって。


 不意に身体中が軽くなり、震えが止まった。

 眼の奥の熱が消え、誰かの微笑みを見た様な気がして、僕の意識は闇に沈んだ。


 *


 僕は眼を醒ました。

 最初に飛び込んで来たのは見慣れた天井、それからゆっくりと身体をベッドから起こした。


 なんだか長い夢を観ていた気がする。


「……ぁあ、リコス! リコス‼︎」


 自室のベッドから身を起こして暫くぼぉっとしていると、部屋へと入ってきた母さんが驚いて、そして僕に抱き付いた。


「母さん、苦しいよ。」


「良かった、ほんとうに良かった。あぁ…」


 母さんの暖かさに包まれて、僕は酷く安心感を覚えてしまった。

 そして、家族に悲しみを与えてしまって、僕は酷く嫌悪感を覚えてしまった。


 何があっても生きよう。

 家族を悲しませてはいけない。

 それに……僕は人を殺してしまった。

 まだ罪を償っていない。


 贖罪の方法は、まだわからない。

 それでも、それでも僕は生き続けよう。


 いつか必ず、この罪を贖う為に。


 *


「……身体はもう大丈夫です。ただ……」


「ただ、なんです? 先生、おっしゃって下さい。」


 三日の間、高熱で寝込んでいた。

 何かしら異常が残っていないか、病院で検査を受けた。

 僕はお医者様の診察を受けて『身体の方は問題無い』と、そう言われた。


「やはり、最初の診断の通り『魔眼病』でした。

 お嬢さんには、『魔眼』が発現しています。」


「あぁ、なんて事だ……」


 一緒に診断結果を聞いていた父さんが天を仰いだ。


『魔眼病』は珍しい病気だ。

 この世界には『反物質』という目に見えない何かが存在している。

 それは『世界樹』がこの世界に供給している『魔素』とは違い、僕たち『新人類』に必要なものでは無い。


『魔素』は枯渇すれば僕たちの生命を脅かす事になるが、『反物質』は存在自体が人体を蝕む有害で危険なものなのだ。


 けれど、稀にこの反物質を体内に取り込んでしまった場合、身体が反物質に適応して『魔眼』を発現させることがある。

 これが『魔眼病』というものだ。


『魔眼』は魔法とは違う異能だ。

 一口に『魔眼』と言っても、その能力は人によって様々で、魔力を高めたり、動体視力が異様に良くなったり、中には未来を見通すものまであるらしい。


 ただ、『魔眼』は使ってなくても身体に取り込んだ魔素を勝手に消費してしまう。

 だから、体内で蓄積されるはずの魔素が他の人よりも少なくなり、枯渇しやすくなってしまう。


「ひとまず、お嬢さんには検査の為に二日ばかり入院してもらいます。

 それでどんな魔眼が発現したのかを調べなければなりません。」


「先生、魔眼をどうにか、普通の眼に戻す事は出来ないんですか?」


「ふむ……、お父さん、気持ちは判ります。

 けれども、魔眼を元に戻す方法は無いんですよ。

 眼を摘出すればその力も失われますが、それは余りにも……」


「……そうですか……」


 魔眼を発現させた僕よりも、父さんの方がずっと動揺していた。

 父さんとお医者様のやり取りをただ大人しく聞いていた。


 あの時から半年、僕には異能が与えられた。


 これが罰なのだろうか。

 それとも贖罪の為の標なのだろうか。

 この力は、これから僕を苦しめるかもしれない。

 けれどきっと、これは何かの切っ掛けになる筈だ。

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